SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
翌日もまた、朝から要達は二手に分かれて街のパトロールへと出発した。個人的に連絡を取っている砂藤や芦戸によると他の事務所ではプロヒーローとの模擬戦のような実力を高めるための訓練をしてくれたりしているようだが、今のところアベルからその予定は告げられていない。代わりに書類仕事を見学させてくれるらしい。ブライトが担当するということでどの程度まともなものになるかはわからないが。
「平和だな」
「そうそう頻繁に事件が起こっても困るだろ」
アベルとともに近くのより大きな街にパトロールに行っている久美とは違い、大して事件の起こらないパトロールをしている2人は、有り体に言ってしまえば暇であった。確かにそれは望ましいことなのかもしれないが、ヒーローとしての活動を学びに来た2人にとってはいささか不適切に思える。
「カイン、さん。ちょっと質問があるんすけど」
「何でしょう?」
「なんでこの街にいるんすか?」
十影のその問いかけに、カインは足を止めて振り返る。
「というと?」
「いや、その、お2人の個性って強力ですよね。ならもっとヴィランが暴れる大きい街の方が活躍できるんじゃないすか? ヒーローってある程度成果制だし給料的にもそっちの方が良い気がするんすけど」
名前も売れる、金も稼げる。そして2人の実力上危険は危険とは言い難い。忙しくはなるだろうが、それもこの退屈とすら言い切れる状態を考えると多少の忙しさには耐えられるのは無いだろうか。
そんな十影の問いかけに、カインはニコリと笑う。
「そうですね。ですが、私達にはそれが都合が良いんですよ。何故だと思います?」
あえて質問に質問で返したカインに、悩む十影に代わって要が答える。
「目的がヒーロー活動ではないから、ということか?」
要の言葉に再び笑ったカインは、再度背を向けて歩き始めた。マイペースなカインの行動に十影が肩をすくめてみせる中、カインは話し始める。
「私達の目的は、私達のようにオブジェクトの記憶、能力を持ってこの世界に生まれてしまった人たちを保護し、その力を暴走させないようにすることです。そんな私達に取って、この街でヒーローになるというのは都合が良いことなんですよ」
「都合が良い?」
「ええ。ヒーローというのは、正式な資格を持って活動していれば他の事務所や警察にも顔が効きます。事務所の代表としてならなおさらです。過去起きた事件や不可解な事件が起きていないかを調べることぐらい造作もありません。そしてそんなことをしていても、並のサラリーマンと同等の給料を国からいただくことができますし、経費などで色々と言い訳がききます。この街では大きな事件はあまり起こらないので業務に忙殺されるということもありません」
カインの言葉に、要は彼の言いたいことを察する。
「ヒーローという立場を利用するには忙しすぎないここが都合が良い、ということか」
「はい。その通りです。それにですね」
そう言ったカインは、ちょうど通り過ぎようとしていた大きな交差点の角で足を止め、街を見渡す。
「平和とは、良いものですよ」
交差点を通過する乗用車やトラックが足を止めて待つのは、横断歩道を渡っていく老人や子どもたち。道を渡り終えた子どもたちは、振り返って待ってくれた相手に頭を下げて大きな声で礼を言っている。その向こうでは八百屋のおじさんが声を張り上げ、そこに主婦であろう女性たちが集まっている。
「平和とは、なかなか得難いものです」
その言葉には、彼の、彼らの、血塗られた、けして穏やかとは言えない前世を思えば、その重さに震えずにはいられない。
毎日誰かが死ぬ。
世界を救うために、誰かが犠牲にならなければならない。
人々のために自らの命を費やす。
そんな英雄を見てきた彼らの。
「退屈な街、という人もいるのでしょう」
カインは語る。
「だからこそ私達は、それがどうしようもなく嬉しい」
激しく燃え尽きる花火の様な人生を多くの人は望むのだろう。だが長く死と向き合ってきた彼らには、穏やかなろうそくの火こそが何よりも尊く思えた。
「と、語りすぎましたね」
そう言いながらカインは、照れくさそうに2人に向けて笑う。
「ヒーローとしては珍しいのかもしれませんが、私達にはオールマイトやエンデヴァーのような派手な活躍や大捕物ではなく、毎日平和な街をパトロールして町民の皆さんと笑って、という活動の方があっているのですよ」
そう告げるカインの表情があまりにも穏やかで。2人はそれにうなずくことしかできなかった
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近くのファミリーレストランに入って昼食をとった3人は、その後もパトロールを続ける。カインはこの街の少ないヒーローとして有名なのか、昼間に食事を取りに来ていた主婦たちやご老人の方々から挨拶をされていた。といってもそれは通常人々がヒーローに向けるような『偶像を見る』視線ではなく、街の友人を見るような視線であったのだが。
ヒーローとヴィランという存在が現れたことで、大都市部とそれ以外に流れる雰囲気は過去に増して異なるものとなっている。そんな差を2人も、理由ははっきりとし無いながらも確かに感じていた。
「この街でのヴィランは年にどの程度出現するんだ?」
「そうですね。個性を使って強盗などを企む者も含めれば年に30件ほど。そのうち他者に直接危害を加えようとするものとなると5件あるかどうか、といったところでしょう」
「少ない、な。それにヒーローが10人もいんのか?」
カインに対して敬語を使うのをやめている要に引きずられるようにして十影もその敬語を放り捨てる。
「ヒーローはいる街だけで活動するわけではありませんし、この街は規模に対して特に穏やかなんですよ」
個性という管理しづらい力を誰もが扱えるようになったことで犯罪件数はかつてと比べて増加している。目に見える派手な犯罪が増えたということでもあるのだが、それに対してこの街は、何故か犯罪件数が少ない。
そしてそんな街にいるヒーロー達も、そうした場所を好む者たちが多かった。
3人で老婦人の買い物帰りらしき荷物を運ぶのを手伝った直後、カインがなにかの連絡を受け取る。
『────』
「なるほど。わかりました。雄英の職場体験の生徒がいるのですが、連れて行ってもよろしいですね?」
『────』
「わかっています。危険な場合にはすぐに遠ざけます。では」
電話を切ったカインは、2人の方へと向き直る。
「事件が起きたようなので今から現場に向かいます。といってもまず対処するのは警察の仕事ですので、警察から声がかかるまでの私達の仕事はパトロールになります。」
「事件て? ヴィランか?」
十影の問いかけに、カインは頭を振る。怪訝そうに2人が見つめる中、少し遠い目をしたカインはそれを口に出す。
「いえ。死体が1つ、見つかったようです。昨日に続いて2件目です」
静かなカインの言葉に、2人は表情を強張らせた。
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他のヒーローからの連絡を受けて3人が急行したのは、街の北、森に隣接したエリアだった。昨日不審死の死体が発見されたということで事件性がある可能性を考えてヒーローのパトロールを増やしていたが、2体目が見つかったとあって急遽街にいるヒーローの大半を集めて警戒態勢をしくことになったのだ。
「パトロールをするってことはヴィラン犯罪の可能性が高い、ってことか?」
「事故と殺人の区別ぐらい警察がしているだろう。何らかの証拠があるんだろうな」
「そうですね。警察はヴィランによる殺人として捜査をしています。少なくとも昨日の件に関しては。今日発見された分は検死をしてみなければ分からないですが……少なくとも目立った外傷は無いようです。となると交通事故ではありませんね。後は心臓発作などの病か、何らかの個性か……」
昨日の事件に関しては、すでに検死の結果をカインは聞いている。が、それは警察内部の情報を回してもらったものであるため軽々しく話すことのできるものではない。そもそも2人にはヴィランの相手をさせるつもりは一切ない。遭遇した瞬間に逃げてプロヒーローに報告をすれば良いだけなのだ。
「さて」
カインが携帯を操作して2人に地図情報を送ってくる。死体の発見された地点と、そこから考えられたパトロールするエリアだ。現在地、一旦警察や他のヒーローに声をかけるために街を突っ切って街はずれのあたりまで来た3人の現在地も記載されている。
「今からこのエリアのパトロールを行います」
3人はそれぞれに自分のスマホで地図を確認する。死体が発見された地点を囲うように、北は森の手前までがパトロール範囲になっている。
「ヴィランがいた場合森に潜伏している可能性は?」
「ありえます。ですが私達の現在の役目はパトロールです。ヴィランの捜索は私達ではなく適した個性を持ったヒーローに声がかかるでしょう。ちょうど良いのでここで講義を1つしておきましょう。ヒーローの個性とその役割分担についてです」
個性を使って人助けをする者達を一括りにヒーローと言うが、その中にも様々なものがいる。要のクラスメイトで例えるならば、1つ目は爆豪のような戦闘特化タイプ。これは特に戦闘力が高い個性の者が当てはまる。
次に麗日や蛙吹など、限定状況下ではあるが災害救助に強みを発揮する者。これは、例えば戦闘特化に思えるオールマイトや緑谷でもその個性の使い方次第では人助けに使えるように、他の区分と重なる部分がある。
3つ目は、耳郎や葉隠、障子のように探索に優れたもの。鋭敏な感覚や隠密能力を活用することで犯人の捜査や潜入任務などで活躍する。
4つ目は例外区分で、八百万のように活用する方法が多いものがある。これに関しては千差万別な個性なのでそもそも区分することすら馬鹿らしい。
「このように、プロヒーローになった後の活動内容は、本人の適性などによって選ぶと良いでしょう。事務所によっては潜入任務や捜査に特化していたり、逆に戦闘に特化していたりします。そうしたことも、他事務所との連携を考える際には必要になってきます」
「この街には捜査が得意なヒーローがいるのか?」
「1名います。おそらくは彼女の力を借りることになるかと」
そう言ってカインは話は終わりとばかりにスマホをしまう。普段は他の人間から話しかけられた場合にはしっかりと答えるカインだが、今ばかりは半分緊急事態である。呑気に喋っているわけにもいかないのである。
と。
「なあ、あれ」
野生の勘で察知したのか、十影が2人に通りの先を示す。互いに向けていた視線を2人がそちらに向けると。
通りの先から、黒い影が近づいてきていた。
お久しぶりです。少し書くのから離れると書くのが遅くなってなんか気持ち悪いです。頑張って書きます。