SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第3話 体力テスト

 十影に開放されて時間ギリギリで教室に滑り込んだ要は、教室の前に黄色い芋虫が転がってるのに気づいた。まず最初に考えたのは、そんなオブジェクトが要の脳内報告書に存在しているか、ということである。人間である場合には気にする必要は一切ないのだ。

 

 やがて要が距離を取って見守る中その物体からのそりと人が立ち上がった。そこでそれがオブジェクトではないと確認した要は、ようやくその後を追って教室に入り込む。

 

 黄色い芋虫、よく見れば寝袋から抜け出したのは、無精髭に長い髪を生やした人間の男性のようであり、要が教室に入り込むと一瞬じろりと視線を向けてきた。そしてその後、彼の登場に固まっているクラスに対して話し始める。

 

「俺は担任の相澤消太。よろしく。それじゃあ全員、コレ着てグラウンドに出てこい」

 

 短くそう言った相澤は、教卓の上に人数分の体操服を並べると生徒の反応を見ないまま教室外へと出ていってしまった。

 

 全員が意味のわからない状況に困惑し周囲の新しい友人と顔を見合わせる中、一足はやく要は卓上から自分の名前が書かれた体操服を回収し、鞄にしまってあった入学のしおりを頼りに更衣室へと向かう。

 

 上に立つものの不合理に思える命令に対しても、即座に100%の精度でもって答えなければならないのが財団だ。だから、相澤と名乗った教師の指示の意図は理解出来ていなかったものの、要はおとなしく指示に従うことにしたのである。

 

 

******

 

 

 要が一足先に更衣を済ませていると、他のクラスメイトたちも困惑した様子ながら更衣室へと入ってきた。それを尻目に更衣を終えた要はグラウンドへと出る。グラウンドには先程の相澤という男が1人で立っており、出てきた要の方に視線を向けて手招きしてきた。

 

 要が近づくと、相澤は話しかけてきた。

 

「財田。担任の俺はお前に関する話を聞いている。12月の件もだ」

「はい」

「通達した通り、お前の個性は『大量の物語群を脳内に記憶している』という扱いになっている。オブジェクトを召喚するなよ」

「はい」

 

 事前に伝えた要の個性や、SCP財団に関する話の全ては全教師には伝えられていない。ただ要がそういう知識を初めから脳内に持っており、またそれを召喚できてしまう、ということは伝えられていた。そして話し合った結果、要が望まないのであれば召喚させない、という形を取ることになったのだ。その際本当の事情を話されていない教師は『なぜ個性を使わない生徒を入学させるのか』と反発したが、要の雄英への入学は個性を暴発させないための取り組みの1つである、と校長が説明したことで結果として特別入学が認められたのである。そのため要は、報告書の内容を語る以外にヒーローを目指す過程で個性を使用できないのである。

 

 その後少し待っていると、他の生徒達も出てきた。

 

「はい、注目。今から個性把握テストをやる」

「て、テスト!? 初日から!?」

「せ、先生! 入学式とかガイダンスはやらないんですか!?」

「ヒーローになりたいならそんな非合理的な行事出てる時間はない」

 

 生徒の1人、茶髪のボブの少女からの質問に視線を向けることなく答えた相澤は、隣に置いてあったカゴの中からボールのような物を取り出す。

 

「うちは自由な校風が売り文句だが、それは教師も一緒だ。俺は俺のやりたいようにやる。ということで。爆豪」

 

 相澤が呼んだのは爆豪という、尖った金髪をした好戦的な男子生徒だ。

 

「中学のソフトボール投げの記録は?」

「67メートル」

「じゃあ個性使ってやってみろ。円から出なけりゃ何しても良い」

「あ? 個性使って良いんか」

「“個性禁止”の体力テストなんて非合理的だ。平均なんてそんなに変わらないのにいつまでも同じ記録を作り続けてる。そんなことするより、個性を使わせて自分の限界を知っておいたほうが良い。はよ」

 

 促されるままに爆豪は思い切り振りかぶる。この世界においてはすべての人間が要の知識からすればオブジェクトであり、“個性”という解明されていない超能力を有している。今相澤が指示したのは、普段は使用が禁止されているそれを自由に使って良いという内容だ。要で言えば、好きなオブジェクトを呼び出してそれを利用して、円内から出ないままボールをできるだけ遠くに持っていけ、ということだろう。オブジェクトを召喚することは禁止されているが、仮に要がオブジェクトを召喚してそれにボールを運ばせた場合、記録はどうなるのだろうか、なんてことが気になってしまった。

 

 そうこうしているうちに爆豪はボールを投擲する。

 

「死ねえ!!」

 

 物騒である。彼の手から放たれたボールは、おそらくは手のひらで発生した爆発に後押しされてはるかかなたまで飛んでいった。手のひらから爆発を発生させる、いや、あるいは体表、もしくは爆発性の何かを操るという異常性、否、個性かもしれない。

 

「まずは自分の今の限界を知る。それがヒーローを目指す第一歩だ」

「なにこれすげー面白そうじゃん!」

「706m、って爆発! 凄いなあいつ!」

「個性使って良いんだ。さすがヒーロー科」

 

 相澤の言葉に、要のクラスメイト達は楽しそうに話す。それがいけなかった。

 

「面白そう、か。お前らは、ヒーローになるための3年間そんな心持ちで過ごすつもりか?」

 

 低い声で話し始めた相澤に、場がシンと静まる。

 

「なら、トータル成績最下位の者は見込みなしとして除籍処分にしよう」

「は、え、除籍、って」

「退学ってことですか!?」

「嘘だろ!?」

 

 生徒らがざわめく中、相澤は最後の宣言をする。

 

「他科ならともかく、ここはヒーロー科。生徒の如何は俺達の自由だ。ようこそ、雄英高校ヒーロー科へ」

「そ、そんなん理不尽すぎる!!」

 

 生徒の叫びに、相澤が話しだそうとしたところで、別の声が響いた。けして大きいとは言えない声。だがそれは、その場にいる全員の耳に強調されて響く。

 

「自然災害、大事故、ヴィラン。ヒーローはそうした理不尽に立ち向かう存在であり、遊びのようなつもりでいられては困る。だからこそ、最下位は除籍というペナルティーを設けることで生徒の気を引き締める必要がある。ということですよね、先生」

「……そういうことだ。雄英はこれから3年間、全力で君たちに苦難を与え続ける。“Plus Ultra”。ヒーローを本気で目指すならば乗り越えてこい」

 

 言葉を発したのは、クラスメイトから少し離れた場所に立っていた要である。わかりそうなものだ。ここは通常の青春を経験できるような高校ではない。言ってみれば、財団エージェントを養成するための教育機関である。遊ぶようなつもりでいられてはたまらない。

 

 最も、せっかく選びぬいた生徒を簡単に手放すかどうかは要には判断がつかないところではあるが。

 

「わかったらさっさと始めるぞ。まずは短距離走から」

 

 要の言葉と相澤の言葉に停止していた生徒達は、その指示を聞いて動揺しながらも動き始める。だが、この場所にいるのは選ばれたものたちばかりであるからか、皆すぐにテストの方へと集中を持っていっているのはさすがというところだろう。

 

(あれはおそらくエンジンを内蔵している。彼女は……蛙の特性、か)

 

 他のクラスメイトたちが集団を作って話しながらも種目に挑む中、要は自分の番が来るまで他のクラスメイトを観察していた。友人となりうるクラスメイトのことを知りたかったというのもあるが、目的の一部は誰がどのような個性を持っていてオブジェクトの収容に有用であるかどうか、ということである。個性は現段階では解明されていないものが多く、それ自体がオブジェクトの異常性に近いものであり、また下手にオブジェクトと接触させた場合予期せぬ出来事が発生する可能性もある。

 

 だが一方で、それはうまく使えればオブジェクトの収容、封じ込め、あるいは終了に利用できる可能性も高い。財団内でも一部のオブジェクトを《Thaumiel》クラスとしてオブジェクトの収容に利用したり、戦闘力の高いオブジェクトを機動部隊として、他のオブジェクトとの戦闘に参戦させていたりした。そういう使い方を想像しているのだ。

 

 そうこうしていると要の番である。要の相方は口田という生徒で、おどおどしているのが見受けられる。先程いきなり話しだしたので変なやつと思われたのか、スタート地点についている際にペコリと頭を下げられた後、目を合わせないように顔を逸らされた。

 

 とはいえ。この体力テストにおいて要が他のクラスメイトのようにできることは存在しない。ただ中学の頃と同じようにやるしかない。それでも体はかなり鍛えてあるので一部のクラスメイトに負けることは無いだろうと要は考えていた。もちろんオブジェクトの大半は相手することを想定しても体を鍛える意味など存在しない。だが一方で、何かに使える可能性もある。出来うる限りの用意をするのだ。

 

「『財田君6秒1』!」

「こんなものか。遅いな」

 

 他のクラスメイトらは、個性を使えるものたちは皆5秒台かそれより早い記録を出している。それと比べると、要のタイムは大したものではなかった。

 

 その後も、テスト開始前の発言のせいで変に注目されながらも、要は淡々と競技をこなしていく。そして最後の種目が終わる頃には、特段要に注目する相手はいなくなっていた。

 

 

******

 

 

「はい。これが成績。ちなみに除籍は嘘ね」

「「嘘ォ!?」」

「お前らの最大限を引き出す合理的虚偽だ。本気になれただろ?」

「「「えぇぇぇぇ!?」」」

 

 成績を表示しながら言った相澤の言葉クラスの殆どが悲鳴とも取れない叫びを上げるが、八百万や轟、爆豪といった一部の面々は事前にそれに気づいていたか、あるいは自分が除籍になることは無いと確信していたのか特に騒ぐことはない。クラスメイトの一部は最初に脅すようなことを言った要の方に視線を向けてきたが、要がああ言ったのはあくまで相澤がそうしたいのであろうと思ったからだ。別に実際そうであると断定したわけではない。

 

「個性把握テストは終わりだ。各自更衣後教室に戻ってカリキュラムなんかの書類に目を通しておけ。それと緑谷」

「は、はい!」

「リカバリーガールのところで治してもらえ。明日からはもっと過酷な試験が多くなる。負傷は残さないように」

 

 相澤と緑谷がそう会話している中、要は自分の順位を確認する。耳郎や葉隠といった女子生徒や上鳴、切島といった個性をテストに活かすことが困難だったクラスメイトと比べれば要の順位は高い。純粋な身体能力という意味で言えばクラス内でもある程度上位にいる、ということだろう。

 

 他の個性を持つクラスメイトと比べて、要は“不思議な物語”を語る以外に個性を使ってできることはない。つまりこの素の身体能力こそが、要がヒーローを目指す唯一の武器なのである。




ヒロアカ系小説複数書いてますが、体力テストはいつも省いても良いかなと思いつつ、主人公のことを描写するのに割と有用だなと思ったり。

Pixiv fanboxやってます。月に200円のプランがあるので、ジュースぐらいおごってやるよって方は是非支援お願いします。
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