SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第18話 アベル事務所

 ブライトに促されて、3人は事務所の中へと入る。内装も至って通常と変わらない事務所だ。受付のようなスペースは無く、応接用のソファーとテーブルらしきものと、仕切りの奥には作業用のデスクが複数設置されているのが見える。

 

「おーい2人ともー。雄英の生徒が来たよー」

 

 そう奥に向かって叫んだブライトは、そのまま買ってきたものを持って二階へと上がっていってしまう。入り口付近に取り残された3人が手持ち無沙汰で待っていると、奥のオフィスのその更に向こうの扉から1人の男性が出てきた。

 

「出迎えが遅れてすいません。ようこそアベル事務所へ」

 

 そう言って丁寧に一礼をしたのは、褐色の肌をした男性である。身長は要と十影の中間ぐらいの大きさで、その額には何やら青く輝くシンボルが刻まれている。

 

「こんにちは、カインさん。よろしくおねがいします」

 

 他の2人が何も答えない中挨拶に応じたのは要だった。その見覚えのある見た目に、あえて相手の名乗らなかった名前をもって応じる。その答えに対して、彼、カインも満足げな表情で頷いた。

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします。あなたが財田要さんですね」

「そうです」

 

 カインが指の先から肘のあたりまでを何らかの布で覆った腕を差し出して握手を求めてくるので、要もそれに応えて握手をする。少し力を入れて握ってみると、布製の手袋の下から堅い金属の感触が感じられる。

 

 その後カインは、改めて他の2人の方へと向き直った。

 

「改めまして。プロヒーローのカインと申します。ようこそアベル事務所へ」

「あー、雄英高校1年生の藤見十影です。よろしく」

「雄英高校2年生の人形久美です。よろしくおねがいします」

 

 カインは2人ともそれぞれ握手を行う。その後3人を応接間のソファへと案内した。

 

「さて、早速職場体験、といきたいところなのですが、現在所長のアベルは事件があったとのことで見回りに出ています。そこで、彼が戻ってくるまでに1年生のお二人にはヒーローという存在について基本的な部分をおさらいさせていただきたいと思います。久美さんには申し訳ないのですが、少しの間待っていていただけるでしょうか」

「別に、良いですけど。カインさんは見回りしないんですか?」

「私は1年生のお2人を担当してヒーローの業務に関する基本的なことを伝え、久美さんにはアベルについてより実践的な活動をしていただく予定です」

「ああ、そういうことですか。わかりました」

「ありがとうございます」

 

 久美に礼を言ったカインは1年生2人の方へと向き直ると、職業としてのヒーローの基本的なことに関して説明を初めた。ヒーローの社会的な立ち位置や警察との関係、給料の形態など、ある程度学校でもやった内容ではあるが、それを改めてヒーローとして活動しているカインから説明された。

 

 

 

******

 

 

 

 カインの説明がほとんど終わる頃になってようやく、上の階からブライトが降りてきた。

 

「あれ? まだ見回りに行っているのかい?」

「ブライト……あなたこそ何をしてたんですか? 今日は書類整理をする日でしょう?」

「ああ、そう言えばそうだったね。で、アベルは?」

 

 全くと言って良いほど話を聞くつもりの無さそうなブライトにため息をついたカインは、先程3人にしたのと同じ説明を繰り返す。

 

「ふーん、ヴィランかい?」

「殺人ですから、十中八九ヴィランでしょうね。詳しい情報はまだ出てないようですが」

「ふーん」

 

 何を考えているのかわからない様子で応えたブライトは、そのまま奥のオフィスの更に奥へと消えていく。それをいつものことだと見送ったカインは、3人の生徒の方へと向き直って別の話を初めた。

 

「さて、これでひとまずヒーローという職業に関する講義は終わりです。まだ弟も戻ってきませんし、次は私達の事務所に3人をお呼びした理由について話させていただきたいと思います」

「あの、弟、ってここの所長さんのことですか?」

 

 久美が尋ねたタイミングで、事務所の扉が開き、1名の男性が入ってくる。上半身下半身ともにゆったりとした布を巻いているだけであり、露出しているオリーブ色の肌のあちこちには真っ赤な入れ墨のようなものが多数存在する。

 

「弟が帰ってきましたね」

 

 カインがそう言っている間に、その男性は4人の方へと近づいてきた。

 

「すまない。随分と待たせてしまったようだ」

 

 そう言うとその男性は、カインの隣へと座り込む。

 

「さて、自己紹介は必要無いと思うが、俺がこの事務所の所長をしているアベルだ。以後よろしく頼む」

 

 アベルの自己紹介に、3人もそれぞれ自己紹介で返す。その後、アベルは隣のカインの方を向いて尋ねた。

 

「どこまで進んでいる?」

「もうほとんどの説明が終わっていますよ。後は私達の活動についてだけです」

「そうか。じゃあそこまでは兄貴に任せる」

 

 それだけを言うと、アベルは席を立って奥へと消えていってしまった。

 

「すいません、弟はああいう性格なので。3人が来るのも楽しみにしてたのですが、楽しみを表現するのが苦手なんです」

「余計なことを言わないでくれ兄貴」

 

 奥から聞こえるアベルの苦情に応えず、カインは説明の続きを始める。

 

「さて、先程の続き、3人をこの事務所にお呼びした理由についてお話しましょう。十影さんと久美さんは、ご自分の自分のものではない記憶が何なのか、もう知っていますか?」

「オブジェクト、っていう異常なものだ、っていうのは財田くんから聞きました」

「同じく、です」

「そうですか。では話が早いですね。お2人同様に、この事務所の構成員である私達3人もそれぞれオブジェクトであった過去を持っています。もっともブライトに関しては少し違いますが、個性の由来がとあるオブジェクトであることに変わりありません。ここまでは良いですか?」

 

 カインは3人が頷いたのを確認して話を続ける。

 

「そして私達はこう考えています。『私達は、オブジェクトの異常性を個性として持って生まれた。ならば、同様に異常性を個性として持った者は他にも存在するはずだ』と。そこで、ヒーローとしての活動の傍ら、そうした者がいないかと情報収集を行っています」

「何故?」

「オブジェクトの中には、人類、あるいは地球そのものを滅ぼしかねない異常性を持ったものも存在します。そうした異常性を個性として持ってしまったものがいた場合には、その扱いについてアドバイスや援助、実際に個性を使うこと無く概要の提供を行い、危険性を発揮しないようにするためです。また仮にその個性を持った者がヴィランであった場合には、対処するヒーローに情報を提供することで被害を減らし、その後の逮捕の手順に関して情報提供を行います」

「これまで実績はあるんですか?」

「幸いなことに、今の所あなた方以外に確認できていません」

 

 カインたちがやろうとしているのは、要が作ろうとしている財団の対象を人間に絞ったバージョンである。要がそうした人間をあくまで個性として無視しようとしている一方で、彼らはそうした個性を持った人間こそ危険になりうると考えているのだ。

 

「俺たちもそれに参加してくれ、ってこと?」

「十影さんと久美さんはそうです。本来であれば久美さんは昨年お招きしようかと考えていたのですが、こちらが手が回らず今年指名することにしました。個性の扱いに関しても落ち着いている、と考えていたのですが……記憶に関して嫌悪感を抱いていることには気づきませんでした。申し訳ありません」

「えーと……なんで私に謝るんですか?」

「私達の活動の重要な役割として、こうした個性を持った人物に対するメンタルケアがあります。久美さんに対してはその役割を果たすことが出来ませんでした」

 

 おそらくは、ブライトから久美がSCP-1048に関する情報を聞いた際に激しく動揺したことを聞いていたのだろう。

 

「あー……正直謝られても困る、っていうか……一応自分の中でふんぎりはつきましたし。この個性を私が使って、今度は人を助けようって今は思ってるので」

「そうですか。私達もご協力できることがあれば協力しますので、何なりとおっしゃってください」

 

 久美、そして特に記憶に対する嫌悪感などはもともと持ち合わせていなかった十影との話を終え、カインは要の方へと向き直る。

 

「要さんについては、ご自身で為さろうとしていることがありますね?」

「財団をこの世界にも作る、ということに関してはそうです。この世界に合わせて個性など鑑みなければならないことは数多くありますが、同規模ではなくとも同様の機能を持った組織を作れるように活動したいと考えています」

「わかりました。では、提案があります」

「何でしょうか」

「ひとまずは、私達とともにオブジェクト由来の個性と記憶を持った人物に対しての支援を行う組織として活動をしませんか? オブジェクトが少なくとも確認されていない現在では、財団ほどの規模の組織を“未知の脅威”に対応するためだけに設立、維持することは非常に困難でしょう」

「はい」

「そこで、自分ではないなにかの記憶を持っており、なおかつその個性が危険なものである人物を保護、支援するための組織として活動する中で、実際のオブジェクトに対応するための用意を整えていく、という形を取ることを提案します。もちろん、現状要さんが考えている方策があるならば、それとは別に行っていただいて結構です」

 

 その提案に、要は少しの間考え込む。要が雄英に乗り込むような形で入学までこぎつけたのは、もちろんかつて説明した通りヒーローになって地位を確立する、というのもあるが、自分の関われる範囲で大きな権限を持つ人間に名を売り、興味を引くためであった。それはもちろん、ゆくゆくの財団設立に利用するためである。

 

 だが、例えどれだけの脅威を語られたとしても、実際にその脅威が発生していないときにそれに対して多くの資金や労力を確保するというのは非常に困難な話だ。

 

 そこで、アベルたちの活動をカモフラージュに利用してはどうか、と言っているのである。オブジェクト由来の個性持ちに対処することができ、またそれを理由に様々な設備を整えることができる可能性が高い。

 

「……よく考えておきます」

「それで結構です。私達としてもオブジェクトがこの世界に悪影響を及ぼすことはなんとしても避けたいことですので、あなたの目指すところには協力すべきだと考えています」

 

 そうアベルが語り終えたところで、ちょうどよくブライトが奥から出てくる。

 

「要するに、あの狂気の世界を知る者同士仲良くやろうというわけさ」

「ブライトの言い方は大雑把に過ぎますが、その認識で間違いありません。あまり堅く考えないでください」

 

 カインの言葉に、3人はそれぞれに頷く。

 

 ここに、財団に関わる者達の共同戦線が出来上がった。

 

 

******

 

 

 

 

「カインさんも元はオブジェクト、ですよね」

「はい。私はSCP-073でした」

「どういう異常性だったか、聞いてもいいですか?」

 

 アベル事務所、という名前を聞いた時点で予想で来ていたアベルに関して、要は久美にも説明していた。だがカインがいるとは思っていなかったのでそれに関しては説明していなかったのだ。

 

「私の異常性は複数ありました。1つ目は映像記憶です。遥か昔のことから今この瞬間まで、すべてのことを映像記憶で覚えています」

「遥か昔っていうのは?」

 

 久美と同じくカインに関して詳しく知らない十影がそう質問を投げかける。

 

「あの世界での私の生まれは、西暦で換算される現在から数えれば遥か数万年以上前。現在の人類ではない複数の種族が存在していた時代です」

「数万年分の映像記憶……」

「このあたりの話は話すと長くなりますので先に進みましょう」

 

 そのあたりの記憶、歴史を話し始めると、いくつかの人類史を語るようなものになる。それはこの場では不適切だった。

 

「2つ目の異常性は、あらゆる外からの危害を、それを直接的、間接的に関わらず加えた人間に対して跳ね返します。例えば私を殴れば自分が殴られる衝撃を受けますし、私を銃で撃てば撃った人が撃った傷を負います」

「それって、無敵じゃないですか?」

「そうですね。ですが完全な災害に関してはその限りではない、と……まあ試したくありませんが。3つ目は、私の存在する周囲20メートルのあらゆる植物、土で成長する菌類は死に絶え、植物性由来の製品も触れると腐敗するというものです」

「半径20メートル!? 道歩けないんじゃないか?」

「かつては、そうでしたね。そもそも施設から出るのを禁止されていたので。ですが現在は個性へと変化したためか、意識的にその影響力を抑えることが出来ます」

 

 話が途切れたところで、それ以上の追求を避けようとアベルは3人に更衣室に行ってコスチュームに着替えてくるように指示する。要には知られていることが多いだろうが、カインとて人に知られたくない過去はあるのだ。




カインはカインですが、アベルはアベルではありません(意味深)
カインの説明読んで理解が出来なかった部分があるのですが、を中心としたエリアに植物が生息できないのか、それともカインの両手足の金属が土に触れることが問題なんでしょうか。まあ前者な気がしますが、後者の解釈もできそうだなと。


小説関係で非常に嬉しいことがあったのでテンション上がっています。拙作の1つがランキング上位に入っていたり非常に嬉しい評価をいただけたり……報告忘れていましたがこの小説も一時期ランキングに入っていました。応援ありがとうございます。


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この小説はCC BY-SA 3.0に基づき作成されています。

SCP-073 カイン
著者:Kain Pathos Crow
URL: http://www.scp-wiki.net/scp-073
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