強さとは何か……!
このシリーズでも、やはり永遠のテーマでしょう。
よろしくお願いいたします(≧▽≦)
真っ黒な空間に俺と壱悟の姿だけが浮き上がっている。
折戸修二。
ヤツの意外な過去とその命を絶つまでの全てを見せられて俺は思う。
アイツと同じ、自分で自分の未来を断ってしまった奴だったんだと。
「……こんなもん見せて、俺に何をしろってんだよ。ったく」
思わずぼやいた俺の横で壱悟が掌を何もない前方に向かって突き出し、青い光の球を練り上げた。
「誰だ、貴様……」
壱悟の言葉に俺が目を向けた先に居たのは、銀髪の髪をオールバックにしてポニーテールに結んだ紫の肌をした丸眼鏡の男。
本当に誰だ?
見たことが無い、ドラゴンボールのキャラなのか?
「はじめまして、久住史朗くん。僕の名前はフュー。様々な世界の可能性を追求しているもので、折戸君の友人でもある」
折戸の友人だと……?
「……ということは、テメエが折戸にクローン悟空を作らせたり悪の21号を生み出させた張本人か!!」
拳を握って構える俺、だが自分の拳を見て気付く。
あれ?
俺ってばクローン悟空の身体じゃなくて普通の人間ーー日本人の久住史朗に戻っちまってる?
ヤバいぞ、今は……!
と焦る俺の横で壱悟が構えて居る。
闇の空間の中、フューは右手に何かを取り出す。
それは俺がブルマから貰った衣装チェンジの腕輪型ベルトだった。
「て、てめ……! それは俺の!?」
ニコリとしながら笑みを浮かべてフューは告げる。
「此処は君の精神の世界。今、君が見ていたのは折戸君の過去……! 君にお願いがあるんだ」
「……お願い、だって?」
「ああ。僕はね、折戸君を本当に友達だと思っているんだ。彼の方は僕を利用しているつもりだけど、僕は彼が救われる世界が見たい」
微笑みながら言うフューの言葉は、胡散臭くはあるが本音だという感じがする。
救われる世界、か。
確かにあんな過去じゃ救われたいよな。
「……なぁ、折戸の親父は死んだアイツに何て言ったんだ?」
「それは、聞かない方がいい」
静かではあるが明らかな怒りを持ってフューは、そう言った。
俺は思わず胸を手で押さえてた。
「……そうかよ。なんで、そんな人間が子どもなんか作るんだ……! 自分の子どもを道具にしか思えないような人間が……!!」
思わずつぶやく俺にフューは複雑そうな表情で言ってきた。
「そうだね。でも、そういう人間も居るということさ。子どもを殺すことを平然とできる人間は、獣以下の種族だからね」
その言葉に俺は思わずうなずいていた。
でも、だからって。
「でもよ、だから折戸が許されることはないぜ? この世界でアイツがしたことは俺は許せない」
「うん、君ならそう言うと思っていたよ……。だからこそ、君なら救えると思うんだ。同じ世界から来てーー彼と同じくらい孫悟空に憧れた君なら、折戸君を」
救えるって……!
「バカ言うなよ、俺は悟空じゃない。悟空みたいに人を救うなんてできっこない。俺にできるのは殴り飛ばすくらいだ」
「そうかい? でも君が殴り飛ばした人たちは今も生きているんだろ? おまけに殴り飛ばしたことによって救われた人も居る」
壱悟が構えを解いて俺の方を見る。
フューは敵対する意思はないみたいだった。
「なあ、アイツ。悟空に憧れてたんだよな?」
「うん、ドラゴンボールの世界に来てクローン悟空の肉体を手に入れようとしたのも純粋に孫悟空になりたかったんだと思うよ」
俺は闇の中で空を見上げる。
闇しかない。
下も前も横も後ろも闇だけだ。
それでも、俺は上を向く。
そうかぁ、アイツも悟空が好きなんだなぁ。
「……気持ちは、よく分かるよ。ホントに」
「うん。だから君を選んだ」
そうかよ、つまりは……!
「テメエが! 俺を、此処に呼んだ張本人か!!」
考える前に拳を繰り出していた。
この野郎こそが、俺を此処に招いた張本人なら、殴らない理由はない!!
だが、クローン悟空の肉体なら光のように速かった拳も、普通の人間の拳なら大した速さにはならない。
それでもフューはまともに俺の拳を食らった。
鈍い音がしてフューは後方に顔をのけ反らせる。
「……罪滅ぼしのつもりかよ? 見え見えの拳をまともに喰らいやがって」
「そんなつもりはないよ。僕は、知りたいことを優先しただけだ。そして友達を助けたいから君を利用するためにこの世界に喚(よ)んだ。そのことには間違いはない。でも、君が僕を殴る気持ちも間違ってない」
「……変な野郎だ」
そう呟いた俺をニコリと見返してフューは言った。
「そうかい? 君も、たいがい変わっているけどね」
そういうと俺にブルマから貰った腕輪を投げて来た。
俺は両手でキャッチすると左腕に腕時計の要領で着ける。
「久住史朗くん、君に折戸君を救ってもらうには君自身が強くならないといけない。悪いけど、此処で修行してもらうよ」
「……修行だって?」
すると俺の右手に元の世界で折戸が持っていた超サイヤ人孫悟空のカードが現れた。
「これは……!」
そのカードからは力を感じた。
とてつもない力を……!
「そのカードを腕の変身ベルトにかざしてみてよ」
「……! まさか」
そう思いながら、俺はベルトの時計が本来なら付いているカプセルコーポレーションのマークが描かれたディスプレイの前にかざすとカードが光の粒子に変わって俺の身体に纏わりついてーー超サイヤ人孫悟空そのものに変身していた。
「紅」一文字を胸と背に書かれた山吹色の道着にクローン悟空の肉体を持った久住史朗ーー紅朗へと変わっている。
「……最初から超サイヤ人になれるとはね」
力を込めたわけでも気合を入れたわけでもない。
カードを腕にかざしただけで超サイヤ人へと変身した状態の紅朗になれる、か。
壱悟がコクリと頷いてフューを見る。
「まずは、君にそのベルトとカードの使い方を学んでもらうよ?」
腰の刀を抜き放ってヤツは俺に言った。
と同時に目の前にヤツが迫る。
咄嗟に左腕を上げて手首のベルトに気を集中させて刃を止める。
右ストレートを返すと、ヤツは首を横にひねって躱す。
フューの右の膝が腹に向かって返されるのを左掌で止めてヤツの金の瞳を睨みつけながら、俺は拳と蹴りを連撃で放つ。
フューも俺に拳と蹴りを返しながら告げた。
「さすがだね、孫悟空の肉体を君は既に使いこなしている。そのセンス、素晴らしいよ」
「そいつは、どうも!!」
言葉を返しながら俺は気合を入れて超サイヤ人2に変身する。
右拳を握り、こちらに向かって振り下ろされる刃に向けて放つ。
強烈な衝撃波が闇の世界に響き渡り、フューを弾き飛ばす。
「さすがだね、でも孫悟空だけじゃ僕には勝てない」
言うと同時、ヤツは刀に赤とも紫とも付かない光を纏わせると空間に「ⅨⅠ」という文字を描いで俺に気弾のように放ってきた。
大した威力の無い気弾だからこそ、俺は左腕に気を纏って払いのける。
瞬間、俺の超サイヤ人2のエネルギーがかき消され、クローン悟空の姿に戻る。
「なんだと!?」
目を見開く俺の目の前にフューは現れて俺の顎を蹴り飛ばした。
強烈な一撃に目がクラクラしながら後方へ吹き飛ぶ俺の身体を後ろから掴み止める壱悟が居た。
「本物の孫悟空なら、今の技を避けると思うよ。つまり、どれだけ君が孫悟空と同じ力と身体を使えたとしてもオリジナルには及ばない。それが経験でありセンスだ」
「……ああ、そうだな」
素直に認めよう。
この男の言葉は、俺を強くしようとしている言葉だ。
「それを埋めるには、君の能力しかない」
フューの言葉と同時に俺の目の前に三枚のカードが現れる。
天津飯、ヤムチャ、クリリンのカードだ。
「……俺にクローンを取り込ませたのは、お前か」
「うん、そうだよ。魔人の細胞を使ってクローン達にあらゆる姿へ変身させる可能性を見せた。そして、それぞれの姿でデータを入力して活動させ動きを経験させる。それを全て取り込んだ今の君は、本物の戦士達と同じように自分の身体として他の戦士の肉体に変身して使いこなすことが出来る」
フューの言葉を聞きながら、俺はヤムチャのカードをベルトにかざして変身する。
俺の姿はヤムチャそのものへと変身した。
クローンヤムチャではない、本物のヤムチャと同じ姿に。
クローン悟空の肉体よりも遥かに鍛え上げられた力をヤムチャの肉体に変身した今、感じる。
そして理屈でなく感じる。
このカードとベルトの力と可能性を。
「……壱悟、悪いがちょっと下がっててくれ」
「はい、そのつもりです」
二ッと笑ってくる相棒にニヤリと返しながら俺は笑う。
いいじゃないか。
最高だ、このベルトとカードがあれば俺は憧れたZ戦士にもなれるんだからな。
使いこなしてやる、この体と能力を……!
「そんで……! テメエらに一泡ふかせてやらぁ!!」
ヤムチャの両の手に青い気を凝縮させて本物の牙のように鋭くさせる連撃ーー狼牙風々拳を放ちながら、俺は叫ぶ。
悟空に勝てないのは知ってる、ヤムチャは俺なんかよりずっと凄い。
そんな憧れの連中と同じ力と技と姿になれるなら、俺は今、負けるわけには行かないんだ!!
「ハイヤァアアア!!」
ヤムチャの嵐そのものとも言える連撃を捌きながら後方へ下がるフューだが、明らかに表情に余裕が無くなっている。
距離を置いて逃げようとするフューの前に俺の右手には天津飯のカードが握られている。
ベルトに交差させると光の粒子へとカードが変わって俺を天津飯に変身させる。
本物と変わらない緑の袈裟道着を着た天津飯の姿になった俺は、両手を◇にして顔の前に構えると金色の気を掌に凝縮させる。
「気功砲!!」
強烈な一撃は、一瞬で闇の空間を◇に削る。
サイドに高速移動して避けたフューを三つの眼で追いかけると切り込んできたフューに拳と蹴りを打ちこんで迎え撃つ。
「……想定通りとはいえ、こんなにあっさりと僕の攻撃を止められるなんてね」
「今更、後悔しても遅いぜ!!」
僅かな間隙を縫って俺はクリリンのカードを右手に握ってベルトに交差させている。
光の粒子を纏ってクリリンに変身すると、白い気を纏って一気に開放する。
「!!」
気を一気に爆発させて開放することは、クリリンなら容易い。
悟空よりもクリリンは、気を扱う才能に長けている。
リーチの差を補って余りある突進で一気に踏み込むと、拳と蹴りを叩きつける。
咄嗟に両腕をクロスさせてガードするフューだが、遅い。
左足で顎を跳ね上げる。
「気円斬!!」
左手を天に向けてかざし、円盤型にした気の刃を練り上げるとそれをフューに向かって放つ。
回転するのこぎりのように円盤はフューに向かって一気に距離を詰める。
瞬間、フューが刀を振り払って斬撃で気円斬を斬り捨てるーーその真上に俺は移動速度の速さでヤムチャに変身して現れるとかめはめ波を放った。
「……しま!!」
刀を振り切った姿勢のフューは青い光線の向こうへと消えて行く。
手応え、在り。
気を緩めると光の粒子が身体から弾けてヤムチャの変身が解けクローン悟空ーー紅朗の姿へと戻る。
「便利なもんだ、こりゃ」
思わずあきれた俺に向かって煙の向こうからフューが現れる。
「僕のヒーローズライセンスカードは、上手くいったようだね」
瞬間、俺に向かってフューがカードを投げて来た。
掴み止めた俺が見たのは、ベジータ、ナッパ、ピッコロ、フリーザ、完全体セル、純粋ブウ、青年悟飯、未来トランクス、ナッパ、ギニュー特戦隊、といった中々訳の分からないメンツのカードだった。
そのカードたちは光の粒子に変化すると俺の左掌にあった緑の宝石の中に吸い込まれていった。
どうやっても取れなかった緑の宝石は左腕のベルトのカプセルコーポレーションのマークに取り込まれて消える。
「…やっとこ、左掌の石が消えてくれたか」
ホッと一息ついた俺にフューはニコリと笑みを返すと次の瞬間、闇の空間を斬りつけた。
そこから赤紫色の光の裂け目が出来て一人の人間が現れる。
それは灰色の道着に赤いインナー、胸と背に悟マークが入った孫悟空のクローンそのものだ。
俺と壱悟と同じ肌の色にくすんだ金の髪だが、そいつは金色の気を纏って超サイヤ人へと変身する。
明るい金髪に翡翠の瞳、透き通るように輝く白い肌を持ったクローン悟空は俺をニヤリと見て笑う。
「ようーー「俺」」
「……な、に?」
思わず、そんな間の抜けたことしか言えなかった。
だが、感覚で分かる。
コイツは……俺、か?
「そうだ、オレはお前さ。久住史朗!!」
瞬間、そいつは黄金の炎を纏って翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳に変わる。
金髪が黄金に燃える炎のような激しい色に変わる。
「て、テメェ……! その姿は真・超サイヤ人……!!」
だが、俺の知っている姿とは少し違う。
ヤツの耳は大猿のようにとがり、牙が生え、目の白い部分(角膜)が真っ赤に染まっている。
「……! なんだってんだ、この化け物は!?」
「お前だよ、久住史朗。オレはお前そのもの、さ!!」
凶気を纏ったオレに俺は、咄嗟に右腕をガードに上げて拳を受け止める。
強烈な一撃に受けた腕から肩に衝撃が貫いて、ガードが跳ね上がった。
「な、んだと!?」
追撃で放たれる拳に俺は超サイヤ人へと変身して今度こそ掴み止める。
「…っテメェ!!」
「ふん、それで止めたつもりかよ……!」
気が一気に爆発して黄金の炎を巻き上げるとオレのパワーが跳ね上がった。
掴み止めた拳がそのまま、押し込まれていく。
「……! のやろう!!」
超サイヤ人2に咄嗟に変身してヤツの気の上昇よりも一瞬で上回り、蹴りを叩き込む。
後方へはじけ飛ぶヤツに、俺は気功波を叩き込んだ。
光弾は見事にヤツを闇の空間の後方へはじき飛ばす。
しかし、次の瞬間には超サイヤ人2の俺の気を上回る気を放出しながら突っ込んでくるヤツが居る。
「うおらぁああああ!!」
「なめんなぁあああ!!」
雄たけびを上げて拳を繰り出すヤツに向かって俺も超サイヤ人2のフルパワーを引き出しながら拳を叩きつける。
拳と蹴りを叩きつけながら互いに交互に顔を後方へのけ反らせる。
コイツ、マジで強いじゃねぇか?
ホントに俺なのかよ!?
「ククク! 殺してやるぜ!!」
おまけにとんでもない殺意じゃねぇかよ。
拳を殺す気で振り抜いてきやがるーーそっくりだ。
昔の俺、そのもの……!
真・超サイヤ人だかなんだか知らないが、こういう阿呆は俺そのものだと理解できた。
殴りつければ付ける程、蹴り飛ばせば蹴り飛ばすほどにパワーとスピードが跳ね上がって気が爆発的に増えていく。
これが真・超サイヤ人……か。
伝説の超サイヤ人ブロリーと悟空達の戦いを思い出すぜ。
「でもよ……! 悟空の姿で化け物になりやがって……! 俺の英雄を汚すんじゃねぇよ、この化け物がああああ!!」
超サイヤ人3に変身する。
俺の変身を見て、ニヤリと笑うオレ。
そして拳を握りしめる。
「テメェじゃオレには勝てねぇ。思い知れや、俺!!」
「何をわけわからんことを……! 調子に乗ってんじゃねえよ!!」
同時に空間から消えて高速移動でぶつかる俺とオレ。
まともにぶつかった拳は一方的に俺がヤツの拳を吹き飛ばした。
超サイヤ人3のパワーとスピードで一気にヤツを追い詰める。
どうやらヤツは通常の超サイヤ人の状態からのパワーアップしかできないようだ。
なら、超サイヤ人2を少し上回ったくらいの今の奴になら、超サイヤ人3のフルパワーで勝てる。
短期決戦で一気に決着をつける!!
「いくぞぉおおおお!!」
真・超サイヤ人に何故か変身できないが、んなこたぁどうでもいい。
このまま一気に潰す!!
左拳を振りかぶって殴りかかる俺を、ヤツは焦った表情になって上空に避ける。
「かめはめ……!」
瞬間、青白い光線を練り上げてフルパワーで放つ。
くらえ!!
「波ぁああああああ!!」
野太い光線がヤツに迫る。
瞬間、ヤツは焦った表情から一転してニヤリと笑うとまともに光線を浴びた。
強烈な一撃は、爆発せずに青白い光球になってヤツの周囲に纏わると黄金の炎がそれを食らう様に爆発して一気に気を上げる。
「な、にぃい!? 超サイヤ人3のフルパワーかめはめ波を、パワーアップに利用しやがった……!」
吸収し切ったっていうのか!?
あの、とんでもないパワーを!?
「分からないやつだな、久住史朗。お前が、どれだけ変身しようが真・超サイヤ人に至れないお前じゃオレには勝てないってのがよ」
「……! なめやがって……!」
だが、俺の変身はすぐに切れる。
超サイヤ人3のフルパワーは、体力を一気に持っていく。
辛うじて超サイヤ人の状態は保っていたが、これはキツイ。
気と体力が充実するまでは超サイヤ人3に変身できない。
「……! くそ!!」
咄嗟に引いたカードはセル。
「やるしかねぇ!!」
腕輪にカードをクロスさせ、俺の身体は完全体のセルに変身する。
超サイヤ人3には劣るが、それでも青いスパークが走る金色の気は頼もしい。
それにセルなら、あらゆる戦士の技が使える。
コイツなら技の組み立てで一々、他の戦士に変身する必要もないはずだ。
「……そうかな?」
強烈なダッシュからの一撃を受け止め、拳を振りかぶって返す。
だが、スピードもパワーも圧倒的な今のヤツにはまるで、通用しない。
全ての攻撃を紙一重で捌かれて、反対に強烈な一撃を腹にくらい下がった顔に左右の拳を叩き込まれて後ろ回し蹴りで吹き飛ばされる。
後方へ吹き飛ぶ俺の背後に高速移動で現れたヤツに俺は背中を思い切り殴りつけられて闇の空間の下方へと吹き飛ばされていく。
一瞬でカードの効果が切れて、紅朗の姿へと戻っちまう。
「ぐ・・・が・・・」
立ち上がろうにも、余りの一撃に身体が言うことを聞かない。
これは、やばいな……!
本気で死ぬかもしれねぇ。
他ならない、自分自身に殺されちまうってのは、気に食わねぇ……!
それでも身体が言うことを聞かない。
「久住史朗くん、君はーー彼を死なせてしまった。そう思っているみたいだけど、君の選択が間違っていたかどうかは誰にも分からない」
そんな俺の耳にフューの声が届く。
壱悟が俺を案ずる声が聞こえるが、それよりもフューの声が響いてくる。
「君に、見せたいものがある」
そう言って、俺の目の前にはーーあの時の夕暮れの校舎があった。
ーーーー
見開いた俺の目の前には、二人の学生服を着た子どもが向かい合っている。
「……! これは、俺の過去……!?」
そんな俺の前で、過去の俺とアイツが記憶そのままの会話をしている。
「僕が、いじめられたのは久住君のせいだ!! 君があの時、助けたから、僕は君の見てないところで見えないようにずっといじめられていた!! この身体の傷をみてよ!! これで、君は助けたって言うのか!!? 最後まで助けるつもりが無いなら、初めから手を出さないでよ!! 期待させないでよ!!!」
「言うじゃねえの? 今まで下向いてばっかりだった弱虫君のくせによ?」
「……!!」
傷ついたように目を見開く顔も思い出せなかったアイツの顔がハッキリと見える。
彼に向かってガキの頃の俺が言った。
「そもそも何を勘違いしてんだ、テメエは。俺はテメエを助けてなんかいねえ。寄ってたかって一人を殴りつける行為がムカついたから殴った、それだけだ。それと同じくらい刃向かわない奴も大嫌いだがな」
そのままガキの頃の俺はアイツを睨みつけていた。
「テメェがイジメられたのは、俺のせいだと? テメェのせいだろうが! テメェが弱いからイジメられんだろうが? 本気で抵抗してねぇからだろうが? 恐怖に負けて、何にもしてこなかったからだろうが? それを誰かのせいにしてんじゃねえよ。分かったか、甘ったれ!!」
ああ、そうだ。
そう言って俺はアイツを傷つけたんだ。
「中途半端に”やめてよ”なんて口で言ってやめてくれる奴なんて、居ねぇよ。自分が見下してた奴に殺されるかもしれないって目に遭って初めてクソどもは舐めるのをやめて逃げんだよ」
俺の言葉だ。
他の誰でもない、俺自身の逃げられない言葉ーー。
心無い言葉を平然と吐く俺に、涙を目尻に滲ませてアイツは言った。
「久住くんは強いからね、弱い人の気持ちなんか分からないんだね」
「ああ、分かりたくもねぇなぁ!! 自分の弱さを他人のせいにするような野郎の言葉なんざ、聞く価値もないぜ!! 来月から転校するって言ってたよな? せいぜい、他の学校でもイジメられないようにビクついてるんだな! ま、一生無理だろうけどな。その腐った根性を叩き直さねぇ限りーーテメェは一生ウジ虫のまんまだ!!!」
そう言ってガキの頃の俺はアイツに背を向けて手を挙げる。
「じゃあな。わざわざ、呼びつけて恨み言言ってくれてありがとうよ。テメエは」
そしてーー顔を俯かせたアイツを置いて、俺はクラスを出て行こうとした。
「……分かってるよ」
「あ……?」
振り返る過去の俺に向かってアイツは叫んだ。
「そんなことは、分かってるってんだよ!! うわぁああああ!!」
そして拳を振りかぶって俺に殴りかかって来た。
過去の俺は、それを驚いた表情で目を見開きながら受け入れた。
まともに拳を顔面に入れられ、後方へ倒れる。
「……え?」
殴ってキョトンとするアイツに過去の俺はニヤリと笑いかけている。
「できんじゃねえかよ、バァカ」
「……え? 久住君、僕……!」
俺が目を見開く中で過去の俺は殴られた頬をさすりながら言った。
「それができるなら、別の学校でも大丈夫だ。自信持てよ、お前ならやれる」
「ほ、ほんと? 僕、できるかなぁ?」
「ああ、もしなんかあっても言って来いよ。俺がお前をボコしたヤツをボコボコにしてやっから」
ニヤリと笑ってる俺を、アイツは涙を流して大泣きしている。
それを俺は慌ててなだめている。
ーーーー
この……記憶は……!
それから数ヶ月、連絡は一切なかった。
上手くやっているんだろうかとは思ったが、あそこまで言ったんだ。
必ず俺に助けを求めに来るだろう。
そう思って……、ずっと待っていた。
「……なんで、こんなものを見せやがる……!!」
忘れていた俺を責めるような、この記憶は……!!
目の前に立っている黄金の炎を纏った鬼(バケモノ)の眼から血の涙が流れている。
俺と同じように……!
ーーーー
「誰も、お参りに来てくれなくて。ありがとう、久住君。あの子があなたのことをずっと褒めていました」
小さなアパートの一室で、小さな遺骨を抱えて喪服を着た中年の女性が俺の顔を見ている。
俺は、拳を握って写真の中にいるアイツに言った。
「馬鹿野郎がぁああああ!! なんでだ、なんで、助けを求めなかった!? なんで言ってくれなかったんだよぉ!? 今度こそ、助けるって約束したじゃねぇか!! なんでだ!!!?」
叫ぶ俺を見て涙を流している喪服の女性は、俺に言った。
「久住君のようになりたいって、ずっと言ってました。あの子は、貴方みたいに誰かいじめられている子を助けたいって……! そう言ってあの子は……!!」
「……!!」
「貴方にごめんなさいと、ずっと……!」
その後の過去の俺は、鬼のような形相になってアイツの学校に行った。
アイツが、不良にいじめられたのは、別の誰かがいじめられていたのを助けようとしたからだった。
それを誰も助けなかった。
助けられたやつも、何もしなかった。
「ふざけんなよ……! テメエらがガキだから許されるって言うんなら、同じ餓鬼の俺が!! テメエらを裁いてやらぁあああああ!!!」
手当たり次第に殴り散らかした。
警察を呼ばれ、大の大人に数人がかりで抑え込まれるまで俺は暴れ続けた。
電車で一時間はかかる町の高校で俺は、ありとあらゆる暴言を吐きながら喚き散らし自分の血と返り血で真っ赤に染まって黒い学生服が血を吸って黒く黒く光っていた。
警察の厄介になり、親を呼ばれ、器物破損罪やらなんやらで親を巻き込んでしまった。
親父は、そんな俺に一言だけ告げた。
「そんなことで、あの子のかたき討ちをしたつもりか? 下らんわ」
それから、俺は気に入らないヤツは容赦なく殴りつける男に変わった。
ーーーー
「どうしようもない男だ、俺は」
笑っちまう。
こんな、どうしようもない男を信じてアイツは……!
そんな俺に向かってフューの声が響いてくる。
「それじゃあ、こういうのはどうかな?」
そう言って、俺の目の前にあの頃の世界が広がる。
いじめられている子を助けるアイツ。
いじめられていた子を守るために勇気を振り絞ったアイツを過去の俺が、守っていた。
「久住君、どうして……!」
「気になってよ。2カ月も何も言ってこないからこっちから会いに来たってわけさ。さあ、俺たちで潰してやろうぜ!!」
その姿は、まるで俺が憧れたーー俺がなりたかった孫悟空のような英雄の姿へとなった俺だった。
これはーー!!
「君と彼には、こういう可能性もあったんだよ。今の君の歳まで彼も居て笑い合っている、そういう未来もあったんだ……!」
その俺とアイツの姿は、救われていた。
笑顔で安い缶ビール片手に愚痴を言い合っている。
「……どうだい? こういう未来を見ても君は、君たちは自分が認められないかい?」
倒れ伏した俺と、黄金の炎を纏った鬼(バケモノ)に向かってフューは問いかける。
それを壱悟が静かに見据えている。
ああ、そうか。
俺には、こういう未来もあったんだな……!
でも、今の俺は見せられた俺じゃない。
立ち上がる。
腕ベルトのボタンを押すと俺の姿は紅朗から久住史朗へと戻った。
その状態でーー生身の状態で俺は目の前の真・超サイヤ人に向き合う。
「……貴様……!!」
「おい、くそ馬鹿野郎。今からテメエを思い切り殴る。覚悟しとけ」
「舐めるな、ただの久住史朗の貴様が、真・超サイヤ人に勝てるわけないだろうがぁああああ!!」
強烈な気を放つバケモノに向かって俺は、ゆっくりと駆ける。
壱悟が、俺を止めようと手を伸ばすがそれよりも速く、俺は踏み込んでいた。
「な、にぃいい!!?」
「俺は、とっくに知っていたんだよ」
腹を思い切り打ち貫いて俺は呟く。
「本当に強いのは、アイツみたいなヤツだってな」
瞬間、俺の身体を黄金の炎が燃やす。
山吹色の道着を着た紅朗の姿へと戻ったと思った時には、俺は真・超サイヤ人に変身していた。
腹を打ち貫かれたバケモノは、そんな俺の姿を見てーー。
「……なんだよ。できるじゃねぇか……! なら、後は大丈夫だよなぁ。俺よぉ」
「ああ……! 任せとけ、今度は必ず助けてみせるぜ!!」
バケモノの仮面が割れて、鏡のように紅朗の姿へと変わったオレに向かって俺が告げる。
すると、ヤツは満足そうな笑顔をして俺の腹の中に光の球と化して取り込まれていった。
瞬間、俺の力が爆発的に上がったのを俺自身が感じる。
「うん、この力なら大丈夫だね……! 久住史朗くん、折戸君を頼んだよ」
その声を聴きながら俺は闇の空間の中で意識の浮上を感じていた。
壱悟と共に俺は、現実の世界へと戻る。
今度こそーー強い奴になるために。
次回もお楽しみに!(^^)!