楽しんでください(=゚ω゚)ノ
カプセルコーポレーションの中庭で、Z戦士から修行を受けていた俺と壱悟に天津、栗林、飲伏の3人の中学生。
気の効率的な使い方や、譲渡の仕方をクリリンさんから。
肉弾戦の体捌きをヤムチャさんから、総合的な戦術面を天津飯さんから、それぞれ指導を受けていた。
「よし! 皆、なかなか筋が良いぞ!!」
天津飯さんの言葉にぜぇぜぇ言ってた俺たちは頭を下げる。
「あ、ありがとうございました……!」
辛うじて俺が立っているのがやっとの状態で、他の連中は仰向けに倒れこんだり、座り込んだりしている。
立っているとか言う俺も、倒れそうな体を膝に両手をついて支えてるだけで、全身から汗をかいて止まる様子がない。
目の前の天津飯さんにタオルを渡されても、腕を伸ばすのさえ億劫なほどに疲れ切っている。
超サイヤ人のまま天津飯さんと組み手したんだが、まったく当てられなかった。
全ての攻撃を完全に見切られていた。
天津飯さんは、細かく肩や腰、足を動かすだけで俺がどこに打ち込むのか、蹴り込むのか、踏み込むのかを完全に支配していた。
技のレベルが違いすぎる。
こんなこともできるのかと、驚かされるばかりだ。
ヤムチャさんは壱悟とマンツーマンで組み手をしていて、先ほどまで超ハイレベルな高速移動バトルを繰り広げていた。
だけど壱悟の攻撃は捌かれ、ヤムチャさんの攻撃は全てクリーンヒットしている。
壱悟は俺よりも、この身体の能力を使いこなせている。
なのに、それでもヤムチャさんに肉弾戦で一本も取れなかった。
クリリンさんはクリリンさんで、身体の使い方を教える一環として亀仙流のトレーニングを天津、飲伏、栗林の三人に教えているだけなのだが。
それでも三人とも音を上げてしまった。
「も、もう、動けない……!」
「き、きっついなぁ……!」
「体育の授業の何倍もきついよぉ」
そりゃそうだ、亀仙流のトレーニングはきつ過ぎる。
いくらクローンの身体だからって中身まで変わったわけじゃないんだ。
「でも、やっぱり紅朗さんは凄いな。天津飯さん達と組み手出来るんですもん」
栗林の言葉に応えるのもキツイ状態だが、なんとか笑いながら返す。
「おまえらも、結構がんばってたよな。見てたよ」
「でも、僕らじゃ全然役に立てそうもないです。クリリンさんが折角…」
落ち込む飲伏にクリリンが声を上げて来た。
「問題ないよ。懐かしいなぁ、俺も武天老師さまに最初鍛えられた時は、そんな感じだった」
その言葉に、思わず俺は昔の悟空やクリリン達のことを思い浮かべる。
そうだった。
悟空が亀仙人に弟子入りした時に、クリリンがやってきたんだよなぁ。
すると天津飯さんが俺たちに向かって言ってきた。
「紅朗は超サイヤ人になれ、壱悟は身体の使い方を理解している。お前達も身体の使い方さえ覚えれば一気に強くなるはずだ」
ちなみにヤムチャさんと組み手をしていた壱悟は、片膝を地面に付いた状態で肩で息をしている。
要は、目の前にいる三人は俺たちがどう逆立ちしても勝てっこないレベルの戦士ってことだ。
こころなしかサイヤ人以外のZ戦士をバカにしていた天津達も、尊敬のまなざしに変わっている。
いい傾向だと思った。
これから旅を一緒にするのなら、Z戦士が少なくとも自分よりは上の存在であることを認めないと苦労すると思うからね。
実際に拳を合わせて強さを肌で感じるのが一番早いとは俺も思う。
変化は唐突だった。
それまでは和やかだった空気が、一瞬で不穏なものになった。
俺の目の前にーー瞬間移動で現れた二大悪役ーー完全体のセルと究極悟飯を吸収したブウによって。
「さて、どちらが本命かな?」
セルは俺と壱悟を見比べてから呟いた。
本命?
何の話だ?
「な、セル!?」
「そ、それに悟飯吸収ブウまで!」
「ど、どうなってるんだ……ファイターズにアルティメットブウはいないはずだぞ?!」
声を上げるのは、栗林、飲伏、天津の三人だ。
これにセル達が興味深そうに俺達、現代日本から来た人間を見つめる。
「ほう……。私をセルと認識し、ブウを孫悟飯を吸収した形態だとわかっている……。先ほど見た折戸とかいう孫悟空のクローンも似たようなことを口にしていたな」
「ふっふっふっふ! これは興味深い。おまえたちはどのようにして私たちがブウでありセルであることを知っているのか? なあ? 異世界の連中よ」
相手はにこやかに笑みを浮かべているだけなのかもしれないが、あの目。
あの目は悪意の塊。
人間を傷つけること、恐怖を与えることを何よりも楽しみだと言わぬばかりの。
そしてそれができるだけの力を持った重圧。
この世界の住人は、こんな自然災害よりもえげつないモノと向き合わなきゃならんのかよ。
「うぅぅ……!」
「こ、こえぇ……っ」
「だ、だれだよ! 本物のセルに成り代わろうなんて言ってたやつら……! こんなに怖いのか、こいつら……!」
天津達が恐怖で動けなくなっている。
仕方ねえだろうな。
人間は目の前に脅威が迫ると足がすくむし、体が動かないし、脳が働かない。
「お前たちはさがっていろ!」
「天津飯さん!」
その状態をすぐさまに見抜いた天津飯が天津に向かって言った。
「ふっ、ひとりで無茶すんなよ。天津飯」
「ヤムチャ……」
「俺たちが時間を稼ぐ! できるかぎり、な」
天津飯の隣にヤムチャが立つ。
強いのは知ってる、俺なんか逆立ちしても勝てない二人だ。
だけど、コイツ等は。
完全体のセルと魔人ブウは、シャレにならない……!!
「ふたりだけにやらせるわけにはいかないよな。俺も残るぜ」
「クリリンさん、ヤムチャさんまで!!」
栗林が仲良くなった二人に向かって一緒に逃げようと言外に伝えようと手を伸ばしている。
それを察しながらも三人の地球の戦士は二つの巨悪を睨みつけている。
「天津飯、ヤムチャにクリリンか。お前たち程度で、私の相手が務まると思うのか? だが、お前たちがどの程度腕をあげたのかには興味がある」
「ふっふっふっふっふ、セル。こいつら三人は私に譲ってくれ。お前は目的の真に至った超サイヤ人を探すがいい。その二人の孫悟空のクローン、そいつらのウチのどちらかがそうだ」
「貴様ら! 狙いは紅朗か!」
天津飯の声を聴きながら、鈍くなった脳みそが認識する。
俺が狙いだって?
その瞬間だった……!
考えるよりも先に頭に血が上って足が勝手に一歩出ていた。
「馬鹿、よせ! セルも魔人ブウも、お前が相手をしたフリーザのクローンたちとは比べ物にならない!!」
「だけど、クリリンさん! こいつらは、俺が狙いだって!!」
言い返す俺の腕を栗林が掴んでいた。
「く、紅朗さん!」
隣でブルマが声を張り上げてくる。
「バカ紅朗! クリリンたちの言うこと聞きなさいよ! そいつらは本当にひとの命なんてなんとも思っちゃいないんだから!!」
「ブルマの言うとおりだ、紅朗! 速く瞬間移動で逃げてくれ! こいつら相手に三人がかりで行っても一分もてば良い方なんだ!!」
ヤムチャが頬に冷や汗を流しながら、笑みを浮かべて言ってくる。
どいつもこいつも痩せ我慢しやがって。
「ふっふっふっふっふ、一分か……。では、お前たちに敢えて戦闘力を合わせて戦ってやろう。それならば一分以上はもってくれるんだろ? 天津飯、ヤムチャ、クリリン」
これに俺と同じ山吹色の道着を上半身だけ着て、下を白いシャムワールの長ズボンを履いた魔人が笑う。
「や、やろうっ!」
「な、舐めやがって……!」
「だがチャンスだ! 俺たちに気を合わせて戦うなら、ブルマさんたちをなんとか逃がせられるかもしれない」
天津飯、ヤムチャ、クリリンが拳を握って腰を落とし構えを取る。
そんな三人に向かって笑みを返した後、俺たちを見て魔人ブウは言った。
「おっと! お前たちに戦闘力を合わせるのは私だけだ。セルはそうではないぞ?つまり紅朗と言ったか、お前が逃げるそぶりを見せれば一瞬で皆殺しになる可能性がある」
「だれが逃げるって?」
瞬間、口が勝手に反応していた。
まったく頭に血が上ると考えるよりも先に口が動きやがる。
なにも、こんな時でまでやらんでいいのにな。
「く、紅朗! アンタね!」
ブルマが何か言ってくるが、今はそれどころじゃない。
「クリリンさんたちが体張ってくれてんのに、俺だけ逃げるわけにはいかんでしょうが。まして俺は、超サイヤ人孫悟空のクローンなんですからね」
「ほう」
感心したかのようなセルの声にヤツを睨みつけると、ブウがセルに声を上げた。
「お前の舞台は整えたぞ、セル」
「フ、いろいろ気を遣ってくれてすまないな。さあ、始めようか。紅朗、と言ったか? 折戸とか言うお前と同じタイプのクローンよりは楽しませてくれるんだろうな?」
セルが満足そうに笑った後、こちらに向かって拳を握って立つ。
それだけだ。
それだけで、一気に重圧が俺の全身にかかる。
ビビるな、ヤツを睨みつけろ!!
ヤツに飲み込まれたら、終わる!!
「壱悟、ブルマさんたちを頼んだぜ! お前なら十分、彼女たちを守り切れるはずだ……!」
この場で頼れるのは壱悟だけだ。
ヤムチャさんや天津飯さんに稽古をつけられた今の奴なら、その辺の転生者に負けやしない。だがーー
「おい、壱悟!!」
傍らで足音が聞こえたと思うと、俺の横に山吹色の道着を着たクローン悟空ーー壱悟が立ってセルに構えを取っている。
こんな時になんで言うことを聞いてくれないんだよ!
「かまわないわよ、壱悟! こうなったらアンタも一緒に戦って! 紅朗! ヤムチャたちを頼んだわよ!!」
だが、保護対象の一人であるブルマに言われちゃ、何もいえねぇ。
「フッ……! この状況で、助けられるかどうか微妙ですけどね」
内心では隣に立ってくれる壱悟に頼りがいを感じている。
感謝するぜ、壱悟。
お前が俺の相棒で助かった。言わねぇけど、伝われよ。
そんな俺の心に応えるかのように、壱悟が構えを取ってセルを見る。
「よし……! いくぞぉ!!」
俺は気合と同時に超サイヤ人に変身し、金色のオーラを纏う。
「そうだ。余計なことを気にしていて、このセルの相手は務まらない。死に物狂いでやってもらうぞ? さあ、始めよう」
ゆっくりと構えを取るセルに向かって俺も壱悟と同じ構えを取る。
孫悟空の構えを。
瞬間だった、俺と同じ構えを横でとる壱悟に俺のーー超サイヤ人のオーラが吸い込まれる。
そして、俺と壱悟の間を繋ぐように一つになるとーー壱悟も金色のオーラを纏った。
逆立つ眩い金色の髪に翡翠の瞳を持った本物の超サイヤ人だ。
クリリンたちとの組み手が壱悟を覚醒させたか。
「ほう、超サイヤ人……。折戸とは違って、通常の超サイヤ人のようだが。二人とも変身できるとは驚きだ」
「へッ!」
一気にーー踏み込む!!
「おらああああ!!!」
拳を振りかぶって上がったパワーとスピードで力任せに突っ込む。
「見え見えの大振りな一撃だ。それでは当たらん」
軽く体をひねって横に避けられるが、構わねぇ。
「そうかよ!!」
当たればーーーー勝ちだ!!!
空振ろうが関係ない、体をすぐさまに戻して拳を振り切る。
「フン。だが、人を殴る術は知っているようだ。武術ではないが、実戦慣れはしているようだな?」
話をしているということは、呼吸の継ぎ目がある。
そこへ拳を振り切ればーー当たる。
喧嘩の常套手段だ、相手の息の切れ目ーー意識の切れ目を狙い打つ。
だが、鼻先で避けられている。
天津飯たちに通じなかったんだから、彼らよりも強いコイツに効くわきゃねぇか。
「くッ! おらおらおらおらおらああ!!」
なら、もっと手を出す。
当たるまで振り切る。
全力でーー!!
ビルスとやり合った時を思い出せ、この身体の力を引き出すんだ……!
瞬間、俺の身体を青い稲妻が走り出す。
そうだ、超サイヤ人で勝てないなら超サイヤ人2なら、どうだ?
身体中に凶暴に満ち溢れた力をそのまま拳に載せて振り切る。
だがーー。
「どうした? その程度のハンドスピードでは私を捉えることはできんぞ」
「くっ、くそっ! 当たらねえ……!!」
思わず声に弱音が混じる。
悟空の身体でも、動きでも、頭が俺じゃ捕らえられないっていうのか!
そんな弱気な声をねじ伏せるようなタイミングで、もう一人の超サイヤ人がセルに殴りかかる。
動きは同じなのに、踏み込みの鋭さや拳を振り切るタイミングが完璧だった。
「ん? もうひとりのクローンか。ほう? 貴様の右ストレート、いい切れだ」
避けながらもセルはニヤリと壱悟に笑いかける。
瞬間、壱悟が猛烈なラッシュを仕掛ける。
左ストレートの返しを放ちながら右の膝蹴り、左の後ろ中段回し蹴り、からの跳び上がりながらの踵落としを放っていく。
セルは左ストレートを左腕を上げて拳の付け根に当てて横に流すと、右の膝蹴りを右手で止め、バックステップして中段回し蹴りを避け、着地と同時に頭上に両腕をクロスさせて振り下ろされた踵を止める。
強烈な衝撃波が二人を中心に起こり、セルの足元が沈んだ。
セルはニヤリと笑みを浮かべて桃色の瞳がギラつかせる。
「なるほど。貴様は孫悟空の動きをそのままできるようだな。折戸や紅朗よりも遥かに強い」
す、すげえ! 壱悟のやつ、ちゃんと戦いになってる……!
なるほど。
この連打の手数と鋭さ、さっきヤムチャさんと組手してたときの動きか!
へッ、壱悟なんて呼べねえな。
なんて笑っていると、セルが身体に青い稲妻が走る金色のオーラを纏い強烈な右掌底を壱悟に放つ。
咄嗟に両腕をクロスさせて受ける壱悟だが、遥か後方に吹き飛ばされて地面を引っ掻きながら着地する。
しかも、その口から血が出ている。
「だが、ただの超サイヤ人だ。パワーもスピードも足りん。一撃でその程度のダメージを負っているようでは、到底私とは打ち合えんぞ」
「壱悟!」
思わず叫ぶ俺と血を口から流しながらも淡々と無表情に立ち上がる壱悟を見比べてセルは笑う。
「興味深い連中だ。超サイヤ人の壁を超えた変身ができるだけのクローンと、動きだけは本物に近いクローン。まるで孫悟空が二つに分けられたかのようだ」
「……!」
あの野郎……!
「そんなら! ふっ! はあああああああ!!!」
超サイヤ人2のフルパワーはこんなものじゃない。
試してやらぁ!!
「ん? 気を溜め始めたか」
「超サイヤ人を超えた超サイヤ人2のフルパワーなら、どうだああああ!!」
自分の中に満ち溢れた力を全て解放する。
するとセルの表情が少しだけ変わった。
「似ているとは思ったが、その変身は孫悟飯がなったアレか。パワーだけは本物だな」
完全に引き出せた上にパワーが安定している。
どうやら超サイヤ人2は、完全に使いこなせそうだ。
「よしっ!!」
「ほう。超サイヤ人2……というのか。だが、それで私を倒せると思うのか?」
淡々と告げてくるセルに俺の口の端が歪んだ。
んなもん……!
「……やってみなけりゃ、わからんだろうが!!!」
一気にセルに目掛けて突っ込む。
圧倒的な力とスピードは、俺を簡単にセルの目の前に置く。
これだ! このスピードとパワーなら!!
「どうだぁああああっ!!」
澄ました顔に向かって拳を叩きつける。
「なっ? 軽く流された!?」
放って突き出した拳の外側を弾かれた、それだけで俺の身体はそのままセルの脇に流される。
「何度も言わせるな。そんな見え見えの大振りな一撃が当たると思うのか」
「くっ! そっ! たれぇっ!!」
なら、もっとコンパクトに!
頭の中の悟空の動きなら、こうだ!!
浮かんだイメージそのままに殴りつければ、今度は弾かれずにガードの上に刺さった。
「ん? ほう……。なんだできるじゃないか。いや、意識してやらねばできんとは。やれやれ……困った素人だ」
「うるせえ!!」
「そら、どうした? もっと私を楽しませろ!!」
何度もぶつかり合い、離れる。
超サイヤ人2のパワーとスピードが、悟空の動きと合わさり、俺の思考を溶かしていく。
俺自身の動きだと言っても過言ではない程に、動きが滑らかに思考がクリアになっていく。
闘えば、闘うほどに、悟空の力と技と身体が俺のものになっていくような感覚だった。
だが、同時に驚くことがある。
強くなればなるほどに、悟空の動きに俺が馴染めば馴染むほどに。
目の前の化け物が、デカく見えてくる。
「どういうことだ!? 超サイヤ人2で遊ばれるなんて!?」
こいつ、攻撃を完全に受け流してる……!
俺の思考を読まれているから、だけじゃない!!
こいつ、超サイヤ人2のパワーに慣れてる!!
「くうう! うそ、だろ……! もう一段階上を出さないとダメだってのか!!」
このまま打ち合いをしても、まったく当たらないのは分かった。
思わず弱音が出てしまった俺に、セルが笑いかける。
「ほう、その言いぐさ。さては、もう一段階上があるな?」
「ずばり、そのとおりだ! 超サイヤ人2で仕留めきれねえなら、短期決戦しかない!! いくぜ! これが最強のーーー超サイヤ人3だぁあああっ!!!」
身体に力を満ち溢れさせろ!!
髪の一つ一つに至る全身に、先ほどまでと比べても更に圧倒的な力が漲っていく。
どうだ、この変身なら!!
睨みつける俺に向かってセルはニヤリと冷酷な笑みを返す。
「ほう……。たしかに素晴らしいパワーだ。異世界の住人だかなんだか知らんが、それほどのパワーをあっさりと手に入れていることは気に入らんな」
怒気を感じる声音だった。
それはそれで怖いが、それよりも俺を愕然とさせるのはよ。
「ぐっ! 全然ビビってねえ……!」
そう、セルは俺の見た目の変化くらいしか感じてないってことなんだ。
これほどまでにパワーが上がったっていうのに。
「さあ、来い。貴様と私の器のちがいを教えてやろう」
両手を広げて打ってこいと手招きするセルに俺のコメカミの筋が浮かび上がったのが分かった。
「舐めんな、セル! アルティメットブウならともかく、ただのパーフェクトセルなら超サイヤ人3の力でねじ伏せれるんだよぉ!!!」
正面から突っ込んで殴りつける。
それだけでーー勝てる!!
「フッ」
目の前に迫るセルの笑み。
セルは左手を顔の前に上げると正面から俺の右拳を掴み止めた。
「な、にぃ!?」
勢いでセルの両足が一気に後方へ下がるが、セルは自分の足元を睨みつけたと同時気を開放した。
「フンッ!」
「ぐぅ……!?」
すると俺の拳を完全に止め、仁王立ちしているセルが目の前に立っていた。
「て、てめえ!!」
左拳を放つが、右手で掴み止められる。
拳を解かれがっぷり四つに組まされる。
パワーとパワーの押し合いだった。
「さすがは超サイヤ人3。大したパワーだな?」
「ぐ、ぐうっ! は、離せ!!」
押しても引いてもビクともしない、コイツ……!
「おやおや、どうした? 超サイヤ人3のパワーで、ねじ伏せるのではなかったのかな?」
「ぬ、ぐぐぐぐ! こ、の、やろ!」
無理やり跳び上がり、顎に向かって右脚の靴底を叩きつけ、壁を蹴るように反動で距離を取る。
「フン、苦し紛れに蹴りを一発入れて逃げるのが精一杯か……」
口元に手をやり上品に笑いながらセルは俺を冷ややかに見つめる。
「そしてーー頼みの綱の超サイヤ人3は時間切れか」
「く、そっ!」
ヤツの言葉を代弁するかのように身体から一気に力が抜けて強烈なパワーが一気に消える。
まじかよ……!
実戦だと、こんなに時間切れが早いのか!
「つーか、どうなってんだ! テメェ!! 超サイヤ人3のパワーでも、勝てないだと!?」
思わず吠える俺に、セルは淡々と返す。
「勘違いをするな。お前の知っている私はどうやら、セルゲームの頃だろう? 今の私のことを知らんと言うのは、致命的だな」
「な、なんだと!? お前もフリーザみたいに修行したってのか、セル……!!」
「そういうことだ。だが、仮に私が修行をしていなかったからと言って。この程度の力だけで私を倒せると思っていたとはな。拍子抜けだぞ」
どうするよ。
超サイヤ人2も超サイヤ人3も通用しないとか、もうどうしようもねぇじゃないか。
思わず不安そうに俺を見つめる天津、栗林、飲伏、ブルマを見る。
ああ、そうだよな。
ここで逃げたら、アイツらも殺されちまうんだ。
俺がやらなきゃ、みんなやられちまうんだ。
ーー 俺がやらなきゃ、誰がやる!?
そんな聞き覚えのある声が、英雄の声が俺の胸に響く。
同時に、壱悟が俺の向かいーーセルを挟む位置で立ち上がった。
悪いな。
最期まで付き合ってくれ、壱悟。そう心の中で告げたときーー
「ーー!?」
な、なんだ……!?
セルの後ろ姿にその向こう側に居る俺と背後の天津達が頭の中に見える。
これは……壱悟が視えてる視界か?
自分の見ているものとは違う景色が同時に映し出されるが、何故か脳が混乱せずに受け入れている。
同時、壱悟と俺の間に超サイヤ人のオーラが結びつく。
超サイヤ人3で使い切っていた体力が、少し回復したのが分かる。
「へッ、なんだかよくわからないが、今ならなんとかなりそうな気がするぜ。壱悟、協力してくれ!!」
超サイヤ人のオーラを纏い、俺は構えを取ると反対側で壱悟も間髪入れずに同時に構えて居た。
「ヘッ、サンキュー!」
そんな壱悟に感謝の気持ちを伝えたとき、セルも俺たちの変化を見ていたようだ。
「ほう。奇しくも同じ動き、同じ構えか。急にどういうことだ? こいつらの呼吸、気の流れそのものがシンクロしている」
そのとき、俺たちの意識の外で栗林と飲伏、天津が言っていた。
「アレって、もしかして……!」
「ああ、ファイターズの主人公が使ったーー!」
「間違いない、操る戦士の身体とプレイヤーの精神を完璧にトレースするーー!!」
「「「ーーリンクシステムだっっっ!!!」」」
そんな天津達の声を他所に、俺は構える。
目の前にいるコイツを倒せなきゃ、話にならないんだからな!!
「いくぜ!!」
同時にーーかかる。
「ーー速い!!」
目を見開き、驚いた顔をしたセルの目の前に俺。
後ろには壱悟。
考えるよりも先に身体が動いて、頭の認識とは別の世界で闘いが始まる。
脇腹に放たれたのは強烈な俺の右拳。
後頭部を狙うのは痛烈な壱悟の跳び左ひざ。
セルは左手の甲を頭の後ろに置いて膝を受け、右手で俺の右拳を受け止める。
だが止められたことなど、俺たちは関係ない。
すぐさま蹴りと拳をセルを挟んで打ち込んでいく。
「……止められてもお構いなし、か! 面白い!!」
セルも拳と蹴りを返してくる。
それを俺たちは拳と蹴りを叩きつけることで無効化しながら叩き込んでいく。
打たれようが、顔が仰け反ろうが、関係ない。
コイツを止める、そのためなら何度でも拳と蹴りを叩きこんでやる。
不思議なもので、ごちゃごちゃ考えていたさっきまでよりも遥かに俺の動きはよくなっている。
自分で分かる。
これが、この景色が俺が憧れた男の立つ場所なのだ、と。
俺の右ストレートと壱悟の右廻し蹴りを高速移動で避け、セルは俺たちと距離を取って立った。
初めてーーセルが、自分から距離を置いた。
「素晴らしい。さきほどまでのパワーだけに頼った超サイヤ人2や超サイヤ人3とは比べ物にならん、いい動きだ。先ほどの超サイヤ人3で今の動きをやってもらいたかったものだな」
「うるせえよ! そんなことができたら、とっくの昔にやっとるわ!」
「ふっふっふ、それもそうか」
この野郎!
二対一だって言うのに、全然クリーンヒットしねぇ!!
確かに闘いにはなっている、だがそれだけだ。
二人がかりでも、セルの野郎を倒せるレベルじゃない。
「もう少し楽しんでもいいが、そろそろどちらが真に至ったのか見せてもらおうか?」
それを思わせる程に、恐ろしい鋭さを持った蹴りが俺の腹を打ち貫いた。
「ぐっ!?」
喰らった、と思った瞬間には遥かに後方へふっ飛ばされる。
「ぐぉあああああ!!」
あまりの痛みに俺は悲鳴を上げながら背中から地面に叩きつけられた。
壱悟が後ろからセルに殴りかかる。
セルは、それを片手で止めるとーー。
「うるさい」
右の手刀で壱悟を地面に弾き飛ばす。
地面に巨大な溝が生まれる程の一撃で壱悟は動かなくなった。
「くっそ! ったれがぁあああ!!!」
全身の痛みに耐えながら立ち上がった俺だが、ボロボロの姿で倒された壱悟の姿を見た瞬間に目の奥が熱くなり血が沸騰して一気にセルの目の前に突っ込んだ。
だが、軽々と避けて俺の腹を膝蹴りで蹴り上げ、両手を組んで頭上から背中に振り落とす。
地面に容赦なく叩きつけられた俺は、何とか身体を横に転がしながら距離を取って地面に膝を付いた状態で体を起こす。
痛みは邪魔だ!
今は、目の前のコイツを見ろ!
死ぬぞ!!
「ほう。まだ動けるか。しかし、クローンを傷つけただけで今のような動きができるとはな。孫悟飯のように何人か殺したほうが本気になるのかな?」
そんな俺をセルは冷ややかに笑いながら、告げる。
「……よせ!!」
思わず焦る俺を満足そうに見下ろしてから、セルは天津達とブルマに向かって振り返る。
その右手の人差し指に紫色の光を宿しながら。
「……セル。お前がブルマ達を攻撃すると言うのなら、俺がお前を止める」
「16号! ダメよ!!」
そんなセルに向かって、ブルマの止める声を無視して任務に関係すること以外では決して拳を握らない男が立ち上がった。
人造人間16号だ。
「ほう? まだ転がっていたのか。ガラクタめ」
だけど、今のセルはーー16号でも無理だ!!
「やばいいいい!!」
「やっぱり、こうなったじゃないか!」
「ちっくしょう、やぶれかぶれだ!!」
天津達は必死に白い気を纏って、かめはめ波の構えを取っている。
馬鹿野郎。
おまえら……!
逃げることしか考えてなかったのに。
最初に会った時は、人を傷つけることを楽しんでやがったんだ。
Z戦士をバカにしてこの世界を、いいようにできると思ってたのに。
そんなアイツらが、天津飯たちに感化されてブルマと16号を守るために絶対に勝てないセルを相手に立ち向かおうとしてやがる。
「あ……!」
全てがスローモーションに見える。
指先から放たれる光弾。
当たれば、死ぬ。
そんな容赦のない一撃が、俺の目の前で。
俺のーー仲間ーーに向かって放たれた。
それを認識した瞬間、俺の中の何かがプチンと音を立てて切れていたーー。
ーーーー
無慈悲に放たれたデスビーム。
それはセルにとっては何の感慨もない一撃だった。
ただ、目の前の男の底を見るために必要だからしたことだ。
そこに何の呵責もない。
だがーーそれこそが、セルが悪党である所以であり、孫悟空や孫悟飯の怒りに触れるところである。
放たれた光は、爆発して土煙が全てを覆い隠してしまう。
それを淡々と見据えるセルは、ゆっくりとデスビームを放った右手を下ろして構えを取る。
(あれほどのダメージを負いながら、この私にも見えない程のスピードで移動し本気の私の一撃を止めた、か)
煙の向こうから山吹色の道着を着た超サイヤ人が、両腕を交差させた姿勢で立っている。
「テメェ……! 当たったら、みんな死んでたぞ?」
淡々とした低い声は、しかし殺意に満ち溢れている。
セルをして一瞬、気圧される程の純粋で強烈な殺意に。
だからーー。
「そのつもりだと言っただろう」
だから、セルは笑った。
ようやく見せたのだ。
ようやく会えたのだ。
だからセルは、笑った。
「そうかよーー」
明らかに先ほどまでと雰囲気が変わった……。
「そうか。やはり貴様か。紅朗」
僥倖だと言わぬばかりの表情でセルは、迎えた。
金色よりも遥かに濃い黄金の炎を。
「ぁあああああっ!! うぉおおあああああああああっ!!!」
大猿のような咆哮を上げながら、男は変異する。
紅朗ーー久住史朗という人格は消え、その記憶と意識を持ったままの超戦士へと生まれ変わる。
そのものはーー千年に1人現れるという伝説の戦士。
そのものは、凶暴にして純粋。
そのものは血と殺戮を好む究極の戦士。
その圧倒的な力を前にして、Z戦士を相手にしていた魔人ブウも振り返る。
「ふっふっふっふっふ、ついに真・超サイヤ人が現れたか」
その言葉に天津飯、ヤムチャ、クリリンも炎のようなオーラを纏う超サイヤ人を見た。
「っ、紅朗!! 真・超サイヤ人になったのか!!」
「大丈夫なのか、あいつ……! ビルス様の話じゃ紅朗は真・超サイヤ人の力を使いこなせていないって!」
「だ、だけど! ここはあいつのーー超サイヤ人の真の姿に賭けるしかない!!!」
そんな彼らを尻目にセルは期待を胸に抱きながら気を纏う。
「さて。どれほどのものか見せてもらうとしよう」
瞬間、目の前に超サイヤ人が拳を振りかぶって現れた。
先ほどまでと全く変わらないフォームと動きに、セルが失望したような表情に変わる。
確かにスピードは速い、動きも鋭い、パワーもあるだろう。
だが、それだけだ。
セルにとって、イノシシのように突っ込んでくるしかない相手など余裕で捌ける。
ましてや、最初からまったく同じフォームで突っ込んでくるだけの右ストレートなど、避けるのも面倒だ。
「やれやれ。さきほどと全く同じ、正面からの右ストレートか。少しは学習したらどうだ? こちらとしては違う動きも見せてもらーー」
そう語る途中でまともに拳が左頬を捕らえていた。
見開かれる眼。
直後に凄まじい轟音が鳴り響き、セルの身体を真後ろに吹き飛ばした。
「「「「当てたああ!?」」」」
この場に居る全員が予想外の事態に目を見開いて驚きの声を上げる。
地面に叩きつけられたセルは、すぐさまに立ち上がるも足に力が入らず、一瞬よろける。
「ぐっ、き、さまっ!」
睨みつけようとした矢先、強烈な音と共にセルの脇腹に左の拳がめり込んでいる。
「ぐぅ、おおお!?」
痛烈なリバーブローだ。
問答無用でセルの動きを止め、長身のセルが前のめりになる。
下がった顔に向かって的に弓を引くように更に右ストレートを叩き込んだ。
「ぬぅ!?」
後方に吹っ飛ぶセルの脇に高速移動で現れ、上空に蹴り飛ばす超サイヤ人。
そして頭上に現れ、両手を組んで真上からふり下ろしセルの後頭部にぶち当てる。
地面に激突するセル。
先ほどのデスビームよりも更に凄まじい勢いで土煙が舞い、視界の全てを覆い尽くす。
「す、すげえ……!」
絶句するヤムチャ、天津飯。
クリリンが思わずつぶやく横で、ブウが瞳を鋭く細めた。
(真・超サイヤ人になっただけで、動きによどみがない。どういうからくりだ? あのクローン)
地面に叩きつけられたセルは、土煙を吹き飛ばしながら青い稲妻が走る金色のオーラを纏うと空に飛び超サイヤ人と向き合った。
「楽しませてくれるじゃないか、紅朗。その動き、正しく真の超サイヤ人だ」
笑みを浮かべるセルに超サイヤ人は冷徹な翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳を向ける。
「だが、まだまだ私には敵わないようだな」
気の量では、セルの方がまだ上だった。
だが、超サイヤ人は拳を握りしめる。
「今のうちに笑っておけ。すぐに笑えなくしてやる」
「できるのか、貴様に?」
互いに相手に向かって踏み込む。
攻撃を攻撃でさばきながら、セルの痛烈な掌底が紅朗の顎を吹き飛ばす。
そのままセルの長い脚が矢のように突き出され、紅朗の腹を打ち抜いた。
瓦礫をぶち抜く紅朗。
次の瞬間、気が爆発的に上がり、吹き飛ばされた以上の勢いで紅朗が目の前に迫る。
強烈な右ストレートーーが、セルはそれを左手で受け止める。
セルの拳が、超サイヤ人の顔を捉える。
同時にセルの顔も相手の左拳で吹き飛ばされる。
一瞬の間の後、嵐のような猛攻が互いに向かって始まる。
少しでも退けば、一気に呑まれる。
凄まじいバトルが、地球の荒野で始まったーー。
次回も、お楽しみに(。ÒㅅÓ。)