ドラゴンボールFZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

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大変長らくお待たせいたしました。

取り敢えず、紅朗対折戸、完結です。


第34話 悟空、俺はアンタの代わりになる!!

 自分の中の精神と時の部屋みたいな空間で修行を終えた俺は、ゆっくりと眼を開けた。

 

 立ち上がった俺の身体は悟空クローン紅朗の身体じゃない。

 

 元の世界の久住史郎の肉体だった。

 

 ただ左腕にカプセルコーポレーション製の腕輪型ベルトが付いている。

 

 此処に居る者たちは彼の気を感じ、正体を察する。

 

 彼が紅朗と名乗っていた異世界人だと。

 

 唯一、見た目で彼の正体を理解したのは折戸修二だけだった。

 

「日本人…? まさか、アンタ」

 

 呟いた超サイヤ人ブルー悟空の姿をした折戸に向かって不敵な笑みを浮かべ、日本人は右腕のベルトに悟空のカードを読み込ませると掲げた。

 

「変身!!」

 

 瞬間、日本人は紅朗という悟空クローンの姿になると半透明の黒髪の悟空が彼の横に現れて一つになる。

 

 「紅」の文字が左胸と背中に入った山吹色の道着。

 

 彼はクローンではない。

 

 左右非対称に跳ねた黒髪の地球育ちのサイヤ人ーー孫悟空そのものになっていた。

 

 腕時計型の変身ベルトを左手のバンテージの代わりに付けていること以外、本物と変わらない。

 

「…これは、リンクシステム? リンク率をMAXにしたのか? でも、いくらリンク率を上げてもクローンの身体が本物の悟空になるなんて、そんな馬鹿な!?」

 

 自分がどれだけ強化しても裏技を使っても。

 

 一向にクローンからオリジナルには変身できなかった。

 

 当たり前だ。

 

 原作ゲームと違い自分や目の前の男は本物とリンクしていないのだから。

 

 あくまでクローンの身体を使って闘っていたのだから。

 

「…なに驚いてんだ? オメエの知ってるリンクシステムっちゅうやつだろ? 折戸」

 

「…悟空…? この声、本物なのか?」

 

「へっ! オラ、孫悟空だ!! 久住史郎の記憶もあっけどな?」

 

 この現象にザマスが目を細める。

 

「本物の孫悟空……だと? 信じられんが、声だけではない。気も何もかも孫悟空そのものだ」

 

 ベジットクローンやゴジータクローンと対峙していたオリジナルのセルとブウもまた、孫悟空の存在に気付いている。

 

「どういうことだ? 紅朗が、孫悟空そのものになっているーーだと?」

 

「本物の孫悟空に変身した、というのか? 紛い物のクローンから? バカな!!」

 

 超サイヤ人ブルーベジットクローンの折戸が目を細めていた。

 

「リンクシステムの限界を超えた? あのオッサン、本物の悟空の体と心を完全にリンクしているっていうのか?」

 

 超サイヤ人ブルーの孫悟空クローンの折戸が構えを取り蒼銀の炎のようなオーラを纏う。

 

「本物の悟空と言っても、あくまで黒髪の悟空だ。超サイヤ人ブルーの俺には勝てない!!」

 

「……どうかな? やってみなけりゃ分からねぇ」

 

 孫悟空そのものに変身した紅朗もまた左手を顔の前に右拳を腰に置き、膝を曲げてつま先立ちになる。

 

 後屈立ちと呼ばれる空手の構えに似て非なる孫悟空そのものの構えだった。

 

(……本物だ!)

 

 その構えを見ただけでザマスは理解した。

 

 目の前にいる男は孫悟空そのものだと。

 

 瞬間、折戸と紅朗が同時に姿を消す。

 

 鈍い音が鳴り響いて二人の影が重なって現れる。

 

 折戸の右拳は空を切り、腹に叩き込まれている。

 

「ぐ……!?」

 

「へへっ、まず一発だ」

 

 打たれた腹を抑えながら後ろに下がる折戸のクローン悟空。

 

 対する紅朗の変身した黒髪の孫悟空は不敵な笑みを浮かべている。

 

(なんだ、コイツ? なんでダメージが通ってる!? 今の俺は悪の気で強化された超サイヤ人ブルーのはずだぞ!? いくらオッサンがリンクを使いこなしていても、オリジナルの悟空そのものであったとしても、21号の波動の影響を受けていないクローン戦士だ。戦闘力差は原作そのものになる。格闘ゲームのような性能差にはならない)

 

 本来、超サイヤ人ブルーと黒髪のサイヤ人の身体能力の差は語るまでも無い。

 

 勝負にすらならないはずだった。

 

 だが格闘ゲームの法則が用いられていないとしたら今の自分の状態はーーどう説明する?

 

 黒髪の悟空になった中年の日本人男性に完全に押されている今の自分を?

 

「折戸よぉ?」

 

 その表情と声は久住史朗のものだった。

 

「お前は、黒髪の悟空がどれだけ強いのか知らねえのか?」

 

「なに……?」

 

「ただ、信じりゃいいのさ。孫悟空をーー地球育ちのサイヤ人を。その強さと優しさを」

 

 瞬間、折戸修二の頭に構図が浮かび上がる。

 

 自分が向かい合うのはゲーム機の筐体。

 

 自分の手元には様々なカードがあり、台の上には超サイヤ人ブルーの悟空クローンのカードが置かれている。

 

 正面には黒髪の悟空、その向こう側に本来見えるはずの無い男の気配がする。

 

(なんだ……? これは、ドラゴンボールヒーローズの筐体!? なんで、俺の前に現れるんだ? まさか、対戦しているっていうのか? 俺は、この悟空の使い手と!?)

 

 その思考を肯定するように手元にはベジットブルー、ゴジータブルー、シャノア、ブルマ(少女期)のカードが並べられている。

 

 自分が一番得意なトレーディングカードゲーム「ドラゴンボールヒーローズ」そのものの画面が目の前に展開されている。

 

 相手のヒットポイントや戦闘力数値は不明だが、自分の数値は叩き出されている。

 

 アタックゾーン、ディフェンスゾーン、ゲームの言葉や名称が次々と頭に浮かんでは消える。

 

「どうした? かかってこいよ」

 

 自分の攻撃が届く範囲(アタックゾーン)が赤、届かない範囲(ディフェンスゾーン)が青で地面や空間に色分けがされている。

 

 ディフェンスゾーンならば攻撃が当たらないから気の回復に集中できるし、アタックゾーンならば相手に攻撃を仕掛けられる。

 

「ハッ! ちょっと悟空と同じ格好になってるからっていい気になりやがって! アンタはただの日本人だろうが!」

 

「そりゃ、お前もだ。だから教えてやるよ。俺たちは『ただの日本人だ』ってな」

 

 攻撃が当たる範囲と当たらない範囲を瞬時に視界に色分けされているのだから、この色に合わせて足を運べば相手の攻撃は当たらない。

 

 案の定、紅朗の攻撃が紙一重で目の前を通り過ぎ、こちらの攻撃が相手に届く。

 

 如何に強力な拳も蹴りも、当たらなければ問題ない。

 

 紅朗には見えていない、自分だけの世界だ。

 

 自分の攻撃だけが当たる距離、位置を折戸は見ただけで理解できる。

 

「悟空の身体に、このスキルがあれば俺は無敵だ!!」

 

 立ち合い始めてすぐに分かる。

 

 相手の身体を自分の位置を見れば攻撃も防御も躱せる手段も全て理解でき、身体は思考についていける。

 

(いける! 勝てる!!)

 

 そう思っていた矢先、自分が見ている相手の色が目まぐるしい勢いで赤から青に、青から赤に変わる。

 

 赤なら当てれる、青なら避ける。

 

 そう分かっていた折戸だが目まぐるしく変化する相手の色に反応が遅れ、タイミングがずれ始めている。

 

 紅朗の動きが変わっているのだ。

 

 攻撃をしながら脚(スタンス)の位置を変えてくる。

 

 格闘ゲームやカードゲームには法則がある。

 

 攻撃も気功波も、決まったフォームからしか出せず、予備動作が必ずあり、移動と攻撃もしくは防御は同時にはできない。

 

 これは現実の世界でも、ほとんど当てはまる。

 

 しかし次元の違う動きをする者が現実には居る。

 

 セオリーを無視する動き、攻撃と移動と防御を兼ねた動き、型にはまらない動き。

 

 そしてドラゴンボールという世界は、最も多彩な動きができる人間が寄り集まった世界である。

 

 つまりーー。

 

(予測して回避することも、動きをみてから避けることも、ある程度まで。其処から先は自分の実力が足りなければーー)

 

 それを認識した時には、凄まじい衝撃とともに折戸の顔に拳が叩き込まれ首を大きく後方へねじ切らせていた。

 

「ふざけんな! こんなーーこんなことで負けるかぁああ!!」

 

 拳を握り殴り返す折戸。

 

 その悟空の動きを模倣した速さと拳と蹴りは、十二分に相手を叩きのめせるものだ。

 

 これに紅朗はニヤリと笑みを浮かべて踏み込んだ。

 

 お互いに拳と拳、蹴りと蹴りが交差する。

 

 交互にのけ反る二人の黒髪の悟空と青い髪の悟空。

 

 殴り合いは、やがて折戸が押され始めていた。

 

(な、なんで……?)

 

「ゲームじゃないからさ。だから面白いんだ。そうだろ、折戸。俺もお前も真剣に殴り合ってる。だから楽しいんだ……!」

 

「ふざけんな、痛いだけだ!!」

 

「そうか? そんならまだまだ足りてないってことだろ!! いくぜ!!」

 

 更に踏み込んでくる紅朗。

 

一つ返せば三つ返してくる。

 

 動きがどんどんと速く鋭くなっていく。

 

 その強さと速さと鋭さと恐ろしさに折戸は徐々に脚がすくみ、無意識に後退しはじめていた。

 

ーーーー

 

「セル、気付いたか?」

 

「……ああ」

 

 ベジットブルーのクローンの攻撃を捌きながらアルティメットブウが問いかけると、ゴジータクローンの攻撃を躱して反撃するパーフェクトセルが応えた。

 

「紅朗のあの姿……孫悟空そのものだ。クローンなどではない。本物の……」

 

「まさか、その強さまで本物だというのか?」

 

 セルとブウが目を見開く中、ザマスが目を細めて紅朗を見る。

 

(コレだ。私が紅朗から感じた孫悟空は、まさしくコレだ。やはりコイツ、どういうわけかは知らんが孫悟空とリンクしているのか…)

 

 その横で片膝をついたまま16号が21号に問いかける。

 

「21号、なぜ紅朗は孫悟空そのものに?」

 

「まさか――……リンクシステム? 紅朗さんのリンク能力がオリジナルの悟空さんの能力に匹敵した?」 

 

 明らかに押され始めている折戸を見て、少女ブルマが声を上げた。

 

「修二さま!」

 

「大丈夫、大丈夫だ。俺が、俺が! こんなやつにっ!!」

 

 必死で取り繕おうとする折戸の横から能天気な声が聞こえる。

 

「さあ、いよいよクライマックスだよ。折戸君」

 

「フュー!」

 

 振り返れば自分が思った通り、銀の髪をオールバックのポニーテールにした青年が腕を組んで宙に居る。

 

 笑顔でこちらを見ている。

 

「ここから先はドラゴンボールヒーローズのシステムで君は戦うべきだ。紅朗君がドラゴンボールファイターズで挑むなら、君はカードの戦略を使って自分の孫悟空で倒すんだ」

 

その言葉に何故か折戸は思わず笑みがこぼれていた。

 

「フンーー。ああ、わかってる。あのおっさんの眼にはどう見えてるか知らないが、俺はこれでもドラゴンボールヒーローズじゃ関東大会優勝経験だってあるんだ!!」

 

言いながら折戸の思考はカードデッキに移行する。

 

(超サイヤ人ブルーの悟空なら、そのまま攻撃しても勝てる! 相手は黒髪の悟空! 戦闘力で言えば俺の方がはるかに有利だ! よしっ! 先攻!!)

 

 気を高めて一気に仕掛ける。

 

 これに紅朗も突っ込む。

 

 互いの中央で拳と拳がぶつかった。

 

「うぉおおおお!!」

 

「……っ!!」

 

 紅朗の背後の空間が歪み、地面が掘り起こされる。

 

 力と力の衝突は折戸の方が強い。

 

 後方へ大きく吹き飛ばされる紅朗だが、次の瞬間。

 

「界王拳……!!」

 

 紅朗が気を入れて赤いオーラを身に纏う。

 

 同時に動きが一気に倍加され、目にも映らぬ高速移動が始まる。

 

 折戸も大地を蹴って空間を一気に飛び回る。

 空中で爆発する光の波紋。

 

 衝撃波が発生し、コンクリートが凹み、地面が割れ、大地が隆起する。

 

 これを二人の合体戦士と戦っていた二人の異形が睨みつけるように見ていた。

 

「……セル」

 

「ああ。どういうからくりかは知らんが折戸の意思が宿ったクローンの中で、紅朗と戦う孫悟空の個体が一気に強くなった……!」

 

 鈍い音と共に後方へ首をねじ切りながら地面を足で引っ掻いてのけ反る紅朗。

 

 赤いオーラが解除され、肩で息を始めている。

 

「紅朗さん!」

 

「紅朗、大丈夫か!」

 

 21号――ディーベと16号が声を上げる中、紅朗の意思が宿る孫悟空はニヤリと凶暴な笑みを浮かべた。

 

「フッ、なんだ。殴り合いできんじゃねえか。安心したぜぇええ!!」

 

 言いながら白いオーラを吹き上げて更に踏み込んでくる紅朗に折戸は拳を合わせる。

 

(素人が! さっきから真っ直ぐに突っ込んでくるだけだ! この右ストレートにカウンターを合わせる!)

 

 完璧なタイミングで拳を紙一重で避けながら自分の拳を叩きこもうとする。

 

 だが、紅朗の眼前に迫る折戸の拳は空を切った。

 

「残像拳!?」

 

 気付いた時には背後に気配を感じると共に振り返る暇もなく背中を蹴り飛ばされる。

 

 眼前に迫る地面に両手をついてバック転し、着地――体勢を整える。

 

「甘めぇよ……」

 

 不敵にして凶暴な笑みを見せる黒髪の悟空に折戸は目を見開いていた。

 

(どういうことだ? なんで超サイヤ人ブルーの身体能力で押し切れないんだ?)

 

 そんな折戸の考えを読んだかのようなタイミングでフューが声を上げた。

 

「ああ、言い忘れてたよ。折戸君――あくまで君と紅朗くんが戦っているのはドラゴンボールの対戦ゲームだ。つまり超サイヤ人ブルーだからって黒髪の孫悟空の攻撃がまったくへっちゃらなわけじゃないんだよ」

 

「なんだと!?」

 

 その言葉に折戸は思わず闘いを放棄してフューの方に身体を向ける。

 

 だが紅朗は何も言わずに静かに折戸を見つめるだけだった。

 

「だってそうじゃないか? 黒髪状態の孫悟空の攻撃が超サイヤ人ブルーの悟空にまったく通用しないのなら、それはゲームとして破綻してるよ」

 

「だけど、俺の超サイヤ人ブルーはオリジナルのセル達とだって戦えたんだぞ!! 本気のセル達は俺の知っている原作とは明らかにレベルが違うのに、俺のクローン達は戦えた!! 超サイヤ人ブルーのパワーアップの法則が生きているじゃないか!!」

 

「それは「この世界の理屈」だからだよ。彼(紅朗くん)は君と同じ世界の人間、僕たちは「ドラゴンボールの世界にいる人間」だ。だからゲームだろうがなんだろうが、この世界の理に当てはめられてしまったら、その上で戦うしかない。ゲームの中なら簡単に変身できる超サイヤ人や神の気を纏うことも「この世界の人間が行うには並大抵の努力ではできない」けれど、君や紅朗くんは違う。この世界の理をゲームに落とし込める」

 

「ドラゴンボールの世界で、ゲームの法則をそのまま「この世界に落とし込める」のは俺だけじゃない?」

 目を大きく見開き、現状を理解する折戸を諭すようにフューは静かに告げた。

 

「全てーー君が望んだことだよ」

 

「なっ! なんっ……!」

 

「だからーー僕は友達として君が倒されるのを望んでる」

 

 その真っ直ぐな瞳に思わず折戸は叫んだ。

 

「お前も裏切るのか、フュー!!」

 

「僕は裏切ってないよ。信じてもらえないかもしれないけど、ね」

 

 微かに寂しそうな笑みを浮かべるフューの眼に思わず折戸は動きを止める。

 

 瞬間、敢えて紅朗は大きく自分の身に纏う白い気を爆発させて注意を向けさせると一気に突っ込む。

 

 紅朗の強烈な右ストレートを折戸は右手で掴み止める。

 

「よそ見してんなよ……」

 

「くっ!」

 

 これを合図に紅朗と折戸の拳と蹴りの打ち合いが三度始まる。

 

 両者の拳が互いの顔に決まるが、仰け反るのは折戸。

 

 距離が開いた瞬間、紅朗の上段回し蹴りが決まり更に後退する。

 

「バカな! カードゲームの理が通じているなら、なんでこれだけ強化しているのに負けるんだ!?」

 

 あまりにも理不尽だと折戸が嘆く中、紅朗は不敵な笑みを浮かべた。

 

「んなもん決まってんだろ。お前が見てんのは悟空の変身だけか?」

 

「――なに?」

 

「孫悟空は、そんな変身しなくても強えぇだろうが」

 

 訳知り顔で告げる紅朗に折戸は表情を歪める。

 

「ふざけんな! こうなったら、さらなるチェンジ(変身)を見せてやる!!」

 

 瞬間、折戸は道着の帯からカードを一枚取り出した。

 

「! 身勝手の極意! これなら……!!」

 

 カードは光の粒子になり折戸の肉体に纏わりつくと蒼銀に燃えるオーラが白金色に変わり始めていく。

 

「な、なんだ……?」

 

 それは紅朗の知らない変身。

 

 ドラゴンボール超をまともに見たことがない紅朗は、その変身を知らない。

 

 その変身を戦闘の手を止めずに継続しながらブウとセルが睨みつけた。

 

「銀色の髪…! …フン、神の領域か」

 

「身勝手の極意まで使えていたのか。孫悟空め……」

 

「孫悟空ならば天使の領域に到達していたとしても別に驚くべきことでもないが。しかし、問題は紅朗が変身している黒髪の孫悟空だ。まるで底が見えん」

 

「神の御業に変身できる孫悟空と通常状態でありながらそこまで追い詰める孫悟空、か」

 

 二人の異形の言葉を聞き流し、折戸が白金色のオーラを纏いながら叫ぶ。

 

「身勝手の極意ならーー完全にヤツを倒せる!!」

 

「面白れぇ……! その新しい変身がどれほどのものか、見せてもらうぜ!!」

 

 左右に身体を振りながら前進してくる紅朗。

 

 的を絞らせないように絶えず頭を左右に揺らしている。

 

 そのまま、一気に懐に踏み込んで拳をボディに放った。

 

「そら!」

 

 瞬間、紅朗の顎が跳ね上がって後方へふっ飛ばされる。

 

「っっってえ!!」

 

 顎をさすりながら紅朗は目を見開いて銀髪となった折戸を見据える。

 

「いつの間に打ち込まれたんだ? まるで見えなかったぜ」

 

 これにザマスが瞳を細めながら呟いた。

 

「なるほど、形だけとはいえ孫悟空の本気の打撃を折戸は繰り出せるーーか」

 

 両腕を組んで一つ頷いた後、ザマスは静かに紅朗に目をやる。

 

「終わりだ!」

 

 叫びながら真っ直ぐに前に詰めてくる折戸に紅朗も拳を握ってそのまま、殴りかかる。

 

 しかし次々と攻撃を放った瞬間に捌かれ、同時に自分の顔に拳や蹴りが叩き込まれていく。

 

 諦めずに手を出し続けるが、しばらく続けると強烈な右ストレートを叩き込まれて後方へ仰け反ると、紅朗はついに肩で息を始めた。

 

「へっ! こりゃすげえな……パンチも蹴りもまるっきり見えねえ。おまけにこっちの攻撃は全部かわされる。勝負になってねえか」

 

 呼吸を整えながら、紅朗は腰に両の拳を置いて気を高めた。

 

「ならよ。――はああああああっ!!」

 

 髪が逆立って炎のように天を衝き、金色に変身する。

 

「ふっ! 超サイヤ人で、いくぜ!!」

 

 動きを更に数段鋭くして紅朗が踏み込み拳を放つ。

 

「……無駄なことを!」

 

 だが、拳はアッサリと受け流されると同時に強烈なカウンターを叩き込まれる。

 

 先ほどまでのやり取りと同じまき直しのように。

 

 この程度の戦闘力の上昇では何も変わらないということを紅朗は理解する。

 

「だめだ、超サイヤ人でも見えねえ。反応し切れねえ。ならーー超サイヤ人2だ!!」

 

 金色のオーラが更に激しく燃え、青いスパークが走る。

 

 前髪は更に天に向かって逆立った。

 

「おまけに!」

 

 人差し指と中指を立てて額に突きつける。

 

「瞬間移動か……」

 

 折戸の周りを瞬間移動で飛び回りながら、両手を大きく広げて手首を合わせ掌をこちらに向ける構えを取った後、右腰に両手を置いてたわめる。

 

(……破壊神ビルスの時に悟空が見せた連続瞬間移動からのーーかめはめ波!)

 

 折戸の頭に浮かぶ映像と目の前の紅朗の動きは全く同じ。

 

 折戸の黒い瞳孔が浮かんだ銀色の瞳が鋭く細まる。

 

(久住ってオッサンの性格から考えると、正面だ……!!)

 

 瞬間、折戸の目の前にかめはめ波を放つ直前の姿勢で紅朗が現れる。

 

「零距離かめはめ波ならーー避けられねえだろうがあああ!!!」

 

 両手を突き出すと同時に青白く野太い光線が放たれ地球の地平線を打ち貫いて地球外へと放出されていった。

 

「どんなもんよ!!」

 

 目の前の全てが消し飛んだのをニヤリと笑って紅朗は構えを解く。

 

 瞬間、後方から強烈な拳を背中に叩き込まれ、ふっ飛ばされる。

 

「いっ! つうう……!」

 

 顔から地面に叩きつけられながらも、驚異的なタフネスで立ち上がってくる紅朗。

 

 それを折戸は淡々とした表情で言った。

 

「そんな子どもだまし、当たるかよ」

 

「なろぅ……! 結構いい案だと思ったんだけどな……。反応速度も読みも俺よりは上ってことか」

 

 どこか肩の力が抜けている紅朗に折戸は訝しげな表情になっている。

 

 気が抜けているーーわけではない。

 

 緊張感も動きも表情も真剣だ。

 

 だがーー以前あった恐ろしい雰囲気が、今は微かにしか感じられない。

 

 獣が牙を剥いてこちらに牙を突き立てて殺そうとするような気配が、今は感じられない。

 

「すると超サイヤ人3になっても、多分勝てねえよなあ……」

 

 軽く頭を掻いた後、紅朗は真剣な表情で。

 

「さあて、どうすっかな。――フッ」

 

 口元を緩めて笑った。

 

「なに笑ってんだ……」

 

「こういうピンチな時よ、悟空なら笑うだろ? お前の中の悟空は笑わないのか?」

 

「何がお前の中の悟空だ、バカバカしい! アンタはコレで終わりだ。このまま殴り倒してやる……」

 

 更に気を高める身勝手の極意を発動した折戸。

 

 これに紅朗も左手を顔の横に、右拳を腰に置いて中腰に構える。

 

――紅朗! 見せてやろうぜ! オラとおめえの力を!!

 

「ああ。行こうぜ! 悟空!!」

 

 紅朗の頭の中に響く声に応えた瞬間、温かくも強い黄金色の炎が胸から放たれる。

 

「なんだ……!?」

 

 これにザマスが静かに瞳を細める。

 

「出したか、真・超サイヤ人。サイヤ人の可能性か、神の御業か。どちらの孫悟空が上回るかという勝負か」

 

 独り言のような呟きにフューが楽し気に続ける。

 

「コレはそんな大層な話じゃないんだけどねえ。年甲斐もなくはしゃいだ中年のおじさんと、トレーディングカードゲームにはまったオタク少年の意地とプライドの戦いだよ。なーんてね」

 

「……」

 

 ザマスは笑いかけてくるフューを無視して黄金と白金の炎を纏う二人の悟空を見つめる。

 

 紅朗の姿に折戸は目を見開いて驚いていた。

 

「なんだ!? あの変身は! 超サイヤ人、なのか?」

 

「……そうか。おめえ、真・超サイヤ人にはなれねえんだな?」

 

 その声は紅朗のーー久住史朗の声とは明らかに違う。

 

「――悟空!?」

 

「ああ。俺は地球育ちのサイヤ人、孫悟空だ。いくぞ!」

 

 瞬間、目にも映らぬ速度で目の前に現れると見えない拳と蹴りを放ち始める。

 

「こいつ! 身勝手と同じぐらいの速度で動けるのか!? くそ!!」

 

 辛うじて身勝手の極意の受け流しで避けながら自動反撃を使って返す折戸だが、その全てを目の前の超サイヤ人は自前のパワーとスピードで避けて打ち返してくる。

 

「なんだよ、チート使いやがって!!」

 

「おいおい、おめえだって次々と変な方法で変身してんじゃねえか……」

 

 目の前の超サイヤ人孫悟空は不敵な笑みを浮かべながら低い声で告げた。

 

「この世界の俺が知らねえ技や変身ばっか使いやがって。けど分かんぜ。それも俺の可能性なんだな?」

 

「なんだコイツ! 戦闘力がどんどん上がってる! 毎秒ごとに!? ブロリーじゃないんだぞ!!!」

 

「フフ、どうした? そっちの俺、そいつを助けてやんねえんか?」

 

「……なに?」

 

「ああ。そっちの俺は残念ながら、こっち(紅朗の中)の俺みてえに自我は持ってねえみてえだな」

 

 その言葉に折戸は目を見開いて叫んだ。

 

「なんで? なんでだよ! ズルいじゃないか、自分だけ!! 自分だけ孫悟空とリンクできるのかよ!! なんで俺はーー!!」

 

 その言葉に久住史朗が応えた。

 

「単純な話だ。お前、悟空を知らなすぎだ」

 

「なっ、に!?」

 

「悟空の表面(スペック)ばっかり見てるから、こんなことも出来ねえんだよ。言っとくがな。こんなもんじゃねえぜ」

 

 そう告げた紅朗の口から孫悟空の声が応えた。

 

「ああ。俺の力はこんなもんじゃねえ。オメエが俺を完全に使いこなせりゃいい試合になったのになあ。残念だぜ」

 

「こんなときになに言ってんだよ……。おっと! リンクが切れそう!」

 

「ちゅーわけだ、折戸。悪りぃが、次の一撃で終わりにさしてもらうぜ」

 

 まるで一人芝居のように同じ口から、しかし声もトーンも違う二人の会話が生まれる。

 

 二人の悟空は同時に拳を大きく振りかぶって渾身の力を込めて互いに向かって突き出す。

 

 一撃は互いの中央で拳をぶつけ合い、空中で浮かびながら黄金と白銀のオーラが燃え上がる。

 

「なめんなよ! 俺だって! 俺だって悟空のことはなんだって知ってる! 戦闘力はたったの2の赤ん坊から! 地球に放り込まれて悟飯老人に拾われて! でも頭打つまでは凶暴で残酷で! 頭打ってからおとなしい野生児になったって話だろうが!」

 

 叫ぶ折戸に紅朗が応えた。

 

「おお、知ってんじゃん。ま、それくらいはドラゴンボール知ってんなら当然だけどな」

 

「……今の俺の話か? オメエ等、ホントに俺の知らねえ話、よく知ってんなあ」

 

「そらそうだろ。何回も言うけどよ、アンタは俺の世界じゃ英雄なんだからよ」

 

「そうかい。ま、んなこたどうでもいいや。決めようぜ!!」

 

「応よ!!」

 

 真っ直ぐに二人の意思を持った真超サイヤ人孫悟空は、折戸修二を黒の瞳孔が現れた翡翠の瞳で射抜く。

 

 身勝手の極意をも上回らんとする強烈な黄金の炎。

 

 その力は変身している間は青天井にパワーとスピードが上がる。

 

「悟空になりきれるんじゃなかったのかよ! リンクシステムさえあれば俺は!! でも、なんで? あのおっさんも俺と同じクローン戦士のはず! なんで本物の悟空になれるんだよ!? なんで……、俺は折戸修二以外になれないんだよ……!!」

 

 黄金の炎に押されながら拳が徐々に自分に迫ってくるのを嘆き、悔しさと悲しみとやるせなさで折戸は叫んだ。

 

「くそおおおおおお!!!」

 

 右ストレートが吸い込まれるように折戸の頬に突き刺さり、後方へと弾き飛ばされる。

 

 誰もが目を見開いて背中から叩きつけられて金髪のクローン戦士へと姿を戻しながら倒れ伏した折戸を見ている。

 

「ふう、終わったな。紅朗……」

 

「ああ。やっとな……」

 

 黄金の炎を解除して黒髪の悟空に戻ると紅朗は空を見上げていた。

 

(でもよ、コイツは死んでる。元の世界に戻れねぇ……。どうすりゃ、いいんだ)




この話もいよいよ、最終回が近くなっております。

がんばって最後まで書き上げたいですね(*'▽')
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