SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
「やあ! 昨日ぶり! そっちの君もオブジェクトかい?」
個室の扉を開けた十影とその後ろの要に話しかけたのは、金髪をオールバックにまとめた白人の男性だった。白人の割には、その言葉は日本人のものとなんら相違ない。
「いえ。ミスターブライト?」
「そんな堅苦しい呼び方をしないでくれよ。ブライトさんの方がましだよ」
かまをかけるように相手の名前を読んだ要に対して、その男性は否定も肯定もしない。警戒しながらも、要と十影は彼と相対する位置に座った。個室は6人で利用する広さになっているようで、スペースにはかなり余裕がある。
「ブライトさん、詳しい話を―――」
要がそう話はじめようとすると、個室のドアがノックされる。
「どうぞー!」
白人の男がそう返事をすると、扉が開く。扉の向こうには、1人の女子高生が立っていた。制服からして、雄英高校の、それもヒーロー科の人間であろう。茶髪に白い肌をしており、顔つき体つきは一般的に見てかなりの美少女と言えるのであろう。
「やあ! 昨日ぶりだね! 取り敢えず座ってくれたまえ」
「……どうも」
勢いの良い男性の挨拶に対して女子生徒は短く返すと、少し迷った後要の隣に座り込んできた。
「さあ、取り敢えず注文しよう! 好きなものを頼んでいいよ!」
そう元気よく男性は言うが、3人はそれぞれに言葉を発さない。はっきり言って胡散臭い相手に、それほど心を許すことは出来ない。
それを見て取ったのか、男性は4人分のコーヒーと自分の分のチーズケーキを注文しようとする。そこに至ってようやく、後から個室に入ってきた女子生徒が声を上げた。
「私カフェラテで」
それを聞いた男性は、嬉しそうに声を上げる。
「おや! ブラックは苦手かい?」
「カフェラテが好きなだけです」
ニヤニヤと、からかうような口調で言う男性に対して、冷たい対応をする女子生徒。もっとも、この男性に呼ばれた、即ちこの男性のことを少しでも知っているなら当然とも言える反応かもしれない。
しばらく無言の時間が続き、やがてそれぞれの飲み物や男性のチーズケーキが届いたところで男性が話し始める。
「さてさて、それじゃあ私の自己紹介から始めようかな。といっても、君たちはもう気づいているだろう?」
どうだい? という男性の視線に女子生徒は答えようとせず、十影は要に任せるといった視線を向けてくる。仕方なく要が3人を代表する形でそれに答えた。
「ジャック・ブライト博士。その首飾りはSCP-963“不死の首飾り”ですか?」
「うーん残念! 私は確かにジャック・ブライトだ。正確に言えば、この心と頭脳はジャック・ブライトだ。けれどこの体は、ジャック・ブライトではない。そしてこれも、君が思ってるような代物じゃない」
そう言ったブライトは、首飾りを外そうとその輪っか頭から外そうとする。だが、外そうとした首飾りは首の後ろのなにかに引っかかっているようであり、外れることが無かった。
「俺が思っている代物ではない、とは?」
「そのままの意味さ! これはオブジェクトじゃない。私の体の一部なんだ。異形系の個性、とでも言えば良いのかな」
そう言ったブライトは、首飾りを外そうとする行動をやめて、机に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せる。
「さてさて。私の話はした。今度は君たちの話も聞かせてほしいな」
「待ってくれ、何のことかわからねえぞ」
話をこちら側に振ってくる男性に対し、十影が待ったをかける。
「つまり、あんたはあのブライト博士なのか? あの頭のおかしい?」
「中身はそうさ。財団職員のジャック・ブライトだ。と言ってもこれは通じてるのかな? まあとにかく、ジャック・ブライトだ。けどこの体はたしかにこの世界に生まれた人間だ。何の因果かしらないが、私の精神がこの世界で生まれる子供に宿ってしまったようでね。私は確かにこの世界の人間で、この首飾りもオブジェクトじゃない。ただの個性さ」
なるほど、と。十影と要が頷く一方で、もうひとりの女子生徒は若干苛ついた様子で口を開く。
「あなたが何者なのかはどうだって良い。私はなんであなたが私のもう一つの記憶について知ってるのかを聞きに来たの」
「知ってどうしたい?」
「……さあ。ただ興味があるだけ」
質問に質問で返される形になった女子生徒は不機嫌そうな表情になるが、ブライトと名乗った男性はそれをあえて無視して要の方へと向き直る。
「それで、君は何故来たのかな? 何か彼と、682と関係あるのかい?」
「おい、今の俺は藤見十影って名前がちゃんとあるんだからな」
「おっと、これは失礼。聞きたかったんだけど、君の人格はあの爬虫類のものではないのかい? 違うんだろうね。そうだったら雄英高校でヒーローなど目指してないだろうから。でも記憶はある、と」
十影とブライトの会話に、今度は女子生徒が興味を示す。
「あなたも記憶があるの?」
「まあ、記憶っつうか前世の記憶みたいなのがあるぜ。そういうあんたも?」
「……あるわ。あなたのは、どんな記憶?」
女子生徒の言葉に十影が答えようとしたところで、要がそれを抑えた口を開く。
「そういう話は後で2人でしてもらって良いか? 今は取り敢えず、ブライトさんとの話をすませてしまおう」
「……まあ、別に良いけど」
「おう、じゃあ要よろしく」
不承不承ながら頷いた女子生徒を確認した要は、ブライトに向き直って話始める。
「何故わざわざ、私は置いておいてこの2人を集めたのですか? 収容するためですか?」
要の問に、ブライトは肩をすくめて答える。
「いやいや。そもそもこの世界に今のところ財団は存在してないよ」
「では何故?」
「何故……いやあ、話を聞いて記憶があるみたいだったから、良かったら私の知り合いの事務所に来ないかと思ってね」
「知り合い、というとヒーローですか?」
「ああ。まあ、その話は取り敢えず置いておいて。収容、ということは、君も何かのオブジェクトに由来する個性を持っているのかい?」
核心に迫るブライトの問いかけ。その問いかけに答えるか否か要が悩んでいる間に、女子生徒が口を開いた。
「さっきから収容とか財団とか言ってるけど、それが私の記憶に関係があるの?」
女子生徒の問いかけに、ブライトは笑顔で頷いて答える。
「そうさ。君が記憶の中でいた研究所のような施設、わかるかい?」
ブライトの問いかけに、女子生徒は嫌そうに顔をしかめながら頷く。
「その組織が財団さ。私達は、君の過去の姿のような異常なものが一般の人間に悪影響を及ぼさないように収容していたんだ」
「なぜ……なぜ記憶の中のわたしはこんなひどいことができるの?」
「さあ? 最も、そう言えるということは今の君がそれとは全く違うというころだろうね。それに、おそらく昔の君にはまともな思考と言えるようなものが存在していないんじゃないかな? だから今の君が記憶をたどったところで理解が出来ない。けどそっちの君は昔の自分が何を考えていたのか覚えているだろう? 昔の君は、高度な知能を持っていたからね」
ブライトが話を振ると、十影はそれに頷いて答える。
「ああ、まあ。なんつーか、生き物が大嫌いだったのはわかる。後は他にどんな会話をしたかとかも覚えてるぜ」
「あなたは話すことが出来たの?」
「ああ。あんたは出来なかったのか?」
「出来ないわ。だって私、動けるといってもクマのぬいぐるみだったもの。変な話よね。こんな記憶があるなんて」
その言葉を聞いた瞬間、要はコーヒーを吹き出しそうになったのを必死で耐えた。
「すまない、1つ聞きたいんだが」
「何?」
「あなたは、もしかして記憶の中でいろんな物をくっつけて自分と同じ形の物を作っていたか?」
要のその質問に、女子生徒は顔色を変える。
「なんで、知ってるの? 私が何で、人形を作っていたのかも知ってる?」
「全部じゃない。記録されてる限りでしか知らない。しかし、そうか……」
なんとなくここに揃っているメンバーについてわかった要は、ブライトではなくその女子生徒に対して、まずは彼女の記憶のもととなったものについて説明することにした。ブライトならば、その話を聞いていれば要についておおよそのことを把握できてしまうだろう。
「まずあなたのその記憶は、ブライトさんの話が正しければこことは違う世界でのとある存在の記憶だ」
「こことは違う世界、ってラノベとかである異世界のこと?」
「ああ、そのようなものだ。その世界は、今俺たちのいるこの世界とは違って個性が存在しない世界だった。超常黎明以前、と同じような状態だな。そして代わりに、そこには様々な異常なものが存在していた。この場合の異常というのは人間の科学で解明出来ない力や効力を秘めている、ということだ」
「異常なもの……それってもしかして、昔の私も……自分で動くクマのぬいぐるみも居るの?」
「ああ。その世界では、そうした異常な存在を『確保・収容・保護』する組織があった。それがさっき話に出てきた財団だ。記憶の中にいるあなたも、その異常なものの1つとして財団が収容していたんだ」
要の説明を聞いて女子生徒は少し考え込んだ後、疑問を要にぶつける。
「その異常なものって、他にどんなものがあったの? 後なんであなたはそれを知ってるの? なんで、私の記憶はとぎれとぎれの映像しかないの?」
「他の異常で言えば、例えばこいつは、体育祭の1年の映像を見てもらえばわかると思うが巨大な爬虫類の姿をしている。既存の生物には存在せず、またありえないレベルの再生能力を持っている。他にも、とにかく様々なものが存在した」
体育祭、と言われた女子生徒は、スマホでその映像を探し始める。そして決勝戦で明らかになったその姿を確認して、軽く悲鳴をもらした。
「怖い……」
「傷つくぞおい」
「あっ、えと、ごめんなさい」
「次の疑問についてだが、あなたの記憶がとぎれとぎれだったりするのは、おそらくあなたの元がただのクマのぬいぐるみだったからだと思う。人間のような思考回路や記憶のための器官が無かったから、人間であるあなたが記憶を思い出そうとしても上手くいかないんだろう」
「人間じゃなかったから、ってことね」
「ああ」
「それで、なんであなたはそんなことを知ってるの? あなたもそこのおじさんみたいに異世界から転生した、ってこと?」
おじさん、と言われたブライトは、ニコニコとしながら話を聞いている。
「いや……。おそらくは俺の個性、だと思うんだが、俺の頭の中にはその財団という組織がまとめてきたすべての報告書が存在しているんだ」
「報告書?」
「ああ。例えばあなたについてなら動くクマのぬいぐるみがどんなことをできるのか、どんな危険性があるのか、どんな事件を起こしたのか、なんてことが記録されてる」
「それで私の記憶を知ってたの?」
「ああ。ひどいことをしたクマのぬいぐるみ、というのでわかった」
「そっか……」
そう言って呟いた後、女子生徒は何やら考え込む。その間に要はブライトの方へと視線を向けた。
「今言った通り、俺は財団の残した報告書、それもおそらく複数の世界の財団が残した報告書を脳内で閲覧できます。それに加えて、おそらくすべてのオブジェクトをこの世界に出現させることができます」
「閲覧、というのはどういう精度だい?」
「報告書の文書や映像、音声記録を目の前で閲覧しているような感じです」
「つまり精度は完璧、と。それで、オブジェクトを召喚できるというのは?」
「もう既に複数の召喚に成功してます。家に保管していますが。おそらく、報告書に存在しているすべてのオブジェクトを出現させることが出来ます。Keter、Apollyonクラスですら、です」
「Wow……」
要の説明に、ブライトも驚いたような感嘆したような声を出す。
「それは、勝手に出てくることはないのかい?」
「おそらくそういうことはない、と思います。けど何が起きるかわかりません。それに、この世界にオブジェクトが存在しているのかもわかりません。だから自分でこの世界に財団を作ろうと思っていたんですが……」
「ああ、そういうことか。それで十影くんとも知り合いだったってことか」
「いえ、こいつとは普通に高校の入試で知り合いました。俺の方が一方的に知ってたんですが、記憶があるようだったので話したんです」
要の説明を聞くと、ブライトは少し考え込む。そして再び口を開いた。
「うん、やっぱり君も私の知り合いのところにおいでよ。財団を作ろうと思っているならちょうど良い」
「それは職場体験で、ということですか?」
「うん、そうだね。今日中にスカウトを送らせておくよ。十影くんも。ところで君名前は?」
「財田要です」
「わかった」
ブライトは何やらサラサラと、メモ帳に書き記している。その間に今度は女子生徒が要に話しかけてきた。
「財団を作るって、この世界にも昔の私みたいな危ないものがある、ってこと?」
「絶対にあるかはわからない。けど、オブジェクトの中には放置しているだけで世界が終わるようなものが無数にある。自分の記憶に苦しんでいるあなたに言うのは悪いかもしれないが、あなたがしたことはそうしたものと比べると大したことがないレベルなんだ」
遠慮の無い要の言い様に、女子生徒は息をのむ。
「大したことがない、って……。何人も人を、その……」
「あなたのはせいぜい十数人だ。それも小さくて捕まえにくいから捕まってないだけだ。だけど、例えばこいつは厳重な警備のもと収容されていた。それでも何回も脱出しては、武装した相手を100人以上を殺してる」
「俺じゃねえけどな」
「ああ。とにかく、そんなものが報告書には溢れてる。しかもそれでも可愛い方だ。例えばもっと危ないものだったら、知るだけで世界中の人間が死んでいくようなものだってある」
「知るだけで……?」
「そういう存在があることを俺は知っているし、実際に召喚できてしまう。そうである以上、この世界にそういうものが出現する可能性は十分にある。だから俺は、自分で財団を作らないといけない、と思ってる」
「なんで?」
「その危険を、俺だけが知っているからだ」
話が一区切りついたところで、ブライトが女子生徒に声をかけた。
「それで、久美ちゃんはどうするんだい? 私の知り合いのところに来るかい? 来るならスカウトを送っておくよ」
「……はい」
こうして、元オブジェクト2人と、報告書を網羅したメンバーが、財団きっての問題児『ブライト博士』の元で職場体験をすることが決まった。
ちょっと話の展開を急ぎすぎ、かな?
次話は久美(キチクマ)との会話です。久美は知性の低いオブジェクトであり(能力の行使以外という意味)また682の方には他のオブジェクトに対する知識がある描写があったので、十影よりもSCPに関して無知です。
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私は現在、一日2話以上(全作品通して)の更新を行っています。ですが就職をした場合、これは週に1話かあるいは一月に1話など減ってしまう可能性が高いです。物理的に書く時間が無いので。
ですが私は、一生創作を続けたいです。創作に専念していきたいです。ですので、支援していただける方はお願いします。私は無数の物語を生み出していくことを約束します。月200円のプランを用意しています。ジュース2本ほど。私の小説にそれだけの価値があると思っていただけるなら、是非お願いします。