SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第16話 お礼は必ずいたします

 職場体験を翌日に控えたある日。職場体験を前にして緊張しているのか楽しみにしているのか、放課後になっても教室に残って雑談をしているクラスメイトが多くいた。そんな中で要も、職場体験に備えて持って帰らなければならないコスチュームとウェポン類の手入れを行っていた。

 

 まずはコスチュームのパーツや戦闘服に不備が無いかを確認していく。最も戦闘服に関しては他のクラスメイトと比べて特段高性能な部分などは無いので、確認も楽だ。

 

 次に各装備類の確認。

 

 まずはウェポン類に不備がないか、取扱説明書を参照しながら確認していく。それが終わったら腕時計やゴーグルのバンドなど、1つずつ確認していく。整備は雄英が提携しているデザイン事務所、つまりコスチュームを作ってくれた事務所がやってくれてはいるのだが、最終的に自分の命を預けるものになりえる、ということで使う前に目を通すようにしているのだ。

 

 要が翌日に備えている一方で、教室に残っている殆どのクラスメイトは雑談をしている。

 

「あー、やっぱ直前まで来るとなんか緊張するよな」

「そうか? プロの活動を見れるなんて最高に熱いだろ!」

「熱いとかで考えないのよ普通は」

 

 そんないつも一緒にいる3人組の声を聞きながらコスチュームの整備をしている要のところへ砂藤がやってくる。

 

「おーす財田、何してんだ?」

「コスチュームの整備」

「整備って、あの銃みたいなのとかか?」

「そんなところだ」

 

 興味深げに眺めている砂藤に答えながら整備を続けていると、今度は芦戸、葉隠の2人が声をかけてきた。

 

「財田ー、今から時間ある?」

「……少しなら」

「久しぶりになんか面白い話してよ。最近放課後トレーニングルームとか来てなかったでしょ?」

 

 ここ数日、十影と屋外演習場でのトレーニングをしたり久美と話したりで、クラスメイトと同じ場所でトレーニングをすることが無かった。そのため、放課後の日課のようになっていたSCPに関する話もしていなかったのだ。

 

「興味を持ってもらえるかと話してみたんだが……そんなに面白かったか?」

「うん。あんまり小説とか読まないけど、短いし音読してくれるなら聞きやすいし」

「どんでん返しがあって面白いんだよね!」

「俺もまた聞きたいぜ。怖いけど面白いところもあるしよ」

 

 思いの外要の話は好評であったらしい。それならばということで、要も教室にいるクラスメイトで話を聞きたいという者達に新しい物語を話すことにした。

 

 

 

******

 

 

 

「じゃあ、そうだな……。前から言ってる通り、俺の話は感動するものなのか、それとも怖いものなのか、それを最初には言わない。それは良いか?」

「どゆこと?」

 

 その場にいたクラスメイト、芦戸、葉隠、耳郎、八百万、尾白、切島、上鳴、瀬呂、砂藤が要の机の周囲に椅子を持ってきたりして集まり、その中心で要が話し始める。

 

「先に感動する、とか怖い、とかいうとなんとなくオチが読めてしまうだろ? だからそういう前情報は一切なしで聞いてくれ、ということだ」

「そゆことね。オッケーよ俺はどんな話でも」

「まあ、では最後まで結果がわからないんですね。楽しみですわ」

 

 初めて聞く瀬呂の疑問に要が答えると、今度は芦戸がニヤニヤした顔で耳郎を弄り始める。

 

「耳郎、怖いかも知れないけど良いの?」

「は、はぁ!? 別にうち怖いの苦手とかじゃないから!」

「まあ、耳郎さん、苦手なのですか?」

「違うから! ってか財田も笑ってないで早く始めろ!」

「わかった。それじゃあ……今回はこの話にしよう。質問があったら話の途中でしてくれてもいいが、流れを切らないために無視することもあるからな」

 

 そう言った要は1つ咳払いをして、早速その物語を話し始めた。

 

 

「今回のお話のお題は、『お礼は必ずいたします』です。では、皆さん、一言一句に注意して良くお聞きください」

 

 

 

******

 

 

 

 とあるクラウドファンディングのサイトに、極稀に出現する不思議なプロジェクト群があります。プロジェクトのタイトルは『〇〇ちゃんの病気を治してください』、です。

 

 はい、芦戸さん。

 

 ああ、クラウドファンディングの説明ですね。クラウドファンディングというのは、何らかの目的を持った人物、あるいは団体が、『私達はこういうことをしたいと思っているので、募金をしてください。代わりにこんなお礼をします』というように不特定多数の人から資金を集めるしくみです。例えば今回の話題のように病気の治療の他にも、『こういう種類のゲームを作るので募金をしてください。面白いゲームにします』など様々なクラウドファンディングがあります。お金が無い人、あるいは団体が、その目標を応援してくれる人からお金を集める仕組みですね。

 

 今回はそんなクラウドファンディングのサイトに現れる、不思議なプロジェクト群のお話です。『群』と言ったのは、これが共通する特徴を持った複数のプロジェクトに関するお話だからです。

 

 では、その特徴について説明します。

  

 1つ目は、今言ったタイトル。プロジェクトの名前は必ず『〇〇ちゃんの病気を治してください』になっています。〇〇の部分が子供に合わせてかわる形ですね。

 

 2つ目は、プロジェクトの概要。『〇〇ちゃんの難病を治すために資金を集めている。難病なので多額の治療費が必要である』という説明と、その具体的な病気の内容、そしてその子供の顔写真がのっています。

 

 3つ目は金額。どのプロジェクトでも、どんな難病でも、必ず3000万円ぴったりになっています。

 

 4つ目はリターン。さっきも言った通り、クラウドファンディングは募金です。そしてその募金のために、募金してくれた人にお礼を提示することで募金を勧誘する、というシステムとして『リターン』というのが設定されています。募金してくれた人に対するお礼だと思ってくれれば結構です。このリターンが、これらのプロジェクトでは『お礼は必ずいたします。私達の幸せをお配りさせていただきます』となっています。

 

 5つ目は期間です。期間は必ず1ヶ月になっています。

 

 

 

 さてさて、では実際にクラウドファンディングが行われてからのお話です。

 

 期間中に目標金額が達成されなかった場合、支援者に出資金が返還された上で、電子メールで『資金不足で治療が間に合わず、子供が助からなかった』というメッセージと、その子供の遺影のような画像が送られてきます。資金が足りなくてクラウドファンディングをしているわけですから、当然資金が集まらなければ、子供は助かりません。残念ながら。

 

 

 

 はい、切島さん。

 

 ああ、子供が死にそうになってるなら助けるのが普通だろ、ですか。

 

 これは難しい話になるとは思いますが、人間にとって自分とは関係の無い人間の生き死にというのは、多分どうでもいい話なんですよね。はっきりと言えば、ですが。

 

 例えば、切島さん。あなたは、毎日クラウドファンディングサイト、確認してます? してませんよね。多分いままで知らなかったでしょうし。

 

 でも、あなたが見ていない間もサイトでは難病のこどもの治療に関するプロジェクトなんかたくさん出てると思いますよ。でも、見ないでしょう? ああ、別にそれを責めてるわけではないですよ。ただ普通の人にとっては多分遠くの誰かの子供が生きるか死ぬかより、今日ちょっとお高いご飯が食べられるかどうかの方が大事なんです。自分が友人の中で人気者になれるかの方が大事なんです。

 

 別にこれを悪いことだと言ってるわけじゃありません。ただ、人間はあまり遠すぎることを深刻なことだと認識できないんです。だから、こういうプロジェクトを見かけても、まあ良いかな、となってしまう人が多いんでしょうね。本当は、そういうのこそ国の支援金なんかでどうにかしてほしいものですが。

 

 

 

 すいません、急にこんな重たい話をして。話を戻しますね。

 

 では、お金が集まった場合です。

 

 この場合は、当然のことながら子供は治療を受けることが出来ます。そしてそれを感謝するメールが届きます。『治療を受けることが出来ました。ありがとうございます』といった感じですね。

 

 そしてそれから5ヶ月間の間、定期的に動画が送信されます。動画の内容は、その子供が元気にリハビリを受けていたり、治療を受けていたりする映像です。他にも遊んでいる様子など、微笑ましいものもあります。ときには、画面のこちらがわ、つまり募金をした人たちにたいしてお礼を言うような映像もあります。

 

 実際どんな、ですか。

 

 そうですね。例えば、歩くリハビリの映像では、子供が車椅子から立ち上がって、テープを引かれた場所まで歩いていく場面が撮影されています。松葉杖などを使ってはいますが、何度かこけそうになりながらもなんとか歩ききる、と言った場面です。

 

 他にも、以前は飲めなかった苦い粉薬を飲めるようになった子供が、早く元気になってお母さんに会いたい、という場面の映像もあります。

 

 

 はい、葉隠さん。ああ、お母さんについて、ですね。どうやらこのプロジェクトをしているのは難病の子供を治療する何らかの団体のようで、子供のご両親とは別の人物のようです。映像の中にはその人達は写ってないので、実際に誰なのかは特定できていません。

 

 

 

 

 そして、リハビリが終わり、子供が完治した日。一本の映像が送られてきます。今回は顔を隠してはいますが、これまで子供の治療に付き添っていた大人が画面に登場して挨拶をします。

 

『こんにちは、支援者の皆さん。今日は、〇〇ちゃんがお礼を言いたいそうです』

 

 その声に促されて画面に子供が現れて、小さくお辞儀をします。

 

『みなさん、ありがとうございます。おかげでこんなによくなりました。私は幸せです』

 

 そう言って子供が頭を下げると、周りからは拍手の音が響きます。

 

 そして最後に、治療に付き添った大人がもう一度出てきます。

 

『ご支援いただいたみなさま。ありがとうございました。おかげさまで私達の幸せはこんなに笑顔になりました。ビデオレターは今回で最後になります。ほんとうにありがとうございました』

 

 これは、この不思議なプロジェクトの全てに当てはまる工程です。どのプロジェクトでも、子供は無事に難病から回復し、最後に応援してくれた人たちにお礼を言います。

 

 

 

******

 

 

「さて、そしてビデオレターも届かなくなった1か月後。支援をした人の住居に、一通の手紙と荷物が配達されて、この物語は終わります」

 

 ―――『ご支援ありがとうございました。お約束どおり、私達の幸せをお配りいたします』。

 

「これで話はおしまい。ここからは、皆さんの疑問に答えていきましょう」

 

 普段は全くしない敬語を使い親しみやすい話し方をしている要だが、それが話の内容に妙にマッチして心地よく、それに疑問を呈する者はいなかった。普段は浮かべない柔らかい表情もそれを加速させている。

 

 

「はいはいはい! 最後の荷物ってなんですか!」

「それは考えてみてください。ちゃんとお話の中にヒントはありますよ」

「えー!」

「一番最後に答え合わせはしますよ。それまで少し考えてみてください。他の方も、是非考えてみてくださいね」

 

 早く教えろと言わんばかりに不平を言う芦戸に答えて、要は他のクラスメイトの方を振り返る。

 

「じゃあ、瀬呂さん。正直この話聞いて、どう思いました?」

「……いやー、こういう言い方は悪いけど、切島が言ってたほど面白いとは思わんかった。というか、切島が聞いたっていう話は面白そうだったからそっちの話聞きたかったかな。悪いね、あんま良い感想言えなくて」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 瀬呂の酷評にたいして笑顔で頷いた要は、今度は八百万の方を振り返る。

 

「八百万さんは、どうでした?」

 

 その問いかけにたいして、八百万は少し困ったような評定をする。

 

「あの、この物語はまだ終わっていないんじゃありませんの?」

「ほう、というと?」

「いえ、あの、今おっしゃっていた話だけですと起承転結が無いですし、普通のクラウドファンディングと変わりません。ですから、まだ何かあるのかと……」

 

 八百万のその指摘に、一瞬周りで話していた全員の声が止まる。

 

「え、あの? 私、何か間違え――」

「だよねヤオモモ! なんか物足りないと思った!」

「はい!?」

 

 八百万の指摘に同意を示した芦戸が、葉隠と一緒に要に詰め寄ってくる。

 

「続きあるんでしょ財田!」

「話した方が身のためだよ!」

「いや身のためって……」

 

 それを見ている男子陣は呆れつつも、まだ話に続きがあるんだろうと要に注目する。それに対して、まだ演じたままの要は答える。

 

「先程から言っているでしょう。答え合わせは最後にいたします、と。そうです。確かに、この答え合わせまで含めてこの物語です」

「じゃあ――」

「物語の中には、答えを聞くのではなく、何度も読んで、何度も聞いて自ら見つけることで、さらなる感動を生み出すものもあるんですよ。ですから気づくまでのお手伝いはしますが、答えを教えることは最後までとっておかせてください」

 

 そういう物語になるように、要が報告書の内容を変えて話したのだ。せっかくそういう話し方をしたのだから、いきなり答えを言ってしまっても面白くない。

 

 あくまで語り手という役になりきって話す要にそれ以上強くは言えず、詰め寄っていた2人も引き下がる。

 

「むう……この話の中で気づくって、何?」

「あれじゃね? さっき芦戸の言ってた荷物の中身じゃね?」

「でもそんなのわからないじゃん」

「おそらく、物語の中に何らかのヒントがあるということではありませんか? それを見つけることができれば、気づくことができる、と」

 

 八百万の言葉に、そうなのか? と自分の方を見てくるクラスメイトにたいして、要はニコリと笑うことで答えてみせる。それがクラスメイトの闘争心に火をつけた。

 

「絶対答え見つけるから! 財田にやられたって思わせてやる!」

 

 そこまでが要の物語なのだが、それをあえて指摘するほど要は怖いもの知らずではない。

 

 

******

 

 

 

「お礼の荷物の中身でしょ? なんか話の中で答え書いてたかな」

「いえ……具体的な中身は財田さんは話していなかったと思いますわ」

「普通こういうクラウドナントカのお礼って何が送られんだ? やっぱ食い物とかか?」

「ゲームとか会社作るのとかだったらその商品とかだろうけど、難病の治療だとお礼ってあんま思いつかないよな」

「そうなのか?」

「医療は何かを生み出すってわけじゃないのよ。他と違って。だから送れるものがあんま無いのね。それこそ、資金が集まった後に送られてきたリハビリの動画とか元気に笑ってる動画とかがお礼になるんじゃないの?」

「そう考えると、なんか素敵だよね。子供の笑顔のために皆でお金を集めるって」

「尾白くんロマンチックだね!」

「え!? いや別にそういうわけじゃ、ていうかこの話だと募金するのってそういうことじゃないの?」

 

 色々と意見は出るが、話はあっちこっちへと行ったり来たりをして先へと進まない。そんな中、八百万と2人で静かに考えていた耳郎がポツリと口にした。

 

「あのさ、うち、1個気になってるんだけど」

「なんですか?」

「財田、話し出す前に、『良くきいていてください』みたいな感じでなんか言ったよね?」

「ええ。『一言一句に注意してよくお聞きください』と言いました」

 

 それは、要があえて言った言葉だ。このオブジェクトは、ある種の言葉遊びと捉えることができる。それに気づかせるために、『一言一句』に注目してほしかったのだ。

 

「それがどうかしたの?」

「これさ、今まで話聞いた時言ってた覚えが無いんだよね。だから、これもヒントになってるんじゃない?」

「うぇ? どゆこと?」

「財田の話した言葉を一言一句、つまり細かいところまで見ろ、ってことか」

「お話から推測できるのではなく、言葉として明確にヒントが隠れている、ということでしょうか」

 

 耳郎の指摘に、全員が要の話した話の内容を思い出そうとする。

 

「財田さん、最後に届いたお手紙の内容をもう一度伺ってもよろしいですか?」

「『ご支援ありがとうございました。お約束どおり、私達の幸せをお配りいたします』というのが手紙の内容です」

 

 期待を込めてそれを聞いていたクラスメイトたちだが、その内容の薄さに落胆する。結局何か具体的な事物はそこには書かれていない。

 

「幸せってなんだよー。もうちょいわかりやすくしてほしいぜ」

「むー難しいのわからない! 勉強じゃないのに頭使ってる」

「一言一句、って言ってもこれじゃ流石にわかんないよね……」

 

 ほとんどの者がそう首を捻る中、切島が何気なく尋ねた質問に全員の注目が集まる。

 

「なあ、『私達の幸せ』ってなんなんだ?」

「だからそれがわからないって言ってんのよ」

「いや、でも幸せってちゃんと、言葉にすんの難しいかもしんないけどあるだろ? てことはそれに関連するものが送られて来てんじゃねえかなって思って。ちなみに俺の場合はうまいもの食ってる瞬間とか、こうやって学校でみんなで話してるときが幸せだぜ」

「それ配れねえじゃん」

「あ、そっか」

 

 ようやく気づいた様子の切島の言葉に、皆がどっと笑いをこぼす。だが。

 

 そこで、八百万がとあることに気づいた。そして、要に質問をする。

 

「財田さん」

「はい」

「お話の中で、幸せ、という単語が出てきた部分を抜き出して教えていただけますか?」

「はい。では、初めから順に。『『お礼は必ずいたします。私達の幸せをお配りさせていただきます』『みなさんありがとうございます。おかげでこんなによくなりました。私は幸せです』『ご支援いただいたみなさま。ありがとうございました。おかげさまで私達の幸せはこんなに笑顔になりました』『ご支援ありがとうございました。お約束通り私たちの幸せをお配りいたします』。以上4箇所です」

 

 それを聞いて、一人ひとりがその内容を吟味する。

 

「結局、何なのかわからなくね? やっぱビデオレターの続きとか? 子供のことを幸せって言ってるし」

「難病の子を治療したって話だし、それっぽいよね。寝たきりだった子が元気よく走り回ってる映像とか、感動しない?」

「確かにそれなら感動するかもな。こうやって話で聞いたら分かりづらいけど、実際に見たらぐっとくる気がするぜ」

「親御さんからしても嬉しいだろうな」

「熱いぜそういうの!」

「まあ、そのあたりが妥当よね。ところでヤオモモなんか答え見つかったの? さっきから黙っちゃったけど」

 

 瀬呂に話を振られた八百万はひどく動揺した様子で頷く。

 

「ほんと!? 言ってヤオモモ! 財田を打ちのめせ!」

「いやそういうものじゃないでしょ。てか、ちゃんとヒントみたいなのあったの?」

 

 耳郎に問いかけられた八百万は、若干血の気の引いた顔で要の方を向く。

 

「財田さん。もし私の想像通りなのであれば、私の口からは言いたくありません」

「はい」

「ですので、もし私の予想があたっているならば財田さんから言っていただけませんか?」

 

 自分の予想を説明せずにそういう八百万に、要はニコリと笑って口を開いた。

 

「さて。では答え合わせの方をいたしましょう」

 

 

 

******

 

 

 

「まず注目してもらいたいのは、クラウドファンディングの内容に含まれているリターンです。リターンは『お礼は必ずいたします。私達の幸せをお配りさせていただきます』です。そして最後の手紙の内容は、『ご支援ありがとうございました。お約束通り私たちの幸せをお配りいたします』というものです。この2つで、リターンの中身がわかります」

「どういうこと?」

 

 芦戸の問いかけに、要は人差し指を立てる。

 

「私達の『幸せ』をお配りさせていただきます。そして、私達の『幸せ』をお配りいたします。つまり、このプロジェクトにおけるリターンは『幸せ』なのです」

「いや、でも幸せって配れるものじゃないじゃん」

「そのご指摘はもっともです。ですので、ここでは、リターンで配られる物をアルファベットのAで示しましょう。そうすると、この文章は『私達のAをお配りさせていただきます』と『私達のAをお配りいたします』という形になります。『幸せ』という単語に、『A』という別の言葉を当てはめただけですね。これはよろしいですか?」

 

 首をかしげるクラスメイトにたいして、要は別の例えで説明する。

 

「では、リターンを『お礼の品』と考えてください。この物語においてはこの『お礼の品』という変数、つまりクラウドファンディングのプロジェクトによって変化する部分に、『幸せ』というものを当てはめています。それがわかりにくいようですので、代わりに『幸せ』ではなく『A』を当てはめることにしましょう。『幸せ』という単語の代わりに、『A』という文字を使って表現するだけです」

「それでどうするんだ?」

「こうして物語を振り返れば、すぐに分かると思いますよ」

 

 ますます首をかしげるクラスメイトにニコリとわらった要は、説明を続ける。

 

「『幸せ』という単語を『A』という文字に置き換えた場合、この物語の中で文章が変わる部分があります。それは、治療を受けた子供のお礼の言葉と、その後の治療に付き添った大人の言葉です。では、置き換えてみましょう」

 

 ―――私は『A』です。

 

 ―――おかげさまで私達の『A』はこんなに笑顔になりました。

 

 

  そこで要は、たっぷりと間を取る。それに耐えきれなくなった上鳴が口を開いた

  

「結局どゆこと? 俺全然わかんねえんだけど」

「文字通りですよ。では、ここまでの言葉を並べてみましょう。お礼として私達の『A』をお配りします。少女は、『私はA』だと言います。そして付き添った大人も、『私達のAは笑顔になった』と言っています。そして、手紙には」

 

 ―――私たちのAをお配りします。

 

 

「さて、荷物の中身、即ち『A』は、なんでしょうか」

「何、って……」

 

 まだ理解の及んでいないクラスメイトに、表情を青くして耳郎の腕につかまった八百万が答えを口にする。

 

「治療を受けた子供、ですわ」

「え?」

「どゆこと、ヤオモモ」

「あ、まじでそういう……」

 

「はい。大正解です八百万さん」

「嬉しくありませんわこんな問題に正解しても。むしろ、なんでこんな恐ろしい話をそんな笑顔で話せるのですか」

 

 そう問われてようやく、要は演じるのをやめた。

 

「最初から怖い話し方をすればそう気付ける。だが、こうやって話したほうが内容とのギャップでゾッと来るだろ?」

「悪趣味ですわ……」

「え、ちょっとまって全くわかんないだけど。つまりどういうこと?」

「2人で納得するなー!」

「全くわかんないよもう」

「瀬呂わかった? 俺全くなんだけど」

「あー、まあわかったっちゃあわかったかな」

 

 わかった、と口にした瀬呂に注目があつまり、それを受けて瀬呂が説明をする。

 

「この物語の『幸せ』って単語は、俺達が思ってるような『感じ方』とか概念を示すものじゃないのよ。この治療を受けた子供のことを『幸せ』って呼んでるのね」

「つまり、『幸せ』ちゃん、ってこと?」

「そんな感じでとらえてちょ。で、リターンとして届いた荷物は、『幸せ』が配られたものなの。これさ、財田。中身、『幸せ』ちゃんの手とか足だろ?」

「「「「「……は?」」」」」

 

 理解している瀬呂と八百万以外の全員がそうほうけた声を上げる。

 

「正解だ。最後に送られてきた荷物。中身は身体の部位だ。クラウドファンディングにおけるすべての支援者に等しい質量分ずつ送られてくるらしい。それを全部集めて縫い合わせると、当の『〇〇』ちゃんと同じ外見でDNAもまったく同じ遺体が完成する」

 

 数秒の後。理解の追いついた芦戸や葉隠が悲鳴をあげ、尾白が顔をひきつらせ。上鳴は引きつった笑いを浮かべる。耳郎は腰を抜かして八百万に支えられ、切島はその付き添いの大人をぶん殴ると宣言し、砂藤は顔をしかめる。

 

 そうだろう。そういう表情をするような物語だ。

 

 これが物語であれば、どれほど良かっただろうか。この世界にそれが存在しないことを、要は切に願っている。




『幸せ』をどうぞ。






予想以上に長くなっちゃった。
このオブジェクト最近知ったんですが、どうしても書きたいなと思ってぶっこみました。次回はちゃんと話が進みます。長々とこんなところを書いてすいません。




Pixiv fanboxをしています。
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月200円から応援できるので、是非お願いします。応援は生活費に返させていただきます。頑張って書きます。


SCP-1454-JP お礼は必ずいたします
著者:k-cal
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