ドラゴンボールFZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

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突如、現れた16号を前に紅朗は記憶を取り戻す。

その記憶とは、この世界に来た当初の記憶であった。


というわけで、回想編です。

楽しんで行ってください( *´艸


第4話 悟空、聞いてくれ

ーー薄暗い鋼鉄の壁と白い光が点いた天井。

 

 目が覚めたら、俺は手術台のようなところで寝かされていた。

 

 何故、俺はこんなところにいる?

 

 自分のベッドで寝てる時に、何があった?

 

 寝てる間に具合が悪くなって会社の人か家族が救急車を呼んでくれて、病院に担ぎ込まれてるのか?

 

 身体、動かねえ。

 

 なんだ、コレ?麻酔のせいか?でも、手術台なのに看護師も執刀医も居ない。

 

「…目が覚めたようだな」

 

 優しく涼やかで甘い男の声。こんな美声なら、良いなぁと羨ましくなるほどの。

 

 声の主は、動けない俺の目に映るように顔を出してくれた。

 

 彫りの深い端正な顔立ちは、ハリウッドの二枚目俳優のようだ。

 

 明らかに日本人ではないのに、彼は日本語を流暢に話して俺に語りかけてくる。

 

 だけど、俺は違和感なくソレを受け入れていた。

 

 だって彼の顔に見覚えがあるから。

 

 人造人間16号ーー。

 

 ドラゴンボールのセル編に登場する心優しく穏やかで物静かなアンドロイド。

 

 まず第一に考えたのは、夢だ。俺は、夢を見てる。

 

 だけど部屋の無機質な空気は、自分の部屋ではないと頭が理解していた。

 

 16号は俺の目を覗き込んで、しばらくしてから頷き口を開いた。

 

「身体が動かなくて不安だろうが、今はその身体に慣れていないだけだ。そろそろ、動けるようになる」

 

 16号の言葉に確認するように身体に力を入れると、徐々に指が動いて、上体を起こせるようになった。

 

「…く、ぁ、、」

 

 声がうまく出ない。寝起きだからか。夢にしちゃリアルだ、なんて言ってる場合じゃない。

 

 状況を確認して把握しないと、自分が何をされるか分かったもんじゃない。

 

「無理をするな。その身体は、無理やり成長させているから声を出したことさえない。焦る気持ちは分かるが、聞いてくれ」

 

 普通なら、人を攫っといて何言ってんだ、と思うところだが。

 

 俺は現状を現実として受け入れる事に、困難していた。

 

 夢だろうって思いが、頭の何処にあって。いや夢であってくれ、と何処で思っていた。

 

 なんで、ドラゴンボールの世界に、漫画の世界に俺が来てるんだ。

 

 それもレッドリボン軍なんて、悪党の巣窟に。

 

 俺も17号や18号みたいに改造されちまうのか?

 

 いや、されちまったのか?

 

 逃げ出そうにも身体は、ゆっくりとした緩慢な動作しかできない。なんだ、どうなってる?

 

 俺の肌はいつから、こんな白くなった?いつから、こんな筋肉質で無駄のない体型に?なんだ、この赤いリストバンドは?

 

 俺の着ていたジャージは?なんで道着を着てるんだ?

 

 混乱に次ぐ混乱。だが同時に頭がハッキリして、意識が現実に戻る。

 

「……」

 

 だだっ広い部屋の中には、ガラス張りの実験器具のようなものが置かれた部屋と、寝かされていた診療台、そして16号だけだ。

 

「…俺を、どうする気だ? 16号」

 

 はっきりと、声が出せた。意外にも、改造される前の自分の声と同じものが出ている。

 

「やはり、お前も俺のことが分かるのだな。ならばーー」

 

「俺をどうする気だって聞いてんだよ、レッドリボン軍の人造人間!!」

 

 デカイ声が出ると同時に、身体が寝台から跳び上がり16号と距離を取って着地する。

 

 拳法などしたことない俺が、何故か構えを取っている。

 

 同時に16号の立ち姿を見て、何処にどう打ち込めば拳や蹴りが当たるかが脳内に見える。

 

「…落ちついてくれ、と言っても聞いては貰えないようだな。無理もないがーー」

 

 16号が沈痛な顔で告げてくるのが、余計に俺の怒りを引き上げる。

 

「落ち着け、だと? いきなり訳分かんねぇ場所に連れて来られて、訳分かんねぇ身体にされて、落ち着けだと!? ふざけんのも、いい加減にしろよ!!!」

 

 人攫いが、何を悲しげに俺を見てるんだ。

 

「そこをどけよ。俺には、俺の生活があるんだ。訳分かんねぇ漫画の世界に来てる場合じゃないんだよ!!」

 

「…此処が自分の住む場所とは違う世界だということを認識し、帰るというのか。興奮しているようだが、なかなか冷静な判断だ」

 

「どくのか、どかねぇのか。どっちだ!?」

 

 ヒステリックに叫ぶが、正直勝てると思えない。

 

 自分の身体が改造されたとはいえ、コイツはセルを除いては最強の人造人間だ。

 

 みっともなく虚勢を張るしか、今の俺には出来ない。

 

「…その前に、まず自分の姿を見てみるといい」

 

 16号はガラス張りの部屋を指差した。ガラスに写っているのは、黒い道着に赤いインナーと帯にリストバンド。赤いブーツを履いた赤い眼をした超サイヤ人の孫悟空。

 

「……コレは悟空? 俺は悟空になったのか?」

 

 目を見張る俺に16号は淡々とした口調で首を横に振りながら応える。

 

「いや、その肉体は孫悟空のデータを基に生み出されたクローンだ。お前と同じ孫悟空タイプのクローンは世界に100人存在している。他にも、それらとは別にフリーザやセル、クリリンやベジータなどのタイプもいる」

 

「…メタルクウラみたいなもんか?」

 

 思わず頭の中に浮かんだ崖の上に何体も居た輝く絶望の壁を思い出す。

 

「…すまないが、その質問は理解できない。お前のように何人かにも、そんなことを聞かれたがーー」

 

「何人かーーって、俺以外にも人間を攫って悟空たちのクローンにしてんのか。優しそうに見えて、とんだ悪党じゃないか、16号」

 

 皮肉と苛立ちタップリに言ってやると、16号は表情を変えずにジッと俺を見る。

 

 微かに息を呑んだのは、見逃さない。惚けるかと思ったが真っ直ぐに俺の眼を見て16号は頭を下げた。

 

「…そのことについて、すまないと思っている。今回の件はイレギュラーだった」

 

「………」

 

「俺は、お前を攫った訳ではない。頼む、話を聞いてくれないか」

 

 無防備な姿を見て、俺は思わず呟いていた。

 

「いいのかよ、今の俺は悟空と同じ力を持ってるんだろ? そんな無防備な姿を晒したら、一撃で破壊されちまうぜ」

 

「……こんな事でしか、お前に詫びることが出来ない」

 

 頭を上げず、16号は淡々とした言葉で告げてくる。自責って言うのが痛いほど伝わる声で。

 

「16号。人と話をするなら、頭を下げたままじゃなく相手の目を見て話せーーいや、話してくれ」

 

「……いいのか?」

 

「いいのか、だと? よかねぇよ。自分の生活を無茶苦茶にされて、しょうがねぇなーーなんて言えるほど俺は人間出来てねぇ!!」

 

 今すぐにでも殴りつけたいが、話が先だ。少なくとも真剣に謝ってる人を、何も聞かずに殴れるほどにも俺は荒んでない。

 

「わかった。だが、俺と話すのは後にしてくれ。勝手だが、こちらにも事情がある。これから、お前と同じようにクローンの身体に入ってしまった人間達を一箇所に集めて説明する。その後で、ゆっくり話をしたいーー」

 

 少なくとも、16号は信じられる、と思う。 不安がない訳じゃないが、郷に入れば郷に従え、とも言うからな。

 

「わかった」

 

「すまないが、こっちに来てくれ」

 

 俺が応えると16号は静かに頷いて案内を始めた。

 

 連れて行かれた先には、16号が言ったように赤い目をした超ベジータやピッコロの肉体を持った転生者たちがいる。

 

 だが、何故か奴等のほとんどは、笑顔で談笑してるじゃないか。

 

 俺たちの姿を見た赤目の超ベジータが、笑顔で俺を見てくる。

 

「ああ、羨ましいな! 最初から悟空タイプじゃないか! 俺も初期モデルはヘタレ王子よりクズロットの方が良いなぁ!」

 

「ホントだよ、こっちはクズロットのパチモン。フリーザにみっともなくやられちゃう程にひ弱な悟り飯だぜ?」

 

「俺なんか、ウザンクスなんだけど?」

 

 そこにクリリンや天津飯、ヤムチャにナッパ、ギニュー特戦隊の一団が加わってくる。

 

 全員、俺の記憶にある本物とは肌や服の色が絶妙に違う。

 

 次々と明るく語り合う連中に俺は、薄ら寒いものを感じた。何、考えてんだ? お前ら、この状況の恐ろしさを、おぞましさを、理解してるか?

 

 思わず目を見開いて呻く俺を、ジッと16号が見ている。

 

「みんな、いきなり全員で話しかけてんじゃねえぞ。あんま、オラの前で調子こいてっと、ぶっ殺すぞ!」

 

 声のした方を振り返れば、俺と同じ孫悟空タイプのクローンが鏡写しのように立っている。

 

 そいつは周りに向かって笑いかけると言った。

 

「前も言ったけどさ。この体はゲームで使ったキャラチェンジの能力を備えてる。使いこなせればーー」

 

 と、いきなり白い光がクローン悟空の身体から放たれ、一瞬後にはフリーザタイプのクローンに変化していた。

 

「な!?」

 

「な? 最初のアバターなんか意味ないってこと。キャラチェンできるようになるまで能力を使いこなせれば、どんなキャラにも変身できるよ」

 

 フリーザタイプから元の悟空タイプのクローンに戻るとそいつは俺に向かって明るく笑いながら歩み寄ってきた。

 

 そいつの言葉と行動に、場に居るものが大声で笑っている。

 

「すげー! やっぱゲームの特性掴むの上手いなぁ」

 

「さっすが、折戸さんだ!!」

 

 昔、ダチに連れられて行ったコミケやコスプレ大会のようなノリだ。

 

「やぁ、同じ孫悟空タイプが初期モデルだね。仲良くしよう」

 

「……」

 

「なんだよ、ノリの悪い野郎だな? ぶっ殺すぞ! ってなぁ!」

 

「……その、似てねぇ野沢雅子のモノマネ辞めてくんねえかな。つうか、何考えてんだ? 状況を理解してーー」

 

 と言おうとすると、ヤツは人差し指を口に当てて静かにと、ジェスチャーしてきた。

 

「…静かにしてくれよ。馬鹿騒ぎして油断誘わないと逃げらんねぇだろ?」

 

「! あ、ああ。そう言うーー」

 

「頼むぜーー! 俺は折戸 修二(オリト シュウジ)。T大学2年生だ」

 

 大学生かーー若いなぁ。

 

「…久住史朗、会社員だ。歳は35だ」

 

「え? マジ? すんません、他の子が10代半ばくらいの歳下ばっかりだったんで」

 

 恐縮したような表情で頭を下げる折戸というクローン悟空に思わず笑みがこぼれた。

 ガワはともかく中身は日本人そのものだ。

 

 どこかホッとする。

 

「いいよ。この格好じゃ、歳なんて皆分からない。この場じゃ君がリーダーなんだろ? 郷に従うよ」

 

 そう告げると大学生ーー折戸くんは明るい雰囲気で笑いかけてきた。

 

「あの。久住さんもドラゴンボールのゲームしていて、こっちに喚ばれたんすか?」

 

 若者よ、初対面同然の歳上にその馴れ馴れしい話し方をすると、社会に出ると苦労するぞ。

 

 俺個人としては、距離が縮まって有難いがね。

 

「いや? 仕事がキツくてね。ゲームする暇があったら寝るよ」

 

「へ? なんだ! 社会人がこっちに来てるから、てっきり親のすねかじりの廃課金ゲーマーかと思ったよ!!」

 

 …ナチュラルに殺意が湧くとは。フッ、若いな俺も。

 

 俺の内心に気づいたのか、折戸は両手を横に振って話してきた。

 

「違う違う! この世界に来たヤツって、みんなドラゴンボールのオンラインゲームをしてたヤツらだからさ。アンタもそうなのかって思ってーー!」

 

「……ゲーム?」

 

「そ! 最近出たドラゴンボールファイターズって格ゲーだよ。俺、てっきりアンタもやってるのかなって思っちゃってさーー!」

 

 コイツなりに悪いと思ったのか、理由を説明してきた。なるほど、ゲーム利用者なのか。俺以外の奴らは。

 

「最近のゲームは分かんねぇが、何? VRMMOってのか? そんな感じの格闘ゲームになってんの?」

 

 ネットで得た知識しかないけど、とりあえず知っている体を装いたい。

 

 我ながら、つまんねえ意地だなぁ。

 

「いや、今回のは単なる2D格闘だね。スト2をドラゴボで再現してるって言えば分かる?」

 

「…ど、どらごぼ? へぇ、スト2みたいな1フレの脊髄反射を要する神ゲーか?」

 

 などと話していると、赤と青のカラーを組み込んだボディコンに黒のタイツを履き、白衣を上に着た女が現れた。

 

 茶色のウェーブのかかった長い髪をした白い肌の美女が、16号の後ろから現れた。

 

 女は、これでもか、と言うくらいに身体の線を強調する服で俺たちの前に立つ。

 

「…久住さん。コイツが、今回のラスボスーー人造人間21号だ」

 

「へ? あんな美人さんが? 人造人間? 人造人間ってセル以降居た?」

 

 思わずビックリする俺に折戸は頷く。

 

「ああ、間違いない。周りを見てみな? 全員、納得って顔してるだろ? やはり、この世界はドラゴンボールファイターズの世界だ」

 

 それが分かれば、こっちのモンだ。

 

 そうヤツは語るが。何がこっちのモンなんだろうか? ゲームなら、どうとでもなるだろうが現実ってのは、どうにもならんもんだ。

 

 だが、折戸の話も一応聞いておこう。

 

 最新のドラゴンボールのゲームキャラか。

 

 メガネを光らせて、彼女は冷たく整った顔を邪悪に歪ませて笑った。

 

「転生者の皆さん。皆さんには、これから。この世界を滅茶苦茶にしてもらいます」

 

 いきなり何言ってんだ、この女?

 

 呆然とする俺の周りでは、転生者とか言われてその気になってる奴らが騒いでる。

 

「よっしゃ! この身体の能力見てやる!!」

 

「クンッて挨拶しなきゃなぁ!!」

 

「気円斬や繰気弾、気功砲もな!」

 

 異世界ーー漫画の世界、か。

 

「あなた達の姿をした本物を殺して成り代わるのも、気ままに街を破壊しても、全て許されます。この世界では、あなた達は自由です。自分の好きなように生きてください」

 

 何をしても現実(元の世界)には反映されない、何か法に触れても全てをねじ伏せる力がある。

 

 ガキを攫って最高の遊び場に、最高のオモチャを与えて自分は高みの見物って訳か?

 

「ただし、殺したオリジナルの存在は私の前に持って来ること。それだけを理解してくれていれば何をしてくれてもかまいません。話は以上です。」

 

 折戸が俺の横で手を挙げて口を開いた。

 

「それさ、アンタの言う事を聞いておけば、この世界で好き放題やらかした挙句、飽きたら元の世界に帰れるって解釈でOK?」

 

「私の目的が達成されたなら、もちろん元の世界へ返してあげますよ」

 

 にこやかに笑う女に軽薄な笑顔を返す折戸。

 

「へぇ? じゃあさ、アンタが俺の女になるってのは?」

 

「…あら? どういう意味かしら?」

 

「俺の目的の一つは、世界中の美女を集めてハーレムを作ることなんだよ。元の世界じゃ絶対に出来ないけど。此処なら簡単に出来ちゃいそうだ。その栄えある一人目が、アンタってのは?」

 

 …折戸のヤツ、すげえ演技派だな。堂に入ってるぜ。ラスボスを油断させるために敢えて軽薄な事を口にしてるって訳か。

 

 多分、折戸の告白に囃し立ている他の奴らも同じなんだろう。

 

 中学生や高校生が、大したもんだ。

 

 その後、折戸とラスボス女の腹の探り合いが終わり、今夜一晩寝たら研究所から解散となる運びとなった。

 

 いっぺんに色んなことがあったので、疲れ切っていた俺だが目の前に来た男の顔を見て気を入れ直す。

 

「すまないが、ついて来てくれないか」

 

「…話をする約束だったもんな」

 

 俺は16号についていった。

 

 そこは、研究所の外だった。

 

 夜空の下乾いた空気が、岩場に流れている。

 

「すまなかった。いきなりこんなことを言われて混乱していると思う。だが、お前を元の生活に戻すには今は21号の言うことを聞くしかない。わかってくれ」

 

「無茶言うなよ。街を破壊したり、オリジナルの存在殺して成り変われって言ったりするようなヤツの言うことなんざ聞けねぇよ」

 

 即座に切り返す俺をジッと見た後、16号は告げた。

 

「お前は、前の16号を知っているのか?」

 

「……前? あ、じゃあやっぱり、お前はーー!」

 

「そうだ。俺は、前の16号のデータを基に21号によって作られた」

 

「…その割には、前の16号と全然変わらねえように見えるが。ひょっとして、17号と18号ーー悟飯とセルの記憶もあるんじゃないのか?」

 

「…ある。前の16号を完璧に再現したいと、ヤツは言っていたからな」

 

 あの女、いったい何のために16号を?あんだけ好き放題に破壊やら殺人やらを推奨しといて、なんでまたソイツを嫌う16号を完璧に再現したんだ?

 

「…お前に話をしたいのは。彼女の秘密についてだ」

 

「秘密、ね。女の秘密をベラベラ喋る奴って個人的に信用できねえんだが?」

 

「お前は、あの時の21号の話を聞いて苦虫を噛んだような顔をして下を向いていた。他の転生者は好き放題に出来ると喜んでいたが、お前は違った。おそらくお前は21号が用意した波動の影響が少ない。だから、お前にだけは話しても良いと思った」

 

 波動?

 

 気になる単語だが、それよりも。

 

「…そうかい。それで? その話を聞かせて俺に何をさせたいんだ?」

 

「彼女には二つの人格がある。これから会う彼女は本当の彼女だ。頼む、アイツの話を聞いてやってくれ」

 

 本当の、彼女ーーね。

 

 二重人格って、ドラゴンボールだとランチさんくらいだとおもっていたがーー。

 

 こんな真面目な類の話で、聞くとはな。

 

 考え込んでいると、岩場の影から先ほどの女ーー人造人間21号が現れた。

 

「ごめんなさい」

 

 眉根を寄せ、所在無さげに両手を胸の前で組んで、彼女は続ける。

 

「これから私と16号と一緒にこの世界に起こっている混乱を止めてほしいのです」

 

「混乱って。さっき、アンタは好き放題に破壊しろってーー!」

 

 違和感がある。先程までの冷徹で高飛車な演説の後で、今の彼女。

 

 マジでイメージが、繋がらない。今の彼女は、清楚でお淑やかで、上品な温かみがある。

 

「さっきの私のせいで、この世界には貴方がリンクしているその身体と同じーークローンが溢れています。そしてあなたと同じようにクローンたちの肉体に他人の精神をリンクさせるリンクシステムと言うのを使って彼女は、貴方の世界からリンクに適合する精神を引き寄せているのです」

 

 さっきの私ーーか。ランチさんと違って、別人格の記憶があるのか?

 

 16号は信じられるが、この女ーー。何処までが本当なんだ?

 

「どうか私と一緒にこの事態を解決する協力をしてほしいのです。お願いします!」

 

 頭を下げて必死に頼み込む彼女ーー。嘘、ではないだろうが、判断材料が無さ過ぎる。

 

 俺は、21号の頼みを保留させてくれ、と応えた。

 

「いっぺんに色々あり過ぎて、少し整理したい」

 

 不安げで、しかし諦めたような表情の彼女を見て、思わず言ってしまった。

 

「16号や今のアンタは、信じられる人だと、思う。でも、さっきの今だ。流石に混乱する。リンクシステムとか言うのも、詳しく知りたい。考えをまとめる時間をくれ」

 

 俺の答えに、はじめて16号が笑みを浮かべ、21号は目を見開いて涙を浮かべてありがとうございます、と頭を下げてきた。

 

ーーーー

 

 自分に充てがわれた部屋に戻ると、自分の姿見のような人間が立っている。

 

 俺と同じ悟空タイプのクローンとリンクしている折戸修二だ。

 

「大丈夫か? さっき16号や21号に連れて行かれてたみたいだけど、何かされなかったか?」

 

「心配してくれんのは有難いが、覗き見は感心しないな」

 

 取り敢えず釘を刺しておこう。コイツの動きも演技とは思えない嫌な感じを受けてる。

 

 俺が言いようのない疑惑を胸に持ち込んでいると、折戸は媚びるような笑顔で言ってきた。

 

「…もしかして自分に協力してほしいとか言われたんじゃないか?」

 

「いや、単なる世間話だ」

 

 なんとなく、さっきの21号の哀しげな顔と。コイツがハーレム要員に彼女を加えるって言ってたのを思い出して即答した。

 

 だがーー、コイツは俺の考えを読んだかのように一気に告げてきた。

 

「協力はやめといたほうがいいぜ。俺はこの世界を知ってるんだ。あの女は、碌な結末にならない。ドラゴンボールなら自分も知ってるって?アンタは、あの人造人間21号を知らないんだろ?俺は知ってる。この後どうなるのかもな。俺たちは適当に強くなった後、あいつに菓子に変えられて喰われるんだ」

 

「菓子に変える? 魔人ブウみたいなヤツだな」

 

「多分、魔人ブウの細胞かなんか取り込んだんじゃね?あいつの中には自分でもどうにもできない捕食衝動を基に生み出された人格があるからな。まともそうな人格より、悪の方が強いってのはドラゴンボールのテンプレだろ」

 

 テンプレーーねぇ。

 

 確かに、ドラゴンボールという漫画ならあり得る話だ。

 

だがテンプレート(お約束)が当てはまるのはフィクションだけ。

 

 現実になったこの世界でも通じるもんなのか?

 

「ドクターゲロは、どうやって魔人ブウの細胞を手に入れたんだよ?そもそも、ブウの細胞は復活して元の魔人ブウに戻るだろうが」

 

「そんなん知るかよ。他の連中にも聞いてみたんだが、どうやらこの後のストーリーを知ってんのは俺とフリーザのアバターのヤツだけみたいだな」

 

「アバターって、お前な」

 

 いい加減、ゲームの延長線で考えるのやめろって俺が言う前に折戸は続けてきた。

 

「ん? ああ、この身体をアバターって言ったの悪かったか? ま、とにかく俺と一緒に来いよ。転生者を利用できるなんて思ってる馬鹿どもを根こそぎぶっ倒してやろうぜ。孫悟空同士なら強力なかめはめ波の合体技も撃ち放題だしな」

 

 嬉々として周辺の地図を出して広げて語る折戸を何処か遠い目で見ながら、ヤツの声を耳にする。

 

「今夜全員で反乱を起こす。その期に脱出だ。いいな、俺とアンタが組めば、簡単に成功する。他の奴らの安全のためにも、絶対に成功させよう。待ち合わせ場所は、この岩場の影だ」

 

「……脱走なんかしなくても、明日には解放してくれるんだ。わざわざ、反乱する理由はなんだ?」

 

「奴等が約束を守るとは思えないからさ。言ったろ?俺は21号を知ってる。アイツは最終的に悪の心に負けて消えてしまうんだ。この世界は、悪が作り出した波動のせいで悟空たちも本来の力を出せない。それどころか、超サイヤ人になるのがやっとってレベルだ。クローンの肉体を手に入れ波動の影響がない俺たち転生者でなけりゃ、この世界の人を助けられない。俺たちがZ戦士に成り代わるチャンスだ!」

 

 思わず胸ぐらを掴んでいた。

 

「おいーー! 21号が消えるってなんだ?」

 

「悪に負けたーーって言ってるだろ? 欲望の塊に理性が負けるなんてよくある話じゃん」

 

「……お前」

 

「この手、離せよ。21号が消えるって言っても俺にもアンタにも関係ないだろ?」

 

 確かに、ここでこのアホとやり合っても仕方ねぇ。だいいち、21号の問題もコイツが原因って訳じゃねぇ。

 

「脱走したけりゃ、やりゃいい。俺は残るーー!」

 

「へぇ? だ、け、ど。手遅れだぜ?」

 

 聞き返す暇もなく、研究所内部で強大な爆発が次々と起こった。

 

「! こ、れ、はーー!」

 

 瞬く間に火の海と化す施設に俺が茫然としていると、隣で折戸が笑っている。

 

「俺の仲間が、研究所の中枢を破壊した。奴等に転生者を舐めんなって声明文まで送りつけてな。残りたければ残りなよ、久住さん。アンタが、反乱の全責任を被って捕まってくれるなら大喜びだーー!しばらくは、俺たちも姿を消せるからな」

 

「折戸ーー! テメェ……!!」

 

「効率を考えるべきだよ、久住さん。いっときの21号への同情で、チャンスを棒に振ることはないぜ」

 

 効率だの、チャンスだの、ゴチャゴチャと若造が分かったように語りやがってーー!!

 

「なんの真似だよ、久住さん」

 

 俺は、折戸に対して構えを取っていた。

 

無意識に取ったその構えはーー孫悟空が使う拳法の構えだ。

 

「分からないな。なんで、わざわざ非効率な真似する訳?言ってんだろ、21号は助からないって。悪の方に負けて消えるんだよ。アンタがさっき話した21号は助からないって言ってーー」

 

 凄まじい音が聞こえた。

 

右拳が、折戸のーー悟空クローンの左手に掴まれている。

 

  ああ、殴ろうとしたが止められたか。

 

「何もしてねえくせに、分かったような口を利くな! テメエみたいな頭でっかちの言葉を聞いてるとイライラしてくるぜ!!」

 

 目の前に何かが迫るのを反射的に俺の左手が掴み止めた。ヤツの右拳だ。

 

「はあ? あのさ、アンタは転生者仲間の俺よりゲームのキャラクターを取るっての? 人間としてどうなんだよ、ソレ? 頭、おかしいんじゃね?」

 

「テメェには言葉で言っても分からねえ。…折戸、構えろ。取り敢えず、テメエの顔を殴ってから、どうするかを考える」

 

「ふうん? 俺を殴って気が晴れんなら好きにしなーー」

 

 強烈な右ストレートがまともに折戸の顔に入り、後方の壁へと背中から叩きつけられた。

 

「……ッグ、ホントに殴りやがった。このクソ野郎」

 

 目が吊り上り、俺を睨み付けてくる真紅の瞳にようやく俺は満足してきた。

 

「ムカついたか? そら良かった。俺はさっきから、テメエの話を聞く度にイライライライラしてんだよ。久しぶりに殴り合いの喧嘩をしてやる、行くぞ!!」

 

 悪いが、ここらで溜まったフラストレーションを晴らすのとコイツが本当に信用できるかを確かめさせてもらう。

 

「脱走する計画を邪魔する気か?」

 

「他の奴らは好きにすりゃいい。だが、お前は取り敢えず俺と残れや。転生者だかキャラクターだか知らないが、自分の思い通りになるなんて妄想は、早目に潰した方がいいからな!!」

 

 ハーレム計画だか、なんだか知らんが、このアホの計画を全部潰してやる。

 

 なんでもかんでも自分の思い通りになる世界なんぞ、たとえ漫画でも存在してたまるか!!

 

 怒りに身を任せて、拳を繰り出す。

 

 我ながら鋭い拳だが、ヤツの動きも半端じゃない。広い部屋とはいえ、俺たちの身体能力じゃ狭過ぎる。

 

 秒間数十は下らない拳と蹴りの打ち合いと、部屋を一瞬で飛び回るフットワークを駆使して俺と折戸ーー二人のバッタモン悟空はぶつかり合う。

 

「は、ははは! 凄いや、コレが孫悟空!? こんな世界が自分の支配下にあるなんて、サイコー!! コレはどんなゲームより楽しいよ!!」

 

「殴られる痛みや苦しみを感じても、同じセリフ吐けるか? 折戸ぉおおおっ!!」

 

 金色のオーラを纏い、ぶつかり合う。

 

 分かったが、コイツ本当に俺と同じくらいの強さだ。スピードもパワーも技も、打ち込みの数も似てる。

 

 だが、肉体を使う脳みそが違えばスタイルが変わる。

 

 拳法は素人でもケンカ慣れはしてる俺が選択したのは、相打ち戦法だ。

 

 ヤツが攻撃をしてくると同時に俺も手を出す。まともに顔に食らうがヤツも必ず食らう。

 

 ケンカの常套句にあるが、気合いだ。

 

 身体は丈夫なサイヤ人なら、心と心のぶつかり合い。いわゆる根性論。

 

 おじさんを舐めるなよ、若者!!

 

 思ったとおり、ヤツは自分の方が先に拳を当ててるにもかかわらず、後ろに退いて打ち合いを嫌がった。

 

「ちくしょう、捕まってたまるか! 太陽拳!!」

 

 瞬間、光と共に折戸は肉体を天津飯のクローン体に変化させると強烈な目くらましの技。

 

 太陽拳を放ってきた。

 

「ーーテメ!?」

 

 咄嗟に目を瞑るが、強烈な光によって一時的に視力が潰される。

 

 瞬間、鉄扉を蹴り飛ばし逃げ出す折戸の気配。

 

 追いかける俺。ヤツは必ず仲間と合流する。地図の場所を思い出せ!

 

 視界は完全には戻らないまでも、なんとか見える。

 

 俺は、必死に折戸が逃げた方向へと足を運んだ。なんで、ここまで必死になって折戸を捕まえようとしてるのかは分からない。

 

 ただ、不快だった。このまま、アイツを逃がして終わりってのは、俺の中の何かが許さなかった。

 

 待ち合わせ場所と時間まで、もう少しだ。

 

 その前に、折戸を捕まえてーー!!

 

「ぐぅあ!?」

 

 強烈な衝撃が背中を襲い、肌が燃える熱さに俺は呻き声を上げて正面の岩壁に背中をもたれさせた。

 

 真っ白い満月を背に、折戸がーー血のような赤い目をした孫悟空の姿をした野郎が、煙を上げている右掌をかざしてニヤニヤと鬱陶しい目で俺を見下ろしている。

 

 ヤツの周りにはベジータとナッパのクローンが、ニヤリと笑って腕を組んでいた。

 

「テメェ、待ち合わせ場所はまだーー!」

 

「ああ、最初から待ち合わせ場所に移動するアンタを此処で襲って犠牲にする作戦だったんだよ。ちょっと予定が狂ったけど、アンタが反乱の首謀者さ。悟空クローン」

 

「な、んだと?」

 

「言葉巧みに周りの転生者達を誘導し、研究所を破壊させて逃げようとしたのを俺たちが阻止したって訳だ。証人は俺の仲間二人。説得しようとしたが、抵抗され止むを得ずに息の根を止めるって寸法ーー!」

 

 コイツ、反乱を起こしたのは俺に罪をなすりつけて16号や21号の信頼を得るためか。

 

「じゃあな、間抜けなお人好し。悪いけど俺の為に死んでくれ」

 

「最初から、だと言ったな。つまり俺がテメェを殴る前から決めてたってことか? なんでだ?」

 

「分かるだろ?」

 

 分かんねえから聞いてんだよ、クソが。

 

「俺の目的の為には、初期モデルが悟空タイプのーーアンタが、邪魔なんだ」

 

 ゆっくりと、ヤツは両手を上下に手首で合わせ、体をひねって右腰に両手を置いて青い光の塊を練り上げる。

 

 そうーーかめはめ波の構えを取った。

 

「漫画の世界に転生して好き勝手できるなんて、サイコーじゃね? 悟空と同じ力持ってて超サイヤ人になってるなんて。こんなん、この世界を思い通りにするに決まってるじゃん」

 

「…テメェ、漫画漫画って。俺に殴られて痛かったろうが?苦しかったろうが??それでもまだ、この世界は漫画だって言い張るのか!?この世界に生きる人達を、漫画やゲームのキャラクターだって!?」

 

「うっせえよ、オッサン。向こうの世界の倫理観ふりかざしてガタガタ言いやがって。ウゼェからさっさと死ねや?」

 

 俺に向かって両掌を突き出し、かめはめ波が放たれた。

 

 光に全てを持って行かれるのを感じながら、俺は死を感じていた。

 

 そして目を開けると、この世界に来た当初の記憶を全て忘れて荒野のど真ん中に俺は立っていた。

 

 




次回もお楽しみに(≧▽≦)

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