Muv-Luv ALTERNATIVE <The White Evil King> 作:段段だ段
「さあ…、降りてきたぞ…」
カシュガル前哨基地の戦術機の格納庫。
戦術機とは毛色の違うMS―三体のガンダムの足元に衛士たちが群がっていた。
三体のガンダムのコクピットから、サーシャとベアトリクスがワイヤーで地面に降りてくる。
私はインパクトが欲しくてそのまま飛び降りる。
衛士たちの悲鳴をよそに私はヒーロー着地を決める。
ナノスキンのおかげで膝は痛くない。
『きゃああああああ!リターナー様!サインして下さい!』
『ブレーメ様!一緒に写真撮ってください!』
『お二人とも!尊敬しています!握手してください!』
サーシャはすまし顔で、ベアトリクスはドヤ顔で歩を進める。
二人ともアイドル並みの人気だ。
アムロたちにも人が群がり、皆タジタジしている。
一方の私はというと…。
『ディアキリスティス様…』
百数十人の衛士に囲まれ、拝まれていた。
全員両ひざを付き、両手を組んでめを伏せている。
何だこの違いは?
どこで差が付いた?
いたたまれないわ!
こんなところでキリストや釈迦の気持ちがわかるとは…。
『ディアキリスティス様…われらをお導きを…』
『どうか悪しきBETAに正義の鉄槌を…』
『天におわす主よ…、このようなお方を遣わせていただき、感謝いたします』
このカルト教団共め…!
人を信仰対象にしやがって。
『われらを革新へお導き下さい…』
私が導いてほしいわ。
こんな訳の分からんことに巻き込みやがって。
「まあ…、これから巻き返しだな…」
独り言のつもりが、目ざとく聞き取ったらしい。
『そうだ!これから人類が巻き返すんだ!』
『BETAに人類は勝てる!それをディアキリスティス様が示してくれた!』
『ここから人類の逆転が始まる!』
あー…はいはい。
お好きなように。
狂信者たちは勝手に発言を湾曲し、自身の都合のいいいように解釈する。
これでは火に油だな。
私は思考を捨てて、流れにみを任せることにした。
――――――
その後の話を少ししよう。
この作戦―のちに『W2作戦』と歴史に刻まれる作戦は文字通り、世界に白鯨の衝撃を世界に与えた。
これにより各国はホワイト・ホエール・セキュリティー・ガード社の武力を知ることとなった。
これにより各国より、BETAに対しての迎撃、防衛任務の依頼が殺到したが、意外にもハイヴ攻略依頼はなかった。
BETAがいてくれた方が儲かる連中が多いということだろう。
政治家どもめ…ハゲればいいのに。
世界各国に対しての我が軍の立ち位置も変わった。
というか変えた。
1970年代半ば、ワルシャワで行われた国連会議で私とサーシャの姿があった。
後に『白鯨条約』と揶揄されるこの条約の内容は…。
一 各国はホワイト・ホエール・セキュリティー・ガード社(以下甲)及び甲に属する集団(以下乙)及び個人に対し、肉体的、軍事的な危害を及ぼしてはならない。
これに違反した個人及び、集団(丙)は軍事裁判なしで極刑に処する。
並びに丙が所属する国家は国連総会による発言権の一切を半永久的に失うものとする。
二 甲は国家、集団から依頼された任務依頼を拒否、変更する権利がある。
また、成功報酬に関しては甲に一存する。
三 甲は作戦遂行のためなら、各国の憲法、軍規に一切従わなくて良い。
四 甲は作戦遂行のためなら、一尉以上の階級であれば、一時的に作戦地域の指揮権を得ても良い。
五 甲の軍規的な階級は各国のあらゆる軍事機関の階級の二階級上に相当する。
六 甲は国連総会へ発言権を有する。
また、甲の発言は議会の三分の一以上の否決がなければ優先的に可決される。
七 国連総会の開会と賛成が条件となるが、甲は以下に条約内容を追加できる。
どうだい?
小学生がみても丸わかりな私たちに全面的に優位な悪法は?
条約の書簡に調印する。
はい、これで条約成立。
各国の記者に満面の作り笑いを浮かべ、国連の議長と握手する。
その瞬間カメラのフラッシュに包まれる。
国連議長は人形のように不自然な笑顔を浮かべている。
ふと各国の代表の皆さまを見回すと、顔を青ざめたり、油汗を浮かべ水を口にしていたりしている。
あっれー?
何そのリアクションは?
皆さん喜んで協力してくれたじゃないですか~?
確かにアポなしで明朝2時に自宅に押し入ったことは無礼だと思いますよ?
でも偶然行方不明になってたご家族、愛人、友人の拷問映画は楽しんでくれたじゃないですか~?
ちゃんと持参した皆さんの大事な方々の、指や目玉のお土産にはゲロ吐くほどよろこんでたじゃないですか~?
皆さまの汚職や不貞の証拠を突き出して、悪いことはいけませんよ、メッ!て注意してあげたじゃないですか~?
(ちなみに代表の関係者は痛めつけてない。
ビークゥオド号に軟禁して、彼らの所作からCGを作って拷問の動画を作っただけ。
指や目玉もただのクローン技術で作った部品。
議長は洗脳して傀儡にした)
これで世界はほとんど私のものだ!
貴様らがサインしたのは平和条約ではなく、地獄への片道切符なんだよ!
世界中の国家を産毛まで搾取してやる。
私のために戦え、人間ども。
――――――
所変わって太平洋沖、ビークゥオド号内の談話室。
TVを前に室内は歓声に包まれていた。
アリー・アルサーシェスは腹を抱えるほど大爆笑し、他のメンバーは各々喜びを体に表していた。
「最っ高だぜ!!決めた!!アンタに一生ついていく!!これで戦争パラダイスだぜ!!」
サーシェスは膝をパシンと叩きグンと立ち上がる。
「我らの後顧の憂いを断ち切ってくれた…。
私たちは自由だ…」
キャスバルは目元ににじんだ涙を指で拭う。
「これから真の意味でホワイト・ホエール・セキュリティー・ガード社が始まる」
アムロは拳を力強く握りこむ。
「これで人類のための戦いが始まるんだ」
「ああ…、今から武者震いしてきたぜ」
カミーユとジュドーがグータッチしながら言葉を交わす。
「どんな国のルールにも縛られないか…」
「そうだな、まさに国を超越した軍事国家だ」
コウとユウが互いに腕組し、問いかける。
「細かい事はわかりませんが…要するにオレ達、世界にとってとんでもない存在になったってことですよね!」
シンは年相応のキラキラとした目でキラとアスランに問う。
「シン、俺たちは間違いなく軍事史に名を遺す。
少しは大人になれ。
これからお前が手本になるんだ」
シンの無邪気さをアスランが窘める。
「そうだね、僕たちに自由をくれた総司令官を僕たちが支えないと」
キラが苦笑しながらフォローする。
「これで我らは新たなる力を手にした…。
さあ、これから我らをどこに連れて行ってくれるのだ?!」
グラハムは興奮冷めやらぬといった感じで、モニター上のディアキリスティスに熱い視線をそそいだ。
―――――
さらにわが社での変化をお伝えしよう。
まず、人手が増えた。
あの作戦以降、わが社の力を目の当たりにした衛士たちはMSの力とガンダムに目がくらみ、次々と応募してきた。
希望者の個人情報を目にすると、出るは出るはガンダム世界の登場人物が。
今までどこに隠れていたんだよ?
ガンダムに登場できる時点で一部を除きエリートな訳で、ほぼ全員採用した(ただしイオク・クジャンてめーは駄目だ)。
実技で選りすぐって希望者50万人から1万人に絞り込んだ。
全員世界から選りすぐったエリートだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
決して容姿で選りすぐったわけでないからね!
男以外綺麗どころなのは気のせいだ。
この世界男が少ないからさ。
だからねっ?
サーシャちゃん、タブレットの私の人工筋肉制御アプリから手を離して?
―――――――
さて、人が増えたということでビークゥオド号では手狭になってきた。
報酬の交渉をしてきた中国政府のネゴシエーターにとりあえず、とんでもない金額を吹っかけてみた。
泡吹いて気絶した。
気を取り直して30分後に目を覚ましたネゴシエーターに『カシュガルくれ』と交渉した。
さっきの金額で感覚がマヒしたネゴシエーターは儚げな笑みと共に快諾してくれた。
ついでにカシュガル全域における自治権も頂いた。
火星テラフォーミング計画で培ったテラフォーミング技術で、カシュガルの不毛な大地は今や緑に覆われ、清涼な水が流れる。
ハイヴがあった洞穴には超巨大な要塞基地―ホエール・セキュリティー・ガード社の地球本部が置かれている。
その周りには弊社の社員の家族が住む高層マンションや、弊社が提供する商業施設、学校や病院が並んでいる。
かつて絶望の象徴であったカシュガルはいまや、子供たちの笑顔にあふれ、人の営みにあふれている。
―――――――
私の周りの人間関係も変わった。
まず、サーシャ達の現在の階級を教えよう。
サーシャの特務一佐の階級は組織のNo2なので昇進は無し。
だが、今回の大規模な採用で大量の技術士官を確保できたため、研究開発室を設け、そこの室長も兼ねている。
続いてベアトリクスだが、今までは特務三佐だったが、監査局の准将に就任した。
今回の条約を悪用し、戦争犯罪を起こしたものへの粛清が主な役割となる。
一番金星を挙げた私は最高総司令官なので、昇進しようがない。
何か損した気分だな。
続いてアムロ達だが、まとめてお伝えする。
三佐 『アムロ・レイ』 『キャスバル・ダイクン』
一尉 『グラハム・エーカー』 『アリー・アルサーシェス』 『コウ・ウラキ』 『ユウ・カジマ』 『キラ・ヤマト』 『アスラン・ザラ』
二尉 『カミーユ・ビダン』 『ジュドー・アーシタ』 『シン・アスカ』
まあ、妥当な所だろう。
正直甲乙つけがたいキルスコアだったが、細かく吟味した結果こうなった。
でも別にいいよね?
一番階級の低いカミーユ達でさえ、他では少佐扱いだ。
これから彼らは大隊から中隊規模の組織を引っ張っていく。
何せガンダムキャラだもの、期待しているぜ。
それからそうそう、生憎プライベートなことで恐縮なのだが…。
ベアトリクスが子供を産んだ。
カシュガルから数年後のことだ。
言わずもがな私の子供である。
約3400gの元気な女の子だ。
やはりアーニャの例に漏れず、この子は産まれて間もなく目を見開き、地を這う。
やはり真の純粋種イノベイターとはかくもこうあるべくなのか…。
『イザベラ・ブレーメ』と名付けられた5歳になるこの娘の外見をお伝えしよう。
まずは髪だが、両親に似たサラサラの艶やかな黒髪、しかし私のDNAか所々白のメッシュが入っている。
子供にしてはパンクな髪色なのだが、本人は父上とおそろいと気に入っているようだ。
性格は大人しく、まじめで堅実。
ここは母親に似たようだ。
因みに妊娠報告時に、ベアトリクスは医務官がドン引きするほど歓喜し、アーニャは飛び上がって喜んだ。
文字通り天井に頭をぶつけるほどに。
そして我々はこの世界に順応し、時に自身を変化し、場合によっては周囲を変化させ、世界に馴染んでいく。
――――――――
ドイツ某所、東と西の境界の樹海にて
虫も寝静まる深夜にて幼い荒い息遣いが響く。
月光に照らされ、十代に届くかという幼い影が森を駆けていく。
「お義兄ちゃん!苦しいよ…!」
出来たばかりの義理の妹が涙目で息を切らし、訴えてくる。
「我慢してくれ!捕まったら元も子もない!」
背後では懐中電灯の光線が差し込み、国家保安省の隊員の怒声が響く。
(クソッ!いつもこうだ!)
赤毛の少年―『テオドール・エーベルバッハ』は幼くも世界の心理に気づいていた。
本当に欲しい物は絶対に手に入らない。
手に入ると思ったら、指先の差で取り上げられるのが世の心理なんだ。
彼は10代に届くかどうかの生ですでに人生を半ば投げかけた。
(だけど…せめて…!)
ちらりと必死に自身に食らいつく義妹を視界に映す。
(せめて義妹だけは勘弁してくれませんか!神様!)
しかし、時として現実は神の存在を疑ってしまう程残酷だ。
「あっ」
突如として左手で引いてたリィズの手の感触が無くなった。
恐る恐る振り向くと、国家保安省の隊員の男と目が合う。
5秒ほど間を置き男は獰猛な笑みを浮かべる。
目線をおろすと義妹はうつ伏せに転んだまま固まっている。
樹木の根にでも躓いたのだろう。
「ガキ共め手間取せやがって…。
さあ、このツケどう払ってくれる?」
男はナイフを手にいやらしい笑みのままこちらに近づいてくる。
テオドールは反射的に足元の枯れ枝を手にリィズを隠すように立ち塞がる。
「こっちにくるなこの変態野郎!妹はオレが絶対守る!」
男は言ってくれるじゃねえかと呟き、こちらへゆっくり歩み寄る。
精一杯の怒声を挙げ、枝で殴りかかるも、子供と大人じゃ力もリーチも違う。
簡単にあしらわれ、蹴り飛ばされ、木にたたきつけられる。
「ほう…、おれぁロリコンじゃねぇがこれはなかなか…」
気づくと男は顎に手をやりリィズを吟味するように見ていた。
何をしやがる…!残った気力だけを頼りに地面をはいずる。
霞む視界上では男はリィズへゆっくり手を伸ばしていた。
(神様…!いや!あんたはもう頼れない…!オレはどうなってもいい!どうかリィズだけでも!)
あまりに力んだため、幼児の柔らかい爪は剥がれ、血液がにじむ。
(リィズのためなら…オレは!魔王にだって魂を売る…!)
「よく言った。
契約成立だ」
どこか安心する男の声に顔を上げると。
リィズに近寄っていた男は浮いていた。
別に男が魔女で箒に乗ったとかそんなこじつけではない。
本当に虚空を浮いている。
ただし自身の意思ではないようだ。
その証拠に首元を抑え、苦悶の表情を浮かべている。
「妹のために自身を投げ出す…。
立派な自己犠牲だ。
やはり人間とはこうあるべきだな」
よく見ると月明かりに照らされた景色にズレがある。
何か…、誰かいる?
そう考えた瞬間ゴキリという鈍い音共に男の頭部が垂れ下がる。
リィズが絶叫を挙げる。
「すまんすまん。
子供にはきつかったな」
そんな場違いな声と共に男が風景からにじみ出す。
身長190㎝超、見たこともないような美しい顔の男が出てきた。
とっさにリィズの前に両手を広げ立ち塞がる。
テオドールの膝は震えている。
自身の意識より先に自身の身体がわかってしまっている。
(殺される)
だけどもせめて1分1秒リィズのために捨て駒る!!
テオドールの心中は燃えていた。
―――――――
ここはドイツの東と西を隔てる樹海。
「ぶあっははははははははははは!!!!」
私は少年の姿にかつての幼い自身を重ね、笑みを隠せず、爆発した。
「あのー…、そんなに騒いだらまたシュタージュが…」
小娘―リィズがおずおずと尋ねる。
「シュタージュ?
ああ、居たなそんな連中も」
「もう居ないがな」
半身どいてやると私の陰になってた獣道があわらになる。
その光景に二人の子供は突然嘔吐した。
かつてシュタージュとして国民の恐怖の対象になっていた制服に身を包んだ男女は、全員地面に倒れ伏していた。
あるものは首を掻き切られ、あるものは胸に大穴を開け、ひどい者は原型をとどめず潰れている。
人体破壊の博覧会は子供にはきつかったようだ。
二人が落ち着くのを待ってから、二人の頭をなでる。
「坊主、妹を守ろうと立派だな。
だが、力を持たない勇気は無謀という。
これを覚えておくといい」
その言葉に赤毛の少年は顔を上げる。
「アンタの…、アンタの所なら学べるのかよ?!」
もはや絶叫に近い形で少年は叫ぶ。
甘えんな。
「残念ながらそれは成長しながら学ぶしかない。
坊主、早く大きくなれ。
そして私の元に来るといい。
歓迎するぞ?」
我々の上空に三体のガンダムが飛来する。
「私はプシュケー・ディアキリスティス。
また会おう坊主、嬢ちゃん」
私はコクピットを開けたサタナエルに一足で飛び上がり、サタナエルを目的地に向かわせた。
総司令官、トイレにしては長かったですね?というサーシャの軽口を流し、思案にふける。
なんかあの兄妹、色々と訳がありそーな二人だったな。
例えば、赤毛のオスガキは将来カルト教団の教祖になったり、妹はブラコンをこじらせスパイになったりとか。
まあ、なんかフラグが折れる音が聞こえたから大丈夫だろう。
「あ、手洗い忘れた」
舞台は少し流れ、1970年代後半へ。
運命の1983までもう少し。
ガンダムマイスターはあと二人くらい増える予定