ドラゴンボールFZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

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はい、今回も紅朗視点は少ししかありません(´・ω・)

代わりにちょっとだけ”彼”の視点で話が進みます

お楽しみに( *´艸`)


第31話 悟空、何が正義で何が悪、なんだろうな

 俺の人生は順調だった。

 

 全てが順調に進んでいたんだ。

 

 なのに、どうしてこうなる?

 

 どうして、俺が無能な連中と同じ扱いを受けるんだ? 今まで俺をチヤホヤして来たくせに。

 

 馬鹿みたいに晴れた青空と輝く太陽までもが、俺を馬鹿にしているように感じる。

 

 成功という結果しか見ないクソどもが……!

 

 みんな、死んじまえ。

 

 何一つ、努力もしないで寝転がってる連中とこの俺が、同じだって言うのか?

 

 たった一度、失敗しただけで今までの成功と努力の全てを無かったことにされるのか?

 

 親にすらも見放されるって言うのか?

 

 ふざけるな、そんな世界なら俺は要らない。

 

 そんな現実(せかい)は俺から願い下げだ。

 

 だからーー高層マンションの屋上に昇った俺は、目を閉じてゆっくりと飛び降りた。

 

 次に生まれるならーーこんなしがらみだらけの世界とは無縁の世界に行きたい。

 

 夢のある世界にーー。

 

 落下する感覚に身をやつし、走馬灯を見ながら。

 

 ドラゴンボールのことを思い出した。

 

 大学受験を失敗してから、ゲームセンターに通ってはドラゴンボールのカードゲームばかりしていた。

 

 空が飛べて、超人的な強さを持って、全てをねじ伏せられる金色の髪の戦士になれたら。

 

 顔から凄い衝撃を受けて堅い何かに当たるーー、体中が熱くて口から鉄の味をした生温かいものを吐き出す。

 

「……ぎ……あっ!」

 

 なんだよ、楽に死ねるんじゃないのかよ。

 

 こんなーーこんな苦しいのかよ。

 

 指を動かしながら、俺は空を見上げた。

 

 死に……たく……!!

 

 なんで、俺がこんな目に遭うんだ?

 

 何で、俺だけがこんな目に遭わされるんだ?

 

 ちくしょう……! ちくしょう……。ちくしょう……眼が暗い、テレビの電源を切るみたいに視界が消えて。

 

 俺の中の何かがプツリと切れたーー。

 

ーーーー

 

「修二さま?」

 

 黒い世界の向こう。

 

 耳に心地良い綺麗な声で自分の名を呼ばれて、俺はゆっくりと目を開ける。

 

 洞窟の奥に造られた研究施設ーーその一角に俺は”時空の狭間”でハーレムに加えた16歳の美少女ブルマから支給されたカプセルで家を建てた。

 

 俺のハーレムライフを彩る拠点だが、取り敢えずはこれでいい。

 

 殺風景な研究施設も、ブルマは喜んで使って行くだろう。俺の為だけに生きることを喜びとして。

 

 実に素晴らしい、あんな才能も美貌も兼ね備えた女が自分のモノにアッサリと落ちる。魔術とはなんと便利なモノか。

 

 ハーレムの数はシャノアとブルマだけだが、焦る必要はない。

 

 此処から広げていけばいいだけだ。

 

 本来の歴史とは違う存在が歴史を改変したことによって起こる何処にもつながらないifのシーン。

 

 それを時のかけら「パラレルクエスト」とドラゴンボールゼノバースに出てくるタイムパトローラーは呼んでいる。

 

 パラレルクエスト内で起こることは全て容認される。

 

 例えば悟空たちを殺そうとも、フリーザやセルを味方にして勝たせてもいい。

 

 その結末は他の歴史には影響しないし、何なら一度そのパラレルクエストから足を踏み出せば踏み入れたものが何かをする前のーー元の場面に戻っている始末だ。

 

 だがそこに出てくるもの達は本物の悟空たちと何も変わらない。

 

 これを利用して俺は、パラレルクエスト内から多くのZ戦士、フリーザ達を味方にすることも出来るし連れてくることも出来る。

 

 ドラゴンボールゼノバースとドラゴンボールヒーローズという二つのゲームに出てくるフューに接触できたことが俺にとっての幸運だった。

 

 黒に近い灰色の道着上下、血のように紅いインナーシャツと帯にリストバンド、ブーツを履いた服装。

 

 燻んだ逆立った金髪に赤い瞳、死人のような肌色をした鏡に写った俺の姿。

 

 まるでヴァンパイアだな。

 

 自分の姿を確認した俺は、一つ息を吐いてから目の前の美女ーー長い赤茶色の髪に透き通るような白い肌をしたセクシーな美女を見る。

 

「なんだ?」

 

 俺が作り上げた、俺の好きな見た目をした俺の為だけの女。

 

 人造人間21号のクローン体ーーシャノア。

 

 21号の中の人繋がりで付けたドラゴンボールとは別の作品の女ヴァンパイアハンターの名だ。

 

「申し訳ありません。修二さまが、お辛そうにしていたように思えたので」

 

 シャノアは冷たい美貌をそのままに俺の問いかけに抑揚のない声で言ってきた。

 

「ありがとう、シャノア。大丈夫だから」

 

「ーーはい」

 

 辛そうな顔をしていたーーか、情けないな。

 

 もう俺は非力な地球人の折戸修二じゃないーー孫悟空のクローンーー超サイヤ人そのものだ。

 

 本物の孫悟空に成り代わるなんて無意味且つ芸のないことをするつもりはないが、その気になればどうとでもできる力もある。

 

 この圧倒的な力と肉体があれば、成功は約束されたものだ。

 

 後は、俺の素晴らしい快適ライフを邪魔する可能性のあるヤツを排除していく簡単な仕事だ。

 

 セル、魔人ブウ。ゴクウブラック。

 

 差し当たっての障害はコイツ等か。

 

 俺と同じクローン悟空の肉体を持った久住史朗ってオッサンも居たが、取り敢えずは放置で良いだろう。

 

 他の転生者どもやクローン達が居る限り、俺が手を下すまでもない。

 

 シャノアとブルマが居れば、こちらは幾らでもクローンを補充できる。

 

 転生者を呼び寄せることはしなくても、その辺のリンク適合者の精神をクローン(肉体)に移し替えることも可能だ。

 

 それにーーフューのおかげで、俺はパラレルクエストを行き来できる能力も得た。

 

 ブルマが居れば、俺の思い描いていた能力も手に入る。

 

 魔人の細胞ーーあらゆるものへと変身できる細胞。

 

 その能力と本物と何ら変わらない世界の悟空たちを使用すること。

 

 そしてヒーローライセンスカード。

 

 これらが揃っている今ならばできるはずだ。

 

 今の俺はフューの経由でトワの魔術を食らって潜在能力を解放し、カンバーの力で悪の気を吸収できてる。

 

 神と神の頃の超サイヤ人ゴッドの孫悟空でもこのクローン悟空の肉体で簡単にひねれるはずだ。

 

 いざとなればーー、クク。

 

 笑いが止まらない。

 

 いろんな時代や世界、惑星の色んな美女を自分のモノにできる。

 

 刃向かう奴は全員皆殺しにできる。

 

 利用できるやつは、洗脳だって可能だ。

 

 なんて楽しいんだろう?

 

 俺の思い通りにならない存在なんか、この世に存在しないのだ。

 

 ドラゴンボールの世界で、俺は俺の人生をようやく歩めるんだ。成功を約束され、成功しかありえない未来に向かって俺は歩くんだ。

 

 ああ、なんて素晴らしい。

 

 ああ、そのためにも。

 

 俺の邪魔となるモノは皆、排除しなくちゃ。

 

 皆、皆、皆ーーみぃんな、俺の幸せを奪おうとする奴は皆殺しだ。

 

「ク、ククク、ハハハハハ!!!」

 

 上機嫌に笑う俺の下に、長く青い髪を三つ編みにして可愛いおでこを出したタンクトップとホットパンツを履いた健康的な色気のある美少女ーーブルマが現れた。

 

「ねぇ、修二さま? 言われたとおり時空の狭間から召喚できる装置とカード、腕輪を作り上げたけど?」

 

「へぇ、流石ブルマ。仕事が早いね」

 

 概念を説明するだけで、簡単にブルマはやってくれる。

 

 ヒーローライセンスカードは、ドラゴンボールヒーローズに出てくるカードそのものだ。

 

 それをヒーローズの主人公アバターのように俺は大量のカードをデッキとして組み込みカプセルコーポレーションのマークが付いた腕時計のような腕輪を手首に嵌める。

 

 笑いかけるとブルマは頬を真っ赤に染めて俺を見つめ返してくる。

 

 分かってる、分かってる。

 

 頭をなでてやるとブルマは気持ち良さそうに目を細めた。

 

 彼女の様子をジッと見て俺は満足する。いいぞ、完璧だ。

 

 完璧に俺の魔術は作動している。

 

 元々、ブルマは青年になった悟空を好んでいた。

 

 整った容姿の超サイヤ人の悟空はブルマのストライクゾーンそのものだろう。

 

 元々、好意が高いのならそれを増幅して洗脳するなんて容易い。

 

「装置の使い方を教えてくれるかな?」

 

「う、うん。あのね、この腕輪を嵌めてちょうだい?」

 

 ブルマから差し出された金属製の腕輪を左の二の腕に装備する。

 

「これでいい?」

 

「うん。後は、修二さまのリンクしたいクローンを選べば自動的にそのクローンを使えるはずよ」

 

「ありがとう。さっそく使ってみるよ」

 

「あ、待って! クローンとリンクしている間は、修二さまの身体は無防備になってしまうの」

 

 俺が使おうとすると、ブルマが焦った表情で言ってくる。

 

「大丈夫。シャノアが俺の本体を守ってくれる。それに、この研究を進めていけばいずれは精神を分裂させることも可能なはずだ」

 

 ファイターズの元ネタでは、主人公は一人にしかリンクできなかったが。

 

 俺にはフューからもらった暗黒魔術と悪の気がある。

 

 いくらでも可能性はあるはずだ。

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

 そう言って、俺は腕輪のボタンを押して右手にカードを一枚引いた。

 

 俺は腕輪を着けた左腕を前に出し、右手に持ったカードを腕輪に交差させると光の粒子に変わる。

 

 粒子は「孫悟空」の姿に変わって俺の前に立っていた。

 

ーーおし、いっちょやっか!!

 

 その声を聞きながら俺は満足して頷いた。

 

 そうだなーー最初は、見てやるか?

 

 死にぞこないのクローン悟空の身体を持った久住史朗ってオッサンの能力をな。

 

 折戸流リンクシステムとヒーローズライセンスカードの動作確認だ。

 

ーーーー

 

 カカロットと名乗ったクローンの超サイヤ人の悟空は腕を組んで高みの見物といった姿勢を取っている。

 

 それをセルが正面で様子を窺っていた。

 

 対してベジットブルーの肉体を持った今の折戸修二は、圧倒的であった。

 

 フルパワーを開放した究極の魔人ブウを前にしても、神域の気を纏ったセルを前にしても、ゴクウブラックを見ても何も感じない。

 

 それほどにまで自分は圧倒的な力を手にしている。

 

 その事実に折戸は上機嫌に笑う。

 

「……フ、ベジットへのリベンジの練習に俺を使うって? 魔人ブウ」

 

「ああ。これ以上ない実験体だ。せいぜい利用してやろう。私がヤツを倒す為にもな!!」

 

 強烈な桃色と紫の混じった炎のような気を燃やして全身に纏うとブウが突っ込む。

 

 左右の拳を握り、左から右のストレートを放ちながら右の後ろ回し蹴りを放っていく。

 

 折戸は首を傾けるだけでブウの左右の拳を躱し、その場から一歩下がるだけでブウの蹴りを鼻先で見切っている。

 

 躱しきられたブウの目の前に折戸の右手がかざされる。

 

「なに!?」

 

「ビックバンアタック!!」

 

 放たれた青い光弾。

 

「ぬぅ!?」

 

 魔人ブウは両腕を顔の前でクロスさせて受け止める、も受け止めきれずに爆発。

 

 強烈な爆風に吹き飛ばされながら魔人ブウは距離を置いてベジットブルーの肉体となった折戸修二を睨みつける。

 

 瞬間、ブウが高速移動で姿を消して折戸の目の前に踏み込む。

 

 折戸も拳を握って迎え撃つ。

 

 右拳と右拳がぶつかり、左の肘をフック気味に放つブウ。

 

 それを折戸が下にくぐって避けると左のボディを叩き込む、動きが止まるブウの顔をすかさずに左右ストレートで仰け反らせ、右の上段回し蹴りで後方へ弾き飛ばす。

 

 吹き飛ばされるブウの正面に高速移動で折戸が迫り、拳を振りかぶってくるのをブウも拳を握って打ち返す。

 

 凄まじい音が鳴り響きながら蒼銀と桃紫のオーラが世界をキャンパスに幾筋も描かれていく。

 

 互いに交互にはじけ飛ぶ首、一撃を叩き込まれれば叩き返す。

 

 それでもスピードもパワーも技も、全てにおいてベジットブルーとなった折戸修二は究極魔人ブウよりも上だった。

 

 互いの右ストレートが交差、互いの拳はブウの顔を後方へ吹き飛ばし折戸のガードの上に刺さって後方へ下がらせている。

 

「……なるほど。ブラックの言うとおりだ。貴様は確かに私のプライドをズタズタにしてくれた、あのベジットとは別物。比べるのもおこがましい紛い物だ」

 

「フン。よく言うぜ。パンチも避けきれずに吹き飛ばされといてな?」

 

「フフ、確かにな。お前の戦闘力は私よりも1枚か2枚、上のようだ。だが、それだけだ」

 

 そう告げるブウに折戸のアイスブルーの眼が鋭く細まる。

 

「……何が言いたい?」

 

「……本物なら、それだけ強化された超サイヤ人ブルーになった時点で私では勝負にならなかっただろうってことさ。不愉快なことだがな」

 

 不愉快そうな表情ではあるが魔人ブウは自分とベジットのレベル差をもう一度理解した上で告げる。

 

「もっとも、悪の気とやらを注入されるまでもなく今の孫悟空とベジータが合体したベジットならば、その程度の倍率の気は簡単に纏えるだろうがね」

 

「なんだと……!」

 

 こめかみに筋を浮かばせながら唸る折戸に向かってブウは淡々と告げる。

 

「今のお前と私の力の差を表すなら、神の気を纏う以前ーー私が初めてベジットと戦ったころの。黒髪のベジットと私の差ーー程度だ。その程度の差ならば時の運とやらや戦略でどうとでも覆せる」

 

 邪悪な笑みを浮かべて魔人ブウは告げた。

 

「分かるか? 黒髪のベジットとは勝負になるが超サイヤ人になられれば勝負にすらならなかった。今のお前はあの時の黒髪のベジットと同じなんだよ」

 

 ここで一つ訂正しておくのならば、魔人ブウやセルは神の気を纏い更に腕を上げている。

 

 この世界のベジットは体力をほぼ使い切った状態で黒髪のまま、合体したザマスと互角であった。

 

 つまり合体ザマスの神の気に匹敵する力を魔人は放っており、目の前の折戸修二は合体ザマスよりも上のレベルの気を纏っているということだ。

 

 それを淡々と見上げながらザマスの姿に変身したゴクウブラックは神の力で回復を終えた二人の悟空クローン。

 

 久住史朗こと紅朗と意志を持ったクローン悟空の壱悟を見下ろしたあとで立ち上がった。

 

 セルとの真っ向勝負を繰り広げた紅朗達は、気を失ってから今まで一度も目を覚まさない。

 

「……ザマス。紅朗と壱悟は、まだ目を覚まさないようだが?」

 

 16号が問いかけると、界王神の付き人の服を着た緑色の肌の神ーーザマスが銀色の目を細める。

 

「神の力で傷と体力は癒したが、精神力を完全に消耗しきっているようだ。真の超サイヤ人は確かに強力な力だが、身の丈に余る力を引き出せば身体に爆弾を抱えることになる。短期間で強い敵と戦い過ぎたな」

 

 淡々とした声で語るザマスに21号が膝枕している紅朗の顔を心配げに覗き込む。

 

 そんな彼らの前に二人の21号と同じ姿をした人造魔人が立ち上がってきた。

 

「……まさか、アタシがこんな奴らにやられるなんて!」

 

「おのれ……っ! アタシを、舐めるな……!」

 

 ローフとメント。

 

 そう名乗り始めた人造人間21号の分身達である。

 

 彼女達は、21号を構成する細胞に付属していた過剰な食欲から生み出された悪の人格であった。

 

「ーーフン。本物の21号(きさま)が居るのならば、コイツ等を生かしておく意味もないか」

 

 ザマスが淡々とした声で銀色の光を纏う手刀を作り構える。

 

「私をーーそこで倒れている女を殴れん男と同じと思うなよ?」

 

 本来の21号に膝枕をされている紅朗をちらりと見た後、二人の女魔人を鋭く睨みつける。

 

 これにローフとメントが怯えた表情に変わった。先ほどは、一撃で意識を断たれた。

 

 強力な再生能力を持つ自分達の意識を、だ。

 

「どうなってるのよ、コイツの攻撃は……!」

 

「何故、アタシの再生能力が効かない!?」

 

 牙を剥き出しにして構える二人の21号と同じ姿をした存在にザマスは冷酷な笑みを浮かべる。

 

「当然だ、私という美しき神の前に貴様らのような汚らわしい魔人が敵うはずもない。まして己の再生能力に頼り切って防御をおろそかにする連中など敵にすら値せん」

 

 右手刀から放たれている銀色の煙のような光は、やがてザマスの全身から放たれ始める。

 

 今のローフとメントでは相手にならないというのは、先ほどの戦いで痛いほどに理解していた。

 

「待ってください!」

 

「……? 何故止める?」

 

 本物の21号が止めなければ、ザマスによって完全に意識を断たれた後で消滅させられたであろう。

 

 ローフとメントの方を見ながらザマスが目を細める。

 

「彼女たちの力も必要だと思うんです。今の折戸さんは、非常に危険です。それにセルと対峙している孫悟空さんのクローンも! 戦力は多いに越したことはありません」

 

「……フン。まぁ、利用できるなら利用してやればいい、か」

 

 瞳を細めながらザマスが言うと、銀色の光を解除し構えていた手刀を解く。

 

「だが。油断はするな」

 

「……はい」

 

 16号への応急措置を終えて、彼に紅朗を渡しながら21号は自分の分身たちを見つめる。

 

「……力を貸してもらいます。貴女たちにも」

 

 これに邪悪な笑みを浮かべて桃色がかった白髪をオーラを纏って靡かせ、赤い瞳をギラつかせてローフがイラついた顔に変わる。

 

「調子に乗らないでよね? なんでアタシが、アンタなんかの言いなりにならないとイケないわけ?」

 

 歯ぎしりしながらローフは16号を睨みつけた後で21号を見る。

 

 16号は悲しげにローフを見返すだけで何も言わない。

 

 するとメントが声を上げて来た。

 

「分かったわ、取り敢えずはアンタの言うことを聞いてあげる」

 

 肩を竦めて笑いながら何の気取りもなく応えるメントにローフの眼が見開かれた。

 

「何を言ってるのよ? アタシにコイツの言いなりになれっての?」

 

「少しは考えなさいよ。今、この場で逆らったら怖い怖~い神様に消されちゃうだけよ? それなら、ここは甘ちゃんの言うことを聞いてあのいけ好かない転生者を叩き潰すのに協力すればいいじゃない? コイツ等とは、その後で決着をつければいいのよ」

 

 浅黒い肌に禍々しい斑点を全身に浮かばせた自分と同じ見た目の存在にローフがイラついた顔で睨みつける。

 

「アタシに指図しないでよね?」

 

「……アンタ、状況を理解してる?」

 

 睨み合う二人の女魔人に21号が叫んだ。

 

「止めなさい!!」

 

 二人が彼女を見ると、21号は口調を落ち着けながら続ける。

 

「お互いに言いたいことはあると思います。だけど、ここは言うことを聞いて。今の折戸さんをこのままには出来ません。彼は、私たちが招いたんですから……!」

 

「……フン、いい子ぶっちゃって。そういうトコが気に入らないのよ!!」

 

 ローフが睨みつけながら自分の胸に手を当てて嘲笑してくる。

 

「アタシはアンタ。アンタの本心そのもの! アンタが押さえつけて来たのがアタシよ!!」

 

「……分かって、います」

 

 辛そうに顔を歪ませる21号に目を見開いて笑う。

 

「認めたわね? なら白状しなさいよ!! 自分だって人間をお菓子に変えて食べたかったって言いなさいよ!! 全部、アタシのせいにして逃げたって認めなさい!!」

 

 詰め寄るローフに21号が辛そうな顔をして見返してくる。

 

 笑みを強めるローフだが、もう一人の21号ーーメントが遮って来た。

 

「だからさぁ、無駄なことするの辞めない? 下らないから!」

 

「下らないですって?」

 

「下らないじゃない? その意見をソイツが認めたからなに? どうでもいいわよ」

 

「!! コイツは……っ!!!」

 

 怒り狂うローフの前で冷たく狂った笑みを浮かべるメントが言った。

 

「どうせアンタもソイツも最後はアタシに取り込まれてお終い。だから、無意味」

 

 右手の親指を立てて紫色の舌で舐める。

 

「それなら、今は建設的な話をしましょうよ? 折戸をどうやって狩るか、でしょ? ハッキリ言うけど今のアイツは化け物よ」

 

「……!!」

 

 怒り狂うローフの顔をおかしげに見た後、メントは21号を見つめて来た。

 

「そういう訳だから。アタシはアンタに力を貸してあげるわ、ディーベ」

 

「? ディーベ?」

 

 聞きなれない名前に21号が目を見開くと、メントは続ける。

 

「同じ存在(アタシ)が何人も居るのは面倒でしょ? 21号って言うとこの三人共通の名前だから、それぞれに個別の名前を付けた方がいいっていう、アタシの提案」

 

「……そうですね。分かりました、では私はディーベで」

 

「よろしくね」

 

 にこやかに笑うメントの姿は悪意と嘲笑に満ちている。

 

 ディーベは、彼女の笑顔にうすら寒いものを感じながら頷いた。

 

 話はメントの方が分かるが、ローフと違って共感がまったくできない。

 

 ローフの怒りや苛立ちは自分にはよく分かるが、メントの考え方や感じ方は自分とは明らかに離れている。

 

 彼女は、16号の前まで来ると指先から桃色の光を生み出す。

 

「! 何を!?」

 

「まぁ、見てなさいよ。この力はお菓子に変えて食べるだけじゃないんだから」

 

 そういうと16号に向けて光を放った。

 

 光を浴びた16号は腹に空いた大穴と切断されて破壊された左腕が見る見るうちに再生していく。

 

「これは……!」

 

 目を見開いて完全に復元された体に驚く16号。

 

「! これって!?」

 

「どういうこと?」

 

 ディーベとローフが驚く中、メントが”自分達”に向かって呆れた表情に変わる。

 

「さっきまで囚われていたディーベはともかく、アンタは知らなかったわけ? 呆れちゃうわね」

 

 そう言うメントを睨みつけるローフだが、ザマスが先に口を開いた。

 

「今のは、暗黒魔界の魔術だな。たしか、魔導士ビビディに連なる時間遡行の力だ」

 

 目を細めるザマスにメントが得意げに笑った。

 

「物質を変化させられる魔術っていうのが、アタシのお菓子に変える力。それを応用してこの子の身体を復元させただけよ。もっとも機械でできたこの子の身体を今みたいに完璧に復元させるなら、無から作り上げられるくらいに構造を知らないと復元できないけどね」

 

 ディーベとローフを意味ありげに見比べながらメントは語る。

 

 ローフが不機嫌そうに顔を背ける中、ディーベがメントを見つめた。

 

「あの、ありがとう。16号をーーこの子を戻してくれて」

 

「……ええ。なんてことないわよ? 戻したところで、アタシの邪魔をするなら壊すだけだけどね」

 

「……っ!」

 

 残忍で冷酷な笑みを浮かべるメントを見て、うすら寒いものをディーベは感じている。

 

 能力や記憶は共有している部分もあるが、とても自分と同じ精神から生み出されたものとは思えない。

 

 それでも、と考えなおす。

 

 今の折戸修二とカカロットと名乗った不気味な悟空クローンは、とてつもなく恐ろしい存在にディーベには思えたからだ。

 

ーーーー

 

 ボコボコに殴られて体に力が入らない。

 

 感じるのはーー心の痛み。

 

 ガラス玉のように砕かれたーーあの時の俺の姿。

 

 漆黒の闇の中に意識はある。

 

 助けたと思った少年の言葉に砕かれた俺の夢ーー。だけど、それで終わらない。

 

 夕焼けの紅が射す教室で、誰も居ない教室でアイツは俺に言ってきた。

 

(僕がいじめられたのは、久住くんのせいだーー)

 

ーー は? 何言ってんだ、テメェ?

 

 声が聞こえる。

 

 ムカついて、聞こえただけで胸やけがしそうな声だ。

 

 耳を塞ぎたくて仕方ないのに、聞こえてくる声。

 

 それはーー誰でもない。俺自身の声だ。

 

(最後まで助けてくれないなら、初めから何もしないでよ)

 

ーー 言うじゃねえの? 今まで下向いてばっかりだった弱虫君のくせによ?

 

(……!!)

 

 傷ついたように目を見開く顔も思い出せない少年。

 

 彼に向かって俺の身体はーー口は動いていく。俺の意思に関係なく。

 

ーー テメェがイジメられたのは、俺のせいだと? テメェのせいだろうが! テメェが弱いからイジメられんだろうが? 本気で抵抗してねぇからだろうが? 恐怖に負けて、何にもしてこなかったからだろうが? それを誰かのせいにしてんじゃねえよ。分かったか、甘ったれ!!

 

 思い出す。思い出した。

 

ーー 中途半端に”やめてよ”なんて口で言ってやめてくれる奴なんて、居ねぇよ。自分が見下してた奴に殺されるかもしれないって目に遭って初めてクソどもは舐めるのをやめて逃げんだよ。

 

 俺の言葉だ。他の誰でもない、俺自身の言葉ーー。

 

 心無い言葉を平然と吐く俺に、涙を目尻に滲ませてアイツは言った。

 

(久住くんは強いからね、弱い人の気持ちなんか分からないんだね)

 

ーー ああ、分かりたくもねぇなぁ!! 自分の弱さを他人のせいにするような野郎の言葉なんざ、聞く価値もないぜ!! 転校するって言ってたよな? せいぜい、他の学校でもイジメられないようにビクついてるんだな! ま、一生無理だろうけどな。その腐った根性を叩き直さねぇ限りーーテメェは一生ウジ虫のまんまだ!!!

 

 そしてーー顔を俯かせたアイツを置いて、俺はクラスを出て行った。

 

 アイツは別の学校へ転校していった。

 

 あの時の俺はアイツを恩知らずが、としか思ってなかった。

 

 自分のしたことこそが正しくて、他人のやることは間違いだって何処かで思ってた。

 

「ざまあねぇな。まだ俺は、こんなことを引きずってやがるのか……!」

 

「……紅朗さま」

 

 声にふり返れば、漆黒の闇の中に山吹色の道着に「壱」の文字が左胸に描かれた超サイヤ人孫悟空ーー俺の相棒となってくれた壱悟がいた。

 

「情けねえよな。俺はよ、何も考えちゃいなかった。別に助けようと思って助けたわけじゃない。目の前でバカ面晒して集団で殴ってるやつ、抵抗もしないで殴られてるやつ、それを見るのが気に食わなかった」

 

 この時の俺は、そのことを当たり前としか思わなかった。

 

 弱っちいなら強くなればいい、としか思わなかった。

 

 気に入らないのなら、辞めてほしいのなら、自分が強くなって殴り返すしかない。

 

 言葉なんて通用しない、説得なんてできるわけがない。

 

「ええ、間違っていません。少なくとも私は、そう思います」

 

「ありがとうよ……!」

 

 場面が暗転して変わった先には、小さな白い木箱を白い布で包んだものを壇の上に置いて煙を焚いている小さな和室。

 

 泣き崩れる母親らしき人物と、高校生になった久住史朗少年が呆然と見ている。

 

ーー あの子が、貴方に謝っていました。皆が見て見ぬふりする中で貴方だけが、助けてくれたと。そんな貴方に甘えてしまったと。あの子はずっと、貴方に謝って……!!

 

 救えやしない。

 

 誰も、何も、救えやしないし救われやしない。

 

 遺書になんて書きやがって。

 

 ふざけんなよ、マジで。

 

 俺の中で、顔も覚えちゃいない。

 

 会話なんてまともにした記憶もない。

 

 それなのに、ずっと残りやがってよ。

 

「史朗さま。貴方は、彼が憎いですか? 今も貴方を苦しめる彼が? 自分が無能であると突き付けてくる彼の死が、憎いですか?」

 

 そう言われた時、何故か俺の眼からは涙がこぼれていた。

 

 分からない。

 

 分からないんだ。

 

 俺は、どうすれば良かったんだ?

 

 あの母親は、俺に礼を言いたかったと言っていた。

 

 生前のアイツのことを教えてほしいと言われた。

 

 何も覚えちゃいない、この俺に。

 

 今の今まで忘れていた、この俺に。

 

「孫悟空と同じ身体を手に入れたってよ、孫悟空の力を使えたってよ。この記憶だけは、どうにもならないんだよなぁ」

 

 今の俺はクローン悟空ではない、久住史朗そのものの肉体になっている。

 

 シャツとジャージのズボンを着た、冴えないそのへんの中年だ。

 

 そんな俺を壱悟は変わらずに接してくれる。

 

「あなたに礼を言いたかった、だけなのでしょう。死にゆくものとして一人でも多くの人に覚えておいてほしいと。それが死んでいくものの願いなのかもしれません」

 

「まったく、とんだヤツを助けちまったもんだ。そんな理由で何十年も居付かれちゃ敵わねぇや」

 

「……それでも、あなたは彼を受け入れるのですね」

 

「受け入れるしかねえだろ? もう、今更なかったことにはできねぇよ。ああ、そうだ。そんなことだ」

 

 自分が無能だとは分かっている。

 

 それでも、どっかで悟空に憧れて、自分もなりたいとか思っちまう。

 

 そんな自分に諦めてほしいと思ってるのに、どこかで諦めたくないと思っている。

 

 悟空クローンになれて、悟空と同じ世界に来て、悟空と話せて、壱悟が俺の過去を見てくれた上で思う。

 

 情けねぇよ、俺。

 

 弱っちいよ、俺。

 

 いつまで、俺は弱いまんまだ?

 

 いい加減、うんざりだ。

 

 そう思った時、俺の目の前は急に白い光が見えて世界が一気に広がる。

 

 見えてきたのは、俺の知る日本という国そのものだ。

 

 だが、俺はこの光景を知らない。

 

「なんだ? この景色はどこだ? 山手線か?」

 

 目の前の人物は電車の中に跳び込んでスーツ姿の女を必死に助け出している。

 

 歳は大学生くらいか?

 

 必死に手を伸ばして嫌がる女を線路から引きずり出し、駅員や警察官と共に女を救い出した。

 

 だが、その日は彼にとって大事な大学入試の日だった。

 

 警察官がパトカーに載せて入試会場に青年を連れていくも、試験は既に始まっており途中で入室はできないと断られていた。

 

 警察官が頭を下げているが、彼は呆然と試験会場を見ている。

 

「史朗さま、これは?」

 

「分からねぇ……。どういう記憶だ、これ?」

 

 彼は、警察官二人に家に送ってもらいながら呆然としている。

 

 彼の母親らしきものが玄関先で出迎え、警察官たちは彼の行為をほめたたえる。

 

 どうか、この子の行為を認めてほしいと警察官が言っている。

 

 母親は淡々と頷いて作り笑いで警察官たちを追い払うと、父親にため息交じりで報告していた。

 

 自分の部屋の中にトボトボと入っていく青年。

 

 その日の晩に父親から淡々とリビングで言われていた。

 

ーー お前にどれだけ金を賭けたと思っている? あの程度の大学にも受かれないのか? 見ず知らずの死にたがりを助けて、その結果がこれか? お前が、ここまで出来損ないとは思わなかった。

 

 自分の、子どもになんてことを言いやがる!?

 

 なんだ、コイツは……。

 

 彼は全てに絶望したような表情になっていた。

 

 それまで連絡を取り合っていた同級生との連絡先も全て消され、部屋の中の私物もゴミとして勉強道具以外は全て処理された。

 

 唯一彼に残されたのは、本人も忘れていた制服のポケットの中に入っていたカード。

 

 俺の英雄だったーードラゴンボール孫悟空のカードだった。

 

 そのカードを見つめて両手でカードを持つと彼は涙を流しながら、崩れていた。

 

 家の表札には「折戸」と書かれていた。




次回も、お楽しみに( *´艸`)

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