SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
「あまりヒーローらしくないね。もしかして機動部隊を意識してるのかい?」
「……まあ、そうだな。俺の個性では戦闘に個性を使えないから戦うための武器が欲しかった。それに俺にとってのヒーローは……これだからな」
「なるほどね」
コスチュームに着替えて出てきた要を見ながらブライトはニヤニヤしている。特殊部隊然とした要の姿は確かにヒーローらしくはない。ヒーローはただの兵士ではなく、文字通りのヒーローとして、かっこいい存在でなければならない。だからこそそのコスチュームは、機能を重視すると同時にその見た目も重視される。今の要にはそれが無かった。
「確かにヒーローとしては少々不適切かもしれませんね。ですがそのあたりはデザイン事務所に要望を出せばある程度の見た目は確保してくれますよ。それに目立つというのはあくまでヒーローの1つの要素にしかすぎません。私以外にも目立たないコスチュームを使用しているヒーローは存在しますよ」
自分も同じ様な経験のあるカインがコスチュームを整えながら教えてくれる。カインのコスチュームは両腕を肘の辺りまで覆う手袋にその上に着た白のワイシャツ、会社員などが着用しているようなスーツのパンツに革靴と、とてもではないがヒーローには見えない。髪を後ろでくくることで額の青い宝石は露出しているが、それだけではただの異形系の個性を持った会社員に見えてしまう。
だが、最後にカインはその上から黒のコートを羽織る。あちこちに鎖や青い紋章で装飾の施されたそれは、たしかにカインがヒーローであるということを主張していた。
「もしかしてそのコートは飾りっすか?」
「概ね飾りですね。通常のコートと同じ様な機能しかありませんが……私の個性ならばこうした装飾品も身につけられますから」
そう言いながらカインは、全体的に青色のイヤリングやネックレス、ブレスレットなどを装着していく。その青色は彼の体において人間のものと入れ替わっている金属質な部分とほとんど同じ色をしている。彼のパーソナルカラーともいえるものなのだ。
「アベルさんは、ヒーローっぽいっつうか、蛮族? でもあれだな。昔よりは露出が少ない」
「弟はめんどくさがりですから。身につけるのに時間がかかるコスチュームは嫌いなんですよ。それに戦ってしまえば大体コスチュームをボロボロにしてしまいますからね」
「俺に防具は必要ない」
アベルのコスチュームは、先程も彼が着用していた、というと語弊があるかもしれないが、体に巻き付けていた布のようなものである。基本素の身体能力や耐久性が高く、また例え死亡しても復活する彼にはコスチュームによる防御力は必要ない。またその身体能力を武器とするので道具もいらない。結果として、見た目と着やすさを意識した布のようなのがコスチュームになっているのだ。
「お前は、思ってたよりしっかりしたコスチュームだな」
初めて十影のコスチュームを見た要は意外そうに言う。
「あー、まあな。俺も最初はいらねえと思ってたんだけどよ。まあなんか色々考えてもらったらこうなった」
十影は異形系と変身系のハイブリッドの個性である。そのためコスチュームは最低限の、変身しても破れない程度のものかと思っていたのだが、全身を覆う無数の鱗で出来たプロテクターのようになっているのである。
「変身したときにはどうするんだ?」
「この鱗みたいなのの継ぎ目が強い力がかかると外れるようになっててよ。でまた普通の状態に戻ったら合体する、って感じだ」
「なるほど。それで変身しても破れないようになってるのか」
普段は全身を覆っているコスチュームだが、十影が変身すると繋がっている一部が切り離されて変身した身体の一部分だけを覆うように形状が変化するようになっている。例えば十影が完全な“不死身の爬虫類”状態になったときにはコスチュームの背中の部分が裂け、手足も同様に後ろ側の部分が裂けて、お腹の下の部分だけを覆うプロテクターへと早変わりする。十影が自分の詳細なサイズを要望の中に入れて送ったためにこうなったらしい。
そうこうしていると、最後に着替えていた久美が更衣室から出てくる。この事務所の更衣室は男女別になっていないので、順番に着替える必要があったのだ。
彼女のコスチュームは白いシャツにオーバーオール、編み上げブーツと作業用に見える手袋、そして帽子と、機械の整備などをしていそうな見た目をしたものだった。といってもやはりコスチュームなので、可愛らしくかつかっこよくデザインがされている。
「……そんなに見てどうしたの?」
「いや……俺もコスチュームはもう少し考えた方が良いかと思って」
「あーそうゆうこと。だったらデザイン事務所にそう頼んでみると良いよ。機能性維持したまま見栄え良くしてくださいって。私もそれでこんな感じになったから。昔はただのつなぎだったし」
そう言って彼女はそのコスチュームを見せるように両手をあげてみせる。その動作のせいで若干幼く見えてしまうのは、オーバーオールがダボダボなサイズだからだろう。
「では、久美さんは弟と。要さんと十影さんは私と行きましょうか。ブライトは留守番をお願いします」
「はいはーい」
カインの指示にブライトがのんきな返事を返す。
「行くって、何に?」
「基本的には見回りですよ。事件が発生したときにはその対応に。ではアベル、また後ほど」
「行くぞ久美……お前らそれぞれヒーロー名は?」
アベルの問いかけに、3人はそれぞれヒーロー名を答える。要は『エージェント』、十影は『グランガチ』、そして久美は『ビルダーベア』。ちなみに十影は『クソトカゲ』を堂々とヒーロー名にしようとして先生やクラスメイトに止められたために、適当な爬虫類の神話の生物にしたそうだ。
「では、行くぞビルダーベア」
「私達も行きましょうか。エージェント、グランガチ。職場体験ではヒーローとしての活動を体験していただきますから、ちゃんとヒーロー名で呼び合ってくださいね」
それに慣れている久美は別として、要と十影は顔を見合わせる。その名前自体はどうということはない。青山のようにぶっ飛んだ名前にしてしまったわけではない。とはいえ、ヒーロー名で呼び合うというのはどこかくすぐったい感じのする行為だった。
******
事務所を出た二組は、それぞれ別の方向へと移動し始める。アベルとビルダーベアは、午前中にアベルが見回りをしていたエリアへ。町外れのほうで死体が複数出ているらしく、その近くにまだ犯人が潜んでいる可能性があるとして近くに事務所を持っているヒーロー達はそちらの見回りを行っているらしい。といってもこの街はけして大きいと言える街ではないため、そちらにヒーローの人員が割かれることで街の他の部分が手薄になってしまう。
そこでカインは、要たちにヒーローとしての仕事に慣れてもらう事を兼ねて他のエリアを見回ることにしていた。
ヴィランというのは、何故か人口密集地でこそ暴れようとする。本質的にただ力を持て余しただけのバカが多いのか、それともそうした場所で犯罪を起こした方が稼ぎが良いのか。母数が多いためにその中に含まれるヴィランが多い、というのもあるだろう。
ただその特徴のせいで、この国におけるヒーローの分布というのはかなり偏ったものになっている。ヴィランが多い分ヒーローが必要となるというのもあるし、そっちの方がヒーローも名前をあげたり稼ぐことが可能であるというのもある。一般人からの需要もヒーローからの需要も高いというわけだ。
結果として人口の密集具合と一緒で大都市にヒーローの大半が集中してしまい、国土の大半を占める人口の少ない街や農村部などにはヒーローが全くと言っていいほどいないのだ。このアベル事務所のある街も、事務所はアベル事務所含めて3つしかなく、ヒーローの総数も10人ほどしかいない。
そんなヒーロー事情をカインから説明されながら要と十影は街の中を見て回る。人通りも大都市などと比べると少ない。というか平日の昼間であるこの時間帯には人はほとんど見られない。子どもたちがいれば体育祭で活躍した十影に集まってきたりするのだろうが、時間帯的にそんなこともない。
見回りは短い昼食休憩を挟んで夕方まで行われた。
******
夕方になって事務所へと戻ると、ちょうどアベル達のグループも戻ってきていた。
「おや、おかえり」
パソコンの前で何やら打ち込んでいたブライトが、5人が揃って戻ってきたのを見てそう口にする。
「アベル、夕食はどうする?」
「俺はすぐに出る。置いといてくれ」
「はいはい」
もう長いこと一緒にいるのか、2人の会話は聞いているカイン以外の3人からすればわかりづらいものだったが、2人とカインの間では十分に伝わるものだったらしい。
「出る、って、アベルさん今から仕事ですか?」
「ああ。明日の朝は7時にはまた見回りに出る。それまでには起きて用意をしておけ」
「あの、その仕事の見学は……」
「必要ない」
短く答えると、アベルはそれ以上久美の言葉を待たずに事務所から出ていってしまう。それを見た久美は、何故か珍しくしょんぼりした様子を見せていた。それを見かねたカインが、久美を慰める。
「久美さん、弟が失礼な言い方をして申し訳ありません。弟は口下手ですから、自分の考えを伝えるのがあまり上手くないのです」
そう言われて、カインや十影から心配する目で見られていることに気づいた久美はハッとした様子で顔を上げる。
「大丈夫です! それで、あの、アベルさんが今からする仕事というのは?」
「見回りの続きですよ」
カインの言葉に3人が疑問の表情を浮かべると、今度はブライトがパソコンの前から顔を向けずに答えてくれる。
「カインとアベルは疲労を感じないからね。食事も人として楽しむ程度のものさ。貧弱な君たちには休憩する時間を作って自分は働くなんて、なんて素晴らしいヒーローなんだろうねえ」
「ブライト……その言い方はあまり適切ではないように思いますが」
「そうかい? 君やアベルに比べたら、他の人間が体力的な意味で貧弱なのは事実だろう?」
「言い方の問題ですよ」
まったく、とため息を吐いたカインは、改めて3人の方を向き直って説明してくれた。
「ブライトが言った通り、私と弟は疲労というものを感じません。そのため一日中働き続けることも可能です。それにあなた方をずっと連れていくことは出来ないので、夜間は私達は個々ではたらき、昼間はあなた方の指導に当たっているわけです。久美さんには今回の職場体験で夜間の見回りも経験していただく予定になっていますから、そのつもりでいてくださいね」
ただ事情を説明するだけでなく、久美に様々な経験をさせる用意はしているとフォローを含めてカインは説明した。それを受けて3人は納得した表情を見せ、順番に更衣室へと入っていった。
******
夜。肉だらけの食事を終えた3人がそれぞれの就寝スペースへと移動した後、一回の事務所にはブライトとカインだけが残っていた。
「そう言えば、警察から今回の事件に関して何か連絡はありましたか?」
カインが尋ねているのは、アベルが昼間見回りに行っていたという事件のことである。こうした個性を使用したであろう事件に関してはヴィランへの対策をするためにヒーローには情報が共有されるようになっている。
「ああ、さっきメールが来てたね。えーと……? 『何らかの方法で体内から心臓を引き抜き殺害。それ以外に外傷は見つからず』ということらしいよ」
「となると確実にヴィランということですか。それも条件次第ですがかなり凶悪な個性のようですね」
「まあ君たちには関係ないだろう。問題は学生3人組だ。682は心臓ぐらいなら再生するだろうが、1048と000は心臓を抜かれると少しきついだろうねえ」
「十分に気をつけますよ。あなたも、気をつけてくださいね」
「僕が殺しても死なないのは知っているだろう?」
自分を心配するカインがおかしいと言わんばかりに笑うブライトに、カインは肩をすくめることで答えてみせた。
この街で起きる事件は、大抵が強盗やひったくりといった他愛もないものであった。言ってみれば、ヒーローがほとんどいらない平和な街だったのだ。
だが、ヴィランが現れてしまった。大都市と違ってヴィランへの慣れが無いだけに一般人の不安は計り知れないものになるだろう。
早く犯人を見つけなければと、カインは今後のことにお見を巡らせた。
おっとぉ……?
この小説はCC BY-SA 3.0に基づき作成されています。