SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第15話 勧誘

 指名を受けた要と十影がアベル事務所での職場体験を決めた翌日。昼休みに十影の襲撃を受けなかった要が放課後荷物をまとめていると、教室の扉が勢いよく開かれる。

 

「要ー! 先輩来たぞー!」

 

 入り口からそう叫ぶ十影の後ろには、先日話したばかりの2年生の久美が立っていた。

 

「財田知り合いの先輩? てか可愛くね?」

「ああ」

 

 通り際に話しかけてくる上鳴に短く答え、2人のところまでいく。

 

「こんにちは人形先輩。何か御用ですか?」

「どうも。そのさ、他人行儀なのやめない?」

「他人行儀、ですか?」

「そ。財田君の敬語固すぎるから、聴いててあんま嬉しくないし。別に敬語使わなくてもいいから」

「……そういうことなら。それで、俺のところに来たのは他のオブジェクトについて聞きたいから?」

 

 敬語を使うのをやめた要がそう問いかけると、久美は小さく頷く。その間十影が2人をクラスメイトの視線から隠していたものの、あまり人が通る場所で話すべきことでもない。十影と久美を促し、3人で屋上へと向かった。この学校の屋上は開放はされているものの、他にも日差しのあたる中庭やベンチなどがそれなりに存在しているので屋上を積極的に利用する生徒はほとんどいない。

 

「昼休みは俺が知ってるのをちょっと話したんだけどなー。俺が全然お前の言った話覚えてないからわかりづれえって話になってよ」

「それで昼休み来なかったのか」

「おう! 悪いな、心配した?」

「いや……。久しぶりに読書が出来た」

 

 のほほんとした会話をする2人だが、その会話は初めて見る久美からすると妙に仲が良く見えた。会話の内容としては大したことはないのだが、互いに互いのことをよく知っている、というべきだろうか。

 

「2人はもともと知り合いなの?」

「おん?」

「なんか仲良いっていうか、互いに信頼してるみたいな感じがしたから」

 

 そう言われた十影が要の方を見るが、要は肩をすくめるだけだ。

 

「あー、今年の入試からだな。俺もこいつも特別入学枠で、入試の時に会った。そんで話しかけたら、まあこいつが俺の昔のこと知ってて……そんな感じか?」

「ああ」

「そ、っか。それでそんな仲良い感じなんだ」

「仲は確かに良いよな!」

「そうかもな」

 

 確かに要にとって、十影ほど仲が良い相手というのはいない。そもそも要は知人から友人に進むのが苦手なので、そういう意味でも友人として関わってくれる十影の存在はありがたかった。

 

「まあ、少なくとも信頼できる。こいつなら死なないだろうからな」

「あ、そういう感じの?」

「こっちの話に巻き込めない相手とはある程度の距離を保つようにしてる」

「ふーん……」

 

 要が財団を作るつもりであるといった話は、まだ久美には一切話していない。そのため久美にとっては、『自分の秘密を話せない相手とは距離を取っている』という意味に聞こえる。

 

「それで、具体的には何を聞きたいんだ?」

 

 本題に入ろうと要がそう切り出す。それに久美は表情を少し固くして頷いた。

 

「この前、私よりも危ないものがたくさんある、って言ってたよね?」

「言ったな」

「どういうものがあるのか聞いてみたくて」

「なるほど。先日も聞いたが、先輩は俺達に協力してくれる、ってことで良いんだな?」

 

 改めて確認する要に対して、久美は質問で返した。

 

「この前は聞き忘れたけど、何をするの? 普通のヒーローの仕事じゃないの?」

「……完全に普通のヒーローと同じわけではない。そもそもオブジェクトは生物に限らず、ものや建築物、場所、そして現象など様々だ。基本的にはそれらの確保やそれらから市民を守ること、そしてそれらを市民の目から遠ざけることをヒーローに依頼することになる」

「……普通のヒーローじゃない?」

「いや……ヒーローと違って超法規的な……要するには、市民の記憶を消したり、市民を拘束したり、現場や物品から市民を遠ざけるためにその建物や場所を奪ったり……最悪の場合は殺すことも財団の仕事に含まれる。そこまで含めて協力するかどうか、という話だ」

 

 正直に話した要の説明に、久美は耳を疑う。それはヒーローの仕事からはかけ離れたものだった。

 

「ちょ、っと待って。どういうこと?」

「今言った通りだ。今言ったのを聞いて、その上で協力するというならオブジェクトに関する情報も話す」

「……聞けば、財田君の言ってる仕事の内容が理解できるの?」

「できるはずだ。財団の理念、つまり俺達の方針についても伝える」

 

 要のその言葉を聞いて、久美は目を閉じてしばらく黙り込んだ。要の話を聞かなければ、自分の前世やそれに関わるものについても知ることが出来ない。

 

 だが、要が言っている言葉はそもそもが法に反する行動が多い。ヴィラン犯罪において、それからトラウマを受けた一般人に対してメンタルケアが行われることは多いが、それでも記憶を消してしまうことはない。それにヴィランの立てこもり場所になったとしてもヴィランが逮捕された後はそれは民間人に返還される。そして最後の。

 

 最悪の場合は殺す。なんて。

 

 それを容認は、出来ない。そもそもヒーローを目指すものとして明らかに失格な考え方だ。だからこそ話を聞いて、その上で2人を止めようと久美は考えた。

 

「良いわ。協力する。私にも関係ある話みたいだし」

 

 その言葉が嘘であるというのは、要にも十影にもわかった。わかったが、今の2人は何の権力も持たず、仲間を増やすためには説明してこちら側に引き入れるしかない。

 

「わかった。ありがとう。それじゃあ……どういう意味で知りたいんだ? 先輩よりも被害が大きかったものを話せば良いのか?」

「そうね。まずはそれを聞きたい」

 

 久美が頷いたのを確認して、要は話を初めた。

 

 

 

******

 

 

「じゃあまずは被害が大きいもの、か。まずは宇宙そのもの、というか世界そのものが消滅するオブジェクトが複数ある。世界が滅ぶというのは、それほど難しい話じゃあない」

 

「…………はい?」

 

 要の言葉に久美が答えるまで数秒の間が空いた。

 

「宇宙が無くなる、って言った?」

「言った。あくまでこの世界ではなく、財団の存在した世界の話だが」

「どうやって無くなるの?」

「いろんなパターンがある。1つは自然現象にも近いんだが、広がっている宇宙が端から消滅していくというものだ。何かに飲み込まれて消えていく、と言ったほうが良いかもしれない。その飲み込まれる速度が光より早いから、人類は消滅の瞬間まで気づくことが出来ないだろう、と報告がされている。逃げるためのプランもいくつか考えられていたが、どれも手詰まりのようだな」

「……他には?」

「ニコラ・テスラが発明したとされている装置が、世界の消滅を引き起こすと考えられている。そもそもこの装置は、複数の世界、いわゆるパラレルワールドからそれぞれ優秀な科学者を集めて開発されたものだ。ニコラ・テスラはその1人だった。ただ想定されていなかった機能が発生して、結果としてその機能が発揮されたときにはこの世界、つまりニコラ・テスラがその装置を持って帰ってきた財団の存在した世界が消滅する、ということが明らかになっているらしい。その機能はタイマーで起動するが停止が出来ないし、そもそも装置の内部に秘められたエネルギーによって破壊が発生するから、装置を壊せばタイムリミットを待たず宇宙が消滅する」

「それが、本当に存在した、っていうの?」

 

 信じられないと言いたげの久美の言葉に、要は肩をすくめる。

 

「自分の記憶に聞いてみたらどうだ?」

 

 その言葉に、久美は言葉に詰まる。そうなのだ。そもそも久美が要の話を聞いているのは、要が久美の誰にも話したことのない記憶について知っていたからなのだ。つまり、存在しないことを久美自身が否定しているのだ。

 

「今言った2つは、あまりに大きすぎる現実離れしたものだ。他にも、何か聞いてみたいものに対して指定があればある程度は教える」

「……じゃあ、さっき言ってた私に協力してほしい内容について、それぞれなんで必要になるのか、その、『オブジェクト』? についても教えて」

「……わかった」

 

 彼女の言葉に頷いた要は、脳内で報告書を漁りながら1つずつその質問に答えることにする。

 

「まず記憶を消すのに関しては、オブジェクトの問題もあるが、財団、つまり異常な存在に対処する組織としての理念がある。それは、『知られてはならない』というものだ。異常な存在が日々に紛れ込んでいることを知れば、人々は安心して日々を生きることは出来ない。更にそれらや財団の存在について一般人が知っていると、その活動の邪魔になったり、不要な終末論などが発生してしまうこともある。端的に言えば、知らない方が幸せなこともある、ということだ」

「だから、知ってしまったら忘れさせる」

「ああ。たいして問題のないオブジェクトでも、それらからより危険なものに関する情報が漏洩する可能性があり、また『そういうものが存在しうる』というのが市民の恐怖を煽る可能性が高い。だから、そうした全てに関して隠蔽を行う」

「ヒーローだけが知るの?」

「いや。一般のヒーローにも知らせない。あくまで所属するエージェントと、綿密な協力関係にあるヒーローだけだ。そうした異常が確認された場合には、ヒーローとして勤務している協力者から財団に連絡を行い、財団が収容する、という仕組みを考えている」

 

 既に要の話を聞いた十影は退屈そうに、屋上の入り口で他の生徒が来ないか見張りを行っている。

 一方久美は要の説明を聞いて少しばかり考え込んでいた。

 

「そこまでして隠さないといけないの?」

「明日、あるいは今日世界が滅ぶと聞いて、先輩は幸せに生きることができるか?」

「それは……難しいかな」

「そういうことだ。ヒーロー、あるいは警察に対する情報の共有に関しては議論の余地があるが、一般人に対する公開はありえない。警察やヒーローに対しても、一部になるだろう」

「……わかった。それで、他には?」

「市民を拘束というのは、強制的に事情聴取などを行う、言ってみれば警察の事情聴取とたいして変わらない。ただ法律に財団の存在を公的に示すわけにはいかないから、事情聴取に関しては記憶処理、つまり聞いたあとに忘れてもらう。これはさっき言ったのも関わってくる。物品や土地、建築物を市民から取り上げるというのは、危険な物から市民を引き離し財団で収容するためだ。これは基本強制的におこない、そのためにそのオブジェクトに関する記憶の処理などを行う。これも法律には残さないので、超法規的に行うことになる」

「超法規的、って……そんなことが許されるの?」

「財団の世界では、財団は各国の上層部とつながっている。だから各国での活動も認められている。他にも財団のフロント企業として複数の企業を持っているのでそれらの影に隠れて活動をしていた」

「あの……陰謀論みたいなのでよくある秘密結社みたいなもの?」

「ああ。秘密結社というのはまさに財団のことを示しているだろう」

 

 わずかにチープさの発生した要の言葉に、久美は安心した。人は、知らないものわからないものを恐れる。それを本能的に遠ざけようとする。

 

 だが知っているものとなると、途端にそれを軽視するようになる。

 

「その秘密結社とやらを、作ろうっていうこと?」

 

 秘密結社、という単語に、少しからかうような響きが含まれているのに気づいた要はその質問に答えず、最後の1つについて説明をする。

 

「市民を最悪の場合殺す、と言ったのは、既に手遅れになっているものを殺すことでそれ以上の拡散を止める、という意味だ」

「手遅れ、って?」

「オブジェクトの中には、感染するものも多数存在する。そうしたオブジェクトの影響を市民が受けた場合、回復させられない場合には殺害することでそれ以上の被害を防ぐ必要がある」

「感染するもの、って?」

「大体は精神汚染、あるいはミーム感染と言われることが多い。つまり、知ることで思考がそれに支配され、更にそれを他の人に伝えることで感染者が拡大するものだ」

「それは……どうなるの?」

「どう、とは?」

「感染したら何が起きるのか、ってことよ」

「最初に言っただろう。世界が滅ぶのはそう難しいことじゃあない、と。例えば……『世界は1月以内に滅ぶ。だから、それまでに自殺しなければならない』という強迫観念が伝染し世界中に広まった結果、世界の人口は一桁まで減少した」

 

 そう言うと、要は壁にもたれていた体を起こし、久美の方を向き直る。

 

「『世界に明日はない。昨日はあったかどうか怪しい。そもそも我々が生きているこれは、本当に今日なのだろうか』」

「どういう意味?」

「オブジェクトに道理は通用しない。世界のすべての記憶を書き換え痕跡を消すことで存在した文明を完全に消滅させたり、現行の人類に成り代わって地球の支配者となったり、すべての生物を別の生命体に変えてしまったりするものも普通に存在する。先輩の身近にいる人間は、既に人間ではないかもしれない。毎日話していた友人が、先輩含めたすべての人の記憶から消えてしまうこともあるだろう。昨日まで大切だと思っていた何かが、今日には取るに足らないことになり、何かに押し付けられたものが宝物になるかもしれない。明日には世界は滅んでいるかもしれない。昨日は、何かによって作られた偽物の記憶かもしれない。今生きていると思っている今日は、既に何かに支配されてそう思っているだけかもしれない。それがオブジェクトの恐ろしさだ。ありとあらゆる理不尽を想像しろ。そのすべては、可能性ではなく、現実に起こり得る」

 

 それまでの静かな語りはそのままに、張り詰めるような厳しさを秘めた要の言葉に、久美は息をのむ。

 

 それはすべて、要の見てきたことだ。無数の世界の財団が、世界を終わらせぬために挑み、そして散ってきた記録だ。

 

 だからこそ、この世界は。そのすべてを先に記録することに成功したこの世界は、終わらせてはならぬのだ。

 

「……だから、財田君がそれを防ぐの?」

「『確保し、収容し、保護する』。俺はそれを作るが、やるのは俺ではない。財団に所属するすべての人間がやるんだ。『人類が健全で正常な世界で生きていけるように、他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない』。それが財団の使命であり、成すべきことだ」

 

 それが、財団。人知れず戦い、人知れず異常に侵され。そして人知れず死んでいく。満たされるのは多少の好奇心、ぐらいだろう。最も、好奇心に殺されることなど数え切れないぐらいあるが。

 

 だが、そう。要が言っているこのヒーロー社会では信じられないような方針はすべて“必要”なものなのである。もちろん、この世界では人型のオブジェクトというのは出現したところでまず収容されないだろう。それは基本的に個性と同様のものだと考えられるからだ。危険な個性であると判断された場合には、そうした施設に入れられる可能性が高い。

 

 他にも、『冷酷であっても残酷であってはならない』というのは、より徹底されるべきだ。財団の職員や研究者の中には、使い捨てにDクラスだからとその生命を粗末にするようなものもいた。それらはより精査されるべきである。

 

 だが、おおよそ全ては必要なものなのだ。実験を行うための犠牲も、財団やオブジェクトの存在を一般から隠すことも。

 

 それを久美のように疑う人々に伝えていくのもまた、要の役目なのだ。

 

「というわけだ。こういう組織を俺は作るから、部分的にそれについて知っている先輩にも協力してもらいたい」

「……それ、拒否できないよね。世界が滅ぶとか言われたら」

「別に、拒否してすべてを忘れて生きてもいいぞ?」

「できるわけ無いでしょ。てか怖くて忘れられないし。わかった。私も協力する。できる限りね。それに――」

 

 ―――聞いた限りじゃあ、最高にかっこいいヒーローでしょ?

 

 そう言って笑う久美、要ははっきりと頷いた。




次話から職場体験、の前に語る話を一話ぐらいいれるかもです。


最近神経科に通ってます。正直あと少しで『万事順調です』をやらかしそうでした。人と話すのって楽しいんですね。




Pixiv fanboxをしています。
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