Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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2月2日 午後






第38話 ~3日目①~ 「魔術師の死・改」

 Interlude in

 

 

「やっぱ、昨夜は新都側(あっちがわ)のアパートで昏睡事件があったみたいね。私達とぶつかる前に、やることやっていたってわけだ」

 

 昼下がりの深山町商店街。

 悔しそうな様子で独白する遠坂凜が両手に下げたビニール袋は、買い込んだ食材でパンパンに膨れている。

 

「キャスターの奴、早いとこ()()()()()()()この冬木の医療体制が崩壊しかねないわ」

 

『とは言え、焦って仕掛けたところで向こうの罠に嵌るだけだろう。昨日も誘き出された構図だったわけだしな』

 

 霊体化している()()()()が念話で窘める。

  

「でも、何をしたかったのか、イマイチ狙いはわからなかったわね・・・』

 

 昨夜は、あの骸骨兵達と人質を使ってインテリア用品店へと自分達を誘導したかったようだが、その目的は判然としなかった。

 

『その点は私も疑問だ。結果的に私達はランサー達とかち合ったのだから、潰し合いを狙っていたという事だとは思うが・・・』

 

「まあ、2階で高見の見物をしてたわけだから、それが一番濃厚なんだろうけど」

 

『とは言え、キャスターならあの場に留まらずに、遠見の魔術で安全なところから観戦していれば良かっただろう。直接視る必要はなかった筈だ』

 

「・・・う~ん・・・わっからないわね~・・・まあ、離脱するつもりだったけど、思ったより早くあなたに存在がバレたってことかもしれないわね」

 

『無論、その線もゼロではないがな』

 

「こりゃ、答えが出ないわね~」

 

 凜は溜め息をつきながら、後頭部をポリポリと掻く。

 

「とにかく、今夜もキャスターを現行犯で捕捉することを最優先にしましょう。ちょっと地道な感じにはなるけど」

 

『昏睡事件はマンションやアパートなどの集合住宅で起きがちだ。それに、適度に散らばっている。それなりに絞り込むことはできるだろう』

 

「オッケー。そのやり方で張り込みしましょう」

 

『他陣営に用心するのも怠らないようにな』

 

「勿論よ。ところで、昨日の戦闘であなたも多少の疲労感はあるでしょう?」

 

『昨夜はかなりシビアな戦いになったが、きみから供給される魔力量は相当なものだから左程でもない』

 

「そ。なら、良かったわ。おっと・・・マズいマズい・・・」

 

 凜は慌てて口を噤んだ。

 前方から二人の男が歩いてきたのだ。

 ずっと喋っていたが、相方は念話だったわけで、つまり端から見れば自分はブツブツと独り言を続けていたわけだ。この状態を他人に目撃されれば、間違いなくアブナイ人認定を受けることになる。

 

 

 

「―――それにしても、最近のこの町全体が不穏な空気に包まれておりますなあ。新都側では断続的に昏睡事件。こちら側では穂群原学園の校舎消失事件と」

 

「全くですね。御仏のご加護も何もあったものではない」

 

「10年前の大火災といい、残念ながらこの冬木では物騒な事件が起こりがちではありますからなあ」

 

「この厄災を鎮めるためにも、我々ももっと精進せねばなりませんね」

 

「そういうことになりますな。微力ではありましょうが」

 

「ですが、先日から逗留し始めたあの少女は、真に聖女のようです。彼女の存在だけでいかにもご利益がありそうですね」

 

「おお。拙僧もそのように感じておりました。お寺という完全に和の空間にありながら、凜とした金髪碧眼の佇まいが不思議と絶妙に調和して、神々しいとすら感じるほどです」

 

「おっと、神々しいという表現は仏門に帰依する者としては相応しくないかもしれませんね」

 

「大丈夫でございましょう。我らの御仏は寛大です。これくらいはお赦しくださる筈―――」

 

 

 

 こちらを気にする様子もなく、止めどない会話を続けながら男達は通り過ぎていった。

 二人とも作務衣を着ており、剃髪していた。

 

「きっと柳洞寺の門徒ね。実際に何ができるというものでもないんでしょうけど、彼らも今の冬木の状況を憂いているわけよね。責任感じちゃうわ」

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・?・・・セイバー?」

 

 霊体化しているためはっきりとわかるわけではないが、凜は自身のサーヴァントの様子が少しおかしいような感覚を抱いた。

 

『・・・あ・・・いや・・・何でもない・・・・・・聖杯戦争の戦場である以上、この地の宿命とも言えよう。土地の管理者とすれば無理からぬことではあるが、あまり気に病まないことだ』

 

「とにかく、これ以上の混乱を少しでも抑えられるように力を尽くしましょう」

 

『・・・ああ・・・そうだな・・・・・・』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 両手には鬱蒼とした林が佇んでおり、夕刻にさしかかる頃合いのため、この時期では薄暗いとすら形容できる程だ。

 霊体化したままの男は、眼前に連なる石段を一段一段ゆっくりと、数えるようにしながら登っていく。

 この柳洞寺へと向かうこの階段は単純に長い。人ならざる身、サーヴァントという超常の存在となった我が身にとっては全く苦にはならなないが、かつての自分はきっと辟易したものだろう。

 その頃の感覚など、遠い彼方どころか永劫とも言える時の(はて)に擦り潰れて完全に消失しているため、想像するしかないが。

 

『もう少しだな・・・』

 

 そのまま登り続けると、当初は見えなかった山門が視界に入ってくる。

 召喚されて間もない頃に、凜は冬木市内の要衝を一通り自分を連れて実地を案内してくれた。この寺は聖杯戦争の始まりの地でもあり、聖杯が顕現する最重要ポイントだ。早々に訪れており、建造物の配置や特徴などは頭に入っている。

 その山門の口を潜って、境内に足を踏み入れると、本堂へと続く石段を登った。

 しばらくの時間、広い本堂内を()()()()()みたが、僧服を着た門弟を見かける程度で、目当ての人物を見つけることは出来なかった。

 すると。

 

 

 

「──―そういえば先程、裏の池で例の少女を見かけましたぞ。いやあ、まさに眼福というものですな。ありがたや。これも御仏の慈悲というもの」

 

 廊下の奥から二人の門弟が湯呑み茶碗を手にして、歩いてくる。

 

「む・・・羨ましい限り。拙僧はまだお目にかかれていないのです」

 

「なんとも言えない静謐さを漂わせていて、雰囲気があります。きっと高貴な御仁なのでしょう。ですが、だいぶお疲れの様子でしたし、ただならぬ憂いを湛えてもおられました。そこがまた、良いと言えば良いのですが・・・」

 

「きっと、複雑な事情があるのでしょうなあ。単身で異国の地にまでやって来たのですから―――」

 

 

 

 当人達にとっては、どうということもないであろう会話を続けながら遠ざかって行った。

 当たり前だが、不可視の自分とすれ違ったことには全く気付かない。

 

「・・・裏の池か・・・」

 

 矢も盾も堪らずに彼らの話していた場所へと向かう。

 

 

 

 本堂の裏手へと回り込むと、以前に、凛に案内してもらっている裏の池にはすぐに辿り着く。

 その池のほとり。

 尋ね人・・・いや尋ねサーヴァントというべきか。

 彼女はすぐに見つかった。

 

「・・・!!・・・誰ですかっ!?」

 

 そう誰何(すいか)の声を発したのは、この寺の多くの門弟達と同様に墨色の僧服に身を包んだ金髪碧眼の少女だ。

 警戒を露わにしているためその表情は硬いものとなっているが、か細い手足に、透き通った肌、整った顔立ちは凜としてはいるが、可憐で美しい。

 昼にすれ違った門弟達の感想どおり、仏閣に西洋系少女という一般的には特異な取り合わせではあるが、彼女の清冽な雰囲気と相俟って、不思議と馴染んでいる。

 

「・・・・・・・・・セイバー・・・・・・・・・」

 

 彼女には既に察知されているため、止むを得ず実体化してこちらの姿を曝す。

 

「・・・やはり現界していたのか・・・しかし、なぜこのような所に・・・」

 

「霊体化していたということは、あなたはサーヴァントですね」

 

 揺るぎのない視線がアーチャーを射抜く。

 だが、男にはそれが強がりであることがわかっている。本来ならば、敵である自分を認識した瞬間に、彼女は銀色に輝く甲冑にその身を包まなくてはいけない。

 だのに、今はそれができない。

 

「無理はよせ。魔力が殆ど枯渇しているその状態で剣を振るえば、瞬く間にお前は消滅するだろう」

 

「では、試してみるか!」

 

 ザッ!

 

 セイバーが風を巻いて、駆け出した。

 

「なにっ!?」

 

 無警戒だったわけではなかった。

 そして、彼女の動きは決して本来のものではなかった。

 それでも、手にいつもの双剣を生み出すのが、ほんの僅かに間に合わなかった。

 

 ジャッ!

 

 横なぎに振るわれた不可視の剣が、浅くアーチャーの体を切り裂く。

 

「くっ!?」

 

 思わぬ手傷を負ったアーチャーは、たたらを踏むようにして後退する。

 

「どこの英霊かはわかりませんが、私を甘く見た代価は払って貰おう!」

 

 ギィンッ!

 

 追撃として襲ってきた袈裟切りの一刀を、今度は投影した白剣で受け止めた。

 

「・・・まったく・・・」

 

 苦笑いといった趣きで、アーチャーは顔を歪めた。

 眼前では、こちらを押し込もうとするセイバーの整った顔が、少し朱に染まっている。

 彼女の攻撃を、自分が【干将】一本で受け止められている現状から見ても、セイバーが本来の力の半分も出せてないことは明らかだ。それにも関わらず、初手でダメージを受けた。

 なんのかんので、自分の油断や甘さもあったのだろうが・・・

 

「・・・弱っても鯛・・・というところだな」

 

「・・・こちらが手加減していることもわからないのですか?」

 

 セイバーの口からは、敵に自身の弱みを曝け出すような言葉は当然出てこない。だが、その身体から滲み出る魔力は微弱で、彼女の窮状を露骨に物語っている。

 

「そんな必要がお前にあるとは思えないがな」

 

「!?」

 

「安心しろ、と言っても信じるわけもないだろうが、少なくとも今のお前をどうこうするつもりはない」

 

 自分でもどうしてここまで来たのか、よくわからなかった。

 

「少しばかり訊きたいことがあるだけだ」

 

「・・・答えると思いますか?」

 

「答えなくても構わんさ」

 

 ただ、ほんの少しでも構わないから、彼女と話してみたかっただけなのかもしれない。

 

「お前は、衛宮士郎に召喚された。だが、その衛宮士郎はもういない」

 

「!?」

 

「奴は死んだ」

 

「あなたは一体何なのです?」

 

「何があったのだ?」

 

「・・・・・・マスターは・・・・・・私を庇って・・・・・・」

 

「・・・そういうことか・・・」

 

 無残に転がっていた衛宮史郎の残骸。あれは、事もあろうに何者かの攻撃からセイバーを庇った結果だったということだ。

 マスターがサーヴァントの盾になろうとするなど愚の骨頂、滑稽の極みではある。一方で、まあそんなこともあるか、と納得してしまう。

 

「その甲斐あって難を逃れたお前は、霊地として優秀なここに辿り着いて辛うじて命を繋いだというところか」

 

「っ!?」

 

 ガッ!

 

 その言葉に、一層顔を赤らめたセイバーが、剣を弾くようにして大きく間合いをとった。侮辱されたと感じたか、或いは自身に対する羞恥からか。

 

「いつまでも、あなたの問答に付き合っている謂れはないっ!」

 

「・・・潮時・・・か・・・」

 

 アーチャーもこれ以上自分の都合で、会話を続けるのが難しいことを感じた。

 その時だった。

 

 ──―ゾワリ──―

 

「!?」

 

 これまで感じたことのない程の不快な、何かが背筋を凍らせた。

 

『・・・ー・・・』

 

「凜?」

 

 ダッ!

 

 アーチャーはつい先ほどまで不自然なほどに拘泥していたセイバーを一顧だにせず、駆け出した。

 

「待ちなさいっ!」

 

 こちらの突然の不可解な撤退に戸惑ったセイバーの声が背中を追ってきた。

 が、今はそれに心を捕らわれることはなかった。

 滲み出る汗で自分の背中に服がベッタリと張り付き、とてつもなく重くなっているのを感じた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「凜、気になっていることがあってな。少しだけ外す」

 

「ええ。でも、あまり遅くならないようにね」

 

「わかっている」

 

 

 

「ふう・・・」

 

 少し出かけると告げた自身のサーヴァントを見送ると、凜は小さく溜め息をついた。

 

「たまには一人でゆっくりとお茶しよっと」

 

 お湯を沸かして、紅茶葉を炒る。

 彼を召喚してから約1週間が経過した。

 ずっと一人暮らしを続けていた自分としては、厳密には人間とは違う存在とは言え、他人と一緒に生活をするということは、少しばかり緊張を強いられる状態だったのかもしれない。

 ましてや、こちらはなんかんので年頃の女子、相手は男なのだ。

 

「それにあんだけ、カッコよけりゃ猶更よね・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・?」

 

 思わず口を突いて出た言葉に、自分の顔が紅潮していくのがわかった。

 凜は、ブンブンと首を振って、紅茶をズズと啜る。

 まだまだ憧れた父親のように、常に優雅に振る舞うには研鑽が足りないということを思い知らされる。

 最初はイケ好かない上に、得体の知れない、強いのかどうかもわからない変な英霊を引き当ててしまったものだと、少し落胆した。勿論、それは全て自身の責によるものなのだと完全に受け入れてはいた。が、記憶が曖昧で、自身の名前すらわからないというのでは、戦術を立てるのも儘ならない。

 とんだハンデを背負ったものだと嘆息したものだ。

 

「でも、充分強いわ。あいつ」

 

 改めて、昨夜の戦いを思い返す。

 自身が何であるかは思い出せない、と言う割には、しっかりと戦い方は覚えていた。

 白兵戦では最上級の存在であるはずのランサーと剣で伍していたし、遠間からの弓での攻撃はとんでもない精度であり、バリエーションも豊富。

 要するに剣も弓も一流。

 どうやら、複数の宝具を使うこともできるようだ。

 とにかく、戦い方の幅が広い。

 

「まあ、バーサーカーとか、校舎を壊した奴とかとんでもサーヴァントもいるわけだけど」

 

 それでも、戦いようはある。

 これで、勝てないようなら責任は全て自分にある。凜は100%の確信を持ってそう考えていた。

 

「・・・それにしても、あいつめ。いつになったら、白状するつもりなのかしら?」

 

 少し腹立たし気に、しかし、苦笑しながら、独白する。

 

 ──―ピンポーン──―

 

「あら?」 

 

 呼び鈴が玄関で鳴る。

 この家を訪れる者など、そうはいない。

 部活動にも参加せず、クラスメイト達との交流についても常に一線を引いている。

 そんなわけで、綺礼以外の人物で思い当たる節もなく、おそらく届け物の類だろうと当たりをつけた。

 

「はい。どちら様でしょうか?」

 

 インターホンにそう問い掛けると、意外な人物の返事があった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 再会は運命だった筈なのに、自分はそれを台無しにした。

 現代の聖杯戦争に召喚される。

 ということは、事前に聖杯からの知識として与えられたものの、そのマスターが誰であるかまでは知らされなかった。

 いや、その名を聞いていたところで、摩耗しきった自分の記憶から再構築するのは難しかったのではないか。

 それに、召喚のされ方も乱暴だった。

 気付けば自分は、屋敷の一室に調度品を破壊して、落っこちていたのだ。その上、本来いる筈の召喚者も見当たらなかった。あれで、混乱するなと言うほうが無理筋だろう。

 すぐに駆け付けてきた元気溌剌の少女。

 その姿を見ても、自分はすぐには誰だか思い至らなかった。

 だが、会話をするうちに徐々に眼前の少女が、何者であったかという答えに辿り着くのにさほど時間を要さなかった。

 寧ろ、なぜ自分は瞬時に思い出せなかったのか。

 あれ程、眩しく、憧れた存在。

 始まりの少女。

 そして、もしかしたら自分がこうなったのはある意味では彼女のせいだったのかもしれない。

 彼女の手を離さなければ、彼女が傍らにいてくれれば、自分はこうはならなかったのかもしれない。

 この眩い太陽の近くで生き続けていたなら、自分は真っ直ぐに歩み続けることができたのかもしれない。

 いやきっとそうだ。

 今となればはっきりわかる。

 自分は彼女の手を離してはいけなかったのだ。

 

 『自身の手で衛宮士郎を殺す』

 

 その目的は達成されなかった。

 そもそもにして、それを達成したからと言って、守護者となってしまったこの身が解放されることは無かったろう。

 実態としては近親憎悪。

 もっと平たく言えば八つ当たりのようなものだったのかもしれない。実際に、自分自身の過去を見せられた時の鬱陶しさと言ったら、反吐が出そうなくらいだった。

 昔の自分という見るに堪えない残像を、眼前にチラつかされた時には、とにかく早くこいつを掻き消したいという思いでいっぱいになった。

 だが、それも中途半端な形で終わった。過去の自分の遺骸を眼前に観た時、何やら寂寞とした感情だけが浮かんできただけだった。

 終わったのか?

 もうやりたいことはないのか?

 やるべきことはないのか?

 残ったものは?

 

 ・・・いや・・・

 

 残ったものはある。

 そう、自分には残ったものがあった。

 

 『遠坂凜がいる』

 

 今、自分の傍らには、あの遠坂凜がいる。

 それだけでいい。

 曇っていた視界は晴れ、自分は与えられた貴重な時間を、ただただ、この少女のために捧げればいい。

 そう思えたのだ。 

 

 

 

 異常を察知して、屋敷に戻ったその男は、ありうべからざる事態を目の当たりにした。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 いや、実のところ、自分は既に何が起きたかを知っていた。

 だが、認めたくなかったのだ。

 そして、この眼前の光景も。

 柳洞寺でセイバーと会話していた最中に、感じた違和感。

 それは本当は違和感などというものではなく、確定した現実。

 確実な情報だった。

 だが、その時の情報も、そして今、目に映る光景も、ただ網膜に投影された影のようなもので、何ら現実ではない。

 そう思いたかったし、実際にそう思うのだ。

 眼前の状況は、興味が無いのに付けっ放しにしているテレビドラマのようで、頭に全く入ってこない。

 要するに、これだけの情報を与えられてもなお、ひどく現実感がなかったのだ。

 

『遠坂凜が死ぬ?』

 

 馬鹿な。

 そんなことがあるわけがない。

 

「・・・・・・凜・・・・・・?」

 

 まったく気持ちのこもらない空っぽの言葉が口から洩れる。

 

『・・・・・・あ・・・・・・お帰りなさい・・・・・・』

 

 微かに意識が残っていたのか、念話で反応があった。

 なぜ、念話なのか。

 彼女は既に声を発することができないからだ。

 その喉は、狂犬に噛み千切られたかのように無残に引き裂かれ、血塗れになっていた。

 発声器官としての用はもう果たさない。

 

『・・・・・・私としたことが・・・・・・下手をうったわ・・・・・・』

 

 瞼は僅かに開いてこちらを向いてはいたが、焦点の定まらないその瞳にはこちらの姿が映っているだろうか?

 男は、居間の中央に倒れる少女の傍へと、ズルズルと歩み寄っていく。

 

『・・・ごめんね・・・()()()()()・・・』

 

「・・・き・・・気付いていたのか?」

 

『・・・あったりまえじゃない・・・あんた、結構本気で私を馬鹿にしているわよね』

 

 その白い顔を歪めたように見えたのは、もしかしたら笑顔を浮かべたのかもしれない。

 

「・・・すまなかった・・・」

 

 これはいったい何について謝罪しているのだろうか?

 

『・・・アーチャー・・・か・・・なんかこっちのほうが・・・全然しっくりくるわ・・・』

 

「・・・・・・マスター・・・・・・」

 

『・・・・・・こんなことなら、もっと・・・アーチャーって呼んどけば良かったわ・・・・・・』

 

「・・・・・・りん・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・まったく・・・・・・とっとと白状しなさいっての・・・・・・・・・全部・・・・・・・・・・・・あんたのくだらない悪戯の・・・・・・・・・』

 

「・・・・・・遠坂・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・せい・・・なんだから・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・・・・遠坂・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんと・・・・・・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・・・・アー・・・・・・・・・・・・・・・チャー・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・とおさか・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 

 

 















すいません。
設定をミスって完成前に投稿してしまっていました・・・
重ねて申し訳ないのですが、ストックが尽きてしまいましたので、暫く間を開けようかと思います。
必ず完成させますのでお時間をいただければ幸いです。




―――――――――――――――――――――
本作のメインヒロインであるキャスターの声優、田中敦子さんのご冥福をお祈りいたします。

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