SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
雄英高校では、体育祭というイベントがある。旧時代のそれとおおよそは変わらないのだが、個性が発達した現代に合わせて個性を利用した競技も存在している。そして特に国内随一のヒーロー科を持つ雄英高校の体育祭は、見ていて面白い。
結果として、個性出現以降衰退した他のスポーツ競技に変わってエンタメとしての地位を確立していた。
そんな体育祭が迫っている。
とはいえ、テストの直前詰め込みと違って特別なことを無理にしたところで何が変わるわけでもなく。ヒーロー科の生徒達は、普段どおりの訓練にいつもより真面目に取り組んでいる。
そんな中、要は毎日の日課となったトレーニングへと向かっていた。今日のトレーニングは室内のトレーニングルームを使った十影との組手。すぐとなりにはトレーニングマシンなどがあり、主にヒーロー科のメンバーが筋トレなどを行っている。今日はA組でもかなりの頻度で筋トレを行っている切島、砂藤がトレーニングマシンを使っており、他にも葉隠と尾白が組手の訓練、芦戸と耳郎も同じく体術の訓練をしにきていた。
「そろそろ休憩しようぜ。お前結構きついだろ」
「はぁ……はぁ……確かに、きつい」
「ほら、スポドリ飲んでろ」
十影の言葉とともに床にへたり込んだ要に、十影がスポーツドリンクのボトルを放ってくる。それを受け取った要は、一旦立ち上がってトレーニングルームの端の方まで歩いていって壁にもたれかかって座る。
そのまましばらく無言で息を整えていると、目の前に2人分の影が立つ。要が見上げると、先程まで尾白に組手を教えてもらっていた葉隠と芦戸が立っていた。
「今日も聞きたいのか?」
「「聞きたい!」」
食い気味に答える2人に、要は軽くため息をついた後立ち上がる。
「じゃあ休憩室に行こう。切島と砂藤も聞きたいなら来るように行ってくれ」
「わかったー!」
芦戸が元気よく去っていき、代わりに尾白と耳郎が3人のところにやってくる。
「おつかれ財田」
「ああ、おつかれ。お前も聞いていくか?」
「んー、そうだね。休憩に丁度いいから聞かせてほしいな」
「わかった。十影も?」
「もちろんだぜ」
「耳郎さんは……」
「……聞く」
3人の意思を確認した後、4人は連れ立ってトレーニングルーム脇の休憩室へと移動した。後から切島、砂藤、芦戸も合流してくる。
要のもう一つの日課。それはトレーニングの合間などに、そこにいるクラスメイトや十影に自分の知っている物語という体でSCPに関する報告書を語る、というものだ。もともとそれをクラスメイトに浸透させる、というのは要の目標にはあったのだが、それが楽しかったのか芦戸や葉隠、砂藤、切島らに話をするようにお願いされたのである。他にも上鳴などは興味があるようであったが、彼はほとんどトレーニングルームに寄り付かないのであまり話を聞いていない。芦戸や耳郎あたりは、むしろトレーニングの方がおまけのようなものになっているが、まあ真面目にトレーニングはしているようなので問題はないのだろう。
「じゃあ、今日も1つ話をしよう。前も言った通り、先に怖いか感動するかを言ってしまっては面白くないからどんな話かは聞くまでわからない。それでも良いか?」
要の問いかけに、話を聞いている7人は頷く。7人の中でももともと興味津々なメンバーは良いとして、耳郎などは要から見ても明らかに怖いのが苦手である。それは入学式の日に“時間切れ”について語った際に明らかであった。
にも関わらず、それを克服したいのか、あるいは怖いものみたさなのか、耳郎は話を聞こうとする。そのため要も少しばかり気をつかっていた。だから今日までは、比較的穏やかなものについて話していたのだが、今日は少し最後に恐怖が待っている物語を語るつもりである。だからこそ再度確認したのだ。
とはいえ、耳郎自身が聞く覚悟を示しているなら要がとやかく言うことではない。全員が聞く姿勢を見せているのを確認して、要は自分の役割、『語り手』となって物語を語り始めた。
******
「では。今日の物語、タイトルは『あの人にはもう会えない』。この物語は、とある1つのテーマにそって書かれているが、その話は一番最後にしよう」
要の静かな語りに、聞いているクラスメイト達は息をのむように聞き入る。少し小さな声で語ることで集中させるのだ。
「とある女の子がいました。歳は15歳。とても可愛らしい女の子で、優しく、賢く、誰からも好かれるような、そんな素敵な少女でした」
以前要の話した怖いところのある物語と違い、普通の人間、それも可愛らしい少女が主人公ということで
「彼女は母親を幼い頃に失っていましたが、とても優しいお父さんと一緒に暮らしていました。母親がいないけれど笑顔で毎日を全力で生きていくその親子を、近所の人たちや学校の友人達はとても素敵な親子だと、見守っていました」
―――けれど。そんな幸せは長くは続きませんでした。
突如として深く沈み込んだ要の言葉に、耳郎の肩がビクリと揺れる。怖いのが嫌なのであれば聞かなければよいのに、と思う反面、そういう反応を返してくれると要の側としては楽しかったりする。
少しの間を作った要は、更に話を続ける。
「お父さんは、ある雨の日に少女を学校まで迎えに行くときに交通事故にあい、亡くなってしまったのです。事故は、お父さんは安全運転をしていたにも関わらず、交差点で信号を見間違えたトラックに追突されて起こったものでした」
―――少女は、嘆きました。
「母親を亡くしたのは、少女がまだ幼いときでした。その辛い時を、父と娘、2人で手を取り合って乗り越えました。けれど、今回は? 唯一の身内であった父親を失くした少女は近所に住んでいた親戚に引き取られました。でも、少女と一緒に悲しみを乗り越えてくれる誰かは、もういません。父親を失くして悲しみにくれた少女は、そのまま学校に行くことも出来ず。自分の部屋に引きこもって、泣くだけの日を過ごしていました」
そこで言葉を切る。その物語の悲劇に、その場にいる全員が悲しそうな表情になる。
だが、要の話はそこでは終わらない。そう、ただ悲しみを与えるだけの物語は、ないのだ。
「そうして、少女が泣き続けて一月が立った頃。少女と仲の良かった同級生からメッセージが届きました。それは、『あなたがどれだけ悲しいのか、わかってる、なんて私には言えない。でも、〇〇ちゃんとまた一緒に話して、ご飯食べて、笑いたい。だから私にできることが無いか調べたの。すぐには元気になれないと思う。でももし何か話せるなら、私にも話してほしい。話すと楽になるんだって』という短いメッセージと、1つのURLが添付されていました」
―――そのメッセージを読んだ少女は、一日ほど経った後、彼女にメッセージを送りました。それは、少女が一月ぶりに、誰かと言葉を交わした瞬間でした。
「『心配かけてごめんね。ちゃんと前を向いて進まないと駄目なのはわかってるの。でも、お父さんともっと話しておけばよかったな。もっと、一緒にいたかったな。最後にお礼も言えなかったなって。そう思うととても悲しいの』。少女が送ると、すぐにメッセージが帰ってきます」
「『そ、っか。ねえ、〇〇。お父さんに最後にもう一回だけ会って話せるとしたら、会いたい?』」
―――それは、友人の必死の試みでした。
「『会いたい。会って、話がしたい。お礼が言いたいの』。少女がそう返すと、友人はURLを開いてそのページを見てほしいと言ってきました」
もしかして、可愛そうな少女はもう一度父と会えるのだろうか。そう考えた皆は、息を殺して話の続きを待つ。
「そのURLは、都市伝説のようなページに繋がっていました。その都市伝説の内容は、とある踏切についてのものでした。特定の時間帯に特定の条件を満たすと、亡くなった人と会える、というものでした」
なんだ都市伝説か。そんな雰囲気が漂い始めたところに、要は少し語気を強めて語る。
「ですが。不思議なのは、他の都市伝説と比べてその都市伝説には、短い報告が多いことです。他の都市伝説は、それを見たと主張する人たちが、自分の話をみんなに見てほしい、あるいは話題になってほしいと、長々とした、あるいはわざと興味を引くような文章を書いています。けれどその都市伝説についての文章はすべて短くまとめられており、また実際に遭遇した、という人たちの感想も短いものでした。『あの人に会えた。ありがとう』『最後にもう一度話せて幸せだった』」
―――そんな、まるでそれが本当であるかのような文章がたくさん書かれていたのです。
「実はこの都市伝説。噂ではなく、本当のことでした。この都市伝説の通りに踏切にいきちゃんと手順を踏めば、数十分の間、亡くなった大切な人と会い、話ができるのです。そのことをより詳しく調べて知った少女は、この踏切に行ってみることにしました」
要の語る物語に、聞いている皆の表情が少し明るくなる。これは、親子の再会の感動の物語なのである。
「そうして手順を覚えた少女は、その踏切に行きました。亡くなった人と会うための条件はそれほど多くはありません。深夜2時に特定の方向から踏切に近づいて、亡くなった人ともう一度会いたいと強く念じるだけです。そのとき踏切の半径200メートル以内に、他の人がいてはいけませんが、田舎の踏切です。深夜2時に人がいるはずがありません。そんな場所へ少女は、怖さを感じながらも向かいました。ただ、会いたい、という一心で」
ゴクリ、と、聞いている誰かの喉が鳴る。深夜2時。1人。その言葉が、嫌な雰囲気を醸し出していた。
「少女は、その踏切の前まで行って、『お父さんに会いたい』と強く願いました」
―――すると、なんと、お父さんが現れたのです。
「『お父さん!』。そう少女は呼びかけました。すると父は照れくさそうに、そして少し申し訳無さそうに答えました。『久しぶり、〇〇。ごめんな、お前を置いていっちゃって』。父親の方へ近づこうと踏切を乗り越えようとした少女でしたが、そこには透明な壁があって近づくことが出来ませんでした。生きている人は、死んでいる人の手を握ることはできません。同じように、死んでいる人は生きている人を抱きしめることは出来ません。だけど。せめて、言葉を交わせるように。そんな祈りが、この踏切には詰まっていました」
物語の光景を想像し、聞いている皆が感動する。葉隠などは涙ぐんでいた。
「少女と父親は、たくさん話をしました。父は、娘に頑張ってほしい、と。少女は、父にありがとう、と。たくさんの思い出を語りました。そして30分が経った頃、父親の後ろに可愛らしい子供の姿をした、白い翼の生えた人物が現れます。その子供が父の手を取って笑うと、父はその子供に笑いかけました。それを見て、少女は気づきました。ああ、お父さんは、天使に連れられて、天国に行くんだな、と。そうして、お父さんは少女の前から姿を消しました」
要がそこまで語り切ると、皆が詰めていた息を吐き出す。可愛そうな少女は、最後に父と言葉を交わすことが出来たのだ。
「それから少女は、元気を取り戻し、また学校へ行くようになりました。そして学校に行くと、あのURLを送ってくれた友達にもお礼を言いました。『あなたのおかげでお父さんに会えた』と。それに友達も答えました。『良かったね。お父さんは、どうなったの?』。『たくさんお話した後、天使が連れて行っちゃった。ちょっと寂しいけど、お父さんは天国に行けるんだもんね』『そっか。良かったね』『うん』」
二人分の会話を、要は声を変えることで聞いていてわかりやすいようにする。
「こうして、少女は、大切なあの人に、会うことが出来たのです」
要が語り終えると、聞いていた皆は静かに拍手を始める。
だが。それを要が手で制した。まだ話は終わっていない、と。
「この不思議な踏切は、とても昔からあったそうです。そしてこれまで、たくさんの人がこの踏切のおかげで亡くなった人と出会い、それぞれに前を向いて人生を歩き始めました。こんな不思議な踏切ですから当然それを調べようという団体もいました。けれど、こんな素敵な踏切を独占する気にはなれず、この踏切を使っている人が来たら録音記録を取ったり、話を聞いたりするだけでした。もっとも、何故か録音にはノイズが入ってしまうので、実際は体験した人にインタビューすることしかできません」
それは、当然の話である。こんな素敵な踏切だ。皆が使いたいだろう。例え全員が押しかけたら使えなくなってしまうから都市伝説になってるとしても。
「記録を取り始めてから、たくさんの人がこの踏切に来ました。最初に来たのは10代の男性でした。男性は、亡くなった交際相手に会いに来たのです。そうして26分ほど会話をした後、女性は天使に連れられて去ってしまいました。その後調査している団体が男性に話を聞いたところ、男性はとても幸せそうでした。またその後男性がもう一度元交際相手に会いに行ったそうですが、天国へと行ってしまったのかもう二度と彼女が現れることはありませんでした」
「次に来たのは、20代の男性でした。彼は、病死した弟に会いに来たそうです。彼もまた弟と会うことが出来、24分ほど会話をした後、天使に連れられて弟は姿を消しました」
「次に来たのは、30代の女性でした。彼女は亡くなってしまった父に会いに来たそうです。父親は生前は認知症が進んでいたそうですが、その様子は見せず、女性のことを気遣う発言や、自分にとらわれず前に進んでほしいという言葉を繰り返しました。そして話し始めてから22分ぐらいで、天使に連れられて姿を消しました」
「次に来たのは、90代の女性でした。現れたのはなんと、20代の男性です。男性は、女性の夫でしたが戦争で亡くなってしまっていたそうでした。2人の間には長い長い時間の溝があったにも関わらず、2人の会話には問題が無かったそうです。ただし、男性が亡くなってしまってからの知識は無いようでした。そうして男性は女性に愛情を注げて、20分程で天使と共にいなくなりました」
「ここから団体は、自分たちの知り合いで大切な人を失くした人に調査を手伝ってもらおうと、声をかけました。亡くなった人に会えるならと協力してくれる人はたくさんいました」
調査、と。少し話の様子が変わってきたことに気づいた皆が、怪訝な表情をするが、要は構わずに物語を進める。
「最初に実験をしたのは30代の女性でした。彼女は婚約者を事故で失くしていました。そして彼女がこの踏切を使うと、たしかに男性が現れ、互いに涙しながら愛を伝えあいました。そして今回ははじめて2人の天使が現れ、話し始めてから13分たった頃に男性と一緒にいなくなりました」
何かが起こっている。だが、何が?
「そして次の実験のために録音器具などを設置しようと団体の人達が踏切の近くまでいくと、何故か、まだ深夜2時になっていないにも関わらず天使が現れました。それも、これまでと比べて遥かに多い8人。団体の人達は彼らに声をかけましたが、天使たちは笑っているだけでした。結局天使たちはそのまま深夜2時までそこにいたので、構わずに実験が行われました。しかし、その実験が始まってすぐ、異変が起こりました」
異変という言葉に、全員の表情が強ばる。
「亡くなった人が踏切の向こう側に現れてすぐ、天使たちがその人物に群がるようにして、その体のあちこちを引っ張り始めたのです。そして亡くなった人が現れて3分ぐらいで、その人物を引きずるようにしてすぐに消えてしまいました」
それは、まるで。
「それからも何度か実験が計画されましたが、そのたびに実験を始める前には複数の天使が現れるようになりました。これでは、話が出来ません。天使は、天国から逃げ出した魂をすぐに連れ戻そうとしているのでしょう。亡くなった人と話せていたのは、まさしく奇跡なのです」
ああ、やはり死んだ人と会うのは、ずるいことだったんだ、と聞いていた皆は考えた。だからこそ、少女が父親と長く話せたのは奇跡なのだと。
しかし。
要の話はそこで終わらない。
「実験が行えないので、団体は別の方法でこれについて調査しようとしました。つまり、都市伝説をたどって、一番最初はどんなものだったのか調べようとしたのです。すると、不思議なことがわかりました」
―――とある時期より昔は、亡くなった人は天使とともにいなくなるのではなく、電車に乗って帰っていく、というものだったのです。
「ここで、この踏切で起きる出来事が変わっているのがわかりました。そして、もう一つわかったことがあります」
「この踏切での録音を取ると、必ずノイズが入るのですが、このノイズは特定のパターンが存在しているのです。すべてのノイズが同じような歪み方をしており、それを逆にたどることでこのノイズを元の音声に戻すことに成功したのです」
―――つまり。なぜうまく録音できないのかがこれでわかる。そう考えてこれを再生した彼らは、後悔しました。
後悔、と。不穏な単語に、聞き手は眉を潜めた。これは、感動的なお話ではないのか、と。
「後悔って?」
そう問いかけた芦戸に、要はニコリと笑って話を続ける。
「復元された音声は、これまで確認できているすべての記録において、『咀嚼音』に類似した未知の音響と、踏切の向こう側に出現した故人の『絶え間ない絶叫』の組み合わせで構成されていました」
要の言った言葉を皆が理解するのに有した時間は、有に10秒以上。
「最初に言い忘れていましたね。この物語のテーマは『捕食』。『大切なあの人』には『もう会えません』。だってみんな、天使の見た目をした化け物に食われてしまったのですから」
ああ、そうだ。それはまるで。餌を待つペットのように。
「これで今回のお話はおしまい。お代は結構。楽しんでいただけましたか?」
******
要の話が終わって1分ほど。誰も言葉を発することなく沈黙が続く。その空間を他のクラスや学年の生徒が奇妙そうに見ながら通り過ぎていくが、誰もそれに反応できない。
やがて、砂藤が口を開いた。
「なあ、財田」
「なんだ?」
「今日のは話は、感動系じゃないのか?」
「いや? 感動と見せかけて絶望系の話だ」
「たちわる」
砂藤の感想に要はニコリと笑う。そう言ってもらえれば、このオブジェクトについて語った価値があるというものだ。世界は、理由のない理不尽にみちている。それを端的に示してくれるオブジェクトである。
「え、じゃあお父さん食べられちゃったの!?」
「多分な。少女の時はまだ記録がされてなかったが、天使がでてきた以上食べられてるんだろう」
「えー!? 感動する話じゃないの!? 財田くんは鬼なの!?」
「いや、これは俺が考えたんじゃなくて、個性で頭の中にある――」
「そんな話する時点で鬼じゃん! ほら、耳郎ちゃんまた泣きそうになってる!」
「ちょっと葉隠! 今回はなってないから! 怖いって言っても前のと違うじゃん!」
「でも耳郎目濡れてるよ?」
「う、うるさい芦戸! 別にそういうのじゃないから!というか財田! なんであんたの話はそんなのばっかりなの!?」
「いや、この前の“パッチワークのハートがあるクマ”とか“恩人へ”とかは感動系だっただろ」
耳郎の怒りの声に要はそう答えるが、耳郎の怒りは収まらない。
「絶対怖いやつ出てくるし誰か死ぬじゃん!」
「あー、まあそれは確かに……でもそういう話しか頭の中に無いからな」
「もう絶対うち聞かないから」
「怖いのか?」
「そういうわけじゃない!」
「じゃあまた次も聞いてくれるよな」
うまいこと耳郎に次も聞かせようとする要と、嫌そうにしながらもそれに言い返せない耳郎の会話を、芦戸と葉隠は笑いながら見ている。
一方で、男子陣は密かに今の物語の怖さを共有していた。一部を除いて。
「切島、理解できた?」
「いや、ぜんっぜんわからねえ。なんで女子はあんなに騒いでんだ?」
「知らないほうが幸せかもね、この話は」
そう答える尾白の顔色は若干青い。話が終わった後に実際にそれを想像して、気分が悪くなったのだ。
「なんだよ、そんな怖いのか?」
「まー怖いと言うか、なんかいやな気分がするっていうか……おーい財田! 切島がわからねえってよ」
女子陣に責められていた財田は、砂藤に呼ばれたのを良いことにそこから離れて切島の方にやってくる。
「なんだ、わからなかったか? というか十影もわかってない感じかその感じだと」
切島と、1人で首を捻っている十影を見て要はわかりやすく説明することにする。この話は、たしかに遠回しの言い方が多く、気づかなければわからない部分もあるだろう。
「つまり、この踏切は2つの出来事が起きるんだ」
「2つ? 死んだ人と会えるんじゃないのか?」
切島の言葉に十影も頷いているのを確認して要は説明を続ける。
「そうだ。1つ目は、死んだ人と会える。そしてもう一つは、死んだ人を何かが食べてしまう」
「え?」
「最後に言っただろ。このノイズの音を解析したら、咀嚼音、つまり何かを食べる音と、悲鳴だったって。それに、この天使みたいな奴らがたくさん出てきて、話をする前に亡くなった人を連れて行ってしまう」
そう丁寧に解説していると、既に半分限界を迎えていた尾白がよろよろと離れていった。そして耳郎と共に葉隠たちに慰められている。
「え!? じゃあせっかくお父さんと会えたのにそのせいでお父さん食べられたのかよ! 男らしくねえ話だな!」
「物語に男らしさを求めるな。だから、物語のテーマは『捕食』だし、最初にタイトルを言っただろ? 『あの人にはもう会えない』。食べられた人とは二度と会えないんだ。この話では」
「なんか、普通に聞くと変な感じなのに考えれば考えるほど怖い、っつーか嫌な気分になる話だな」
「だろ? まあ、俺は結構好きではあるけどな。このどんでん返し感」
「趣味悪いのな、財田」
「趣味が多様なだけだ。普通に感動するのも好きだ」
とんでもない言われように要は反論をするが、たしかにこの物語が好きなのは少し普通ではない嗜好ではあるのだろう。とはいえ、シンプルなオブジェクトが多い中で物語として語りやすいものであるのも確かだ。また、聞いていない他のクラスメイトに是非語ってみたいと思う要であった。
ちゃんと語る話も混ぜていこうかな、なんて。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-1283-JP 踏切の向こう
著者:rkondo_001
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-1283-jp
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私は現在、一日2話以上(全作品通して)の更新を行っています。ですが就職をした場合、これは週に1話かあるいは一月に1話など減ってしまう可能性が高いです。物理的に書く時間が無いので。
ですが私は、一生創作を続けたいです。創作に専念していきたいです。ですので、支援していただける方はお願いします。私は無数の物語を生み出していくことを約束します。月200円のプランを用意しています。ジュース2本ほど。私の小説にそれだけの価値があると思っていただけるなら、是非お願いします。