SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
話が一息ついたところで、ブライト博士はチーズケーキを美味しそうに食べ始める。
「ブライトさん、食い物頼んでいいか? 腹減った」
「構わないよ。ちなみに今の君の食欲はどうなってるんだい?」
「あ、食欲? そりゃあ普通に食べるけど」
「いやいや、そういうことじゃないよ。要くんはわかるよね?」
ブライトにそう問いかけられた、スマホを操作していた要は顔を上げる。
「682の特徴の話か? 基本食事を必要としないし、塩酸を分解することでえら呼吸のようなものを行う、塩酸からエネルギーを吸収している、ぐらいか」
「は? 俺そんなことできんの?」
「お前ができるかわからない。だが再生能力と適応能力がある以上、ずっとそういう環境におかれれば適応するだろ」
「はー、なるほどね」
要の説明に頷いた十影は、メニューを眺めながら自分の個性でできることはまだ存在するのだと考えを巡らせる。一方要は、隣に座っている女子生徒から話しかけられていた。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、なんです?」
「えっと、なんで敬語?」
「よく考えたら先輩だなと思ったので雄英のヒーロー科の2年生か3年生ですよね?」
要が問いかけると、女子生徒は目をパチクリさせる。そこでようやく、要と十影が雄英の生徒であることを認識したようだ。それだけ、自分の前世の記憶を知っている相手に対する警戒や恐れが強かったのである。
「2年A組人形久美。あなた達は1年生、よね」
「1年A組財田要です。こっちはB組の藤見十影」
「よろしく!」
メニューから顔を上げずにそう言った十影は、そのまま卓上に設置された端末を操作して食事を注文していた。
「先輩と要もなんかいる?」
「適当に食い物」
「私は家で食べるから良い」
「はいよ」
十影に答え終えた要が久美の方に振り返ると、何やら悩んだ様子の彼女が要の方を向いていた。
「それで、話というのは?」
「あー、その……私の昔のこととか、他の危険なその、異常なもの? のこととか。聞いてみたいと思って」
「……先輩の記憶のことは先輩にも聞く権利があると思いますが、他の異常なものについて聞くなら俺に協力することを約束してほしいです」
「財団を作るって話?」
「はい。別に絶対に所属しろとは言いませんが、ヒーローになったとして要請をした場合には協力してもらいたいです」
要の言葉に、少し悩んだ後久美は頷いた。
「ヒーローとしての仕事ってことでしょ?」
「そうですね。外部協力者ならそういう形になると思います」
「なら協力するよ。そんな危ないもの放っておけないし」
「ありがとうございます。では、取り敢えず先輩の記憶の話からですね」
「うん。私が何をして人間からどう見えていたか、教えてほしい」
「かなり衝撃的だと思いますが、大丈夫ですか?」
要の問に、今度は久美は躊躇いなく頷いた。生まれて、個性が発現してからずっと、自分のものではない記憶にうなされ続けてきた。自分が恐ろしくてたまらなかった。いつか、家族や友人をそうやって傷つけてしまうんではないかと。
それが怖くて、自分は傷つけるのではなく助ける側になりたいと思って。ヒーローを目指そうと思ったのだ。だから。もし自分のことに関する記録があるなら、聞いておきたい。
「では」
******
SCP-1048“ビルダーベア”は、高さ33センチの小さなテディベアです。調査が行われましたがその異常性以外には通常のテディベアとの差異は見つからず、なぜ動いているのかは解明されていません。
SCP-1048は自分で移動する能力を持ち、四肢を動かすなどの行為によってよってコミュニケーションを取ることが可能です。またその行動は通常の人間から見ると非常に愛らしいものです。足に抱きつく行動は日常的に行われ、その他にもダンスやその場で飛び跳ねる、子供が書くような絵を職員に書くなどの行動を取っていました。
その危険性の無さ、愛情表現からsafeクラスのオブジェクトに分類され、サイト内では自由に行動する権利が行われていました。
「しかし。とある事件をきっかけにその危険性が見直され、Keterクラスのオブジェクトに再分類されました」
要の言葉に、久美はゴクリと喉をならす。ここまでは、偽物の記憶だ。ここから先が、自分の本性。それを聴いたことのある十影は、食べ物が食べられなくなってはたまらないとイヤホンで両耳を塞いでいた。
SCP-1048は、様々な素材を用いて自分のレプリカを組み立てます。現在までに3種類のレプリカが確認されており、これらはそれぞれSCP-1048-A、SCP-1048-B、SCP-1048-Cと呼ばれています。
SCP-1048-Aは、本体であるSCP-1048と一緒にサイト内をさまよっているところを発見されました。対象はその体のすべてが人間の耳で作られており、人間に対して非常に攻撃的です。セキュリティチームが対応に向かった際には甲高い金切り声を上げ、半径5メートル内にいた者の全身に耳のような腫瘍を急激に成長させ、死亡させました。死因は腫瘍によって口と気管が塞がれたことによる窒息死だと判明しています。
SCP-1048-Bは、サイト内のカフェテリアで不自然でぎくしゃくした動き方をしているところを発見されました。当初対象はスタッフに反応を示しませんでしたが、やがて体の継ぎ目から人間の幼児に似た手と腕を伸ばし、空気をつかむような仕草をしました。その後それを見て悲鳴を上げた職員に対して大怪我を追わせ、セキュリティチームによって処分されました。また当事案から3時間後、財団の博士がオフィスで意識不明となっているのが発見されました。博士が昏倒している間に中絶処分が行われており、胎内からは8ヶ月になる胎児が消えていました。このことから、SCP-1048が何らかの方法で博士を昏倒させ、中絶手術を行った上で胎児をSCP-1048-Bの素材にしたと考えられています。
SCP-1048-Cは形状はテディベアですが、その体は錆びた金属のスクラップで構成されています。対象は非常に凶暴でかつ運動能力が高く、逃走する過程で数名のスタッフを殺害しています。
処分されていない2つのレプリカと本体は逃走していましたが、その後SCP-3092“ゴリラ戦”によって無力化されました。また無力化の過程において人間の耳を球状に丸めた武器を使用しており、SCP-1048が作成するレプリカの形状はテディベアに限らないと考えられます。
「おおよその記録は以上です。大丈夫、じゃないですね」
あえて久美の表情を無視して話し終えたが、話が終わる頃には久美の顔は真っ青で、そのまま何も言わずに部屋から出ていってしまった。
「お前、ほんと容赦ないのな」
「いい具合に狂ってるねえ、君も」
退室した久美に変わって十影とブライトが要の語りを評価する。
「どうせ、いつかは知れることだ。先輩が自分の記憶について知ろうとするなら。それに、おそらくほぼすべてのオブジェクトの報告書なんて読んでたら、多少狂うのも仕方ないでしょう?」
「そうだね。私もそう思うよ」
要の返答に、ブライトはニコニコと笑う。
ブライト、正確にはその前世の姿である『ジャック・ブライト博士』は財団の職員の中でも特殊な立ち位置にあった。彼は、とあるオブジェクトの異常性によって死ぬことができなくなったのである。正確には、他者の体をのっとって自分のものとして使うことが可能となり、またその優秀さも相まって財団から死なせてもらえなくなったのである。
そこから彼はおかしくなった。様々なオブジェクトでまるで遊ぶかのような行動が多くなり、財団で彼のしてはいけないことのリストが作成される程になったのである。
だって、どうやっても死ぬことが出来ないのだ。どれだけ狂ったようなことをしても、彼は死なない。新しい体を使ってまたオブジェクトの研究をしなければならない。
それは、どれほどの苦痛だろうか。だからこそ彼は、正しく狂っているのである。
「なんか、要もブライトさんも大変なんだな」
若干呆れたような感嘆したような十影の感想。それにブライトは声を上げて笑い、要は当然だというように頷く。
「財団なんてそんなものだ」
「ふふっ、面白いね君は。言っておくけど、財団にもすべての報告書に目を通している者なんていなかったよ?」
「それがセキュリティのために必要なことだったんでしょう。むしろ……知ったらまずいものもあります」
「だろうねえ。私もいくつか弱いのに感染したことがあるけど、あまり気持ちの良いものではなかったよ」
主にブライトが財団での思い出話を語り、要がそれに突っ込んだり自分の知っている情報を提供する、あるいは十影に説明する。そうしているうちに、久美が戻ってきた。青ざめていた表情も多少はマシになっているように見える。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫。私がしたわけじゃないのはわかってるんだけど、ちょっと怖かったから」
「そうだよなー。自分の知らない記憶ってだけでもきついのに、やってることがやってることだもんな」
これに関しては、要よりも十影の方が適役である。要が知識しか持っていないのに対して、十影は久美と同様にオブジェクト時代の記憶を持っている。だからこそわかることもある。
「今日はもう帰ったほうがいいんじゃないですか? ここからまた衝撃的な話を聞くのはしんどいかと。学校でも昼休みや放課後に呼んでもらえれば行きます」
「……ごめんなさい、私が弱いばっかりに」
「いえ。普通のことだと思いますよ。それじゃあ帰りましょう。もう遅いし家まで送ります」
そう言って要は十影を促し、荷物をまとめて立ち上がる。
「え? いや、そこまでしなくていいわよ」
「そうですか? 今すぐ1人になるのはしんどくないですか?」
見透かすような要の問に、久美は言葉につまる。確かに今、1人になるのはこわかった。誰も見ていない場所に行ってしまうと、自分が自分ではない、怪物になってしまいそうな気がする。
だがまさかそれを、会ったばかりの後輩に見抜かれるとは思わなかった。強気で冷たい態度を見せていたが、久美は基本的にはメンタルが弱いのである。それを知っているのは、一部のクラスメイトぐらいのものだ。
「……ありがとう。じゃあ、送ってもらうわ」
「はい。それじゃあブライトさん、また今度」
「ばいばいブライトさん」
「うん、また今度ね。次会えるのを楽しみにしているよ」
それぞれにブライトに別れの挨拶を告げると、3人はカフェを後にする。その後は、久美の家につくまで誰も一言も発さなかった。会話が無くても、誰かがいるというのはそれだけで心強かった
SCP-1048 ビルダーベア
著者:Researcher Dios
URL:http://www.scp-wiki.net/scp-1048
SCP-3092 ゴリラ戦
著者:HunkyChunky
URL: http://www.scp-wiki.net/scp-3092
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