しょうか   作:くりすてぃーぬ 

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第10話:ついに私のパンツァー・フォー!だよ!!

2月14日の朝、午前8時半――。

 

私、武部沙織は、水戸駅の常磐線5番ホームで。35分発の電車を待ってるところ。

 

待ち合わせは、内原駅の改札を出たとこに9時。15分前到着を目指すことにしたよ。

 

彼がまだ来てなかったら、トイレに隠れて身だしなみチェックかな。遅れるのは論外だけど、早く着くと「待ってないよ、今きたとこ」って、高田くんに花を持たせられないし。

 

 

今日は、いよいよ、高田くんとの初デート......。ううん。私にとっては人生で初めて、だよ。お父さんとのお出かけとは、全然違う、よね?

 

デート(って言っちゃっていいよね)どーなるんだろ?今日次第で、高田くんとの関係も。すごく変わるかもしれない......。上手くいくかな...?付き合いたいって思ってくれるかな?

 

 

まだ会ってもいないのに。心臓がばくばくと鳴ってて、私、すごくどきどきしてる。

んで、今日は冷え込んでて。ストッキングを履いてても。ミニスカート履いてきた脚が寒いはず。だけど、今は、その寒さも気になってない。脚が震えてるのは。寒さじゃなくて緊張のせい?

 

 

って......!やだも〜〜!

私、今朝までさ!あれだけ準備して、「帰るまでが遠足」っていう作戦まで立てたのに〜!

 

チョコとかおしゃれとか、気を付けるべきこととか、いっぱい準備して!不安要素を消して、私の可愛さマシマシにアピールしようって。やってきたはずなのに!

いざ前進!ってなったら緊張しちゃうよ......!こんな調子じゃ、普段通りにもできないよ~~っ!

…一旦、落ち着こ。武部沙織。ほら、電車も来たし、行くっきゃないよ。

 

電車が止まった。私は車内の電光掲示板を覗き見る。土浦行き、10両編成、35分発。うん、待ち合わせの内原駅にも停車するね。

 

それから電車に乗り込んで、つり革を掴む。車内には暖房がついていて。ちょっと気持ちがほぐれた気がしてくるよ。やっぱり寒かったのね。

 

 

電車が出発。10分後に到着予定だと、45分には内原駅に着く。よし、予定通りだよ。

 

それにしても。電車に乗るのは久しぶり、かも。大洗とは反対側の内原は、行ったことがないと思うし。

 

 

部屋が隣同士の高田くんとのデート。隣の部屋だから、一緒に行くのもありかなって思ったけど。内原駅にしましょうって。高田くんが知り合いに出くわさないようにって配慮してくれたみたい。

 

確かに。誰かに見られて、また変な噂を立てられちゃう可能性も......あるんだった。そう考えると私たちの大学の人たちが行かなそうな内原っていうチョイス、いいと思う。

 

 

ふと視線を上げると、電車の窓に映る私自身とね。目が合ったんだ。不安そうな顔をしてたから、肩を上げ下げして力を抜いて、ちょっと微笑んでみた。

そうだよ、きっと大丈夫だよ。上手くいくよ。ううん、上手くいかせるんだ。

 

 

 

 

 

そんなこと考えてたら。いつの間にか赤塚を過ぎて、内原駅に着いたよ。電車を降りて跨線橋を渡って。それから改札口の方を覗き見た。

 

黒いコートを着た人が1人。あ、高田くんだ。もう来てたのね。私も行かなくちゃ。

 

 

 

改札を出ると気づいてくれて、軽く会釈してくれた。

 

「あ、ごめん待たせた?」

 

「......いえ、大丈夫ですよ。さっき来たところだったので。では行きましょうか」

 

真顔でちょっと黙ってたけど......。どうしたのかな?

私に見とれてくれたなら、頑張った甲斐、あったのかも。

そうだといいな。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、このサンドイッチ美味しい」

 

「本当ですね」

 

 

映画を見終わってから近くのカフェで食べてる、ローストビーフサンドが美味しくて。思わず口にした感想に、高田くんが賛同してくれた。

美味しいサンドウィッチを食べれてること以上に。高田くんと一緒の空間にいることが、幸せで何だか夢みたい。

 

 

食べてる間は話さないで、サンドウィッチを味わいながら。私は高田くんの方をちらちらと見ているよ。

 

いつにもましてカッコよく見えて、どきどきする。映画を見てる時の横顔も、今、目の前にいる姿も。全部が素敵で、目が合うとついそらしちゃう。

ほんとは目が合った時、にこっと微笑まないとって、頭では分かっているのになかなかできないのよね。

せっかくモテテクニックとして学んだことなのに。なんでか上手くできないよ。

 

 

「そういえば、」

 

「今回のチケットくださったのは、武部さんの親戚の方でしたっけ?」

 

 

高田くんが声を掛けてきたよ。デザートのケーキ(私はガトーショコラで、彼はショートケーキだよ)も食べ終わった頃だし。私もそろそろ話してもいいかな?って思ってたけど、何を話そうか迷ってた。だから、切り出してくれて、ちょっと助かった。

 

 

「そうそう。母の妹だから私の叔母さんだね。何で貰ったっていってたかなぁ……株主優待?」

 

「あぁ、なるほど。それで優待券を……」

 

「そうそう。しばらく忙しくて使えないとかでこっちにくれて、お母さんも妹も使わないって言うからさぁ、貰っちゃった」

 

「あれ、武部さんって妹さんいらっしゃるんですか?」

 

家族の話になりそう。話題としてはとてもいいかも。

 

「そうそう、今まだ高校生。大洗女子に住んでる」

 

「武部さんが住んでいらっしゃったところですよね」

 

「そうそう。妹の方は戦車道はやってないけど」

 

 

えと、私のことばかりでもいけないから。

高田くんのご家族のこと、聞いてみよう。

 

 

「あ、でさぁ、高田くんの家族ってどんな人?前にお父さん?から野菜送ってもらってたけど」

 

「家族ですか?えっと、実家の親とあと関西の方に兄が一人います」

 

「お兄さんいるんだ」

 

「大学が向こうなんですが、留年したとかで父が怒って生活費貰ってないはずなんですよね。しばらく会ってないのでわかんないですけど」

 

「あれ?正月は帰ってないの?そんな実家遠いの?」

 

「いや、実家はつくばなんでそう遠くはないんですけど、なんか帰りづらくて三ヶ日全部バイト入れてました」

 

 

え!??

「正月三ヶ日バイト⁉︎ 」

 

「ええ、正直父も仕事人間でこういう時も休む人間じゃないんですよ。どうせ暇でしたし、実入りも良かったですしね」

 

「バイト何やってるんだっけ?」

 

「水戸の駅の近くで塾講師やってます。なんで冬季講習ですね」

 

「小学生?」

 

「いえ、中学生相手に数学教えてます」 

 

「やっぱり塾講師って大変なの?」

 

「いや、今教えている学年とかはそうでもないですよ中学生なんで授業中は静かにしててくれますしね」

 

「そうなんだ。知り合いは事前準備は無給だから大変だし割に合わない〜とか言って辞めちゃった。けど、人によるのね」

 

「校舎の正社員の教師さんとの相性もありますしね」

 

「確かに同じ職場の人とはね〜。それにしてもそちらの親御さんも正月いないかもってことでしょ。会えなくて寂しくないの?」

 

「元からそんなもんですよ。小さい頃はほぼ兄と自分で夕飯食ってましたから。今思えば兄ちゃん飯作り上手かったなぁ。武部さんには及ばないけど」

 

 

 

「えっと……お母さんは?」

 

「自分母は小さい時に亡くしてます」

 

 

 

「あ、そうなんだ……なんかごめん」

 

「いえ、亡くしたの1歳の時なんで、記憶もほぼないんですよ。なので寂しさとかそういうのはあまり……謝られることじゃありません」

 

 

 

「そうなんだ……」

 

 

 

…。気まずいこと聞いちゃったかも。麻子のご両親のお話を初めて聞いた時を思い出さなきゃ。あの時私、どう話を聞いていたっけ?

 

ううん!今は、沈黙が続いちゃってる。話を変えないと!

そうだ!

 

「ごめんね、なんか話が重くなっちゃったね。そういえば今日の映画、どう思った?」 

 

 

 

 

 

そこからは、映画の感想や、選んでくれた理由をお互いに話して。んで、私のバイトの話やお互いの部活話、そこから大学の授業の話になり今後のゼミの教授について。あとは同じ回の隣人の人たちについてなどなど。

 

 話の中で、驚いたのはね。高田くんが戦車道に興味をもってくれてたことと。3年前、大洗女子が廃校撤回できたっていうニュースを見て、勇気づけられたっていうエピソードだよ。私の頑張った経験が、だれかを勇気づけることに繋がっていたみたい。まして、それが高田くんだった。それを思うと少し胸が熱くなったんだ。

 

 んで。春大会のトーナメント決まって、この前負けちゃった信州国際大のこと。つまり私の近況を話した時には。「勝ってほしいですけどね…」って言ってくれた。応援してくれた。

強い対戦相手だけど、高田くんが応援してくれたから。なんだか頑張れそう。

 

こんなふうに。

会話のキャッチボールがぽんぽん続いて、とても楽しくて。全然疲れなくて、むしろもっと話していたい。家族以外で初めてかも。こんなに長い時間話してて、疲れなんて感じなくて、もっと話していたいって思ったの。

 

んで、気づいたら、17時半を過ぎていたよ。

 

 

「……だいぶ遅くなりましたね。こんなに話すとは思っていませんでした。ここらでお開きとしませんか?」

 

 

時間とはいっても、もう終わっちゃうのかな。名残り惜しいよ......。

「そ、そうだね……もう外暗いもんね」

 

 

 

「武部さん先程明日練習あると仰っていましたし」

「じゃあ、こんなところで。僕が会計済ませておきます」

 

 

あ!その前に!呼び止めないと!

「あ……ちょっと待ってくれる?」

 

「はい?どうしました?」

 

カバンから、チョコを取り出すよ!恥ずかしさで目を逸らしたくなるけど......!彼の目を見て勇気だすの!

 

 

「……これ」

 

「……なんですか?これ」

 

「……チョコ」

 

「……」

 

「バレンタインチョコ。頑張って作ったから……」

 

「……え、自分に、ですか?」

 

「他にいないでしょ」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

「今まで女性からこういうもの貰ったことがなかったんです!」

 

 

すごく喜んでくれた。今までの日々が報われた気がして、嬉しくなる。

 

「そっか……良かった……」

 

いつもとは違う、しおらしい反応を私はしてしまってたの。

 

 

それからは。一緒に水戸駅まで帰ったはずけど。チョコを渡してからのこと、よく覚えてない。

 今日の私は今までの私とは違って、ぎくしゃくしてて。せっかく準備してきたモテテクニック、あまりできなかったなあ。

 

 

とにかく、成功、なのかな?

終わっても不安でしょうがなかったの。

 




今回の話を書くにあたり、『ようかい』第7話より、さおりんと髙田青年のセリフを引用しました。

普段はモテることに関して自信満々なさおりんは、いざ実践の場!となると戸惑ってしまうようです。その姿を今までの話や特に今話で、読者の皆様にお伝できていたら、嬉しいのですが。
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