SCP-000『オール・イン・ワン』 Object Class: Thaumiel / Apollyon   作:アママサ二次創作

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第8話 襲撃事件・1

 雄英高校に通学しはじめて数日が過ぎた。昼休みや放課後は十影に引きずり出されて、あるいは要の方から声をかけて、十影の知らないオブジェクトの中でも積極的な利用が不可能なものか、知っても危険性の無いものについて話したり、あるいは要の戦闘力向上のためのトレーニングを行っている。

 

 はじめての戦闘訓練の次の日には学級委員長決めというものがあった。他のクラスメイトの反応からすると、ヒーローを目指す彼らにとって学級委員長という役目は確かな経験を積める場として有用なものらしい。

 

 だが要からしてみればそんなものは必要としているものではない。将来的に財団を作ることを目標としている要にとって重要なのは、人間の感情や意思を抜きにして機能するシステムを構築するための知識であり、またそれを実行させるだけの組織力である。

 むしろ要という個人が強く認められ、人に慕われるというのはあってはならないのだ。上位の役職についている人間に従い、役目をまっとうする。そんな働きアリを集めた巨大な組織が財団である。

 

 そうした思考の結果要は学級委員長に立候補せず、また興味を持っていない自分が投票をするのは悪いと考え、何も記入せず無効票としての投票を行った。結果緑谷と八百万が学級委員となり、翌日には緑谷の意向によって飯田が緑谷の代わりに学級委員長となった。飯田はかなり真面目な性格で空回りする部分が多いように思えるが、要から見れば誰が委員長になったところで大した違いはないだろうという認識である。明確にリーダーシップに優れているような人物は、このクラスには存在しない。

 

「今日のヒーロー基礎学は俺とオールマイトに職員をもう1人加えて3人で見る」

 

 午後から行われるヒーロー基礎学の授業において相澤がそう指示したのは、先日雄英高校に対してメディアが侵入したために雄英側も警戒を強めているからだ。メディアの侵入に関してはいつものメディアの我儘ということで処理できるのだが、問題となるのはその侵入方法だ。

 

 頑強なセキュリティを誇り、物理的にも強固であるはずの雄英高校正門のシャッターが、何らかの形で破壊、というよりは粉々にされていた。普通に考えて、例え視聴率などのために非合法的な手段を取ることを躊躇わないこともあるメディアとはいえ、実際に雄英のセキュリティを破壊する能力を持ち合わせているはずがない。

 

 つまり、それを手助けした何者が存在する。

 

 その正体が判明していない以上、警戒を強化する必要があるのだ。

 

「せんせー、何するんですか?」

「災害水難事故などにおける『人命救助訓練』だ」

 

 相澤の説明に、はじめてレスキュー訓練を行うクラスメイト達は盛り上がる。

 

「レスキュー……前も大変だったけどこれも大変そうだな」

「ねー!」

「これこそヒーローの本分だろ!? 腕が鳴るぜ!」

 

 まだ相澤という教師に完全に慣れきっていないから話の途中でも勝手に盛り上がってしまうのである。

 

「おい、まだ途中だ。聞け」

 

 そう言った相澤がスイッチを操作すると、先日同様に壁からコスチュームの収納された棚がせり出してくる。

 

「今回はコスチュームの着用は各自で判断しろ。救助活動で邪魔になるコスチュームもあるだろうからな。そのあたりも自分たちでよく考えてより使いやすいコスチュームにするよう考えておけ。訓練場は少し遠い。移動はバスで行う。以上。準備しろ」

 

 相澤の指示とともに、皆が一斉に立ち上がり、互いにレスキュー訓練について語りあいながらコスチュームを持って更衣室へと向かう。

 

 要もまた棚からコスチュームを取り、更衣室へと向かった。

 

 

******

 

 

 ヒーローを目指すためには、救助活動というのも欠かせない。特にこの救助活動というのは、一部の人達からはヴィランと戦う活動以上に素晴らしいものだと認められていた。

 

 ヴィランという存在は、個性が出現した事によって生まれた。そしてヒーローはそれを個性によって倒し、市民を守る。言ってみれば個性によってマッチポンプが発生してしまっているのだ。例えヒーローが市民を守っているとは言っても、それは個性によって発生した敵であり、『個性さえ無ければ』なんて考えも少なくない。

 

 一方でレスキューにおいてヒーローが立ち向かう災害や事故というのは、個性出現以前から存在したものだ。そしてそれに立ち向かうのはかつては個性を持たない消防士や自衛隊などであり、結果として救えない命も多くあった。だが現在は個性という超常の力の扱いに長けた者達がそれを救助に使用することで、かつては失われていた多くの命が救われる社会になったのだ。 

 

 そういう意味で、救助活動というのはヴィランと戦うというヒーローの役目と比べて純粋に個性の出現が社会に良い影響をもたらしたものなのである。

 

(ロープは前回より多めだな。ウェポンは……ヒーローになれば常に携帯するものだ。置いていくわけにはいかないだろう)

 

 追加のロープや多機能携帯スコップなど先日以上に重装備を備えた要は、外に待っているであろうバスの元へと向かう。その姿はもはや完全に、特殊部隊員のような、あるいはウェポンを持っていなければ救助活動に向かう自衛官のような姿であった。

 

「財田やっぱりごついなコスチューム」

「まあ……そうだな。基本全部自前で用意しておかないといけないから」

 

 バスの前にクラスメイトが揃うのを待っていると、先に来ていた砂藤がそう話しかけてきた。彼と言葉を交わしたことは、要の覚える限り一度もない。

 

 その気持ちが若干言葉に現れていたのだろう、砂藤に笑いながら言われた。

 

「別に馬鹿にしようってんじゃないぞ。ただ財田とも話してみたいと思ってよ。自分から話しかけてくる感じじゃないし、俺からいかねえとな、と思って」

「なるほど。ありがとう」

「おう。にしても、その武器とかはまだわかるけど、なんでスコップ?」

 

 砂藤はそう言いながら、要の背負っている多機能携帯スコップを物珍しそうに見ている。

 

「要望には使えない個性で活動できるような道具がいる、というのと特殊部隊のようなコスチュームにしてほしいと要望を書いておいたら、色々とそれらしいものや便利そうな物を用意してくれたんだ」

「デザイン事務所?」

「ああ」

「へー……そんなのもあるんだな。俺なんてシンプルにって書いたからこれだぜ?」

 

 そう言いながら砂藤は自分のコスチュームを示す。シンプルなボディスーツのようなコスチュームは、身体能力を一時的に跳ね上げるという彼の個性からしてみれば十分に合理的なものだ。彼の場合は、道具を使わないほうが強いのである。

 

「シンプルだな」

「だろ? お前のは道具多すぎて俺じゃあ使い切れねえ気もするけど、爆豪みたいなちょっとごついのとかめっちゃかっこよくていいと思うんだよな」

「そうだな。爆豪や……爆豪が一番かっこいいな」

「だよな。ちなみに、さっき色々って言ってたけど他にどんな道具送ってもらったん?」

 

 興味津々な様子の砂藤に、要はその腕時計や腰にぶら下げたガスマスク、それにどのような環境下でも使用が可能なメモ帳とペンなどを見せる。

 

「こんな感じだな。調べてみたところ本当の特殊部隊で似たようなものが使われてるらしい」

「かっこいい腕時計だな。市販か?」

「G-Washingtonっていうモデルの1つのバージョンらしい。詳しいことは覚えてない。悪いな」

「自分で調べてみるぜ。ガスマスクはたしかに救助とかだと必要だな。今日やるかわからないけど、俺もほしい」

「いざヒーローになったらそういう現場に行くときには警察なんかが用意してくれるだろ。どこに行くときにもガスマスク持ってるヒーローなんていやだろ?」

「まー見た目は怖いかもしれないけどよ、でもいつガスが街中で発生するかもわからねえだろ? やっぱあったほうがいい気はするぜ。火事のときとかも使えるだろうし」

「火事ぐらいなら、こんなガチガチのガスマスクじゃなくて、こっちぐらいのシンプルなマスクがあるといいかもな」

 

 そう言って要は、首元まで下ろしていた布を口や鼻を覆う位置まで引き上げる。

 

「それがマスク?」

「普段使う用だ。特殊部隊員は顔を公に出来ないらしいから、こういうので顔を覆うんだろう。ほとんど息苦しくないが、説明書によると砂塵やビルが破壊されたときの塵なんかを防いでくれるらしい。煙にも対応してる」

「はー、そういうのもあるのか」

「まあ、砂藤がつけると肌の露出が全く無くなるけどな」

 

 砂藤のコスチュームを見上げながら要は答える。砂藤のコスチュームは全体的にピッタリと張り付くボディースーツなのだが、顔の上半分もほとんどコスチュームが覆っており、仮に要のように口や鼻を覆ってしまうと顔が全部隠れてしまうのだ。

 

「別にいいんじゃねえか? 口だけ出しときたいってわけでもねえし」

「なら、頼んでみると良いと思うぞ。個性が使えるとはいえ、俺達は人間だからな。使える道具には頼ったほうが良い」

「おう。今度お礼と一緒に書いて送ってみるぜ」

 

 砂藤がそう言い切ったところで、先日委員長になったばかりの飯田が元気よく声を張り上げる。学級委員長としての務めを果たそうと努力しているのだ。

 

「スムーズに乗れるように番号順に2列で並んでくれ!」

「あら、飯田ちゃん、これ2列のシートじゃないわよ」

「何ー!!」

「よーし乗ろうぜ―!」

 

 残念ながらから回るのであるが。

 

 

******

 

 

 バスに乗り込んだ要は、バスの一番奥の方に砂藤と並んで座る。

 

「そう言えばよ、財田が担がれてったのって誰なんだ?」

「担がれた?」

「ほら、あの入学式の日の朝。後昼休みとかに呼びに来るのも同じ人だよな」

 

 顎に手をあてた砂藤の問いかけに、要はああとうなずく。

 

「十影のことか」

「十影、って名前か? 名字?」

「藤見十影だ。1年B組の。ちょっとした知り合いでな」

「そういうことね。にしては結構財田のところに来るよな」

「まあ……それなりに仲が良い、というか腐れ縁と言うべきか。俺もあいつはもっとクラスメイトと仲良くするべきだと思うんだがな」

「まあそりゃああんだけ来てたらクラスメイトと話せないよな」

 

 と、そこまで言ったところで砂藤はふと思い出したことがあったと手を叩く。

 

「そう言えばよ、今年はAB両方とも21人ずついるよな。なんでかって前から思ってたんだけどよ」

「ああ、そう言えばそうだな」

「最低点が3人いたのかね」

「どういう偶然だ。藤見に関してはあれだ、あいつは特別入学だ」

 

 特別入学、という聞き慣れない単語に、砂藤は首をかしげる。

 

「あまり喧伝しないほうが良いのかもしれないが、推薦の逆バージョンだ。あいつは雄英の側から声をかけられて入学してる」

「まじか!? そんなのがあるのかよ……。どんだけ凄い奴なんだ……」

 

 要の言葉を聞いて大声を出すことは無かったが、砂藤は表情と動きで驚きを明らかにする。他のクラスメイト達は蛙吹から始まった個性に関する会話で盛り上がっていたので、2人の会話に気づくことは無かった。

 

「まあ……シンプルに化け物、だな。もちろん褒め言葉だ」

「おおう、財田が化け物っていうなら相当なんだな」

「俺をなんだと思ってる」

 

 思わずそう突っ込むと、砂藤は目をパチクリさせてから笑う。

 

「そっか、財田はあのときいなかったよな」

「あの時?」

「この前戦闘訓練やった日。あの後みんなでファミレスで反省会やったんだけどよ、お前は爆豪とか轟とはまた別のベクトルですげえなって話になったんだよ」

「なんでそういう話になってるんだ」

「反省会だから誰がすごいとかいう話はなるだろ。なんか他のやつと比べて戦闘慣れしてる感じがしてよ」

「……まあ、個性の都合上頭を使うのは得意だし、そういう話もいっぱい知ってるからな」

 

 そんな話をしているうちに、やがてバスは訓練場へと到着し、2人を含めた生徒はバスから降りる。

 

「すげ、なんか遊園地みてえだ」

「そうなのか?」

「いやまあこんな物騒な遊園地は無いんだけどよ。なんか派手さが、って意味だぜ」

 

 バスに乗る前の流れからなんとなく一緒にいる2人がそんな話をしていると、より盛り上がっている他のクラスメイトを鎮めるように声が響く。

 

「水難事故、土砂災害、火事……あらゆる事故や災害に対応する訓練を行えるように僕が作った演習場です」

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助で大活躍のヒーロー!」

「私13号のファンなの!」

 

 雄英の教師である彼女もまた、当然のことながらプロヒーローである。そして要もまた彼女についてよく知っている。身体能力を高めるだけの個性と違い、彼女の個性は一部のSCiPの終了や収容に利用できる可能性があるのである。

 

「えー、始める前に何個かお小言を……」

 

 相澤と何か話し込んでいた13号は、生徒達の方を向いて話し始める。

 

「皆さんご存知だと思いますが、僕の個性は“ブラックホール”です。どんなものでも吸い込んで塵へと変えます」

「その個性で災害救助をしているんですよね!」

「ええ。ですが、同時に簡単に人を殺せる個性です」

 

 そのとおりである。だからこそ要も、彼女には注目していたのだ。ブラックホールを積極的に利用することは、かつての財団には不可能なことであったのである。

 

「皆さんの中にも、そういう個性の方がいるでしょう。現代の超人社会は、“個性”の使用を資格制にすることで一般の使用を規制し、一見成り立っているように見えます。しかし、それは一方では、使ってしまえば容易に人を殺せる個性が溢れていることを示しています」

 

 例えどれだけ有用な個性であろうと、好き勝手に利用させれば何が起こるかわからない。だからこそ現代は、一般の個性の使用を禁止する方向へと進んでいた。

 

「相澤さんの個性把握テストで自身の力の可能性を、オールマイト先生の対人戦闘訓練でその危険性を体験したと思います。この授業では観点を大きく変えて」

 

 ―――救うために!

 

「個性をどう扱っていけば良いのか。それを学びましょう。私達ヒーローの力は、人を傷つけるものではない。救うために存在するのだと、しっかりと心に刻み込んでおいてください。以上で、私の話は終わります」

「じゃあまずは―――」

 

 続いて、13号の後を引き取って話そうとした相澤の言葉が、止まった。

 

 黒い悪意が、宙に扉を開き、溢れ出す。




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