SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第22話 必要なのは

 敵がオブジェクト、あるいはオブジェクト由来の個性であるとわかったカインが、素早く警察と街の他のヒーローへと連絡を取る。警察に対しては、街のこちらがわ、つまり森に接する部分の封鎖と見張り、そして街へと近づく道路の封鎖を。ヒーローには、森の中の邸宅に引きこもっているヴィランに対処するという報告と、数は多くなく個性的にも対処出来るので、ある程度森側によりつつも街でのパトロールを続けてほしいことを。

 

 それぞれにオブジェクトに関する情報が漏れないようにしつつ、対応できる動きをするように指示を出す。これが街中の場合は警察と他のヒーローも集めてすぐに対応することが求められるのだが、場所が街の外ということで、ヴィランの逮捕よりも『街の防御』が優先されることになったのである。

 

 これも個性社会とそれ以前で異なっているところである。ヴィランといういつ暴れ出すかわからない爆弾が出現したことで、ヒーローが複数常駐できないような小さな集落や村、町は消滅し、一定以上の規模を持つ街が地方には出現したのである。街の端が遠い大都市圏と違ってそうした地方の街では、ヴィランはヒーローが捕縛するという選択肢と、街の外へと誘導するという二つの選択肢が存在するのだ。

 

 そしてそのヴィランの『追討任務』を請け負うのが、今回の場合は要ら3人というわけだ。もちろん警察も街の封鎖ができ次第何人か合流してくるだろうが、対ヴィランに関しては警察よりもヒーローが前に出ることになる。

 

「グランガチ、あれが出現した場合に備えて非常に弱らせた心臓を複数個作っておいてください」

「りょーかい!」

 

 カインがこの場で出来る対処をグランガチに伝えている間に、要は今回の対処の要となる八百万へとメッセージを送る。おそらくカインからの連絡を受けて急いでこちらへ向かっているだろうから、手が空いたときに確認出来るようにとテキストメッセージにしたのだ。

 

 八百万が職場体験をしているウワバミの事務所に要請を出したのは自分が職場体験をしている事務所であること。現在追っているヴィランに対して有効なのが銀の弾丸だけであり、それを八百万に用意してもらいたいこと。カインと警察の間の話で今回に限り緊急で拳銃の使用許可が出たのでそれに合わせて弾丸を作るか、銃から製造してもらいたいこと。

 

 それらをまとめたメッセージを送ると、ものの数分で電話がかかってきた。

 

「財田です」

『財田さん! これは、いったいどういうことなんですか?』

「少し厄介な個性のヴィランと遭遇した。通常の物理的な攻撃の一切が通用しない相手だ」

 

 要の説明に電話の向こうで息を呑んだような気配がする。

 

『それは……対処するために、銀の銃弾が必要、ということですか』

「ああ」

『銃を……』

 

 ヒーローが銃を使う。そのことに対して八百万は何か葛藤があるようである。もっとも、この国の超常黎明以降も中途半端に変わっていない銃に対する嫌悪感を考えればおかしな話ではない。

 

 この国は『ヒーローによる暴力』を認めている癖に、『刃物や銃』といった凶器を認めていないのだ。ヒーローのふるう個性などそれらを遥かに超えることもあるというのに、ヒーローだからとそれを『凶器』だとは認めないのだ。全く、ヒーローに対する厚い信頼に涙が出てきそうだ。それが今は悪い方向に作用しているのだからなおさらである。

 

「絶対に必要だ」

『……わかりました。そちらのプロヒーローの方もそう言っているのですね?』

「少し待ってくれ。確認する」

 

 八百万に必要となるものを正確に伝えるために、要はカインの方を振り返る。カインの姿が視界に入ると同時に、黒い扉から再び染み出してくる黒い影の姿が目に飛び込んできた。

 

「っ!」

「任せろ!」

 

 要が声をかける前に自分の役目を理解している十影が飛び出し、黒い影の腕を誘導するようにして、本来の心臓がある左胸ではなく、新しく虚弱な心臓を生成していた脇腹へとその手を突っ込ませた。それを持った黒い影は、それ以上暴れることなく静かに扉の中へと戻っていった。

 

「前回の影が消えてからおよそ……20分ですか。ペースが上がったのか、それとももともとこのペースで人ではなく動物の心臓を取っていたのか……」

「カインさん、八百万と電話繋がりました。必要なのは銀の弾丸だけですか? それとも銀の棒や剣も試しますか?」

「そうですね──」

「おーこれかい? 君たちがオブジェクトだって言ってるのは」

 

 カインと要が話している横から口を挟んだのは、いつの間にか到着していたブライトである。ヒーローとしての資格を持っていない彼だが、今回の相手、SCP-1983に関しては彼の個性が有用だとカインが呼び寄せていたのだ。

 

「なんでここに?」

「カインが呼ぶから来ただけだよ。それで? 私を呼ぶということは、私の個性が必要、ということかな?」

「ええ、その予定でお呼びしました。これは────」

 

 カインがブライトに説明を始めたことで、少し時間がかかると要は八百万との通話に戻る。

 

「すまない。こちらも少しゴタゴタしている」

『いえ、ヴィランに対処しているのですから当然ですわ。それでそのヴィランというのは、どのような個性を使っているのですか? それと、銀の弾丸で倒せるというのはどう判明したのですか? そこから考えれば、何か他の対処法が見つかるかもしれませんわ』

 

 八百万からの確信を突く問いかけに、要は数瞬黙リ込む。

 

 そもそも今回、このヴィラン、つまりSCP-1983の詳細がわかっているのは、要が“それ”を知っているからにほかならない。それは裏を返せば、『現状では調査をしても何も判明しない』ということでもある。例えば銀の弾丸で倒せるからと八百万を呼び寄せたのも、何故銀の弾丸が無いはずなのにそれがわかっているのか、ということを説明できないのだ。八百万が深いところまで踏み込んできた場合には、それを要が『知っている』というところまで説明しなければならなくなる。

 

 だからこそ要は、この場で隠すことを選んだ。

 

「詳しくは言えない。だが、この相手には銀の弾丸しか通用しないことはわかっている」

『……わかりました。では銀の弾丸とそれに合わせた規格の銃、それと銀の剣と銀の棒、つまりは鈍器ですわね』

「ああ。……すまない。助かる」

 

 “言えない”という要の言い回しに、何かがあると気づいたであろう八百万は指摘しないことを選んでくれた。

 

 財団は秘密主義である。その存在、目的、活動内容。その全てを一般市民に知られてはならず、人知れずに異常と戦う。それは要も理解している。

 

 だが。

 

 関わった相手には、説明したほうが良いのではないだろうか。

 

 それが要の悩みであった。

 

 合理的な面から見ても、あるいは誠実さから見ても話したほうが良いかもしれないのだ。

 

 例えば今回。八百万は大人しく追及をしないでいてくれたものの、これを追及したり、あるいは作戦中に余計な探りを入れてくるような相手だった場合には、思わぬ事故につながる可能性がある。それを考えると、事前に明かせる情報は明かしておいた方が良いのではないか。

 

 だが一方で、そこからでも情報が漏洩してしまう可能性を考えるとすべきではない、というのもまた理解出来る。

 

 そのあたりは要1人では決められることではなく、カインやブライト、十影や久美、関わってくるのであれば校長や相澤にも相談すべきだと考えていたところなのだが、その前に今回の事件が起きてしまったのである。

 

 だからこそ。これが解決した後にはそうした相談をブライトらとして。話せる限りのことを、八百万にはしようと要は決めた。

 

『あと二十分ほどで到着する、とサイドキックの方がおっしゃっています』

「わかった。ありがとう。通話はこのまま繋いでおくことにしよう」

『はい。ではまた、何かあったら声をかけてください』

「そこにいるのは、八百万さんとサイドキックの人だけか?」

『ウワバミさんとB組の拳藤さんがいらっしゃいます』

「そうか……了解した」

 

 八百万はともかくとして、プロヒーロー。職場体験なのだから面倒を見るのは当然といえば当然なのだが、あるいは八百万よりも鋭く突っ込んでくる可能性もある。それが面倒だとは思いつつも、いずれは直面する事態だったのだと、要はため息を吐いた。

 

 

******

 

 

 黒い影の襲撃を更に一度さばいて20分後。ようやく、警察の運転するパトカーに乗って、八百万と他3人が到着する。

 

「よくお越しくださいました。アベル事務所のサイドキックをしているカインです。こちら雄英高校からの職場体験で来ている、1年生の財田要と藤見十影です」

「ウワバミ・プロダクションのウワバミです。クリエティの個性が必要ということでしたが、そのヴィランはどちらに?」

 

 代表者同士で言葉を交わすカインとウワバミ。ウワバミの問いかけにカインが指さした先を、ウワバミら4人は見る。

 

「立てこもりってことですか?」

「いえ、あの扉……普通の建物じゃない、ってことね?」

 

 サイドキックの女性ヒーローはその邸宅の外観を見て気づかずに言うが、それをよく見えているウワバミが指摘する。よく見れば蛇だという彼女の髪が落ち着かなげにウロウロとしており、異質なものを彼女も感じているのだろう。

 

「はい。打開のためには銀の弾丸が。それと通じるか確認したいので銀でできた棒など打撃用の鈍器も作っていただけると助かります」

「わかったわ。クリエティ、お願い。それで、突入部隊は? 私達は戦闘出来る人員を連れてきてないわよ」

「それは彼が」

 

 そう言ってカインが指した先では、スマホをいじっていたブライトが注目が集まったのに気づいて顔をあげる。

 

「ようやく私の出番かい?」

「ええ。よろしくお願いします」

 

 カインの言葉を受けて、ブライトはその個性を使う。するとその隣。ブライトを挟むように左右に、2人の人間が出現した。男性と女性。その面影は、どこかブライトに近いものを感じる。

 

「分身?」

「そんな大したものじゃあないよ。さて、目覚めたまえよ私達」

 

 ブライトの言葉。その命令を受けて、目をつぶっていた2人の胸元にかかる大きな赤い宝石のついた首飾りが妖しく輝く。

 

『んーー、流石に自分の身体よりは少し動かしづらいね』

『久しぶりの女性の身体だよ。まったく。男性は無かったのかい?』

「バランスよく使いたいだろう?」

 

 3人それぞれに違う声音。だがその口調は、紛れもなく1人のものだった。

 

「この個性なら被害が出ることもない、ということね」

「ええ」

 

 ウワバミの独り言に、カインは大げさに頷いてみせる。想定している被害の規模は全く違うが、それを悟らせない見事な演技だった。

 

「すいません、弾丸は何発必要でしょうか。銃はアサルトライフルを作ったのですが」

『それぞれ30発マガジンで6つずつ頼むよ。最初から装填している分も含めて1人210発だ』

『私、タクティカルベストはどこかな?』

「ここだよ」

 

 本体のブライトが足元においてあった大きなバッグを開けると、中から軍隊で使用するようなタクティカルベストが出てくる。他にもヘッドライトなど、これから戦争でもするのかと言うような装備だ。

 

「200発ですか!?」

「ちょっとまって、そんなに大量の弾丸何に使うの?」

「200? 20の間違いじゃなくて?」

『間違えてないさ。必要だから言っているに決まっているだろう?』

 

 八百万、ウワバミ、拳藤が驚きの声を上げるものの、ブライトは飄々とした様子で煽るように返す。それをカインは取りなして、事情を説明されていない4人に向けて頭を下げた。

 

「ブライトが申し訳ありません。ですが、言っているものはたしかに必要なものです。事情は後ほど説明しますので、今は先に弾丸の準備を、お願いします」

「……わかったわ」

 

 納得していない様子のウワバミは、それでも言葉上は納得を示し、それを受けて八百万も弾丸の生産に専念する。計400発ともなるとかなりのもので作るにもそれなりの時間がかかった。

 

「ブライトさんの個性、便利じゃね?」

「さあな。だがあれは『不死身の首飾り』だぞ? 何かしらデメリットがあるはずだ」

「それもそうか」

 

 再びどこかに連絡しているカインの脇で要と十影はコソコソとそんな言葉を交わす。そんな2人のところに、手すきの拳藤が話しかけにきた。

 

「十影、元気そうだね。そっちの人は」

「財田要だ。よろしく」

「私はB組の拳藤一佳。よろしくね」

 

 そう言って差し出してくる手を取り軽く握手する。

 

「これ、どういう状況なの?」

 

 要はともかく十影は普段からクラスメイトとして接しているということで話しかけやすいと思ったのだろう。拳藤は学校でするように話しかけてくる。

 

「ああ、ちょっとめんどくさいのが──!」

 

 それに答えている最中も警戒を怠っていなかった十影は、また先の無い扉の中から黒い影が外に踏み出してきたのに気づく。

 

「ヴィランっ!?」

「速い──!」

 

 これまでの影とは比べ物にならない速度で飛び出してきた歪な影の塊の前に飛び出した十影は、今度は二つ同時に心臓を持っていかれることになる。

 

「あれ? 二個持ってかれたぞ?」

「やっぱりお前の心臓よくなかったんだろ。元気が良すぎるんだ」

「おそらくは最初の健康だった心臓から生まれたのでしょう」

 

 もう慣れたとばかりにアベル事務所組が軽く話している一方、ウワバミ・プロダクション組はその光景に青ざめる。

 

「今、心臓を……?」

「え、心臓ですよね? 今のドクドクしてたの心臓ですよね? 大丈夫なんです?」

 

 ウワバミとサイドキックがそう絞り出す一方、拳藤と八百万は完全に固まっていた。

 

『君、おーい。大丈夫かい?』

「い、いまのがヴィランですか……?」

 

 弾丸を作る手が止まった八百万をブライトの複製体達がなだめ、こちらで固まっている拳藤は要と十影が宥める。

 

「おーい、拳藤?」

「……なに、今の……」

 

 自分たちが狙われていれば、死んでいた。それが理解できる程度に頭の良い2人は、だからこそ恐怖してしまう。

 

「言っているだろう? 必要なんだと。あれがなんだとか、どういうものなのかとか、そういうのはどうでも良いんだよ。今私達はあれに対処する必要がある。あるのはその事実だけだ」

 

 それまでの飄々とした雰囲気を消したブライトの表情はどこまでも真剣で。

 

 誰よりも多く、オブジェクトと向き合い、対処してきた財団の博士としての経験が現れていた。




普通に考えたら心臓スポーン! されてるの見たらSAN値チェックですよね。

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