SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon 作:アママサ二次創作
耳郎を泣かせてしまったことでそのままファミレスまで連行され、1時間半ほどでようやく解放された。資金的には十分なので別に良いと言えば良いのだが、したいことがいくつかあったのでその点は誤算だった。それもこれも、余計なことを言いに来たクソトカゲのせいである。
そして何故かその十影は、要の家までついてきた。
「おじゃましまーす」
「邪魔するなら帰れ」
「そのネタは古いぞ流石に」
「本気だ」
十影に悪態をつきつつも要が家の鍵を開けると、十影は律儀に挨拶をしてから家へと入ってきた。
「へー、これがお前の家か」
「ああ。適当に座ってろ。お茶ぐらいなら出せる」
「はいよ」
ペタン、とリビングの床に十影は座り込む。ちなみに要の家にはソファは無く、リビングは地面に直接座る形になっている。そこに十影を待たせておいて、要はキッチンにお茶を注ぎに行った。そして戻ってくると、何やら棚やテレビの下の収納を十影がゴソゴソと漁っている。
「何をしてる」
「え? いやどっかにオブジェクト入ってねえかなあと思って」
「やっぱりそれが目的か」
机の上にコップを置いて、要も床に座った。
「あったとして人目につくところに置いておくと思うか?」
「お? てことはお前の部屋か?」
「そういうことじゃなくてだな……おい待て十影。一回座って話を聞け」
オブジェクトの隠し場所が要の部屋であると推測を立てた十影が意気揚々と部屋から出ていこうとするので、要は真剣な声音でそれを止める。
「何だよ」
「オブジェクトを見たいならまずは話を聞け」
「えー。まあ良いけど」
口では文句を言いながらも、十影はおとなしく要の前に座る。一見要に対しては傍若無人に振る舞っている十影だが、要が真剣に何かを言っているときとある程度十影の勝手を許容しているときを区別している。要が真剣に何かを言うのはめったにないことだが、今はそれであった。
「ありがとう。まず、お前は今後俺に協力するつもりはあるか?」
「お前に、って財団のことか?」
「ああ。もう説明したと思うが、俺はこの世界で財団を作るつもりだ。それに協力するつもりがあるのかどうか」
初めて十影と特別入試の会場で出会ったとき、試験の後2人は近くのファミリーレストランに行った。そしてそこで要は一部財団について知っている十影に、ある程度の情報を共有した。
「うーん……別にヒーローを全力でしたいわけでもないもんな。良いぜ、手伝う。でも何すりゃあ良いんだ?」
「今すぐどうというわけじゃない。ただ、財団に入らない相手をオブジェクトに接触させるわけにはいかないってだけだ」
「あーそう言う。まじで財団みたいだな」
「人型実体は現代においては普通の存在だ。俺とお前含めて。言ってみればSCP-8900-EXで正常と見なされるようになった色と同じようなものだ。けどそれ以外の現象、物体、生物に関しては別だ。そんなものが存在するとは誰も思ってない。だからそれらは隠蔽したほうが良いんだ」
「オーケー了解」
「ありがとう。それじゃあついて来い」
十影が理解を示すと、今度は要が先に立ち上がる。そして十影を自分の部屋へ案内した。部屋には、一人暮らしではあるが鍵をかけている。窓にもと鉄格子をつけているので、要の部屋に泥棒などが侵入しようとした場合には、頑丈なドアを破るか、鉄格子を突破する秘密がある。
「これがお前の部屋か」
「ああ」
十影の言葉に答えながら、要は部屋の隅に置かれている鍵付きのロッカーを開ける。
「ほら。今のところこの2つだけだ」
「どれど――おわ゛ぁ゛!?」
要がどいた後にロッカーの中を覗き込んだ十影は、奇妙な叫びをあげて部屋の外まで飛び退いた。その動きは圧倒的に早く、要は目で追えなかった。
「どうした?」
「どうしたっておまっ、それ!」
「ああ、こいつか? もしかしてキチクマだと思ったか?」
「え、違うの?」
要はロッカーの中からパッチワークのハートがあるクマを取り出し、腕に優しく抱える。
「キチクマなんて呼び出すはず無いだろう。こいつはパッチワークのハートがあるクマ。こら、擦り傷は治療しなくていい。軽いけがは自分で治さないと人間は強くなれないんだ。大怪我だけで良いよ」
パチクマは基本的には、半径2メートルに負傷者がいないと活性化しない、つまり動き出さない。ただ彼の怪我の基準が非常に低いので、ちょっとした擦り傷も治療しようとするのだ。
「ごめんな。ありがとうクマ」
そう言って要が頭を撫でると、動いていたパチクマはその動きを止める。
「あー、そいつどういう奴?」
「怪我とか病気のある人間が近づいたら動き出して、その部位をパッチワーク、つまり布の切り貼りで治療する。布で治療されるから見た目上はおかしいけど、機能としては完璧に機能する」
「はー……すげえびびった」
「呼ぶかあんな危険なの。今の所召喚してるオブジェクトはこいつとSCP-348“パパの贈り物”だけだ」
そう言って要は、今度はロッカーから陶器製のボウルを取り出す。
「それも安全なやつ?」
「ああ。怪我人や病人が目の前に立ったら中がスープで満たされる。そいつが子供ならそれは子供にとってたまらないほど美味しいもので、大人なら普通のスープになる。で、子供が全部食べ終わったら中に父親からのメッセージが表示される」
「子供に優しいオブジェクトってことか?」
「そういうことだ」
そう言って要は、2つのオブジェクトを十影に渡す。十影はそれを受け取るが、特にそれらが起動することはない。
「なんも起きないぞ」
「なんかが起きたら困るからそれで実験したんだ。そいつらは条件を満たさない限り動かないし、動いたところで被害は出ない。とはいえそれでも本来は収容しないといけないんだけどな」
「なんだ。つまんね」
「お前みたいなのがいる方がやばいだろ」
「そりゃあ、まあ」
納得行かなそうな十影から2つのオブジェクトを受け取って再度ロッカーに収納する。
「さてと。お前、帰らないで大丈夫か?」
「お? ああもうこんな時間か。じゃあ、まあ用もすんだし帰るか。ほんとは面白い話聞きたいんだけどな」
「また今度な。親がいるならちゃんと帰ってやれ」
おー、と気の抜ける返事を返しながら、十影はリビングへと戻っていく。要は学習机の引き出しから1つの端末を取り出して、それを持って彼の後を追った。
「そういや、要の親は帰ってこねえの?」
「俺の親は居ないぞ」
「は? 親がいないってお前どうやって生まれたんだよ」
「普通に親からだ。交通事故で死んだだけだ」
ことも無げにそう言って、要は持ってきた端末を十影に渡す。
「え、いや、なにこれ?」
「俺がこっちのボタンを押したとき、それにGPSで探知して俺の居場所が送信される」
「ほんほん」
「助けに来い」
「え?」
「学校の生徒で俺の個性について知っているのはお前ぐらいだし、お前の個性なら心おきなく頼れる」
「死なねえから?」
「強いからだ。とにかく、俺は実質個性を使えないし、下手に死にかけると個性を暴走させる可能性がある」
「あー……超収容違反」
「そういうことだ。だからお前に助けてほしい」
要がそう言うと、十影は端末をしばらく見下ろした後、それを鞄にしまって要をぎゅっと抱きしめた。
「どうした?」
「お前は、親に守ってもらえなかったんだと思って。わかった。俺がお前を守ってやる。俺はクソトカゲだからな。どんな危険な場所でも呼んでくれていいぞ」
人を思いやる心の強い十影は、両親が死んだという要の説明に衝撃を覚えていた。自分は生まれてから両親の愛情を受けてきた。十影の個性は変異で発現した個性なので両親とは系統が違うし、体格がそうとうに良い十影に対して、両親ともに小柄な人物である。それでも両親は、十影に愛情を注いでくれた。
それを受け取れないまま、要は1人で世界を救おうとしているのだ。
「俺が両親がいないぐらいで参ると思ったか?」
「しんどいだろ。誰も愛してくれないなんて」
そう答える十影を押して、要は体を離す。
「俺は大丈夫だ。両親が死んだのは10歳の頃だからそれまではちゃんと愛されてた。俺にはもったいないくらい優しい人達だった。それにその後も、父親の会社の仲間が助けてくれた。少なくとも父親の親友だった人たちは打算抜きで接してくれていたように思えるし、今も頻繁に食事だったりに誘ってくれる。流石に養子になるのは申し訳ないし動きづらいから断ったけどな。だから俺は大丈夫だ」
「……本当か?」
「本当だ。でも確かに、俺は鍛えているとはいえ個性を使って戦えないから弱い。だからお前が俺を助けてくれ」
要がそう言うと、十影は力強くうなずく。
「わかった。俺がお前を助ける」
「よろしく。それじゃあ、これ。ちゃんと充電してくれよ。後学校で持ち歩け」
「おう」
その後十影はリュックを背負い、玄関に向かう。そして玄関を出るところで振り返った。
「なあ要」
「なんだ?」
「お前親いないなら……いや、うちに来るのも無理か」
「オブジェクトがあるからな。俺は1人でここに住むしか無い」
今は要のいるこの家が財団唯一の施設で。要が唯一の職員だ。
「そうだな。じゃあ」
「ああ。……そうだ十影」
「何だ?」
「明日から昼休みとか放課後、お前が良かったら戦闘訓練付き合ってくれないか?」
「訓練か?」
「ああ。多少鍛えていると言ってもあくまで多少武術や射撃を練習しただけで俺は基本素人だ。お前は本能的に強い、だろ?」
「まあ。武術も一通り練習したしな。クソトカゲだったのに割と人間にやられた記憶が結構あったから。わかった。訓練付き合うぜ」
「ありがとう。それじゃあまた明日」
そう言うと、十影は今度こそ自分の家へと帰っていった。要は久しぶりに、何か暖かなものが胸を満たしているのを感じながら、日課のトレーニングに向かった。
十影めっちゃ良い奴。相棒感が半端ないです。
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