ゴルシちゃんの膝上ではトレーナーに対して日本国憲法と刑法が適用外となります。他にも脇の間、耳の中、膝裏、胸の上及びゴルシちゃんの周囲5メートルではトレーナーに人権は認められません。

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ゴールドシップと結婚を前提に付き合っているトレーナーが仲良くコタツに入るだけの話

 それは空気も凍りつく冬の夜。

 突然トレーナー寮の自室へさも当然のように鍵を開けて入ってきたゴールドシップを、トレーナーは当たり前のように受け入れた。

 

「トレーナー、ミカン剥いてくれ」

「はいはい、筋は残すんだよな」

「あったりめーだろ。ここが美味いんだよ」

 

 ごく自然にコタツに入り、いつものようにミカンを剥く事を要求したゴールドシップにトレーナーは何の疑いもなく従った。

 それもそのはずだ。こんな光景が日常の出来事なのだから。道行く人が見れば眉を顰めるだろうが、これが普通なのだ。

 

「ゴルシ、足を伸ばすな。狭えだろ」

「んだよ、ゴルシちゃん伸び盛りなんだから仕方ねえだろ。諦めてくれ」

「諦めてたまるかよ、足引っ込めろ」

「痛っ、叩くなよ」

「大袈裟なんだよ、いいから足曲げろ」

 

 何度も言うが、この異様ともとれる光景は2人にとって当たり前なのだ。

 常人ならば、あのゴールドシップが突然家に押しかけミカンを剥く事を要求してコタツに入り足を広げている現実に耐えられないはずだ。ではそれに耐えるどころか、伸びたい放題の足をペシリと叩くトレーナーとは一体どんな男なのだろうか。その答えは2人の手元にある。

 ゴールドシップの提案で決められた優しい暖色LEDライトが照らす部屋にひときわ大きく輝くもの──指輪だ。

 トレーナーの左手薬指にはシルバーの輝きがあり、ゴールドシップの左手薬指には銀より光沢のあるプラチナの輝きに加えて控えめなダイヤが添えられている。

 ここまで状況説明があれば誰にでも分かるだろう。この2人は恋愛関係にあるのだ。それも、結婚を前提とした婚約関係にある。 

 なぜ2人がそういう関係であるのかについて読者に語っていれば夜が明けそうなので割愛させて頂く。とにかく、2人はそういう親密な関係であるというのが重要なのだ。

 

「お前が足伸ばすと俺が足伸ばせねえよ」

「じゃあ、こっち来いよ」

「……は? こっちって?」

「照れるなよ〜」

「いや、意味不明だから照れてねえし」

「オラァ! 底引き網で鍛えた技だぜ!」

 

 ゴールドシップがトレーナーの足をグイ、と引っ張るとトレーナーの体はコタツへと吸い込まれていき次の瞬間にはゴールドシップの方から出現した。そのままゴールドシップはトレーナーを自

分の膝上に据え付けて満足げだ。

 

「イリュージョン!」

「力技じゃねえかよ」

   

 しかし、最早トレーナーに基本的人権というものは存在しない。ゴールドシップの膝上には法律が及ばないのだ。

 

「おい、うっとおしいから離れろ」

「ヤダ」

 

 トレーナーが離れようともがけばもがく程ゴールドシップはトレーナーの前に回した腕を強めていく。やがて命の危機を悟ったのかトレーナーは抵抗を辞め全てを放棄した。

 

「お〜、やっと大人しくなったなあ」

「死ぬよりかはマシだからな」

「ほれ、ゴルシちゃんを暖めろ」

 

 自分の肩に顔を乗せて前体重をかけてくるゴールドシップを鬱陶しいと思いつつ、本音では悪い気はしないとトレーナーは思った。

 

「なんだお前寒かったのかよ」

「……ゴルゴル星に行くぞ〜……Zzz……」

「コイツ寝やがったな」

 

 もう十二分にご理解頂いたとおもうが、これが彼らにとって平常なのだ。

 なのでトレーナーはゴールドシップが肩を枕にして可愛く寝息を立てようとも、その柔らかい体を押し付けられようとも全くもって平気なのである。

 トレーナーは何も感じないのかミカンを剥いて食べ始めた。

 もう異常者の部類だ。

 そんな異常者に寄せられたコメントをいくつか見ていこう。

 

 ──コイツ本当に男か?   (同僚談)

 ──むしろ心配になります (たづな談)

 ──常時賢者野郎 (美人芦毛ウマ娘談)

 

 しかし賢者も怒る時がある。

 かれこれ30分ゴールドシップの抱きまくらにされ続けたトレーナーは、とうとう我慢の限界に達し行動に移した。

 幸せそうに眠るゴールドシップの頭を少し撫でてから手を後方へ回す。頭を撫でたのはただそうしたかったからである。そして手をゆっくりと尾の下に滑らせ──。

 

「それっ」

「冷たっ……ヒャン!」

「何だその鳴き声」

 

 突然起こされたゴールドシップは少し涙目になるとトレーナーの頭をポカンと殴った。

 

「痛え! マジで痛え!」

「アタリめーだろ、このアホ! スケベ!」 

「お前が起きないのが悪いんだろ!」

「尻尾の裏触られた……お嫁に行けない……」

「俺の嫁に来るんだろ……」    

 

 その一言にトレーナーはまた殴られた。

 

「待て、本当に痛いから! 記憶なくす!」

「デリカシーの無い奴だなあ」

 

 しかし満更でもなさそうなゴールドシップの表情にトレーナーは恥ずかしがった目を逸らした。ただ、怒りの収まらないのかゴールドシップは尚も口を止めない。

 

「いきなりチンチン触られたら嫌だろ! それとおんなじなんだよ! もう!」

 

 トレーナーはぼんやりとゴールドシップの言った光景に思いを馳せた。

 

「……まあ、悪くないんじゃねえの?」

「……は?」

 

 ゴールドシップは少しだけ悪寒を覚えた。  

 だがその程度で怯むウマ娘でも無い。ここぞとばかりにトレーナーへ口撃をしかける。

 ただ1つ失敗があるとすれば、トレーナーという男の性質を見誤っていた事だ。

 

「なあ、ゴルシ」

「んにゃっ!?」

 

 突然顔を寄せられてゴールドシップは自分が急に熱を持った事を感じた。

 

「選べよ、喋るか──」

 

 トレーナーがさらに顔を近づける。

 

「──黙るか」

  

 ゴールドシップは“黙る”を選んだ。 

 深い、深い、沈黙を選んだ。

 

 コタツの外はとてもとても熱い。

 

 




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