SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
昼休みは十影に拉致されて屋上でオブジェクトについて語りながら食事をさせられ、その後のガイダンスなどは特に問題もなく過ぎた。放課後になって要が荷物をまとめていると、再び十影が来襲してくる。
「おーい要ー! またなんか面白い話教えてくれ!」
そう大声で言いながらやってきた十影の頭を、要はがっしりと掴んで口元まで引き寄せる。
「(秘密だって言っただろ)」
「(不思議なお話、って感じで話すんだろ? なら良くね?)」
「(まあそう言えばそうだが)」
「てことでなんか話してくれよ!」
大声で十影がそう話していると、それを見かねた切島が2人に声をかけてくれた。ちなみに最もそういうのにうるさそうな飯田は既に教室を出てしまっている。
「おい、なんか揉め事か? やめろよいきなり喧嘩なんて」
「え?」
「だから! いきなり来て喧嘩売るなって言ってるの!」
「ああ、いや。すまない切島。これは一応知り合いだ」
「おう。友達だ」
要と肩を組もうとする十影と、嫌そうにしながらもそれを受け入れる要の姿に切島は目を白黒させる。その騒動に、教室に残っていたクラスメイトの大半は注目していた。
「まじで? 悪い! 勘違いで失礼なこと言った!」
「良いって気にすんな。俺はB組の藤見だ。よろしく」
勢いよく頭を下げる切島に対して、藤見は全く気にしていない様子を見せて手を指しだす。
「俺は切島鋭児郎。よろしくな!」
「ほら、要も自己紹介しとけよ。どうせお前、クラスの人と話してないんだろ?」
「自己紹介は学活でやってる」
何が悲しくて元オブジェクトに気を使われなければならんのだ、と思うが、十影はこういう男である。人間を忌々しいものとして嫌悪していたSCP-682と比べて、彼は非常にフレンドリーでありまた人を思いやるのだ。
「財田、だよな。よろしく」
「よろしく」
「よし。じゃあ話せ要。なんか面白い話」
「さっきから藤見は何を言ってるんだ?」
切島と要の挨拶が終わった後、下校していた要の隣の麗日の席に座り込む藤見に切島が尋ねる。
「お? 切島こいつの個性何か聞いてないのか?」
「いや、聞いてねえ。ってか個性把握テストでもどんな個性かわかんなかったぜ」
要の個性の話になって、周囲で自分たちの会話をしながら話をうかがっていた他のクラスメイトたちの注目が一層集まる。
「個性把握テストじゃあ使いようが無かったからな」
「そうなのか?」
「まあ、そうだな。俺の個性は、頭の中に他で見たことが無い無数の物語の知識があって、それを好きな時に映像や文章で閲覧できる、っていう個性だ。後はそれについて話すときに臨場感が出たり、人を感動させやすい、って感じだ」
十影がどんどん自分の個性に関する方向へと話を持っていくので、仕方なく要は自分の個性に対するカバーストーリー『語り手』を口にする。これは十影には既に伝えているので、特に突っ込まれはしなかった。
「なん、つーか、不思議な個性、だな」
「ああ。そのせいでこいつがいつも何か面白い話をしろとうるさいんだ」
「良いだろ、お前の話面白えんだから。ほら、お前らもそんな遠くで盗み聞きしてねえで面白い話聞きたけりゃあ来いよ」
まだ要はこの場で何か話すとも確約していないのに、十影は勝手にクラスに残っていたクラスメイトらを呼び集めてしまう。教室に残っていたのは、瀬呂、上鳴、峰田、芦戸、葉隠、耳郎の6人である。他のクラスメイトは何らかの用事か、あるいは単純に下校してしまったかでいなかった。
「なになに、なんか面白い話?」
「おう、要が話してくれるぜ」
「いや、……はあ。じゃあ1つ話すか」
「話、って何の話するんだ?」
先程までの会話がよく聞こえていなかった上鳴にそう尋ねられ、要は再度『語り手』を説明する。
「そんな個性もあるんだ」
「別に興味無いやつは帰ってくれていいからな?」
「普通に聞いてみたい!」
「私も」
「俺も別に急いでないしね」
「エロい話か!? なあ、エロい話だろ!?」
要は興味ないものは去るようにと暗に促すが、誰も去ろうとはしなかった。
「はあ。じゃあ話すか」
息を吐いた要は、その場に集っているクラスメイトの1人の個性について思い出し、それに関する話をすることにする。
「怖い話……若干グロテスクだが、それよりもホラーのような話で大丈夫か?」
要が問いかけると、ほぼ全員が力強く頷き、他の者も若干引きながらもうなずく。
「どれぐらい怖い?」
「どれぐらい……基準があまりわからないな。怪談のようなものだな」
「ああ、それぐらいならまあ……」
「なに、耳郎もしかして怖いの苦手?」
「別にそういうわけじゃない」
全員の許可が得られたことで、要は1つのオブジェクトについて若干物語風に、そしてなるべく怖く語ることにする。そしてそのために、机の中にスマホを置き、ごく小さい音量でとある音源をループ再生した。
******
「よし。じゃあ話すが。まず今から話す話は、いわゆる小説っぽい書き方じゃないものだ。とある組織が、ある化け物について調べた報告書、みたいな感じで話が進む」
「とある組織って何? あと化け物って?」
「組織っていうのは、単純に化け物を捕まえて一般人が襲われないようにする組織だ。化け物の正体は話の中で出てくるから今は秘密だ」
「へー」
他に質問が出てこない事を確認して、要はいよいよ話を始める。
「話のタイトルは、『時間切れ』。その組織はいろんな怪物を捕まえているから、怪物のことを番号で説明する。それと、ここからは俺が話を振るまでは話の邪魔はしないでくれ。解説は最後にするから」
そう言って要は、鞄から出したノートにその化け物のイラストを書いていく。
「その化け物、番号4975は、こんな感じのフラミンゴやダチョウみたいに自由に動かせる長い首に鳥みたいなくちばしを持ったやつだ。手の先は鎌みたいになっていて、これで獲物を殴ったり切ったりして仕留める。ちなみにこいつの主食は……人間だ」
主食が人間、という言葉に若干顔をしかめた者もいたが、別にそれぐらいはゾンビ映画なんかを見ていればよくあるので、大半は気にしなかった。
「こいつは獲物を狩る時にいきなり襲いかからない。ある方法で獲物をストーカーしてストレスを与え続け、数ヶ月経って獲物がストレスで疲弊しきったときに襲いかかって食べてしまうんだ。けどこの物語の中では、4975番はもう組織に捕まって、鋼鉄の檻に閉じ込められているんだ」
「方法って―――」
情報を言い切らないままに先に進もうとする要に対して芦戸が思わず声を上げるが、それに対して要は、口元に人差し指を立てて静かにするように促す。
そのちょっとした動きが全員の意識を集中させ。より物語へと引きずり込んだ。
「こいつを閉じ込めておく方法は単純。閉じ込めて、こいつの獲物になってしまわないようにこいつの近くに人間は行かない。それだけだ。これで化け物は閉じ込められ、もう二度と人間は食べられなかった」
―――そうなれば、どれほど良かったか。
シン、と。一層沈み込む要の声色に、全員が息を呑んで話の続きを待つ。
「こいつが閉じ込められた後、しばらくして組織は、こいつにストーカーされている男性を保護した。でもこいつは閉じ込められているから、ストーカーは出来ないはずだ。そこで組織は、こいつが一匹じゃない、って気づいたんだ。そして取り敢えずその被害者が食われてしまわないように保護した。けど、その後できることならこの人を狙って出てくる4975の別の個体を殺したい。そこで組織は、この人の周りを何人もの兵士で取り囲んで、初めてストーカーされてる事に気づいた森にみんなで向かった」
そこで要は言葉を切り、少し間を置く。気になる程度の。けれど、集中が途切れない程度の。
「その森に行った途端、被害者の男性は急に怯えだした。そして指を何もない場所に向けて、『怪物がいる』。そう言ったんだ。けど、その人が指差したところには当然何もいない」
―――そして次の瞬間、男性は何かに殴られたかのように吹き飛ばされ、更に何かから暴行を受けているような状態になった。
「化け物が透明になれるのかと考えた兵士たちは、男を殴っているものがいるだろう場所や、先程男が指差した場所へと射撃を行った。けど、何も起きなかった。そのうち男性の体は引き裂かれ始め、引き裂かれた場所からどんどん消滅していった。透明の化け物に男性は食われた」
―――そう、誰もが思った。
「実はちょうどこれと同じ時、捕まっていた化け物が不思議な行動をしているのに組織は気づいていたんだ。普段はずっと動き回っているこいつが、男性が『何かがいる』と言っていた時には動きを止めて、檻の南東の方向を全く動かずに見つめていたんだ。そして更に、男性の体が引き裂かれていたその瞬間、檻の中に居て餌を与えられていないはずのこの怪物は動き始め、
話が終わる頃には、その場の全員が要の話に引き込まれていた。
「そこで、組織の人たちはようやく気づいた。『こいつは、捕まえていても意味がない』、と。捕まえていても、一切見てないはずの獲物をストーキングし、はるか遠くから念力で攻撃して殺害し。そして、食べる瞬間にはその肉だけを自分の口の中に瞬間移動させて食べてしまう」
―――こいつは、そういう。捕まえても意味のない化け物だったんだ。
要の言葉に、ゴクリ、と誰かが喉を鳴らした。
「実は、こいつはずっと昔から存在していたらしくて、とある民謡には、こいつのことを表現しているであろう歌があるんだ。最後に、それを歌って終わりにしようと思う」
そう言って要は、再び声を変え、優しい女性のような声で歌い始めた。
「“チクタク”、カッコウ時計は刻む。
“カッコー”、中では鳥が鳴く。
チクタク、チクタク、チクタク、チクタク」
奇妙な、韻を踏んですらいないような歌。だがそれは、要の美しい声によって優しい響きを持つ。そして特に、『チクタク』という擬音が、非常に体にしみるように響いた。
ああ、優しい歌だな、と。皆が思った。
「時の刻みは、ハートの刻み。
歌が聴こえるほど、長生きできる。
チクタク、チクタク、チクタク、チクタク」
だが、2番には不穏な歌詞がまじり込んでいた。心なしか、声に不穏な響きが混ざっているように聞こえる。
聞いている皆の表情は優れず、特に耳郎に至っては半分ほど耳を抑えてしまっていた。
「よくお聞き、それが止まる時
雛鳥が家から飛び出してくる。
チクタク、チクタク、チクタク、チクタク」
皆が理解した。そのチクタクという時計の音が。
化け物が獲物に与えるストレスなのだと。
―――聞こえたかい? 止まったかい?
お嬢ちゃん、それは
。
時間切れ、という意味さ
最後の言葉の後に余韻を持たせると、要はパン、と一度手を打ち合わせた。それによって現実に引き戻され、かたずを呑んでいたクラスメイト達は大きく息を吐き出した。
「それなりに怖かった、か?」
「結構怖かったぜ」
「今回の話も面白かったぞ。ありがとな」
「なんか、すごい話に引き込まれた。ゾンビ映画とかなら見れるんだけど―――って耳郎どうしたの?」
皆が思い思いに感想を言っている中で、芦戸は耳郎が顔を真っ青にして耳を抑えている事に気づく。
「え、ほんとだ耳郎ちゃんどうしたの? 怖いの駄目だった?」
葉隠にそう言われ、耳郎は首を横にふるふると振る。
「聞こえる」
「聞こえる、って?」
「チクタク、チクタク、って。小さい、音だけど話の途中から」
「え?」
耳郎の言葉に葉隠は惚けるが、次の耳郎の悲鳴とも取れる叫びで、耳郎の言っていることを理解した。
「だから! さっきからずっと私には聞こえてるの。チクタクチクタク、って。ねえ!? これ何!? うちが狙われてるの!?」
最後の方は悲鳴のように叫ぶことしか出来ない耳郎に、他の者もただ事ではないと気づいて声をかけ始めた。
「落ち着けよ耳郎」
「だって! あんたには聞こえないんでしょ!? 話の途中からずっとチクタクって聞こえるんだよ!」
耳郎の言葉に、騒然となるその場。その中で十影は、要がかすかに笑っているのに気づいた。
「お前、趣味が悪いな」
「まあ、せっかく話すならしっかりやらないとな」
十影の言葉に答えた要は、混乱している耳郎とそれをなだめようとする上鳴以外が注目する中、机の中に隠していたスマホを取り出す。そして音量を最大まであげた。
チクタク、チクタク。耳郎が聞いたというその音は、要の持つスマホのスピーカーから再生されていた。
「え、っと?」
その音がはっきり皆にも聞こえている事に気づいた耳郎も、要の方へ意識を向けてくれた。
「音に関する怪談だから、耳郎さんの優れた聴覚を貸してもらったんだ」
「え……は?」
底冷えのする声で聞き返す耳郎に、要は再度説明しようと試みる。
「だから、耳郎さんが聞いてたチクタクって音は俺が音を出した偽物。ほら、止まっただろ? だから安心して゛っ゛!?」
結果。騙された事に気づいた耳郎がぶっ刺したジャックから特大の心音を流し込まれて、要は机の上に倒れ込んだ。
「どういうことだ?」
「怪談の中で出てきた音を、財田がスマホで再生することで、本当にその音が聞こえてるんじゃないか、って余計に怖がらせようとした、ってことだろ?」
「うわ、財田
たちわる、ってか怖」
「おいらでも引くぞ……」
「財田くんやりすぎでしょ! ほら、耳郎ちゃん泣きそうになってるじゃん!」
「泣いて、ないし……!」
嗚咽を漏らしながら言われても説得力はない。
散々な言われようをした要は、頭を振って脳を復活させながら反論する。
「もっと怖く出来たのに、抑えたんだぞ」
「え、今ので十分怖かったんだけど? てかどうやんのよもっとって」
瀬呂の問いかけに、要は鞄からもう一つの端末を取り出した。
「今は、1つ目の端末で偽物の音だった、て明かした」
「うん」
「けど例えば、俺がこうやったら―――」
そう言って要は、1つ目の端末でチクタクという、耳郎に聞かせていた音を流す。そして今度は、もう1つの端末で一番小さい状態から、全く別のチクタクという音を流して音量を最大まであげた。
「こうしたら、どうなる?」
「どう……?」
「耳郎さんには、こっちの音が聞こえていた。そこで俺はネタバレとして、もう片方の音を大きくした。『ああ、これで安心だ』。みんなそう思うはずだ。でも、耳郎さんだけは気づいてる。俺がスマホから流していた音と、自分が聞いていた音は別のものだ。そして今この瞬間も、最初の音は自分に聞こえている。つまり。俺が偽物だと言っているけど実はそこに本当の化け物が混ざり込んだんじゃないか」
―――そう思うだろ?
要の説明に、全員がゾクリと背筋を寒くする。
「財田、お前おっかないのな」
「話す練習はたくさんしてきた。小道具の使い方も練習してる」
「でも女の子泣かせちゃ駄目じゃん。ね、耳郎ちゃん」
未だに嗚咽を漏らしている耳郎な、左右を葉隠と芦戸に挟まれ、頭を撫でられていた。
「それは、悪い。久しぶりに本気で話したから加減を間違えた」
「いや、まじで俺も心臓止まるかと思ったからね? お前の話し方怖すぎ」
「なあ、なあ、お前が官能小説の音読なんてしたらどうなるんだ?」
ナチュラルにセクハラ発言を打ち込んでくる峰田は極力無視だが、耳郎の方へは再度謝っておく。
「勝手に驚かして悪かった。すまない耳郎さん」
「……怖かった」
ポツリと。正直な心情をまだほぼ初対面の相手に漏らした耳郎をケアするように左右から芦戸が話しかける。
「耳郎、パフェ行って楽しいお話しようよ。そうしたら怖くないって」
「え?」
「パフェ? パフェ行く? よーしじゃあ今日は財田くんのおごりだー!」
「おー! 財田、怖がらせたんだからおごりだよ!」
そうして、あれよあれよという間にその場にいるメンバーに引きずられて、要と、ついでについてきた十影は近くのファミレスに行くことになった。
ちなみに、流石に先程ので要の話を聞くのに腰が引けたのか、再び話を要求されることはなかった。十影はずっと言っていたが、取り敢えず無視した。
このSCPは、純粋に作者が『怖い』と感じたSCPです。描写がグロいのとかは他にもあるんですが、これと『塔』はホラーチックな怖さがすごくて結構苦手というか、好きなんだけど怖いです。
聞こえませんか? チクタクチクタク―――
Pixiv fanboxやってます。創作を続けるために是非支援お願いします。
SCP-4975 時間切れ
著者:Scented_Shadow
URL: http://www.scp-wiki.net/scp-4975
作成年:2019年