Muv-Luv ALTERNATIVE <The White Evil King> 作:段段だ段
この話、投稿するかどうか悩みましたが、失踪するよりはマシだと考え、投稿します。
なお、以下に該当する方はブラウザバック推奨です。
・今後の展開において微々たるネタバレも許さない人
・BETAが出ないMuv-Luv ALTERNATIVEなんてオルタじゃないという方
・リョナ表現が苦手な方
・熱狂的な冥夜ファンの方
・独特な展開が許せない方
今回の話はカルディアのキャラ紹介も兼ねています。
番外編『ニューフェイト』
自分が寝ているという自覚をもって覚醒した。
新たな物語(ループ)が始まる。
さあ起きなければ。
今度こそみんなを救って見せる。
脳裏に浮かぶのは同じ苦楽を共にした戦友…。
頼りになる上官…。
そして恩師…。
そして…、そして…。
何よりも大切な人…。
溶接されたかのような瞼を無理やりこじ開ける。
「純夏…!!」
この物語の本来の主人公(英雄)ー『白銀武』はこの世界において三度目のスタートを迎えた。
白銀は顔にべたつく寝汗を腕で拭い、部屋を見渡す。
バルジャーノンのポスター、ゲーム機、平積みされた漫画本。
いつも通りの自分の部屋だ。
「待っていろよ…!皆…!今度こそ救って見せる…!」
白銀は右こぶしを強く握り、歯ぎしりする。
そうと決まればいち早く横浜基地に向かわねば。
―――むにゅ。
ベッドに着いた手に違和感がある。
恐る恐る見下ろすと、見慣れ過ぎた赤髪の少女が眠っていた。
『鑑純夏』。
かつて自分が世界を天秤にかけても守ろうとした少女であり、自身の幼なじみで恋人である。
自身が覚醒したタイミングでは、憎きBETAによって脳髄のみにされた無残な目にあったはずだが、ここにいる。
自身のベッドに同衾していて、自身の手は彼女の胸を揉んでいる。
「…うーん…。
なーにー?
タケルちゃーん…?」
純夏は目を擦りながら上体を起こす。
白銀の手は純夏の胸に吸い込まれるように、純夏の動きについていく。
純夏は二、三度瞬きすると自身の胸に目線を移す。
途端に彼女の頬が赤くなり、爆発した。
「タケルちゃんのエッチいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「おひさッ!!!!!」
白銀は、既視感のあるやり取りが夢ではないことを、純夏のアッパーカットの痛みで核心した。
―――――
「じゃあ…、本当にいまの純夏は00ユニットじゃないんだな…?」
あのやりとりの後、白銀は顎を氷嚢で冷やしながら朝飯をのそのそ掻き込む。
「うん…。
多分人間みたい…」
―――――
白銀にアッパーカットを食らわした純夏は白銀を半ば白銀の部屋から叩きだし、自身の身体チェックを行った。
その結果、『生物的根拠0』の疑似生命体ではなく、生身の人間だという。
それがわかった二人は抱き合い、ひとしきり泣きあった。
落ち着いて暫くすると、二人して一階に降りると違和感を感じた。
まず、二人が感じたのは暖かさだ。
家の周りから人のぬくもりを感じる。
騒がしさではなく、人の生の暖かさが。
恐る恐る玄関から顔をのぞかせると、外の風景に二人して驚愕した。
ゴミ捨てついでに井戸端会議にいそしむ主婦たち、スーツを着て会社に急ぐ会社員、欠伸をしながら自転車をこぐ学生…。
そこには怠惰ながらも生を楽しむ人々の営みがあった。
「一体どうなってんだ?!
オレ達は元の世界に戻ったのか…?!」
「わかんない…。
とにかく、家を調べてみよう!」
真っ先にリビングに戻った彼らをまちかまえたのは、白米、目玉焼き、昨夜の残りの豚汁、キュウリの漬物の朝食の二セットだった。
暫くあっけにとられていると、白銀はテーブルの書置きに気づく。
白銀は半ばに走りよると、メモを鷲掴む。
そこには彼の母親の字でパートのシフトが代わったから先に出る旨書かれていた。
純夏と一緒に朝食を食べろとのことも。
それを見た白銀は顔をくしゃくしゃにしながら泣き喚いた。
―――――
「これからどうするの?」
純夏に背中をさすられ、泣き止み、母親の朝食の味にまた涙ぐみながら朝食を済ませる。
今までにない事態に思考が止まり、ダメ元でTV電源を着ける。
『…さあ、本日は1999年XX月XX日!BETAとの戦争の勝利宣言から3年たった記念すべき日です!』
ニュースのレポーターの声に椅子を蹴飛ばし、白銀は立ち上がる。
「は…、はあ…!!」
白銀はTVにかじり付く。
『本日はこの記念すべき日に、スペシャルゲストを用意しました!』
袖から出たのは美しい顔をした長身の男だ。
紫髪の秘書風の女性を伴っている。
「ディ…、ディアキリティアスさん!!」
純夏も白銀にくっつくようにTVに張り付く。
「ディアキリティアス…?!
誰なんだそれは?!」
――――――
純夏が話したのは眉唾ものだった。
死後、映画館へ行った。
『カミサマ』に出会った。
異世界からきた男に助っ人を頼んだ。
ドラッグでもやったのかという内容だったが、純夏の真剣な表情が白銀を動かした。
そして、ディアキリティアスが映ったニュース番組の生中継と言う言葉が白銀の背中を押した。
中継されているのは×××TV。
地元局なので電車を乗り継げば30分ほどで行ける。
純夏のお礼がしたいという意見と、白銀の好奇心が身支度を速攻で終わらせて、出発した。
運が良ければ出待ちを捕まえられるかもしれないし、横浜基地は逃げない。
「それにしても、本当に平和だな…」
駅への道すがらさすがにMPが多かったが、街にはBETAのBの字もない。
公園では子供たちがはしゃぎ、宅配業者は忙しそうだ。
紫髪で目つきの悪い女性MPは暇そうだ。
「ホント…、ここまで来るとなんか怖いね…」
マンションのベランダでは主婦が布団を叩く。
交番では黒髪長髪の女性警察官が、泣きじゃくる子供の頭をなでる。
赤い瞳が目立った。
「しかし…、ディアキリティアスさんって何者なんだ?」
純夏のいうには一人で世界を救えるほどの力をもった人らしい。
ヘルメットから溢れるほど豊かな銀髪を持つ女性郵便局員が、原付にまたがりすれ違う。
「私も詳しくは知らないけど…、悪い人じゃない見たい」
駅のモールでは女性警備員がオープンの準備をしている。
遠目だが、紫髪と銀髪が特徴的だった。
どこかで見たような気が…。
―――――
「…ねえ、何かおかしいと思わない?」
駅まであと数mというところで純夏が足を止めた。
「な…、何がだよ…?
純夏…?!」
階段に足をかけたまま金縛りになった白銀が問う。
「さっきからッ…!
何度も同じ女の人を見かけている…!
何度も!何度も!」
頭の片隅では気づいていた違和感の答え合わせに、白銀はどっと冷や汗を流す。
「き…、きっと目が覚めてばかりだから疲れているのさ!早く電車に乗ろうぜ…!」
白銀はグンっと駅のチケット売り場へと駆けあがるが、そこの光景にぎょっとした。
老婦人に切符の買い方を教えている紫髪の女性、電車の車掌室に乗り込む銀髪の女性、駅員室の小窓から客の対応をする黒髪の女性…。
紫髪…、銀髪…、黒髪…。
紫…、銀…、黒…。
駅員全員が、今まですれ違った三パターンの女性の顔そのままだった。
おおよそ人の命を預かる重大な立場には三色が配置されていた。
「ッ…!」
白銀は喉から引きつった悲鳴をあげると、純夏の腕をひき、交番に走った。
駅員は全員、朝から既視感のある顔しかいなかった。
―――――
(なんだ…?!なにが起きている…?!)
ループを二周回った自身の危険察知能力ともいえる感が、過去一番の警鐘をならす。
(ヤバい!ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!!)
何かが分からないが、もはや手遅れになっている。
その確かなる実感が白銀にあった。
とにかく警察、そんな安直な日本人的思考が二人を交番に向かわせた。
(しかも…!)
紫髪の女は朝のニュースに出てきた女と同じ顔じゃなかったか?
そんな思考をしているうちに交番にたどり着いた。
―――――
「す…、スミマセン!!
周りが…、周囲がおかしいんです…!!
保護してください!!!」
交番の引き戸を強引に開け、膝に手に息を整える。
兎に角意味が分からないが国家権力なら大丈夫だろう。
「ひッ…!!!」
そんな思いは純夏の引きつった悲鳴で打ち砕かれる。
純夏の顔を見上げると、真っ青な顔を油汗で染め上げ、後ずさりする。
純夏の視線を辿ると、白銀は腰を抜かしそうになった。
「「「どうしました?」」」
そこにいたのは三人の女性警察官だった。
しかし、髪は全員紫髪、髪の長さも同じ、顔立ちも同じ、身長も、目つきも、息遣いも…。
何もかも朝の生中継で見た秘書然とした女性と同じだった。
「おや、そんなに汗をかいてかわいそうに…」
「水でもお持ちしましょうか?」
「奥に布団をご用意しましょう、救急車は必要ですか?」
白銀と純夏は頭がおかしくなりそうだった。
読者の皆様、一卵性双生児と同時に話したことがあるだろうか?
作者は幼い頃にあるが、慣れないと頭バグるぞ?
「大丈夫ですか?」
気づけば三人組の一人が眼の前にいた。
白銀は絶叫を挙げ、尻餅をつく。
三人組は救急車を呼ぶ算段を話している。
まずい。
このままでは三週目を満足に戦えないまま、精神病棟で生を終えてしまう。
こうなったら力ずくで!
拳を決意と共に強く握ると、幼い声が響く。
「おかあさーん、あのおにいちゃんとおねーさん、びょうきなのかなー?」
振り向くとこちらを指さす幼い少女とおっとりとした印象の若い母親がいた。
この際誰でもいい!助けてくれ!
白銀の願いは幼女の一言で砕かれた。
「だってあの人たち、脳量子波がないもん」
その一言で周囲は凍り、視線の針の筵になる。
幼女の虹彩は黄緑にきらめいていた。
――――――
気づけば二人の周りは群衆に囲まれていた。
全員虹彩が怪しく光る。
「人間…?なんでこんなところに?」
「飼育されていたペットが逃げ出したのかしら?」
「もしかして反乱軍?
全く、早く駆除されろよ」
群衆はひそひそと白銀と純夏を囲み話す。
「タケルちゃん…、怖いよ…」
純夏は白銀の腕に震えながらしがみつく。
しかし、情けないことに自身の震えなのか、腕に抱く恋人の震えなのか判断できない。
恐ろしいのはその視線だった。
BETAのような人類を生物扱いしていない反応ではない。
人類を知的生命体と理解してなお、自身より下等にみている。
(この世界は何が起きているんだ…!)
白銀は純夏を腕に抱く事で精一杯だった。
「貴様ら!何をやっている?!」
その時、聞き覚えのある凛とした声が響く。
ツカツカ群衆を割って入ってきたのは、かつての戦友。
見知らぬ制服を着た『御剣冥夜』だった。
―――――
御剣冥夜の名前と階級章を出した途端、あっさり解放された。
詳細を聞くも、詳しくは落ち着いてからとのこと。
現在、二人は冥夜の背中を追い、おそらくは彼女の車であるスポーツカーに向かっていた。
「なあ…、冥夜!
聞かせてくれ!!
この世界では一体何が起きているんだ?!」
白銀がそう問いただすと、冥夜はため息とともに振り返る。
「再会を喜びたいが、時間がない…!
今言えるのは、世界は変わってしまったということだ!!」
そう言い放った冥夜は、突如歩道に突っ込んできた4WD車に跳ね飛ばされ、地面と水平に10m弾き飛び、公衆電話に突っ込んだ。
「は…?」
白銀は自身の気の抜けたリアクションに内心驚いた。
あたりに純夏の悲鳴が響く。
「め…、冥夜ああああああああああああああああ!!!!!」
脳裏には何も浮かばなかった。
ただ眼頭に涙をにじませ冥夜の元に駆け寄ろうとする。
「馬鹿者…!あれが私に見えるか…!?」
しかし後ろ襟をひっぱられ、またもや尻餅をつく結果になる。
4WDから出たのは髪こそ短いものの、サングラスをかけた白銀の知る『御剣冥夜』だった。
彼女は意匠こそ違和感を感じるが、国連軍の制服を身にまとっていた。
――――
「本当に冥夜なんだな…!」
冥夜は白銀の襟から手を放し、サングラスを投げ捨てる。
「ああ…!待っていたぞ!タケル!」
冥夜は泣きそうな笑みを浮かべる。
「じゃ…、じゃああれは誰なんだよ?!
気配まで冥夜そのものだったぞ?!!」
白銀は狼藉を隠せず、冥夜(?)が突っ込んだ公衆電話を指さす。
すると公衆電話からはみ出た足が地面をしっかりとつかみ、脚部から上半身を起き上がらせる。
手も使ってないことが、目の前の存在が人間ではないことをものがたる。
まるで吊り上げられるマリオネットだ。
「ひどいではないか…、自分を轢くなんて…!
それが人のやることか!!」
公衆電話から起き上がった冥夜の姿の人物は、冥夜の口調と声でさも悲痛そうに言い放つ。
白銀と純夏は茫然と二人の『冥夜』を見比べ、4WD側の冥夜はギリッと歯を鳴らす。
「あれが誰だと…?!教えてやる…!!」
4WD側の冥夜はこちらに対面する冥夜(?)に腰のUSPを全弾発砲する。
自動拳銃の銃弾は全て冥夜(?)につかみとられる。
全弾右手のみで。
冥夜(?)の右手が掻き消えたと思ったら、自動拳銃の弾は右の掌にあった。
その光景に白銀、純夏は目を丸くし、こちら側の冥夜は歯ぎしりする。
「貴女の戯れに付き合う程、暇ではありません…!
いい加減、素顔を現わせてください!!教官!」
双子以上に同じ顔が相対する光景がこんなにも不気味とは。
冥夜(?)はまるでコメディアンのようにため息をつき、両手を軽くひろげる、降参のポーズだ。
途端に冥夜(?)の全身が黒鉄色の粘液に包まれる。
身長が元より10㎝は伸び、胸が膨らみ、腰が引き締まる。
髪は黒髪と銀髪がまじり、艶やかにきらめく。
顔は今朝からみた女性たちの面影を残しながら、ニュースで見たディアキリティアスに似ている。
変身が完成すると女性にしては長身の、眼鏡をかけた絶世の美女がいた。
「はじめましての人ははじめまして。
ボクはホワイト・ホエール・セキュリティー・ガード社の特務一佐。
『カルディア・ディアキリティアス』だよ。
すこしは賢くなったかい、冥夜?」
『使徒』の統制者は黒いライダースジャケットを整えながらそう言った。
―――――
「あれは『サイボーグ』!!
そして『イノベイター』だ!!!」
正体を現せたカルディアに冥夜は、弾倉を再装填したUSPで警戒する。
白銀と純夏は二人で動けないでいた。
それを横目に冥夜は内心舌打ちをした。
「それにしてもびっくり。
久しぶりのオフに映画を観に行ったら、最重要ターゲットが二人もいるんだもの」
カルディアと名乗った女性はくつくつと笑いながら、こちらに近づく。
「二人とも!死にたくないなら車に乗れ!!」
冥夜はトランクから重機関銃を取り出す。
4WDに乗るのと発砲は同時だった。
重機関銃の銃弾はカルディアの頭部や胴体ではなく、脚部に集中した。
たまらず体勢を崩すカルディアに、続いてパンツァーファウストを構える冥夜。
その姿をみて、白銀はぎょっとして、純夏の頭をかばった。
爆風を食らい、カルディアはモールの中まで吹き飛んでいった。
「用心しろ。
戻ってくるぞ」
そのモールに冥夜はありったけの手榴弾を投げ込む。
圧倒的な熱量の爆風を背に、冥夜は4WDに戻った。
――――――
その後4WDに乗り込み暫くして、車を変え(盗難)し、一行は首都高速を乗っていた。
「な…、なあ!そろそろ話してくれ!この世界では何が起きている?」
すでにお互いの記憶の照り合わせは済んでいる。
冥夜曰く、どうやら1年前に突如激しい頭痛と共に、二周目までの記憶が脳裏に浮かんだという。
冥夜はハンドルを握りながら白銀を横目で、バックミラー越しに純夏を見るとため息を吐く。
「いいか…、一度しか言わん。
このループ上では地球上からBETAは駆逐された。
今から三年前のことだ…」
途端に白銀と純夏は顔に喜色を浮かばせる。
「人類はBETAとの戦争に勝った…。
しかし、『人間』は『イノベイター』との生存競争に敗北した…」
そのひとことで冥夜以外の二人の表情は固まる。
――――――
今から約三十年前のことだ。
突如異世界から来たと自称する者たちが現れた。
それが『プシュケー・ディアキリティアス』、『サーシャ・リターナー』そしてこの世界初の純粋種イノベイター『ベアトリス・ブレーメ』だ。
三人はPMC『ホワイト・ホエール・セキュリティー・ガード社』を名乗り、圧倒的な人型機動兵器-『MS』を振りかざし、BETAを蹂躙し始めた。
その筆頭が究極の戦略人型兵器…、『ガンダム』だ。
その威力はすさまじく、たった三機でカシュガルのオリジナルハイヴを墜とすほどだ。
世界中の人々は、奴らを希望だと考えた。
実際、国連が奴ら、一企業に特権を与えるほどに…。
しかし、奴らは人間ではなくイノベイターだった。
イノベイターは何か?
説明が長くなるのでここでは省くが、一言でいうと進化した人類だ。
全てにおいて我々(人間)の能力を上回っている。
やがて地球上のハイヴを陥落せしめた時、奴らの計画のフェーズ2が始まった。
いや、ようやく計画のスタートラインにたったというべきか…。
国連総会が招集され、世界各国は統合され、『地球連邦』政府が発足され、世界から国境が無くなった。
地球は真の意味で一つになったのだ。
タケル、何を喜んでおる?
ここから人間の地獄が始まったのだぞ?
それから地球連邦初代大統領にはかのプシュケー・ディアキリティアスが当選した。
気持ちの悪いくらいのストレート当選だった。
それもそのはず、すでに地球上の大半の人間は人工イノベイター、『使徒』によって洗脳が完了されていたのだから。
それからが地獄だった。
地球人類を総てイノベイター化させる悪法が採用、操り人形にされていた大半の人間は言われるがままイノベイター化されていった。
今や地球上の人類の9割はイノベイターで占められる。
わずかに洗脳から逃れた人間も奴らにとらわれ、強制的にイノベイター化される。
そうでなくても人格矯正施設で拷問まがいの尋問を受けるか、実験施設でモルモットにされる。
万が一、追跡から逃れても、人里はイノベイターしかいない。
迫害され、逃げ隠れて過ごすのがオチだ。
噂によると、今や富豪たちのペットとして人間が飼われているとか…。
話が長くなったがはっきり言おう…。
タケル…。
――――――
「我々(人間)は負けた。
もう取返しのつかない所まできてしまったのだ」
冥夜の話が終わった所で、車内は静まり返った。
響くのは車の走行音と冥夜が水を飲む音だけだ。
「私のせいだ…。
私があのときチケットをあの人に渡さなければ…」
純夏は静かに涙を流し、えずく。
白銀は純夏をなでながら、冥夜に問いかける。
「進化できるなら…、別にいいんじゃないか?」
頭では間違っていると思いながらも、言わずにはいられなかった。
突如、冥夜がダッシュボードに拳を叩きつける。
爆砕音が響き、ダッシュボードがひしゃげる。
「馬鹿者!!!
良いわけあるか?!」
冥夜は運転中だというのに凄まじい剣幕で振り向く。
「人間には、他の動物にはない未来を選ぶ権利がある!
そなたが前の世界で、絶望の未来を打ち砕いたように!
人間に持ち合わせる自由を奪い、強制的に進化させようなど…。
それはただの支配だ!!!!」
凄まじいに剣幕に再び静まり返る車内。
その後、すまなかったと冥夜は息を整える。
「いや…、こっちこそ悪かった…。
そっちの苦労も知らずに…」
白銀はばつが悪そうに頬をかく。
「二人とも!!前、前!!!!」
瞬間に純夏の絶叫がひびく。
純夏以外が同時に振り向くと、おおよそ20m前方に先のカルディアを名乗る長身の女がいた。
―――――
「やあ!皆、来ちゃった☆」
カルディアはそう朗らかにほほ笑み、右手を挙げる。
フロントガラス越しの三人の驚愕の顔に端正な顔を愉悦に歪めると、野生動物のようなしなやかな筋肉に覆われた長い右脚をほぼ垂直にあげる。
暫くの間の後、ブーツに覆われた右足をアスファルトに叩きつける。
瞬間、時速100㎞近くで走行中のワゴン車は5mほど跳ね、つんのめるように車体前部から衝突し、ひっくり返って停止した。
震脚による発剄の遠当て…、それも、時速100㎞で走る1tの鉄の塊に命中させる。
そんなバトル漫画のような離れ技を実行したカルディアは、ひっくり返ったワゴンに向かう。
「やっぱりサーシャママのようにノーモーションで無寸勁はできないや。
帰ったら鍛えなおしだ♡」
そんな的はずれな事を呟き、這う這うの体で車内から出る三人を前にサディスティックに顔を歪ませる。
―――――
「おい!二人とも生きているか?!」
冥夜の問いに白銀と純夏は何とかと答えるのが精一杯だった。
純夏は朦朧として事態を飲み込むのに必死だ。
白銀はそんな彼女に額の血を拭いながら、肩を貸す。
冥夜は何とか回収できた軍刀を抜刀し、カルディアに向き合う。
白銀に携帯端末を投げ渡す。
「いいか!よく聞け!それにピックアップポイントが表示される!私が殺されているうちに逃げろ!!」
「殺されているうちにって…、お前はどうなる?!
冥夜?!!!」
冥夜の血の叫びに同じく叫ぶ白銀。
「またそなたに会えてよかった。
再び相まみえよう…」
そんな冥夜の儚げな笑みに白銀は何も言えなかった。
絶対戻ってこいよと言い放ち、純夏とえっちらおっちら歩きだす。
首都高速を走る車をさっきから見ないことから、すでに検問が引かれているのだろう。
白銀の脱出も、自身の生還も絶望的だなと冥夜は苦笑した。
「相変わらず刀が好きだねぇ…。
冥夜…」
気づくとカルディアは自身の前方5mまで迫っていた。
「そういう貴女は昔から戯れが過ぎます…。
教官…」
そう吐き捨てる冥夜にカルディアは肩をすくめると、右手を青龍刀状に変形させる。
「ここが私の死地か…。
いいだろう!!
『カミサマ』がいるというなら私を笑え!!!」
冥夜が制服を破り捨てるとそこにはスケスケスーツ…、ではなかった。
スーツというよりは『軽鎧』。
黒は基調にしている点は強化装備と同じだが、紫のアーマー部が強化され、大型化され、鋭角な印象だ。
旧型と思いきや、各所光学的にきらめき、ベースである黒のスーツ部は生物的で一回りマッシブになっている。
ここに特撮ヒーローのファンがいたら喜ばれるだろう。
「おー!随分立派になったじゃないか!
それにしても最期の台詞が『再び相まみえよう』なんて風情がないねえ?」
カルディアは冥夜の声真似でくつくつと嗤う。
冥夜は自身の軍刀を握る両手が怒りで震えていることを自覚した。
「せめて『タケル、そなたを愛してる…』くらい言ったらどうだい?
可愛げないじゃないか?」
完全に禁句だった。
瞬間、冥夜の脳裏に前回(二周目)の自身の最期がフラッシュバックする。
踏みにじられたのだ。
目の前の恩師に。
かつての仲間も、恩師も、最愛(タケル)も、自身の姉も、自身の決意も、そして決意も、そして自身の想い(恋)さえも――――。
気が付けば、目の前の恩師(教官)だった仇に斬りかかる。
あっさりカルディアに体捌きだけでよけられ、冥夜はアスファルトに10mの電車道を作り軍刀を振りぬいた残身で静止する。
「貴様になにがわかる…!」
冥夜の顔は前髪の陰になって見えない。
カルディアは相変わらず笑みを崩さない。
「貴様らのような他者と分かり合おうともせず、踏みつけ、支配するしか能のない、物の怪風情に私たちが…、人類を分かってたまるかッ!!!」
アスファルトの二筋のラインから火柱が挙がり、あたり一面に有毒ガスが発生する。
「いいねえ、面白くなってきた!胸をかしてあげるよ!」
カルディアは青龍刀上の微細なスパイクを、超が五つ追加しても足りないほどの速度で回転させる。
「もはや恩師と思わぬ!敵将の一人…『カルディア・ディアキリティアス』!!その首ここでもらい受ける!!!」
冥夜は軍刀を高周波振動モードに変更し、カルディアにとびかかる。
二条の火柱は二体の怪物がぶつかった衝撃で、掻き消える。
――――――
二人の剣戟は人知を超えていた。
何せ常人では振るわれる剣そのものが見えないときたもんだ。
二人とも、剣術が達人レベルということも一因にあるが、時折双方ありえない回避を見せる。
やがて鍔迫り合いの形で硬直する二人。
身長が一回り大きいカルディアが冥夜に覆いかぶさる形だ。
「息が乱れているね?
でも格闘訓練で泣きべそかいていたあの頃とは段違いだ。
どんなマジックを使ったんだい?」
飄々と愉悦に顔を歪めているカルディアに、対照的に冥夜は顔中汗だくで奥歯が砕けるほど力みをいれる。
しかし片手のカルディアと比べ、両手で食いしばる冥夜の後ろ足はじりじり後退させられる。
冥夜の『サイバネティック処置者用強化装備』がスパークし、処置された両脚部、両腕部が悲鳴をあげ、網膜投影はレッドアラートで真っ赤だ。
脳内で機械音声が絶えず冥夜に警告するが無視する。
もはや言葉を返す余裕もない。
「マジックの種が知りたいなあ…。
ボク隠し事が嫌いだから」
途端、青龍刀に擬態していた右手が粘液化し冥夜の左手を取り込むと、硬化。
そのまま冥夜の左肩を支点に冥夜の左腕を引きちぎった。
痛覚遮断も覚悟も間に合わなかった。
「ぐッ…、グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
冥夜は片膝をつき、今や存在しない左腕を庇うかのように抑え、絶叫を挙げる。
カルディアはそんな冥夜に引くような表情をみせ、もうちょっと女の子っぽい悲鳴をあげなよと吐き捨てた。
視線を今しがた自身が切除した左腕に戻す。
「へえー!!やっぱり冥夜も身体弄っていたんだね?!
それにこの技術、サーシャママの処置にそっくり!!
やっぱり弟子は師匠に似るんだねえ!
ゆーこちゃん、やっるぅー!!」
カルディアは流れるような手つきで左腕を分解していく。
悶絶する冥夜の左肩には白い人工筋肉が飛び出て、ナノマシンを大量に含んだ血液が滝のように流れ出す。
破損した強化装備のスパークが血液を焼く。
冥夜はもはやつきかけた闘争心を気力でつなぎ止め、軍刀を右手に地面にクレーターを作るほどの踏み込みで吶喊する。
そこで冥夜の想像の外の出来事が起きる。
カルディアに軍刀が突き刺さったのである。
本来、カルディアを始めとした『使徒』にはサイボーグ処置が施され、軍刀どころか、MSの生半可な攻撃すら効かないというのに。
途端、カルディアに抱き留められ、冥夜の顔はカルディアの胸に埋もれる。
と、同時に背後に確実な死を感じた。
―――――
「昔から変わらないねえ…、冥夜…」
カルディアは自身の胸に埋もれる冥夜を地面に大の字になって見下ろした。
その目には敵意は無く、慈愛に満ちている。
今、冥夜の身体は下からカルディアの『ナノマシン』、冥夜本人、そしてカルディアのむき身の『本体』の順で重なっている。
なんのことはない。
今まで冥夜が必死に戦っていたのは、カルディアのナノマシンから作った疑似的な分身だったのだ。
あとは本体がスキをみて背後から刺せばいい。
冥夜は、白い人工筋肉むき出しの本体の、右手の貫き手によってナノマシンともども腹部を貫通させられていた。
「きょ…、きょう、か…ん…」
サイボーグサンドイッチの具、いや団子にされた冥夜はカルディア(ガワ)の頬へ手を伸ばす。
「うんうん、いい子いい子。
よく頑張ったね、冥夜。
もうおやすみしよう」
カルディアは冥夜の頭をなでる。
そんなカルディアのぬくもりに、冥夜は自身の飢えていた母への愛を満たされた気がして意識が薄らぐ。
「テメエエエエエエエ!!!!
冥夜から離れやがれええええええええ!!!!!!」
それは問屋が卸さなかった。
白銀と純夏は突撃銃を乱射しながら、すさまじい剣幕で走り寄る。
実はあの後、しばらく逃走をしていた二人だったが、目を覚ました純夏の嫌な予感がするという鶴の一言で駆け戻ったのだ。
現場に戻った二人の眼に飛び込んだのはカルディア本体が冥夜を貫く現場だった。
それからは話が早かった。
ワゴンのトランクから飛び出ていた銃を手に、飛び込んだのである。
しかし、冷静ではなかった二人にはいかなる銃弾も、カルディアのナノマシンを看破できないという事実が抜け落ちていた。
そんな二人を鼻で笑い。
カルディアはナノマシンと結合する。
「ガッ…!!ゴポッ…!!!」
ご丁寧に貫通した本体の腕をナノマシン流動体の通路にして。
しかも通過するたびに傷口を削り、広げる大サービスだ。
冥夜が口から湿っぽい咳とともに、重篤そうな血の塊を吐き出す。
融合が完了した時には冥夜のどてっぱらにはボーリングの玉でも入りそうな風穴が空き、無反応状態だ。
カルディアはそんな状態の冥夜の背中から、腹部の穴に手を通し、肋骨部に手をかけ持ち上げる。
「私の友達をはなしてよおおおおおおおおお!!!!!」
純夏は顔をくしゃくしゃにして突撃銃をカルディアに向ける。
「離す?
はい!はーなーした♪」
カルディアは手首のスナップだけで冥夜を反対車線に放る。
彼女は残像すら掻き消える速度で、地面と水平にとび、反対車線のバリケードにめり込んだ。
バリケードにクレータができ、冥夜はバリケードに寄りかかった姿勢のままうなだれて動かない。
「お前はあああああああああああああああ!!!!!!
俺たちをなんだと思ってやがる???!!!!」
「んー…。
リスザルってことでここは一つ♡」
激昂する白銀へカルディアから速攻で最悪の答えが返ってきた。
(駄目だ…、全然分かり合えない。)
あまりの嫌悪感に白銀は吐きそうになった。
BETAは自身たちを生物だと認識していないからこそ、あんな非道な行為ができた。
眼のまえのこの生物(イノベイター)は、自身たちを生物として認識している上でこんな残虐な行動ができる。
時として心無い外道は犬や猫をいたぶるように、自身より脆弱な生き物をいたぶって楽しめる。
その対象が犬や猫から、自身達(人間)へ移っただけ。
自分達との共通点はただ人型という一点のみ。
―――――
「タケルちゃん!!!」
ぐにゃぐにゃした思考の海から、純夏の声で現実に復帰する。
純夏が指さす冥夜が寄りかかる、バリケードはめりめりと軋みをあげ、崩落していていた。
マズイ!と白銀と純夏は左右すら確認する余裕もなく、反対車線へ飛び込む。
冥夜のもとにたどり着いた時には、すでにバリケードは崩壊し、冥夜は宙に放り出されていた。
辛うじて冥夜の残った右手を捕まえる事には成功したものの。
「お、重…!!」
遅れて到着した純夏は、引きずられる白銀の腰あたりを捕まえる。
(何だこの重さは…?!)
確か記憶の中の彼女はX0㎏無かったはず。
なぜ二周に渡って虐めぬいて鍛えた身体が引っ張られる?
「そりゃあ、身体の何%を人工物に置き換えているからねー」
右を見上げるとカルディアが、どこからか手に入れた赤ワインをボトルごと飲んでいた。
彼女はバリケードに腰かけ足をプラプラさせる。
「おいおい。
乙女に重いなんていうなよ?
ボクらホワイト・ホエール・セキュリティー・ガード社のサイボーグは、ナノマシン由来の技術を使って軽量化に成功しているけど。
君たちレジスタンスにはそんな資金はない。
稼働ギリギリまで軽量化しているけど、結局ボクらより重い。
そして弱い。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
これはジレンマだね?」
カルディアは愉快そうにくつくつ笑いボトルを傾ける。
白銀はそんな彼女に奥歯を鳴らす。
「でもまあ…。
もしわが社に君たちが来てくれるなら三人とも助けてあげる。
最初は抵抗するかもしれないけど、パパの説得を聞けば気が変わるはずさ。
それでもへそを曲げるようならベアトママのお仕置きが飛ぶかもしれないけど、優しくするように頼んであげる。
冥夜はサーシャママがもっとよりよくアップグレードしてくれるはずだよ…。
二度と反抗期がないように。
MS操縦が不安?
大丈夫!シルヴィママがきっちり叩き込んでくれるよ。
あっ…、二人とも別に一週間眠らなくても平気だよね?」
絶対にろくでもない提案に、白銀と純夏は二人そろって息を呑む。
提案の先が地獄だということはカルディアの三日月のように裂けた口元が物語る。
「い、いいのだ…、二人とも…、は、なせ…」
白銀の手にぶら下がり、冥夜は言葉を吐き出す。
「絶対離さない!!」
「ようやく会えたのに…!今日で終わりなんてあるかよ!!!!」
純夏と白銀は悲痛な叫びを吐き出す。
それを目の当たりにし、カルディアはコメディ映画でも観たかのように、ひっくり返って手を叩き、げらげら笑う。
「もう大丈夫なのだ…、だからもう落ちろ…」
その言葉と共に白銀と純夏は瞬間的に、アイコンタクトをすると、そのまま首都高速のインターからずり落ちていった。
冥夜の変わった言い分にカルディアは違和感を感じ、聴覚センサーを全開にしながら跳ね起きる。
「あー…。
そういうこと。
どうりで気づけない…、いや最初から冥夜は陽動だったの?」
カルディアの目の前にはステルス迷彩を解除した『グスタフ・カール』がホバリングしていた。
そのマニュピレータ部には白銀たち三人が乗せられている。
「本当にさっすがゆーこちゃん!!
ずる賢さは昔から変わらないねえ!!!!!」
カルディアはグスタフ・カールの前にコメディアンのように両手を仰ぐ。
グスタフ・カールは最初からここにいたのだ。
ただステルス迷彩でカルディアの目につきづらくされていただけ。
ステルス迷彩のカモフラージュとして、冥夜は身体を張ったのだ。
グスタフ・カールはカルディアにサッカーボールキックを食らわす。
ぶべら、という呻きと共にカルディアは向こう30m先のビルに突っ込んだ。
『大丈夫?!ちょっと、御剣、生きているんでしょうね?!』
グスタフ・カールから懐かしい声が響いた。
溌剌とした『速瀬』中尉の声にまたもや涙が出る。
白銀は大丈夫です!と声を張り上げる事が精いっぱいだった。
――――――
グスタフ・カールの腕に揺られ30分ほど。
白銀達は、ネェル・アーガマ級の戦艦に拾われ、MS格納庫にいた。
何が何だか分からないまま連れてこられたが、白銀の男子の本能は正直だ。
格納庫のMS達に眼を輝かせる。
格納庫を走り回る整備兵の憔悴さと、MSの整備のやっつけ感に首を傾げられたのは経験によるものか。
「アンタが御剣の言っていた『白銀』?
なんだ…、思ってた以上にしみったれたガキじゃない」
聞こえてきたのはループ以前でも世話になった恩師の声。
MS格納庫の自動扉を開け、二人の人物が現れる。
咄嗟に振り向いた白銀は本日何度目になるか分からない、驚愕の表情を浮かべる。
彼女は両足義足で、車椅子姿だった。
――――――
車椅子を押す『神宮司まりも』さえも、両手が肘から先が人工筋肉むき出しの義手だった。
まりもに押される車椅子に乗る『香月夕呼』はひざ下が簡易的な義足だった。
「ゆ…、ゆうこ先生…、まりもちゃん…。
それ、どうして…?」
白銀のいきなりの『先生』、『ちゃん』付けの愛称に二人は視線を合わせ首を傾げる。
「まだアンタにはそこまで気を許したつもりはないんだけど?」
夕呼は首を傾げて、死にかけの冥夜に視線を移す。
「それにしても…、こっぴどくやられたわね?
御剣?」
冥夜は唇だけ、申し訳ありません、と動かした。
「相手がカルディアお姉…、カルディアなら仕方ないわ。
しかし流石リターナー先生というべきかしら…。
ここまで手も足もでないなんて…」
その後、冥夜はまりもが呼んだ医療班の医療用カプセルに乗せられ、運ばれていった。
MS格納庫を出る冥夜を見送ると、夕呼は咳払いをした。
「改めて…我々『人類存亡軍(レジスタンス)』へようこそ。
それなりに期待しているわ、小さな英雄君?」
―――――
「あー…、今日のボク、こんな役回りばっかり…」
そのころグスタフ・カールに蹴り飛ばされたカルディアは、瓦礫から這い出て、服の土埃を払う。
その五体は擦り傷さえなく、当たり前のように無傷だ。
「もしもし、パパ?
これでいいんだよね?」
ナノマシンによる耳骨振動により、通信を繋ぐ。
『パーフェクトだ。
流石は私たちの娘だ』
その言葉にカルディアは顔を蕩けさせる。
「でも本当に行かせて良かったのかい?
グスタフ・カールくらいなら『メタトロン』を使わずとも、墜とせたよ?」
現にカルディアを筆頭とした『使徒』達、サイボーグはディアキリティアス程ではないが、対MS戦を想定して改造されており、一個人でMSを迎撃できる。
『それでは風情がないだろう?
今回は仕込みだけにしよう』
カルディアは、それもそうだねと返し、帰りにお土産買ってくるよと言う実に親子らしいやり取りを最後に通信を切る。
端末で横浜名物を検索しながら、カルディアはビルから跳びさった。
―――――
かつて絶望の運命を打ち砕いた泥臭い英雄は、新たな絶望の世界に迷い込んだ。
もはや『神』にまで至った『魔王(プシュケー・ディアキリティアス)』の定めた運命を、小さな『英雄(白銀武)』を打ち砕けるのだろうか?
今、新たな運命(New Fate)が始まる。
長文お疲れ様でした。
いずれ余裕ができたら、特別編にして連載する予定です(いつになることやら)。
カルディアちゃんはファザコンで、サディストでナルシストな性格です。
おまけにその一挙手一投足は演技がかかって、胡散臭いです。
しかし、家族に『だけ』は優しい一面をもったいい子です。
今回の番外編は有給消化中に観た映画に大いに影響されています。
個人的には『エイリアン』のようにガーッと来る侵略者より、いつの間にか世界征服完了されていましたみたいな展開の方が怖いです。