| 【相談】親友のウマ娘を助けたい【Part3】 |
| 1.スペシャルウィークです!◆cAPta1nJP 次スレです 流石に慣れてきました
2:名無しの転生者 おつおつ
3:名無しの転生者 スペグラの濃厚な絡……《もっと見る》 |
ついさっき設けられた転生者掲示板。それを脳内で見返して、私は一つ息を吐く。
ちょっとばかり……衝撃的な事が多かったからね。
例えばここ。
| 13:名無しの転生者 栗毛の怪物に続いて今度は葦毛の二冠馬かよォ!?
14:名無しの転生者 これマジで黄金世代勢揃いもあり得るんちゃうか
15:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4 …んー? |
「
ふーん。そうなんだー、ふぅーん。───
───くそっ。
(アイツ、やっぱりオレから奪ってやがった!!)
正確に言うと、これについては“衝撃”というより“納得”の方が大きい。でも少なからず、いや盛大に心が動いた事は確かだ。
“葦毛の二冠馬”、一応そのままでも文脈は通る。オレもクロスさんも同じく白く染まる運命だから。
でも、14番。この転生者はクロスさんの戦績を知らない。
なのにオレの書き込みを見て、オレだけを指して、“二冠馬”だって!
(クロスさんがいない時空で、オレは皐月賞を勝ってるんだ。じゃないと説明がつかない…!)
「スカイちゃん、顔が怖いよ……?」
「……すみません」
ローレル先輩に言われ、口元を隠した。その口角に指で触れ、輪郭をなぞる。
引き攣っている。上に。オレは、今、笑ってる。
なんで?盗まれたのに。そうだよ盗られたんだよ、オレの
「先輩。ちょっと外行ってきます」
「あ、うん。気を付けてね、もう暗いし」
「寮から出る訳じゃないんで」
我慢できない。突き詰めれば突き詰める程、口から声が出そうになる。だから部屋を出た、先輩に余計な心配させないように。
ドアを開けて、背中で押し込むように閉めて、もたれ掛かって。ガチャリ、ロックが掛かる音。
そこが限界だ。
「あ、は────ぁははははははははッ───!!!」
誰も廊下にいなくて良かった。美浦寮が防音対策完備で助かった。
じゃなきゃオレはまるで狂人……いや違うな、まるでじゃなくて
だって、分かったんだもの!クロスクロウはオレの…………
「
天命の敵。運命に定められた敵だったんだって!
薄々気づいてたそれを、でもオレの一人よがりに過ぎないんじゃないかと思ってたこの関係を、時空レベルで保障されたんだ!世界規模で名前を付けて貰えたんだ、喜ばしくない訳が無いだろッ?!?
お前とオレは!切っても切れない仲だったんだよ!!
(そんな相手の
責任は必ず取って貰う。この手で、この足でオレが取らせる!その日が楽しみでしょうがない───!!
「───あー、うん」
悦に浸っていた陶酔を、着信音が吹き飛ばした。グループ通話のお誘いだ。
そうだねスぺちゃん。私達には話さなきゃいけない事が沢山あった。
「ハイもしもし」
《うん、スカイ。聞こえてるよ》
《あとはエルさんだけね。招待メッセージに既読が付かないのが心配だけれど》
「スレの様子はエルちゃんも見てたでしょ、じきに入って来るだろうしさっさと始めちゃおうよ」
「
どうせ議題は分かっている。さっきのスレで新しく判明した事、その中でも特大の案件だ。
事の重さとしては、さっきの二冠馬問題とか塵芥になるレベル。悔しいけれどちょっと太刀打ちできない。
《スズカさんの天皇賞秋……どうする?》
「《……うぅん……》」
クロスさんだけ救う、ってだけの話じゃなくなった。今日一番の問題はそこだった。
まさか前世でも私達の話題に出て、エルちゃん達も戦った相手がそんな事になってたなんて……ねぇ?私からすれば、菊花賞でクロスさんと競うチャンスが失われた一因ですらある訳で。
そんな彼女が、彼が、よもやクロスさんと同じく生死の瀬戸際に立たされてい
(なーるほど。君なら助けに行くわけだ、私との再戦をフイにしてでも)
あの時の不義理に理解の余地が出来てしまって、正直困っている。選抜レースでツヨシちゃんを救おうとしたのを見てたから猶更ね。
納得可能かは別として。理解だけは今できた。理解だけは。
……本当に、君ってヤツは……。
《助けたいな……》
《ええ。知ってて見過ごすなんて出来ないもの》
「それもそうだし、クロスさんも関係大アリだし」
しかし予想ができないな。チートを使っただのなんだの言われてるけど、今のクロスさんがそんな物を持ってるようには思えないし、持ってても使えるとは思えない。秋天前後での彼女の動き方も変わってきそうだし、そこをもっと詰めていく必要がある。
「クロスさんがスズカ先輩を助けたとしたら、それは人間としての前世の知識があるからだよね?いま彼女にその記憶は無い訳だけど、その場合どう動くのかな」
《
《……絶対助けに行く。クロなら、何も覚えてなくても》
「こりゃ阻止しなきゃいけませんな。グラスちゃんにはなんて伝えようか」
《私から言っておくよ》
いずれにせよ、事故発生の回避は絶対。スズカ先輩の為だけではなくクロスさんの為にも…という事実を仲間内で共有した。ここに来てやることが増えるなんて勘弁ですよもー!
で。エルちゃんは?
《まだ既読付かないね……電話も何故か受けてくれない》
《スカイさん、申し訳ないけれど訪ねる事ってできるかしら?私達は寮が別だから》
「はいよー」
頼まれたものはしょうがない、廊下を通り階段を通り当人のお部屋前へ到着。グラスちゃんは夜間訓練に出てるので、今中にいるのはエルちゃんだけの筈だ。
という訳で、ピンポーン。愛しのセイちゃんですよ~?
・
・
・
ピンポーン。いやチャイムは無いからただのノックなんだけど、もう一回。
……応答が無い。
「エルちゃ「
声に出したその瞬間、やっと来た返事。外国語じゃないから何言ったか分かんなくて、でも拒絶の意味合いだけは語調から。
有無を言わさないとばかりに。
「一人にしてください。お願いします」
「そんな事、言われたって……」
「お願いします」
取り付く島も無い。さっきのスレで何か引っかかる物が?そう聞く事さえ憚られるような断絶が、このドアを隔てて存在している。
───私に出来た事はと言えば。
「明日、また話して」
「………」
「私達はエルちゃんの仲間だから。何があっても絶対、変わらないよ」
「……ありがとう、デス」
それっきり、エルちゃんからの反応は途絶える。物音がしたから何か行動してるのは分かるんだけど……それ以上は踏み込みようが無い。
ドア一枚。それを隔てて、友達との距離が開いた気がしてならなかった。
クロス-サンはやっぱりスゴイ馬デシタ。
エルを凌ぐくらい強くて、
エルの知る誰よりも賢くて、
エルが惚れこんでしまいたくなるぐらい頼もしくて、
……優しくて。
毎日王冠。エルどころか、好き合ってる筈のグラスでさえも眼中に無いと言われ、怒り心頭になったあの日。そして思い届かず、その対応が正解だったと突き付けられたあのレース。
自己中心な怒りに見舞われていたエル達と彼では、立ってる場所が違ったんだって。文字通りレベルが違ったんだって。今日の
勝利の為だけじゃない、救助の
いや違う。毎日王冠どころか、夏、マンボを介してスズカ先輩の話題が出た時点で、もう……?
──ああ。Ah。
(やっぱり、最強はクロスクロウだ)
敵わない。そんな広い視野も、救う度量も、エルは持てない。
尊敬の念が絶えない。完全に見上げてしまいマシタ。彼が“上”だと、心が受け入れて。
誰より強くて優しくて賢くて気高い相手。
そんなクロス-サンは、エルの大好きな友達で。
本当に、大好きで。
(そんな大好きなクロス-サンに、エルは何を言った?)
「…
ふと思った。
そんな事を宣う権利が、果たしてあったかと。
エルは。
クロス-サンはエルと走るのを楽しいって言ってくれた。確かにそれはそうデスが、所詮お互い様だ。返礼にはならない。
エルは何も返せてない。教えを乞うてくれた洋芝の走り方だって、碌に伝えてあげられなかった。
それどころか。
洋芝の勝手が分からず、走りあぐねていた時。
この口で、なんと言った?
「ッ……!!」
「
ひどい。酷い、非道い、ひど過ぎる。
恩を仇で返した。地に塗れた彼へ、あろう事か追い討ちを掛けた。外道か?
目の前には立て鏡がある。掻き毟った頭を、顔を上げればすぐ見える筈だ。その外道がどんなツラをしているか。
それだけじゃ足りない。マスクを剥いで直視しなければ。誰が彼を傷付け、追いやり、追立て、そして………
「……
「…Perdón」
「グエッ」
出来なかった。乱された髪の奥にどんな顔があるのか、直視する勇気が出なかった。
エルが選んだのは逃避。ずっと呼び掛け続けてくれた
「Perdón、Perdón……」
「Perdónッ」
でもどこまで行ったって、自分からは逃げられやしない。耳を塞いだところで、頭蓋に反響する自分の声。
詰る声、嬲る声。今のエルが馬になって、ウマ娘の自分が現れて、1秒後には姿形だけ逆転して。
「
『ああ、ぁ、Ughhhhhhhhhhh……』
どうして、幸せになれるだなんて思ってしまったんだろう。
そんな権利、エルにはないのに。
その事を思い出すのに、これだけ時間がかかった事さえ、許され難いのに。
エル、狂気ダイスロール失敗の巻