SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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SCP熱にうなされて書きました。出典記載が多くて後悔しました。


第1話 直談判

 扉をノックした要は、室内からの入室許可を受けて扉を開ける。そこは小さな会議室のような場所で机は1つを除いて撤去されており、その机の向こう側に3人の人間が腰掛けていた。中央の1人は見た目は鼠のように見えるが、この超常社会。人は人の形を失った。鼠の見た目をした人間ぐらい存在するだろう。他の2人は女性が1人に男性が1人。ヒーローという存在を育成するコースを持っているためか彼らは全員プロヒーローであり、この場にもコスチュームで来ていた。

 

「失礼します。財田要です。本日はお時間を頂きありがとうございます」

 

 おそらく自分用に用意されているであろう椅子の隣まで進み、要は対面の人物に一礼をする。

 

「気楽にしてくれて良いのさ! さ、座って!」

「ありがとうございます」

 

 要が席につくと早速本題とばかりに中央の男が話し始める。

 

「さて、今日は君の『世界を終わらせたくないのであれば俺を入学させろ』という連絡を受けてこの場を設けたのさ。あってるかい?」

「そのような口調で述べたつもりはありませんが、概ねその通りです」

 

 今日この場は、非公式の場として。そして要からの脅しとも取れる連絡によって設けられていた。普通であればこのような電話は意味をなさないであろうが、そこは天下の雄英高校である。職員の大半は現役のプロヒーローで、世界が滅ぶとなれば話を聞かざるを得ない。

 

「うん、では詳しいことを聞かせてほしいのさ」

「本日は『学内での権限が特に高いお一方』とのみお話したいとお伝えしたと思いますが、3人いるように見受けられます」

 

 要が堅い口調のままそう伝えると、中央の男の代わりに右側の女性がそれに答える。

 

「いきなり連絡してきた相手と1人で会うような危険はおかせないわ。そもそも校内に入れたことすら特例よ。あなたがヴィランであった場合はどうするの?」

「私はヴィランの類ではない、と宣言しますが?」

「おいおい。まったくふてぶてしい坊主だぜ。良いか、この場を設けていることすら特例なんだよ。話を聞いてほしけりゃこの場で話しやがれ」

 

 反対側の金髪をトサカのように立てた男性の苛ついた口調に、要は表情を変えずに問答を続ける。

 

「私の話を聞いた場合、今後取られるすべての手段に関わらざるを得なくなります。よろしいですか?」

「……いったい何をやらせようってんだ?」

「端的に言えば、特殊な事情によって世界の終わりが近づきますので、それに対処する活動を極力外部に漏らさないまま行う必要がある、ということです。話を聞いた方には情報の流出を防ぐために活動に関わっていただく必要があります」

 

 世界の終わりが近づく、という要の説明に左右の男女は眉を潜めるがが中央の鼠男は話を促す。

 

「どうしてそこまで1人であることを気にするのさ?」

「私から話をお伝えした後に他の方にお伝えする分には一切の問題ではありません。ですがこの学校において活動する場合はメンバーを厳選する必要があり、またそれを考慮していただくために、最初は最も権限を持つ方のみにお伝えし、その後考えていただく必要があると考えました。が、そうおっしゃるので話を始めさせていただきます。よろしいですか?」

「……構わないのさ! 結局雄英の教師の中では共有することになるのさ」

 

 その答えを聞くと、要は小さく息を吸った。実際今のは話の重要さを示すためのブラフであり、その必要性は必ずしも無い。

 

「では。まず私のお送りした書類を見てください。ご覧の通り、現在の私の個性は『無個性』で登録されています」

「うん、どうやらそのようだね。これが虚偽である、と?」

 

 要が提出したのは、住民票の写しだ。そこには確かに、要の個性は『無個性』であると示されていた。

 

「はい。ですが私がこれまで外部に対して個性を一度も使ったことが無いだけで、実際は個性を所有しています。またその性能も限定的にでありますが個人での実験によって調査を行っています」

 

 要の説明に誰も相槌を打たないので、要は話を続ける。

 

「その個性の内容を端的に説明すると、『とある世界に存在する“異常性を持つ”物体、人物、場所、現象、概念などに関する調査報告書を脳内で閲覧し、実際にその存在を現実に呼び出す』力です」

「“異常性を持つ”、とは?」

「様々です。数は種類で1万以上、更にその存在によって一種類が複数個、あるいは複数体存在します」

 

 要の説明に、教師の3人は顔を見合わせて相談した後、質問を投げかけてくる。

 

「その存在が、世界の終わりに関わる、ということ?」

「そうです」

「具体的にどのように世界の終わりが近づくのかしら」

「数が相当数ありますのですべての説明はいたしかねますが、いくつか具体的に説明してもよろしいですか?」

 

 教師の首肯を見て、要は話し始める。

 

「その世界においてそうした異常な存在はSCiP、あるいはアノマリー、オブジェクトなど様々な呼び方をされますが、ここではオブジェクトと呼ばせていただきます。そしてそうしたオブジェクトを『確保、収容、保護』し、世界に異常が及ぶ、あるいは世界が終わるのを防ぐために活動する財団という機関が存在します。私の脳内にある情報はすべてその財団が収集した情報の調査書、あるいはそれに関する物語という形で保存されています」

 

 続けて短く息を吐いた後、要は脳内にある情報を参照しながら説明を始める。

 

「今は、22XX年ですね?」

「そうね」

「まどろっこしいな。もっと簡潔には言えねえのか?」

「危険さを認識していただくために、少々お時間をいただきます」

 

 金髪の男の苦情をにべもなくはねつけたあと、要はいよいよその存在の説明に入る。

 

「SCP-3519 These Quiet Days“静かなる日々” オブジェクトクラス《Keter》」

「あ゛? 早速わからねえものばかりだぜ」

「説明は後ほどまとめていたしますので。特別収容プロトコル『SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したとみなされます』。SCP-3519は、印刷物・視覚メディア・聴覚メディアにおける複数の媒介物によって拡散するミーム感染です。このミーム感染は『2019年3月5日に世界の終わりが来るということ、そしてその事象が発生する前に自殺するのが望ましい』ということへの強い確信からなっています」

 

 ここまで聞いて、顔色を変えるものはいない。だが、次の説明を聞いて一気に青ざめた。

 

「詳細な時系列はここでは必要ないと思われますので省きます。この感染する自殺衝動に対して財団はそのミームに対する忘却剤、あるいは対抗するミームの作成などを行って対抗しようとしますが、その影響の大きさとミーム感染の容易さからすべて失敗しました。結果。」

 

 ―――当該世界の地球の人口は、2019年3月5日の段階で一桁まで減少しました。

 

 淡々とした。だからこそ深刻さ冷酷さ。そしてそんな大事を語っているとは思えないようなギャップを孕んだ要の言葉に、3名の教師は数秒の間反応することが出来なかった。

 

「減少、って」

「はい。自殺しました。このオブジェクトは自殺衝動がかなり強いので、そうした状況下の混乱の中での死亡者より自殺者の方が遥かに多いと考えられます」

 

 しばし沈黙が続く。その後、中央の男が口を開いた。

 

「その記録は誰が取ったのさ?」

「財団の生き残った職員です。職員の数名は対抗策のために薬物などを利用して生きながらえたり、また特定の状況下における睡眠ガスによって3月5日を突破し、またその期日を超えたことで当オブジェクトの影響は失われたようです」

「人類絶滅、ってことか……」

 

 信じられないと言いたげにつぶやいた金髪の男性の言葉。それを要は心外だと言いたげに否定する。

 

「いえ? 世界は滅んでいませんよ」

「は? さっき一桁って……まさかそこから復興したのか!?」

「正確にはそうですが、おそらく考えてらっしゃることは外れています。これは別のオブジェクトの報告書から判明したのですが、その後世界は別のオブジェクトによって再構築されました」

「さい、こうちく……?」

 

 呆然といったつぶやきに、要は律儀に答える。

 

「はい。SCP-2000 Deus Ex Machina“機械仕掛けの神”、オブジェクトクラス《Thaumiel》の起動に生き残った職員が成功し、世界は再構築されました」

「どうやって……?」

「SCP-2000は、財団が建築した大型の施設です。内部にはそれまでに存在したあらゆる時代の文化基板のデータが保存されており、またそれを再現するための建築資材、器具、その他工場機械、農具などあらゆる道具が保存されており、またそれらを作成する設備を備えています。他にもデータベースには人間の遺伝子情報が保存されており、内部に50万基設置されているヒト科複製機を用いて『存在しうる』すべての個体を、5日間で任意の年齢まで成長させ、更に記憶を植え付けることが可能となっています」

「……つまり?」

「全滅した人類と個体単位で全く同じものを機械によってもう一度作り直し、世界を立て直し、最後に世界を立て直したという事実を忘れてやり直します。言ってみれば、世界のセーブ&ロードです」

 

 

 

 最初に嗚咽を漏らしたのは、右の女性と左の男性どちらだっただろうか。2人が必死に堪える中、まだましな状態の中央の男は重要なことを尋ねる。

 

「それが、世界の終わり、ということかい?」

「いえ、これは取り敢えず期日を過ぎていますので大丈夫だと思います。ただ、財団の報告書にはこれが可愛く思えるようなオブジェクトが無数に存在しています。これは少なくとも“機械仕掛けの神”を用いて世界の復興が可能ですが、そうでないものも相当数存在します。私の持っている情報群には実際に発生した際の記録は存在しませんが、最低でも将来的にはSCP-2317“世界を貪るもの”、SCP-2700“テレフォース”、SCP-1548“きらいきらい星”、SCP-1690-JP“犭貪あるいはウロボロス”によって世界が滅びることは確定していますし、他にも異常性が十全に発揮された場合には世界が滅びるものが多数存在します」

「それぞれ、どういうものなんだい?」

「封印が近い将来解ける全長200キロの人型生物、解除できないタイマーの設定された世界を消し飛ばすエネルギー兵器、地球に対して敵意を送りながら超高速で接近してくる中性子星、宇宙そのものを飲み込む宇宙の崩壊現象、です。先にお伝えしたいのは、先程述べたSCP-3519“静かなる日々”はあくまで人間だけが死ぬものであり、他の動物や自然は残るのでやり直しがききます。一方で今述べた全ては、地球が消し飛ぶか、あるいは宇宙、世界そのものが消滅するものです。そういう存在を、私は無数に内包しており、またその特性をある程度知っています」

 

 もはや個性とか超常とか、そういうレベルではない要の話に、さしものプロヒーローも黙り込む。だがやがて、女性が口を開いた。

 

「それが何故世界を滅ぼすの? あなたが個性を使わなければ良い話でしょ?」

「財団世界には、平行世界という概念が存在します。すなわち似た性質を持った、けれど別の世界です。そして財団世界ではその世界間である程度の情報収集を行ったり、また特定の世界でのみ発生した異常が平行世界に伝播したり、ということが起きています」

「それで?」

「私の個性としてこのようなものが宿った以上、この世界が財団の世界と平行世界ではない可能性は否定できません。それはすなわち、この世界でもオブジェクトが発生する、あるいは存在している可能性が示唆されます。また特定世界の財団は、世界を滅ぼす可能性のあるオブジェクトを近隣世界に投棄する性質があります。それらが出現する可能性に備えることこそが、私の役割だと考えています」

 

 要の一通りの説明を聞いた3人は、一度要を下がらせて相談を行う。その後、再び要を呼び戻した。

 要の話が真実であれば、それは憂慮すべきことであるし、対策を取らなければ要の言う通り世界が終わる可能性もある。

 

 真実であれば。

 

「つまり、君は僕たちにその財団を設立する手伝いをしてほしい、ということかい?」

「将来的にはそうですが、私が貴校への入学を求めるのはその前段階を達成することです。すなわち、現在世界においてそうした存在への対策を最も得意とするプロヒーローとなることで、将来的に財団と似通った機能を持つ組織を設立するための資金力、発言力、権限、人脈などを獲得することが目的です」

「……つまり、君を受け入れさえすれば後は君自身が自分で獲得する、ということかな」

「はい。現段階でお三方を含めてすべての人間には私の発言を信用することは困難でしょう。ですから私は、今後信用していただけるだけの実績を獲得することを第一目標とします」

 

 すなわち。ここまでSCiPに関する情報を多少公開したが、その目的はただ1つ雄英のヒーロー科に入学する、というものであった。それさえ許可されれば、後はこんな迂遠な手段を用いず堂々と地位と権限を獲得して達成していく、と宣言しているのだ。

 

「……もう少し、君の知っている知識について教えてほしいのさ。例えば、その財団は何を目的としてどのような活動をしているのか、や、君が実際にそのオブジェクトとやらを生み出したときに何が起きたのか、を。どのような危険があるのか、もさ」

「わかりました。先に述べるのを忘れていましたが、この件について私の入学に関する議論以外で外部に漏らすことは一切禁止してください。では」

 

 そこで要は立ち上がると、制服の上着を脱ぎ始める。何をしているのかと金髪の男が止めようとするが、それは中央の男が抑えた。

 

 やがて上着を脱ぎ去った要は、その腕の内側、普段は脇のあたりに隠れていて見えない場所を指し示す。その場所は通常の人間の肌ではなく、カラフルな布で出来ていた。

 

「これは比較的安全なSCiPを用いて、それを召喚し、またそれが私にも影響を及ぼすのかを確かめた跡です。オブジェクトはSCP-2295“パッチワークのハートがあるクマ”。パッチワークで出来たクマのぬいぐるみであり、周囲に体内組織、体表組織に関わらず負傷している者がいた場合、周囲の布などのパッチワークによってその部位を置換し、治療を行うオブジェクトです。それによって私の切り傷が治療された結果、私のこの場所の表皮は現在布で出来ています。またこれは通常の体組織と全く同じ機能を果たしています」

「……聞くところ危険には思えねえぞ」

「財団の目的は、『それがどのようなものであれ』異常性を有するオブジェクトの確保、収容、保護です。例え人間にとって有益であろうが異常であれば収容します。ですがこれはこの世界においては不適切です。というのは、この世界でこのままの思想を唱えた場合、まず収容すべきはすべての個性を持つ人類となるからです」

「なるほど。個性の存在しない世界における異常、ということだね。それは今後考えていかなければならない、と。そのクマのぬいぐるみは今はどうしているのさ?」

「私の家のロッカーで保管されています」

「壊せねえのか?」

「可否に関わらず、それはするべきことではありません」

「どうしてだい? 破壊できるのなら破壊するべきじゃないのかい? 財団の目的でも『破壊』は唱えられていないようだね」

 

 それは至極当然の考えだろう。異常なものが危険を及ぼすのであれば、破壊すればいい。ただそれは、真にSCiPのことを理解していないからこそ言えることである。それに服を着直しながら要は答える。

 

「SCiPは科学で解明できない異常です。その性質に関する調査報告は存在しますが、あくまでそれは様々な実験をした結果のものであり、またその実験の過程で人命が失われたことも多々あります。更に報告書内にいくつか実例が存在しますが、当初は安全であると考えられていたものの実際は判明していない性質を備えており非常に危険であると判明したオブジェクトや、今おっしゃったような破壊、あるいは収容のための試みによって敵意を増大させた危険性を増したもの、また内部に危険な実体、ようするに神か悪魔のようなものが封印されているために異常性を有するようなものも存在します。つまり、そのままの状態で保存することが最も望ましく、破壊した場合に何が起きるかわからないものも相当数存在します。そのため、オブジェクトの終了が最善の選択である場合を除き、オブジェクトの終了は行わない方が良いと考えます」

「……結局、オブジェクトってのはなんなんだよ」

「そうですね……。では、何か不思議なものを考えてみてください。不思議な能力、あるいは物体、なんでもいいです」

 

 質問で質問に返した要に、金髪の男は首を捻った後口を開く。

 

「あー、じゃあ触ったら死ぬペン、とか?」

「ありがとうございます。SCiPには、そういったものも存在しえます」

「あ? あんのか?」

「死ぬ、という言葉の意味にもよりますが、接触によって最終的に死に至る物体というのは無数に存在します。コップや水晶などが一例です。また存在『し得る』と言った通り、発見されていなくてもある可能性は非常に高いです」

「あー、じゃあ思ったことを叶えるものとかは?」

「そうした人型実体、あるいは場所が複数存在します」

「不死身の生物はいるのかしら」

「います。そのうちいくつかは財団が収容ではなく終了することを目的として扱いましたが、殺しきれていません」

「どうやって殺そうとしたの?」

「通常の火器は使用され効果があったものの異常な回復能力によって無効化された場合と、そもそも傷一つつけられなかった場合があります。薬物も基本的には通用しないか、通用しても回復されています。核兵器は使用されたオブジェクトと使用されなかったオブジェクトがありますが、使用された場合にはすべて失敗しています。ただし、SCP-2935 O, Death“あゝ死よ”、死という概念に対しては無力であり死亡しているのが確認されています」

「それはどういうものなの?」

「文字通り死という概念です。並行世界間を繋ぐ通路と、そこを通過する生物を運び手として世界を渡っていく“死”という概念です。この概念が渡った世界のすべての生命、人工知能、また知性ある異常実体、すなわち『生きているように思えるすべて』はその活動を完全に停止します。要するに世界が死にます。またこの死という概念がどの程度の規模を持つかは判明していませんが、少なくとも地球全土を覆うには十分のようであり、地球はその概念が渡ってきた瞬間に終わります」

 

 先程の自殺願望のミーム感染よりも、更に危険なもの。それに思わず3人は息を呑む。

 

「そんな、そんな馬鹿な話あるか!? だいたいそれが本当ならどうやってその記録が取られたんだよ!」

「“あゝ死よ”に関しては、世界を一定数殺した後、とある世界の財団がそこの調査を行った際にその特性に気づき、内部に侵入した機動隊員が核兵器によって自決することで死の運び手となることを避け、通路をコンクリートで封鎖しました」

「それで世界は生き残った……」

「おそらくですが、私の脳内にある報告書は複数の並行世界で記録された報告書が一箇所に集められているのだと推察します。でなければ、世界が軽く数十度は滅んでいるのにも関わらずこれほどの記録、あるいは未来の記録が存在することがありえないからです」

 

 ううむ、と考え込んだ中央の男は、再び要に質問をする。

 

「君なら、そうした異常存在を安全に確保できるのかい?」

「いえ。確かに財団が行っていた確立された方法は存在します。ですが、全ては不可能です。先程いくつかのオブジェクトについて述べた際、私が《オブジェクトクラス》というものについて言及したのは覚えていますか?」

「言ってたな、ケテル、だっけか?」

「はい。オブジェクトは基本的に《Safe》《Euclid》《Keter》の3種類に分類されます。あくまで簡易的な説明にはなりますが、Safeは完全に収容できるもの、Euclidは収容出来ているものの収容違反、すなわち収容できていない状態の発生が懸念されるもの、Keterはそもそも収容が困難なものです」

「それが分類されているということは、財団でも収容出来てないものが存在する……」

「そうです。またここで気をつけてほしいのは、これはあくまで収容の難易度であるということです」

「どういうこと?」

「例えば、ここに核爆弾とその爆破スイッチがあるとします。これをオブジェクトに分類する場合どうなると思いますか?」

「そんなの……Keter、でしょ?」

 

 女性の返答に対して、中央の男性がそれを否定する。この場で一番冷静で頭が回るのは彼のようである。

 

「いや、Safeなのさ」

「え? 校長、本気ですか?」

「正解です。Safeです」

「「は?」」

 

 要の肯定に他の2人は怪訝な表情をする。

 

「スイッチを押しさえしなければ収容違反、すなわち爆発はありえません。つまり、収容する手順が確立されています。だからどれだけ被害が大きかろうとSafeなのです」

「じゃ、じゃあEuclidやKeterなんて……」

「Euclidに指定されているものは、その収容に必要とされる手順の難易度が高い、あるいは収容したとしても状況次第では自発的に脱出されてしまうものを指します。例えばSCP-096“シャイガイ”は鋼鉄製の密封された独房に閉じ込められていますが、条件が満たされた場合には鋼鉄を軽く破って脱出します。またその行動を止める方法が見つかっていません。ちなみに先程述べた不死身の1体がこいつです」

「条件、って?」

「それは……まあ少し話がそれますがお話します。SCP-096の収容されている独房に一切の光学カメラが設置されることは禁止されています。これがどういうことかわかりますか?」

「……見ちゃいけねえ、ってことか?」

「はい。正確には、顔を目撃してはいけません。肌は真っ白です。光学映像、写真を介して目撃しても、です。CG、あるいはイラストレーションならば大丈夫のようです」

「見た場合には脱出される……何故?」

「目撃したものを殺すためです」

「「は?」」

 

 今度もまたポカンと2人が口を開く。

 

「シャイガイは顔を見たものを殺します。殺す、というかぐちゃぐちゃにすることが目的です。ぐちゃぐちゃにされる過程で死亡していようがその行為は最後まで達成されます」

「それは……じゃあ見なければいいのでは?」

「そう考えられ、感圧センサーなど光学観測以外の方法で観測されながら拘束されていました。しかし、脱出されました。シャイガイの顔が写った写真を見たものがいたからです」

「それは……どうやって撮影したの?」

「雪山を撮影した写真の中に、シャイガイの顔が4ピクセル写り込んでいました」

「……え?」

「4ピクセル、写り込んでいました。これを介して顔を見られたことを察知したシャイガイは脱走、最低時速35kmで対象の場所まで移動し殺害しました」

「4ピクセル……」

「シャイガイは身長2m20cmほどの人型実体です。肉はほとんどなく痩せていて、腕の長さは1.5mほど。これの顔なので人間と大きさは変わりません。また先程も言った通り不死身であり、戦闘機からの機銃掃射や対戦車砲に耐え、本体は裸であるにも関わらず極寒の地域にも耐え、更に深海1万メートルの水圧にも耐えます」

「深海1万……どうやって?」

「深海1万メートルの潜水艦内で1人の職員に写真を見ながらシャイガイの顔の絵を書かせました」

「そこまで追ってきたの?」

「来ました。潜水艦は沈められました」

「職員死んでるじゃない……」

「財団が雇用する職員の中にはDクラスと呼ばれる職員群が存在します。彼らは死刑囚であり、要するに死んでも良い人員です。他にも様々なオブジェクトの調査の際に使用されています。また通常職員の機動部隊ですら、オブジェクトの調査や収容において死亡しています」

「死んでも良い人員……」

「収容のためにその性質を調査することは必須であり、必要な人員とみなされています。財団の目的は人類の存続であり、個人の生命ではありません」

「……それを、やろうってのか?」

「場合によっては」

 

 世界が終わることに比べれば安いものでしょう。そう平然と言い切る要に、金髪の男性はなんとも言えない嫌な物を感じる。それは倫理的に、現代においてありえないことだ。

 

 だが。世界の終わりを直接見たようなものである要にとっては、そんなのどうでも良いことなのである。人類が終わらない事に比べれば。

 

「話がそれました。とにかくEuclidはそのようなものです。そしてKeterですが、これは収容は基本無理なものが多いです。瞬間移動によって収容から脱出するものや、世界中で発生する現象であり完全な発見と収容が困難なもの、また拡散性の非常に高いミーム感染などを指します」

「さっきの自殺願望もKeterだったね。瞬間移動は理解できるとして、世界中で発生するというのはどういうものなんだい?」

「現象ではありませんが、例えばSCP-4999 Someone to Watch Over Us“私たちを見守るもの”などです。これは細かい要件はありますが、世界中で孤独死しようとしている人間の側に出現し、その最後を見守る黒いスーツを着た中年の男性です。対象者の死の20分ほど前に出現し、死んだら消滅するので収容が困難です」

「何が危険なの?」

「危険はない、と考えられ、Keterであるものの無理な収容の試みは行われていません。むしろ対象者は彼の存在に安心感を抱き、安らかに亡くなります。財団はこれに対して、彼の写り込んだ監視カメラなどの映像を回収し、目撃者には記憶処理を施します」

 

 あえて現象ではないこれを説明したのは、Keterだからといって危険とは限らない、ということを示すためである。

 

「どういうこと?」

「伝え忘れていましたが、財団はオブジェクトの存在を一般に広めないようにしています。単純に知っただけでアウトなオブジェクトも存在しますし、そうでなくても混乱を招きます。そこでオブジェクトに接触した人物に対しては、薬物などでその記憶を忘れさせます」

「秘密結社みたいね」

「みたいではなく、まさにそうです『人類が健全で正常な世界で生きていけるように、他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない』というのが財団の使命です」

 

 それは、まさにヒーローとも言える行動だ。ただ。誰にも讃えられず、ただ戦い、そして死ぬという現代のヒーロー達には信じがたいものでもある。

 

「そう言えば、さっき人類を再構成するときにはオブジェクトクラスタウ、なんとかって言ってたわね。それは何?」

「先程のオブジェクトクラスはあくまで基本であり、これに当てはまらない例外が複数存在します。代表的なものとしてはNeutralized、Thaumiel、Apollyonがあげられます」

「それぞれどんなものだい?」

「Neutralizedはオブジェクトが破壊されたなどの理由で異常性が失われたものです。Thaumielは財団の切り札であり、特定のSCiPの影響を抑え込んだり、あるいは人類の再構成、また世界の滅亡を避けるために利用可能な様々なオブジェクトを指します。とはいえこれらの大半は本質的にはKeterあるいはApollyonであり、利用にもデメリットが存在します。言ってみれば、四肢を失うとしても生き延びた方が良い、というような状態です。そしてApollyonは先刻のKeterの更に上のクラスであり、基本的に『避けられない滅亡』を指します」

「世界が滅ぶ、ってこと?」

「……ここが少し報告書を読んでいる際に困った点なのですが、どうやら財団世界ではすでに並行世界間の移動技術が、将来的にタイムリープなどの技術が存在しているようでして、それを元にした推測のようなものも含まれています」

「どういうこと?」

「SCP-2002はApollyonでこそありませんが、説明に用いやすいのでこれについてお話します。これは端的に言えば、未来の人類が送り出した宇宙船でした。中には人類の胚などが載せられており、未来のとある段階において流行し世界を滅ぼすウイルスが無くなった更に後の時代の地球の未来で再び文明を築く、という目的の元送り出されました」

「……それで?」

「ですがこれは現代の財団の地球に出現し、財団以外の組織の手によって破壊されました」

 

 そこで間を置く要に、首を捻った金髪の男が問いかける。

 

「それが滅び、なのかよ?」

「このオブジェクトが示しているのは、将来的に人類が滅びに際してより未来に希望を託したとして、その宇宙船は誤作動を起こして過去に到達し、破壊される、という単純な事実です。即ち、人類が滅ばないようにという試みが『失敗するという事実』はこの段階で確定されました」

 

 将来滅ぶという事実を確定させてしまった、という意味で、このオブジェクトはまた『約束された滅亡』と言えるのである。

 黙り込む3人に要は説明する。

 

「こうした並行世界の関係やタイムリープの概念などを理解のために必要とするオブジェクトが複数存在します。そのため私自身の理解も正確ではない可能性が存在しますが、基本的にApollyonが発生した場合は、世界は終わる、あるいは結局的には世界の終わりを約束するものです。避けるのは不可能です。先程の“あゝ死よ”は影響に関してはApollyonレベルではありますが、一応こちらからアクセスしない限りは大丈夫です。それに対してApollyonというのは、能動的に滅ぼしに来るオブジェクトです。例えば“世界を貪るもの”は、封印が解けるのは時間の問題であり、解けた場合には広範な破壊現象とともに身長200kmの人型実体が出現するため、『滅亡は避けられない』と考えられます」

 

 これは要も感動したことではあるが。

 

 財団世界では、基本的に終わりが約束されている場合が多い。にも関わらず、財団の職員たちは、一日でも長く人類が存続し人々がその生を謳歌できるように闇に潜み活動を続ける。

 

 これ以上の献身が存在するだろうか。

 

「世界が終わるのがわかってんなら、なんで財団なんてものを作るんだ?」

「それは、いつかは死ぬのになぜヒーローなどしているのか、という質問と本質的に同じ物であると考えます。終わりに関わらず、財団は異常を収容し、人々の生活を守ります。世界が終わるその瞬間まで、です」

 

 要の言葉に、3人は黙り込む。そこで要は、財団ではなく『自分の』思いを口にする。

 

「私が財団と同様の組織をこの世界で作ろうとするのは、私が唯一この世界で、オブジェクトに関して知る人間であるからです。オブジェクト群はこの世界に出現しない可能性は十分にあります。ですから、私を入学させる意味は無いかもしれません。ですが一方で、出現する可能性があります。だからこそ私は、その有無に関わらず自分の人生をその準備へと捧げなければならないのです」

「なるほど……君の話は理解したのさ。確かに本当であれば前向きに検討することが必要なのさ。それに、具体例もひとまずあるようだ」

「ありがとうございます」

「君の話に関しては、広めない方が良いのさ?」

「財団同様、SCiPに関する情報は対処する組織内にとどめたいと考えています。ただ、仮に私が入学出来た場合には、あくまで自分の個性、あるいは創作物という形で級友には話したいと考えています」

「なぜだい?」

「一定の知識があれば、いざその組織を設立した際に納得してもらいやすいからです。ですので、私が今話したような『SCiPが自然に発生しうる』という情報は隠してほしいですが、それ以外の部分、つまり私の個性に関しては特に問題無いです。また教師の方々での私の入学に関する話し合いに関しては、その情報の共有は仕方の無いものだと考えますが、そこから外部に拡散することは固く禁じていただきたいです」

「了解したのさ。それで、ここで不合格になったらどうするのさ」

「ここか士傑の一般入試を受けます。個性を使えないとは言えある程度は鍛えていますので、現状の戦力的には他の学生にもそれほど引けを取らないかと」

「なるほど……」

 

 そこで校長は少し考え込む。そして数分後口を開く。

 

「君には、特別入試の招待状を後日送るのさ」

「特別入試、ですか?」

「そうなのさ。特に有望と思える人材に雄英の側から来てくれないかと声をかけるものなのさ。校長の権限で1人ぐらいは呼べるのさ」

「なるほど。わかりました。ありがとうございます」

 

 校長は、要の入学を正規の方法で承認しようとしているのである。つまり、今日要が話したから入学を特例的に認めた、ではなく、要が有望な人材であるために雄英の側から声をかけ、結果入学が決まった、という形にしようとしたのだ。そうすれば他の教師陣からも不要な疑いをかけられることなく、また外部への説明も容易い。

 

 こうして、要は雄英高校に入学することが決まった。




SCPについてある程度説明するために長くなりました。主人公に関する詳細は次話以降です。



この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-3519 静かなる日々
著者:sirpudding
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-3519
作成年:2017年

SCP-2000 機械仕掛けの神
著者:HammerMaiden
URL:http://www.scp-wiki.net/scp-2000
作成年:2014年


SCP-2000-JP
著者:WagnasCousin, Fes_ryuukatetu, furabbit
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp
作成年:2020年

SCP-2317 異世界への扉
著者:DrClef
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2317
作成年:2015年

SCP-2700 テレフォース
著者:Anborough
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2700
作成年:2016

SCP-1548 きらいきらい星
著者:Von Pincier
URL:http://scp-jp.wikidot.com/deleted:scp-1548
作成年:2015年
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SCP-1690-JP 犭貪あるいはウロボロス
著者:physicslike
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-1690-jp
作成年:2016年

SCP-2295 パッチワークのハートがあるクマ
著者:K Mota
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2295
作成年:2016年

SCP-198 コーヒーを1杯
著者:Soulbane
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-198
作成年:2013年

SCP-409 伝染性の水晶
著者:Dr Gears
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-409
作成年:2013年

SCP-2935 あゝ死よ
著者:djkaktus
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2935
作成年:2016年

SCP-096  "シャイガイ"
著者:Dr Dan
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-096
作成年:2013年

SCP-4999 私たちを見守るもの
著者:CadaverCommander
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-4999
作成年:2018年

SCP-2002 死した未来
著者:Crayne
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2002
作成年:2016年
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