宮本 杏子(みやもと きょうこ)
:さおりんと同じく、水戸大学 文学部 国文学科1年生。アンツィオ高校出身。高校時代には戦車道全国大会にも出場し、通信手を務める。水戸大学戦車道部でも通信手を担当しており、冷静かつ的確な報告・連絡・相談の手法をもって、所属チームに貢献している。
ツヤツヤの黒髪を活かした清楚な見た目。大学に来る時の服装はファッション雑誌『non・no』にいそうな、ロングスカートとパステルカラーを用いたフェミニン系にまとめていることが多い。戦車道部1年生のよき相談相手。
「沙織ちゃん、とても言いにくいことなんだけど……。いろんな男の子と仲良くしてて、事ある毎に「モテたい」「彼氏募集中」って言ってるよね?私は沙織ちゃんがそんな人じゃないことを知ってるから、そんなこと、思っていないけど……。学科の中で「ビッチ」とか「ぶりっこ」とか、いろんな噂が立ってるよ」
!!!!??!うそでしょー!!?
実際は、戦車道部の仲間・杏子の言葉に絶句してしまって。すぐには何も言い返せなかったけど。私は心の中で、思わず叫んでしまったの。
なんでなんでなんで?!なんで、そーなっちゃうわけ?!もーー!やだよう!!!
「…これ、見て」
そう言って、杏子が何かをおずおずと差し出してきたの。見てみると、杏子のスマートフォンの画面だよ。なになに?いやな予感がする~…。
そう思いつつ、おそるおそるのぞき込んでみると。
それはLINEのトーク画面のスクショで。1対1じゃなくて、8人くらいが話しているみたい。メンバーと、話している内容は、、、
ごめんなさい。そこに書かれている内容と発言している人たちが、私には一瞬信じられなくて。そして、読んでその内容を理解したら、頭が真っ白になってしまったの。
10月5日(月)
〇△〇
武部沙織って、正直うざいよね~
(笑)
天性のぶりっこって感じで
19:06
うんうん、分かるよ。
男は簡単になびいてるけど。
あれは狙ってやってるの
既読 かな?
19:06
■■■
あれは意図してやってるみたい
よ。
19:06
◇◇◆
まじ?! 19:07
■■■
よく「モテたい」とか「彼氏
ほしい」って連呼してたしね。
しかも男性の前では言わないんだ
よね。そこ見ても計算してる感じ
がする。
19:07
〇△〇
しかも、学科の男子に手作り料理
とかお菓子を振舞ってるみたいだ
し。あと、服装も露出が多くて、
私は目にするたびに目のやり場に
困るんだよね。 19:08
◇◇◆
あ~分かりみが深い。
あの人、大体ミニスカとニーハイ
履いてるよね。
ああいう服装、絶対に男ウケを狙っ
てる
19:09
既読 女子にもお菓子配ってたよね?
19:10
■■■
あの子と仲いい子に聞いたけど、
女友達にあげてるのは男性にあげて
るのと同じタイミングらしい。
だから男性のついでにしか思えな
い。 19:11
既読 そうなんだね。
19:11
□◇◇
とりあえず、あまり近づかない方
がいいんじゃない?下手に近づくと
武部の男向けアピールの出汁にされ
そう…。
19:13
〇△〇
で、自分が好きな人を
かっさらわれるっていうね。
考えただけでも虫唾が走る。
19:13
みんなで注意喚起しよ~!
うざいのは確かだし! 19:14
こんなやり取りがこの後も続く。
話してるのは学科の中でも顔が広くて、それぞれいろんなサークル・部活に入ってる人たち。こんな会話が、私の知らないところでされているなんて。ぜんぜん知らなかった。非難の的になってるのは…。
全部私がモテテクニックとして、この半年間でやってきたことじゃん。……何やってるんだろ、私…。こんな風に思われて、嫌われてるのにも気づかずに、のほほんと過ごしてた、なんて…。
「沙織ちゃん、大丈夫?」
杏子が心配そうに私の顔を覗いてくる。そうだった、心配かけちゃいけないよね。
言いにくいこと、せっかく教えてくれたんだから。そうよね。
「あ、うん。大丈夫よ。教えてくれてありがとね…」
とは言ったのだけど、言葉が続かないの。沈黙が続いてしまう。
「休憩終わりー!!走行練習再開するぞー!」
「ごめんね、こんなの見せちゃって…。練習後は時間が空いてるから、あとでゆっくり話さない?私で良ければ、いくらでも相談に乗るから」
こんな感じで、私は涙をこらえつつ、私たちは練習に戻ったんだ。
練習後には練習場近くのカフェで、杏子から一部始終を聞いた。
あのLINEのグループに杏子は入ってないこと。そして、学科の友達から会話内容がスクショで送られてきて、初めて知ったこと。しかも「拡散希望」って言葉を付けられて、私の噂や悪口を学科の中で言いふらされてること。もしかしたら、他の学部やサークル・部活にも広められているかもしれないことも…。
「沙織ちゃんのことを何も知らないくせに…!!こんなことしてる暇あれば、沙織ちゃんみたいに自分磨きをするのが賢明だよ!正攻法では思い通りにいかないと踏んで、こんなことするなんて…。許せない!とにかく、私は何を言われても動じないし、沙織ちゃんの見方だから!沙織ちゃんも気にする必要ないよ!」
私の話を聞いた上で、杏子はそう言って励ましてくれた。
杏子と解散して。アパートまでの道を一人でとぼとぼ歩く。秋の冷たくなってきてる風が、容赦なく私の頬から水分を奪っていくの。
ううっ、杏子の優しさが身に染みるよ。ありがとうだよ…。
でもね…。杏子は私は悪くない、って言ってくれるけど。落ち度は完っ璧に私にあると思うんだ。こんな悪意を持った人たちがいるなんて。知らなかったし気が付かなかったもの。
けど。もうこんなことを考えるのも。反省するのも。今日はもうできそうじゃないや。
平常心ではとてもいられなくて。部活の練習でも、いつも通りを保とうと頑張ってみたよ。頭を切り替えて、目の前の戦車に集中しようって。
けど、今までのもやもやだったら上手くいったのに。今日は集中できなくて、頭が上手く回らなかった。
しかも、そんな絶不調な私を見てたから、なのか、わかんないけど。「大洗女子のお友達はお元気?戦車道、またやらないのかなー?」って隊長の東堂先輩から、また聞かれちゃった。
東堂先輩方はね、一緒に水戸大学に進学した、あんこうチームのみんなを戦車道部に入れたいみたい。んで、私に時々、近況や「誘ってくれないか?」って尋ねてくるの。最近はめっきりそーゆうご発言がなくなったから。諦めたのかな?それとも部が安定してるのかな?って思っていた、のに。
きっと今日の私の様子が、頼りないと思ってしまったのかも・・・!
って、ダメダメ!せっかく杏子に励ましてもらったのに!他のこと、考えよう。
みぽりん、華、麻子、ゆかりんは元気かな?
みぽりんはドイツに留学してるのよね。高校卒業のタイミングで。んで帰国したら、水戸大学に編入するみたい!すごいなぁ。みぽりん。しかも留学費用も政府が全額負担してるって、ゆかりんから聞いたんだっけ。ますますすごいよ!みぽりん!
ドイツでも元気に戦車道やっててほしいなぁ。もうすぐ帰ってくるらしいし、会いたいな。
麻子は、水戸大学の理工学部に進んだよ。理工学部で1年生ながら、注目されてるみたい。「午後からの天才」ぶりを変わらずに発揮しているよ。午後の授業ばかり取ってるらしいけど・・・。必修が午前に入ったらどーするのかな?
学科は違うけど、ちょっと心配。
ゆかりんは、水戸大学の史学科に進んだのよね。得意科目が国語だから、私と同じ国文学科に進むと思ってたんだけど。戦車の歴史、戦争の歴史を学びたい!って言ってたっけ。たまに話したり、学内で見かけるゆかりんは、目がキラキラしててとっても楽しそう。戦車オタクの教授と意気投合してるらしいし!
よかったね、ゆかりん。
そして、華は。私と同じ国文学科に進学したの。生け花が生まれた室町時代の文学を勉強したいって言って。戦車道の時と同じように、生け花に文学が活かせるかについて、極めてみたいんだって。
という感じで、あんこうチームのみんなは、大学生活を楽しんでるみたいだよ。
でも、学科もそれぞれで。特にみぽりんはドイツにいるから…。あと、私以外は一般入試や別の推薦入試で、戦車道部には入っていないから…。最近疎遠になってきてる感じがして…。私はなんだかさみしいんだ。
これって私だけなのかな…。
みんな同じ大学だし、特に華は同じ学科だから。話す機会が高校の時みたいに沢山あるかなって。そう思ってたけど。みんなそれぞれに友達ができたし、学科の勉強が楽しいみたいだし。そんな感じで、なかなか声を掛けにくくなっちゃった。
今では…、1か月に1回、全員集合できればいいなって感じで。どんどん離れちゃってるのを引き留めたいよ~…。特に今日はみんなが恋しくて仕方がないの…。
杏子は頼りになるし、優しくて素敵な友達だよ。もちろんだけど。だけど…、どこか申し訳ないよって気持ちが出てきてしまうんだ。
アパートまでの道を一人でとぼとぼと歩く。日はもう沈んでしまってて、辺りは暗くなってきてる。アパートまでの道が、いつもより長く感じるなあ。
…うん。今会えないかな?って。そう思っても仕方ないよ。みんなそれぞれ忙しいし。みぽりんはまだドイツから帰ってきてないし。華やゆかりん、麻子が今日どうしているかも、わからないし。
だから。今日はこのまま帰って、ゆっくり寝て。明日に備えないと。
そう思ってとぼとぼと歩いていると。私が住んでるアパートが見えてきた。あともう少しかな。
……あれ?おかしいな。アパートの前に、人影が見える。しかも何人も。誰だろう。
もしかして…不審者?!それともストーカーかも?!こんな日に限って…うう。
とりあえず、様子を伺いながらもう少し近づいてみないと。
そう思って、おそるおそるアパートに近づいてみると。
…え?え、夢じゃないよね?こんなこと、ありえるわけないのに…。信じられない、
頬をつねってみる。いたっっ!!いたい!!って、ことは夢じゃないんだ。
アパートの前にいたのは、不審者でもストーカーでもなくて。会いたかったあんこうチームのみんなだった。華、ゆかりん、麻子。そして…今はまだ、ドイツにいるはずのみぽりんも。
みんな、どうして。
「あ!帰ってきましたよ!沙織さんが!」
「武部殿~!大丈夫ですか?!」
「沙織さん!おかえりなさい!大変だったよね!大丈夫?」
「…。帰りが遅かったから、心配していたんだぞ。無事で何よりだ」
「みんな…!どうして…!」
「五十鈴殿から聞いたんですよ!学科の中で、えっと、いろいろあったのだと!」
「沙織さんの悪口や嫌な噂話が、私のLINEに送られてきたのですよ。そして、大学に行きましたら、学科じゅうで武部さんのひどい悪口がはびこっていて…!私は、沙織さんがその悪口通りの人には到底思えないのです!きっと、学科の中で嫌がらせを受けているのでは?と思い、皆さんに連絡をとって、こうして集まりました!!大事な友達が辛い思いをしていると思うと!居ても立っても居られなかったのです!」
そう言ったゆかりんと華の顔には、心配と悔しい表情が現れていて。
だめじゃん、みんなにこんな顔させちゃったら。だけど、だけど、今はそれよりは。
「みんなに会いたかったよ~~~!!!心細かった~~!!うわーーーーーん!!!」
今日一日こらえていた、感情が、決壊してしまったの。
わんわん泣きじゃくる私の背を、みんながさすってなだめてくれる。そんな私にみぽりんが近づいてきたよ。
「沙織さん。もっと早く駆け付けられなくて、ごめんね。辛かったよね。沙織さんが前に私にしてくれたように。今度は、私が。沙織さんの力になりたいの。これからどうするか、みんなで一緒に作戦を立てよ?」
そう言って、私を抱きしめてくれた。私は、ますます嗚咽が止まらなくなる。
みぽりんの服が汚れてしまうって、頭ではわかってても。流れ出てくる涙を止めることができないよ。
「外は寒いですから、中に入りませんか?沙織さんが凍えてしまいますよ」
華のその言葉に促されて。私たちは鍵を開けて、部屋の中に入ったんだ。
ここからの時間はね。それまでの疎遠だった時間を埋めてくれるってくらい、とても暖かなものだったんだ。華を中心に、私の代わりにみんなが料理を作ってくれて。
高校時代は、全く料理ができなかった華が!カレーライスを作ってくれたんだ!
「私の料理が、沙織さんのお役に立てて良かったです。料理を練習した甲斐がありました」
ってはにかむ華は、今まで以上にすごく頼もしかったんだ。
カレーとご飯ができるまでの間に、みんなでいろんなことを話したよ。
予定よりも1週間早く帰ってきたみぽりんは、今日は本来なら、熊本の実家に寄る予定だったこと。だけど、華の連絡を受けて、予定を変更して、ここまで来てくれたこと。
他のみんなも私を心配して、やって来てくれたこと。本当に、感謝してもしきれないよ…!
そのほかにもいろんな話をいっぱいしたよ。学科のこと、懐かしい大洗女子学園のことなどなど。カレーライスができて、みんなで食べながらも、話は止まることがなかったからね。
で、私のこれからの作戦、「嫌なうわさを払拭しよう!作戦」についてもみんな真剣に考えて、意見を出してくれたんだ。その話し合いで決まった私の方針は、主に5つだよ。
1.学科の中では、杏子や華みたいな、
変わらずに付き合ってくれる友達を大事にして、人数を増やしていこう
2.男の人と関わるのは、当分の間、最低限にしよう
3.女の人からのウケがいい、服装や態度も取り入れてみよう
4.決して焦らず、気長にいこう
そして、最後の5つ目が、一番大事って、華に念押しされたんだ。
これがね「一意専心」。今までの「撃って撃って撃ちまくる」私の恋愛戦法とは真逆のものなの。
華が言ってくれたことにはね。
「沙織さんは、いろいろな方にアピールをしすぎたのではないでしょうか。人付き合いが上手で、積極的に人に話しかけることができる沙織さんですけれど…。結果として付き合う方は、たった1人だけなのですよ。その1人を見極めて、その人に心を傾ける。この向き合い方も、悪くはない、と私は思うのです。何より、沙織さんが一度でもご好意を寄せて、期待させた方の気持ちを裏切るのは、沙織さんにとって本意ではないのではありませんか…?」
華の言葉を聞いて、私はまた、戦車の弾が命中してきた、ううん、命中した気分になったんだ。すごく納得できた。
と同時に今までの私の行動が間違っていたことをしっくり受け止めることができた、のかも。
これからの私のモテ道は、「一意専心」「一撃必殺」だよ!「撃って撃って撃ちまくる」作戦は取りやめないとね!華の言うことを信じてみよう!
だって、友達が言ってくれたこと、だもん!
「…みんな。一つ提案があるの。ちょっといいかな?」
料理を食べ終わって、片付けをしている時だった。みぽりんが発言をしたのは。
「私たち、戦車道に、もう一度取り組んでみない?沙織さんのためにも、あんこうチームの絆を深めるためにも。私はこれから大学の戦車道部に入部するつもりだけど、みんなと全員で取り組みたいの。戦車道部は私たちあんこうチームの存在を求めてくれているみたいだし…。
…どうかな?みんなの意見を聞かせてほしいの」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
一瞬、沈黙が流れたよ。…うーん、そうだよね。みんなそれぞれの付き合いがあるし、勉強もあるし。どうなっちゃうのかな…。
「賛成。戦車道は朝早いが、後期は月曜1限に必修の授業があるしな。朝早く起きねば、と思っていた。いいトレーニングになりそうだ」
麻子が賛成してくれた!あの「午後からの天才」って呼ばれたあの麻子が、よ!!
「賛成です!一時は戦車道から離れてみようと思ったこともあったんですけども。ゼミと卒論で、戦車道について学びを深めたいと思っているんですよ!これで頭も体も戦車にまた染まれる!と思うと、わくわくしてきますっ!!うおぉぉぉー!!!」
ちょっとゆかりん!声が大きいよ!変わらず戦車が大好きなのね。
「私も賛成です。砲手を務めた時の、あのぞくぞく感をまた味わってみたくなりました…」
そう言って「ほう…」と恍惚の表情を浮かべる華。なんだか、すごく…艶っぽい。ごくり。
「それでは、決まり…ですね。あんこうチーム、再結成です!」
「「おーーーーーー!」」
掛け声とともに、私たちは、見えない盃で乾杯をしたよ。
それからの半年間の日々は、辛いこともあったけど、いろんな人とのつながりをたくさん感じたんだ。
先輩方、同級生のみんなに歓迎された、あんこうチームは戦車道部を牽引する存在になって。学科の中では杏子や華が私をかばってくれて。男子や女子の中には、私を馬鹿にしたり、軽く見てくる人もいたけど…。
そんな人たちのことを考える暇があれば、大好きで大切な仲間のことを考えようって。そうやって、気持ちを切り替えることができたんだ。
あの日に決めた、私の5つの方針も、ちゃんと守ったよ。ニーハイソックスとミニスカートのコーデはね。本当に心から愛せる人に出会うまで、封印することにしたよ。普段の服装も、杏子の服を勉強して、清楚な印象の服を着まわしたり。そして、気長に噂が消えるのを待ったんだ。
そのおかげか、大学1年生が終わって大学2年生が始まるころには。私のことを悪く言ってくる人も、軽く見られることもなくなったの。
あんこうチームのみんなや杏子は、「見かけだけで沙織ちゃんを決めつける人がいなくなって、いろんな人が、沙織ちゃんの魅力に気づき始めたからだよ」っていってくれるけどね。ひとえにみんなのおかげなんだ。
ところで。昨日はお隣に人が引っ越してきたみたいなの。どんな人なんだろう。
仲良くなれるといいな!
くりすてぃーぬです。投稿時間が大変遅くなってしまい、申し訳ありません!
今後は再発防止に務めたいと思います。
今回は、大変なことになってしまっったさおりんでしたが。あんこうチームのみんなに支えられて、無事、戦車道を続けることができたようです。
次回は、ようやく、『ようかい』の主人公、高田くんが登場します。お楽しみに!