SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第17話 職場体験へ

 職場体験当日の朝。早めの時間に駅に到着した要は、ぼうっと今後の予定に思考を巡らせながら集合時間を待っていた。

 

 一人で立っているのを見かねたのかあるいは自分も一人で退屈なのか、そこに緑谷が声をかけてくる。

 

「ざ、財田くんおはよう」

「おはよう」

 

 短く返すだけの要に会話は続かず途切れてしまうが、めげずに緑谷は話を続ける。

 

「あ、あのさ、財田くんの体験先って、どこなのか聞いても大丈夫?」

「ん、ああ、アベル事務所だ。関東にある」

「アベル事務所……どんなヒーローが所属してるかわかる?」

「……いや。何故か指名が来たから受けたが……よく考えたら所長の名前がアベルじゃないかもしれないのか。調べてなかったな」

「あ、知らなかったんだ。職場体験が終わったら話聞いてもいいかな。その、僕知らないヒーローのことは知りたいから」

「ああ、いつものうるさいの」

「うるさいのって、まあ、たしかにそうだけど……」

「嘘だ。職場体験が終わって時間があったら話そう」

 

 緑谷がヒーローオタクで、様々なヒーローに関する情報をノートにまとめているというのは要も知っている。ヒーローに関する話だと途端に早口言葉になることを弄ったが、その熱意自体は要も認めているのだ。それがうるさいのもまた事実だが。

 

 そんな緑谷でも、アベル事務所という名前に聞き覚えは無いらしい。もっとも彼が情報を集めているのは個々のヒーローなので、事務所に関して知らないこともあるだろうが、アベルというヒーロー名にも緑谷は覚えがなかった。つまり、アベルというのはそれだけ知名度の低いヒーローなのである。要の脳内報告書のあちこちに散見されるアベルの強さを鑑みればヒーローをして名が売れないということが信じられないのだが、ブライトも関わっている以上何らかの理由があることは想像に難くない。

 

 

 集合時間が近づくにつれクラスメイトたちも集まり、やがて相澤もやってくる。駅構内では他にもB組や上級生のヒーロー科が各々のクラスで集合していた。

 

「コスチュームはちゃんと持ってるな。被服控除があるとはいえ高価なもんだ。無くすなよ」

「はーい!」

「伸ばすな。じゃあ行って来い。くれぐれも先方に失礼のないようにな」

 

 集合した生徒たちに相澤がそう言葉をかけ、その場は解散となる。相澤の言葉が短いのはいつものことだ。

 

 ここから生徒達は、それぞれに新幹線や電車などの交通手段を利用してそれぞれの職場体験先へと向かうことになる。近場の生徒はほんの数駅でつくが、遠くは九州や東北まで職場体験に行く生徒もいる。

 

 互いに声を掛け合っているクラスメイトから離れて自分の乗り場に向かっていた要は、後ろからの衝撃に足を止めた。そのままがっしりと肩を組まれ、背面からの重さを受けて前に数歩よろめく。

 

「重い」

「お? 悪い悪い、駅の中で大声出すわけにもいかねえだろ?」

「その気遣いを俺に対しても持ってほしかったな」

「あ、そう言えばよ」

 

 要の文句をサラリと流して、十影は組んでいた肩を外して周囲を見渡し始める。

 

「どうした?」

「先輩も一緒に行くって言ってたからどこにいるかなと思って」

「そんな話になってたか?」

「お? 俺には連絡来たぞ。お前来てねえの?」

「来てない」

「そか。もしかしてお前先輩に嫌われてる?」

「俺が聞きたいな」

 

 普通なら相手に嫌がられそうな発言をぽんぽんする十影から離れた要は、バンドでまとめているコスチュームケースを抱え直す。

 

「先に上がっておくぞ」

「先輩待たないのか?」

「先輩がお前にだけ連絡してきたならお前だけに話したい何かがあるのかもしれないだろ」

「なるほど。でも俺にだけ話したいこととかあるか?」

「さあな。もし特段そういうわけじゃないなら俺を探してくれればいい」

「りょーかーい」

 

 要の言葉に答えた十影は端末を取り出して連絡を確認し始める。それを見送った要は、一足先に新幹線へと向かった。

 

 

 

******

 

 

 

 結局、新幹線が到着するまで十影と久美が合流してくることはなく、改札を抜けたところでようやく2人と要は合流した。

 

「おーい要ー」

「どうした?」

「いや、事務所まで一緒に行こうぜ」

「良いのか?」

「あー、先輩のことなら心配いらねえぜ。だって話の内容――」

「ちょ、ちょっと! 言うな!」

 

 十影が会話の内容を教えてくれようとしたようだが、それを久美が焦って止める。やはり何か要には聞かせたくない内容だったのだろうかと考えたが、それでは十影の言っていることと矛盾する。取り敢えずわざわざそんなことを聞きたいわけではないので、要はそれを流して先を促すことにした。

 

「そういうことなら一緒に行くか。おはようございます先輩」

「……おはよ」

 

 少しむすっとした感じで挨拶されるが、十影が笑っているところを見るとこれで問題は無いらしい。

 

 駅から10分ほど、アベル事務所に向けて地図を頼りに歩を進める。

 

「先輩、1つ聞きたいことがあるんだが、今良いか?」

「何?」

「先輩の個性の細かい部分について聞きたい」

「個性? 知ってどうするの?」

「元のオブジェクトと比較したい」

「比較?」

 

 首をかしげる久美に、要は自分が彼女の個性について聞きたがっている理由について説明する。

 

「ああ。十影や先輩、ブライトさんの前例がある以上、同じようにオブジェクト由来の個性を持つ人間がいる可能性は高いし、最悪の場合ヴィランになっている可能性がある。そのときにどれぐらい本来のオブジェクトから特性が変化しうるか調べてみたいんだ」

「ああ、そういうこと。それは私も気になってた」

「個性の使い道を考えた時に、か?」

「うん。財田君に聞いてから色々試してみたら、私の個性でもっとできることがあったんだよね」

「というと?」

「私はずっと、まあ、その記憶があったから、個性はいろんな物をクマのぬいぐるみの形に成形して操れるものだって思ってた。で、これまでもそうやって使ってきたわけ」

 

 そう言って彼女は鞄からゴミの袋を取り出すと、それを手の上に乗せて個性を使う。するとそれの形が変わっていき、やがて小さなクマの人形の形になった。

 

「こんな感じ。でも、よく考えたらおかしいんだよね」

「というと?」

「クマのぬいぐるみが、自分の形の人形作ってたわけでしょ。じゃあ私はなんで自分の形の人形作らないのか、って。やってみたら普通に出来た。それに、そのどっちじゃないものも作れるみたい。まだうまく出来ないけど」

 

 そう言っている久美の手の上では、生まれたばかりのクマの人形が楽しそうに踊っている。

 

「なるほど……。先輩の個性ではその材料の特性が発揮されることはあるか? ビルダーベアの場合は耳で―――」

「それ以上言わなくていいから。思い出すと怖い。ていうかその名前、その、昔の名前に使わないで。私のヒーロー名だから。でも、うん。できるみたい。サポート科のところで余ってる配線とかパーツ借りてやってみたんだけど、電源無いのに放電したりとかもともとの機械の性能を発揮したりとかあった。どれぐらいでどうなるのかはまだはっきりとしてないけど」

「そうか……」

 

 それを聞いた要は顎に手を当てて考え込む。十影と久美の話を聞く限りでは、少しばかりまずい、かもしれない。

 

「どうしたのそんな考え込んで」

「ん? ああ、今聞いたのから考えると、オブジェクト由来の個性持ちは少々、というかかなりやばいかもしれない、と思って」

「やばいの? でも私がこの個性だから絶対に人間を対象にしたりはしない、って決めれるよ。人間が制御する分オブジェクトより安全じゃない?」

「いや、逆、だと思うぜ」

 

 久美の意見に、十影が反対を表明する。

 

「逆?」

「もともと現象だったり単純な思考回路でしか動いてなかったオブジェクトに人間の思考回路がついちまうんだ。もともと人型だったり超能力を持った人間みたいだった奴らは変わらないかもしれねえけど。例えば俺だったら、報告書では『適応力が高い』って書かれてていろんな攻撃にたいして順応するって書かれてるけど、今の俺は経験しなくても自分で変化することができる」

「能力を完全に使いこなす……」

「そういうことだ。先輩の場合も、元のクマ、キチクマの本来の能力を引き出したことで、クマの人形だけでなく他の形のものも自由に作ることができる、と考えれば」

「他の人達も、同じようにもとよりやばくなってる可能性もある」

「あくまで可能性だがな」

 

 あくまで可能性だ。もしかしたら、もうこれ以上オブジェクト由来の個性を持った人間はいないかもしれない。

 

 オブジェクトは、この世界には出現しないかもしれない。

 

 だが。そうしたすべての可能性に備えるのが要の目指す財団のありようだ。例えこの世界においてはオブジェクト由来でも個性だからと普通にヒーローが対応するとしても、その際の対策を練ることはできるのだ。

  

 

 

******

 

 

 

「ここね」

「あー、なんつうか……普通だな」

「あくまで今は人間、ということだろ」

 

 目的の3階建ての小さな事務所を見上げながら3人はそれぞれに感想を口にする。3人が言った通り、そこはヒーローとしては普通の事務所のように見えた。

 

 と。

 

「おーい」

 

 右の方からそんな声が聞こえる。そちらに視線を向けると、いつか見た金髪の男性が3人の方に歩いてきていた。今日は先日整えられていた髪は、適当に下ろされている。

 

「ブライトさん」

「買い出しか?」

「ということはあの人もヒーロー……」

 

 三人が見つめるうちに、その男はすぐ目の前まで迫ってしまっている。

 

「やあ、久しぶりだね。入らないのかい? あ、じゃがりこ食べるかい?」

「食べません。今到着したところです」

「相変わらず君は堅いねえ。脳みそが報告書で出来てるのかと思うぐらいだよ」

「まさにそうなんだが」

「おっと、これは失礼」

 

 敬語をやめた要にそうおちゃらけたブライトは、久美と十影にもじゃがりこの箱を突き出して勧めた後、3人を事務所へと誘った。




寮のトイレに見覚えのない扉があるのマジで怖い。2年間気づかなかったのか……?



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