SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第2話 よく知っている

 財田要の一日は、1つの拳銃と弾丸を用意し、複数のSCPの報告書を脳内で細部まで読み込むことから始まる。

 

 閲覧する報告書はすべて、『知るだけでアウト』な認識災害の存在を示すもの。要は、あえてそれを閲覧するようにしている。

 

 自分がそれを読み、感染しないことを確認した上でその存在がまだこの世界に出ていないことを否定するためだ。

 

 そもそも、知った時点で終わりなSCiPに関する報告書を読むなどどうかしている、と思う人も多いだろう。

 

 だがそういう意味で言えば、要は幼少期にすべての報告書に目を通しているので既に知ってしまっている。

 それをあえて繰り返しているのは、仮にそうした存在が発生したと確認できた場合、即座に自分を終了するためである。深刻な認識災害、あるいはミーム感染を引き起こすSCiPの多くは、それを他者へ伝播させることで被害者を増加させる傾向にある。

 

 そしてそうしたSCiPに関する情報は、全て要の頭の中に詰まっている。つまり。

 

 要が自身を終了することで、それが解き放たれる時間を先延ばしすることができる。自分が最も知ってしまっているからこそ、仮にそれが訪れた時に即座に自分の命を断つと決めているのだ。

 

 ちなみに、脳内の報告書がそうした認識災害の感染源になりうるのかは判明していない。

 

 だからこれは、要の自己満足のための行動でしか無いのだ。そしてまた、再確認するための行動でもある。

 

 SCiPの全ては存在するだけで恐ろしく絶望的なもので。

 

 だからこそそれが発生したときのために要は財団を作り上げなければならないのだと。

 

 

 毎朝のそんなルーティーンが終わると、要は朝食を簡単に作り、1人で食べる。要の両親はいない。交通事故で亡くなってしまったのだ。それから要は1人で生きている。

 

 両親がそれなりに裕福であったため、その財産が引き継がれたことで金は十分以上にあり、また父が社長を努めていた会社からは。父の会社に対する貢献は計り知れないということで、息子である要の生活の援助が行われている。

 

 そのため、経済面において要は1人で生きていくことが十分に可能であった。

 

 また精神面において、ある意味財団の報告書に脳を侵されているような状態の要にとっては、1人で暮らすことぐらいなんでも無いことであった。

 

 侵されている、といっても何らかのオブジェクトによって認識災害やミーム汚染が引き起こされているわけではない。ただ、物心つく前から報告書をひたすらに読んできた要は、その根底にある常識が財団基準になっているのだ。

 

 つまり、残酷では無いけれど冷酷であり、失われるのは当然で幸せなど訪れるものではなく、一般的には他の子供と比べて愛に恵まれない自分の人生など悲嘆するに値しない。

 

 もちろん、本来自分の人生はそういうものなのである、というのを、考え方の上では理解していた。社会で生きていくためには、社会に合わせたミームというのは持っていなければならない。

 

 ただ、要はそれを知識として知った上で周りに合わせるように利用しているのだ。

 

 歳の割に異常に大人びた思考と知識を持ち、また悟りを開いたような人間が財田要という男なのだ。

 

 

 朝食を終えた要は、ハンガーにかけてあった制服に袖を通す。中学時代まで来ていた学ランではなく、おしゃれなブレザー。雄英高校と呼ばれる、日本でもトップクラスであると言える高校のものだ。

 

 12月時の雄英高校への訪問を終えた後要のもとには、校長の言っていた通り特別入学に関する書類が、つまり雄英高校からのスカウトが届いた。それを受け取った要は再度高校を訪れて学力試験と、その際に持参したSCP-2295“パッチワークのハートがあるクマ”を利用して個性の説明を行い、無事合格が決まったのだ。

 

 そのため通常の受験の過程は利用していない。今年の特別入学は要、ともう1人だけだ。そのもう1人とは、既に特別な事情で顔合わせが済まされている。というか特別入試の際に遭遇した。

 

 正直、会ったときには笑ってしまった。おそらく学校に行けばまた向こうから話しかけてくるのだろうが、『あれがこう変わるのか』というのが面白くて仕方がない。

 

 一通りの準備を終えた要は、最後に室内に置かれた大きなロッカーを開ける。大きなロッカーの割に、中にしまわれているのは2つのオブジェクトだけである。SCP-2295“パッチワークのハートがあるクマ”と、SCP-348 A Gift from Dad“パパの贈り物”。それぞれに、要が自分の個性の正体を確かめるために利用しても安全であると考えたオブジェクトだ。

 

 そのうちただのスープ皿であるSCP-348は良いとして、SCP-2295は意志持つクマのぬいぐるみだ。だから毎朝毎晩、要は彼に声をかけたり。あるいは夜は一緒に寝たりと、彼を安全に収容するための行動を行っている。またその中で、例え怪我人がいたとしても自分の許可がない限りは治療を行わないでほしい、と伝えてもいる。最もそれを聞いてくれるかは別だが。

 

「俺は学校に行ってくる。静かに待っているように」

 

 “パッチワークのハートがあるクマ”、通称パチクマはロッカーの中に腰掛けたまま、要の方を見上げてコクリとうなずいた。パチクマは自分の側からの意思伝達の手段は持たずまたそうしたことをしようともしないのだが、言っていることは認識しているのだ。

 

 家を出ると自転車で15分ほど。資金は少なくとも一生生きていくには十分なぐらい潤沢にあるので学校の近くに部屋を借りた。

 

 正門から入場し、駐輪場に自転車を置いて学校の中へと入っていく。以前来た際には案内されて直接小会議室に行ったので通常の教室周りを見たのは初めてのことだ。

 

「大きい……」

 

 教室の入り口の扉は身長170センチの要からすると大きく。というか3メートル以上あるので、大半の人間にとっては大きすぎるだろう。どうやってこれを開けたものかと一瞬要が思案している、後ろから大きな衝撃を受ける。

 

 がっしりと肩を組まれ、体重をずっしりと要にかけてくる。要より幾分大きな体躯が背中の接触点から感じられた。鍛えてある要の体が揺らぐことはないものの、それでも重たいものは重たい。

 

「おはよう十影」

「おーっすおはよう要。クソトカゲって呼んでもいいぜ?」

「別に中身がお前ならクソじゃない。お前もこっちか?」

「いーや、俺はB組の方。流石に特入2人同じクラスにはしないだろ」

 

 そう言っている間も十影の腕は要の肩にかけられたままだ。要はどうせしばらくしたら離れていくのでそのまま放っていても良かったのだが、他の生徒が教室に入りたそうにしているのを見て嘆息する。

 

「十影、他の人の邪魔になってる」

「おー、悪い悪い。じゃあ中に入ろうぜ」

 

 そう言った十影は要の肩から腕を外すと、要が動く前に教室を開けてずんずんと入っていってしまった。荷物を持っていないところを見ると既に自分の教室に行ったのだろう。要も後から来た髪の長い女子生徒にペコリと頭を下げた後、教室の前方の黒板で自分の席の場所を確認して席に向かった。

 

 そこでは既に十影が机に腰掛けて待っている。

 

「行儀が悪いな」

「お前の椅子が無くなるのは嫌だろ?」

「嫌だ。で、朝からなんの用だ?」

「暇なんだよ。なんか面白いの教えてくれよ。前も話してくれただろ?」

「あのなあ……。人前では話せない、って言っただろ?」

「そうだっけか? んじゃあ屋上行こうぜ」

 

 そう言うと、十影はヒョイっと要を担ぎ上げてそのまま教室の出口へと向かっていってしまった。周囲の生徒がぽかんとあっけに取られているが、要の目にも十影の目にも、他の生徒は有意な実体として捉えられていない。つまり興味がない。

 

 そして要も、こいつに何かをされた際には言葉以外で抵抗するのは無意味だとわかっているので、降ろせとは言いつつも暴れて抵抗などはしない。少ない邂逅ではあるが、こいつのことはもうよく知っている。

 

 ああ、そうだ。こいつがこいつである前から。《Keter》クラスのオブジェクトであった頃から知っている。

 

「さー屋上についたぜ!」

 

 意外と優しく屋上に降ろされた要は、その場にあぐらをかいて座り込む。そして、空を見上げて思いついた。

 

「時間も無いし、1個だけな」

「おー面白いやつか?」

「まあ……強い奴ではない。ただ考えると面白い」

 

 そう言うと、要は彼に1つの物語を語り始めた。

 

 

******

 

 

「SCP-8900-EX Sky Blue Sky“青い、青い空”」

「EXってなんだ? SafeとEuclidとKeterだけだろ? Keterよりやばい、ってことか?」

「いや、EXはExplainedの略、つまり異常だと思われてたのが科学的に解明されて異常じゃなかったと判明したものとか……とにかく異常ではないと扱われるものだ」

「なんでそれがSCiPなんだ?」

「記録として残り続けるんだこういうのは」

 

 そして咳払いをして声を作った要は、淡々と報告書を読み上げる。

 

「SCP-8900は接触によって感染する、可視スペクトルに影響を与える複雑な知覚現象です。この現象は最近開発された技術を用いて撮影することができますが、この異常現象を撮影することは現象の迅速な拡散を招くと思われるため、推奨されません。この現象は1800年代中期から後期に特定の撮影技術の副産物として発生しました」

 

 要が言葉を切ると、十影は顎にその鱗に覆われた手を当てて考え込む。財団の報告書は、時にわかりづらい、あるいは専門的知識、オブジェクトに関する経験や知識が無いと理解しづらい言葉で書かれていることがある。このオブジェクトの場合は専門知識というより、普段は認識しないものを言葉によって表現したために、結果として理解が難しくなっているのだ。

 

「可視スペクトル、ってことは目に見えるものだよな。というか光線、だな」

「ああ。もしかすると、お前にも覚えがあるかもしれないぞ。影響が人間に出始めたのは1935年頃。それ以降に殺したときの記憶があれば、な」

 

 要の言葉に、十影は目を閉じて自分の記憶をたどる。正確には、個性によって与えられた、自分ではない自分の記憶、であるが。そしてそれを見つける。

 

 そうだ。あの瞬間何故か、血が“赤く”なったのだ。いや、それ以前も赤かったのだが、“赤く”なったのだ。

 

「もしかしてあの色が気持ち悪くなったやつか?」

「覚えているか。ということは、SCP-8900-EXはお前にも影響があった、と。お前に記憶処理剤は効かないだろうからな」

「あーあれか……なんであれがEXなんだよ。説明出来たのか?」

「ん? いや、説明出来てないぞ」

 

 要の言葉に、十影は首をかしげる。それを見てニヤリと笑った要は、彼の大好きなこの物語の続きを話し始めた。

 

「この報告書には、O5、つまり財団で一番えらい人物の1人の書き置きが記録されている。閲覧もO5権限、O5しか見れない」

「やばいもん、ってことか」

「まあお前より物理的にやばいものじゃない」

 

 そして要は、それを語り始める。

 

「『諸君、我々は失敗した。SCP-8900の影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになってしまった。空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。SCP-8900は全ての可視スペクトルに荒廃をもたらし、我々は覆い尽くされた。正反対の影響を及ぼす「感染症」を作り出すという試みもまた失敗した。我々は被験者に対して自然な色彩を復元させることに成功したが、この処置は被験者の口を利けなくしてしまうようだ。その上、今しがた使者がオフィスに到着し、我々の試みが収容違反を起こしたことを伝えてくれた。未来のエージェントはこれ自体をSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな。我々にはたった一つの選択肢が残されたのだ、諸君。私は財団の最終フェイルセーフ手段、アンニュイ・プロトコルを実行する』」

 

 そこで一旦言葉を切り、十影が理解を示しているのを見た要は続きを言い切った。

 

「『適切な権限を持つ君達がこのメッセージを受領する頃には、財団は世界中の資源を動員し、保有する中で最も微細な効果を引き起こす記憶処理薬である化合物ENUI-5、その大量散布を終えていることだろう。世界中のこのような恐怖を味わうべきでない男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう、この現象が常に存在していたと確信し、何を失ったかを決して知らないまま。ただ一つ、SCP-8900の影響を受けていない写真のみが真実を伝えていくことだろう。私は残念でならない、諸君。本当に残念だよ。これはやり遂げられねばならない。

— O5-8.

確保、収容、保護。』」

 

 最後まで聞いた十影は、うつむいていて。顔をあげたときには目をうるませていた。彼は、記憶の中の彼とは違ってどこか単純な性格をしていた。

 

「負けたんだな……」

「ああ。負けた。財団はその異常を抑えられなかった。だから、それが異常であることを全員で忘れることにした。そうすれば、異常は異常ではなくなる。それが日常になる」

 

 そうして。血は美しい“赤”に。木々は燃えるような“緑”に。

 

 そして空は。

 

 透きとおる“青”に。

 

「青い、青い空は、今日も変わることなく広がっている」

 

 そう言いながら要は、雲一つない青空を指差した。

 

 財団がはっきりと敗北を宣言し受け入れたのは、この件を除いて存在しない。世界が滅亡する場合には、明確にあがいて最後の1人まであがききっている。

 

 だがこのときの財団は、人々の生活のために、あがくのをやめたのだ。

 

「……財団って、ほんとすげえな」

 

 十影の感想に、要はニヤリと笑う。

 

「何を今更。お前が収容されてたんだ。すごくないはず無いだろ」

 

 そう言われて、それもそうか、と。藤見十影は。

 

 かつて、SCP-682“不死身の爬虫類”として生き、財団に収容されていた記憶を持つ男は納得を示した。




やっぱりね。主人公だけがそっち関係じゃあ面白く無いでしょう。ということで。ハロークソトカゲ。まあ人間になったのでクソじゃないかもしれないですが。

SCP-8900-EX、『財団唯一の敗北』ではないですよね。実際何回も世界は滅んでるので唯一の敗北ではないと思います。
でも、『財団唯一の敗北宣言』って、まさにそのとおりだなと。人々の生活を守るために異常と戦うことを決めた財団が、人々の生活のために異常を受け入れた。すげえなあって思います。もう1個こういうオブジェクトあるんですけど、わかる方いますか?



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この作品はCC BY-SA 3.0に基づいて作成されています。


SCP-682 不死身の爬虫類
著者:Dr Gears, Epic Phail Spy
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-682
作成年:2013年

SCP-8900-EX 青い青い空
著者:tunedtoadeadchannel
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-8900-ex
作成年:2014年

SCP-2295 パッチワークのハートがあるクマ
著者:K Mota
URL:http://scp-jp.wikidot.com/scp-2295
作成年:2016年

SCP-348 パパの贈り物
著者:Zyn
URL: http://www.scp-wiki.net/scp-348
作成年:2013年
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