しょうか   作:くりすてぃーぬ 

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第4話:回想編3)恋に落ちる音は…優しくて切なかった、よ。

 隣に人が引っ越してきて、ばたばたと荷物運びをしていた様子の日は。私は戦車道の春休み練の真っただ中で。丸1日家を空けていたんだよね。

 んで、夜8時頃に帰宅したときには、荷物運びは終わっていて。ドアの横に表札がかかっていたよ。

 どれどれ。なんて名前の人なのかな。そんなことを考えて、表札を見る。

 

 

 『高田』

 

 特に、珍しい苗字ではないよね。「たかだ」か「たかた」のどっちで読むのかがわからないくらい?

 あと、この時期に引っ越してくるってことは、新入生?水戸大学かなあ。それとも近くにある他の大学か、専門学校かも。あ、そうそう。社会人っていう可能性もありそう。

 

 それと、表札だけでは男性か女性か、わかんない。年下か年上か、ってことも。

 んーと、女の子、女の人だったら。困った時には助け合える、そんな関係になりたいかな。

 それは、男の子、男の人、でも同じかも。ただお隣になっただけで、恋人になったり友達になれる、なーんてことはないってことはもうわかってるからね。

 アパート暮らしが長いから、それくらいのことはわかってるし、特に期待もしてないよ。

 

 

 こんな感じのことを考えて、その日は終わったんだった。

 

 

 次の日は、戦車道部の練習はお休みで。バイトも友達との約束もない日だったから。家で日頃の疲れを癒すべく、昼過ぎまでベッドに寝そべったりしていたよ。

 

 んんーーー!今日をお休みの日にしていてよかった~~~。

 戦車道を始めた時に比べたら、体が痛いことはなくなったけど…。昨日の練習はハードだったから。やっぱり疲れるなあ。

 

 ん~~。もう少し寝ていたいかも…。

いやいや、4月の演習決めの準備しなきゃだめじゃん、私!!起きなくっちゃ!

 

 

 私が所属してる国文学科は、2年生から、演習授業が始まるのよね。

 どの演習に参加するかが、ゼミ選びに直結するわけで。聞いた感じでは、みんな希望のゼミに入りたいから、必死に演習選びをするってわけ。

 

 そんなわけで、私も、学科の勉強を始めたよ。今日やろうって決めたこと、サクッと終わらせて、またダラダラしよっと。

 

 

 そしたら。しばらくした時だったかな?インターホンが鳴ったのは。

 

 

ぴんぽーーーん

 

 わわっ。なになに?!とりあえず、ドアスコープを覗いてみるよ。

 

 

 

 外にいたのは、一人の男の子。…うん、とりあえず出てみよう。

 

 あ、部屋着で大丈夫かな?!

 …あ!!もこもこ素材のニーハイソックスを履いてるんだった!このまま出ると、まずいかも。しかも宅配便じゃないみたいだし!とりあえず、上からズボンを履こうっと。

 

…よし、用意完了。ドアを開けるよ。

 

 

 

「はい?」

 

 ドアを開けて玄関に降りると、自分よりも目線が高い所に、相手の目があった。う、威圧感がある…、一歩分離れた所にいるから、目の前にいるよりはましだけど。背が高い人だなあ。その人は、私の頭から、足元まで見渡してるよ。

 

 

「えと……隣に越してきた高田といいます。よろしくお願いします……」

 

 隣?そっか、この人が高田さんなのね。

 

「どうも」

 

「えー……こちら、つまらないものですが……」

 

「あ、ありがとう。えーと、お返しは何かあったかな……」

 

「いえ、大丈夫です。今後ともよしなに……」

 

 

 

 そそくさと帰っちゃった。袋の中身は…?素麺だ。今の時期はまだ寒いから、にゅうめんにしようかなー。

 

 って、もらったんだから、こっちも何かあげなきゃじゃん!

 

 えーーと、あげるもの、あげるもの。

 ごそごそとキッチン周りを探す私。すると、干し芋のパッケージがちらと目に入ったよ。これ、どこでもらったんだっけ?干し芋といえば角谷先輩かな。だけど、最近お会いしてないし…。自分で買ったんだっけ??

 

 …んーと。ますますわからないよ。でも、封は切ってないし、とりあえずこれぐらいしかあげれるものないなあ。これにしよう!

 

 

 

 いつもつけてるお気にの香水を、首元と手首につけて。向こうのインターホンを鳴らしたよ。しばらくして、ドアが開く。

 

「さっきのお礼、今手持ちでこれしかなかったんです。こちらこそよろしくお願いします」

 

「あ……はい……」

 

 

 返事はもらえたし、やりかけのこともあったから。干し芋は渡して、その時はそそくさと立ち去ったんだ。

 

 

 

 

 

 その後は、その人、高田くんと特に話すこともなくて。

4月の履修登録も終わり、5月になったよ。

 

 5月のある日に、あんこうチームのみんなと杏子と、杏子のチームの先輩方何人かも加わって、私の家で夕ご飯を食べることになったんだ。いつものように、手料理をみんなに作ろっと!

 

 

あ、そうだ。うるさくなるかもしれないよね。迷惑かもしれないから、お隣さんにことわりを入れておかないと。

 

 そう思ったから。久々に隣のインターホンを押して、今夜うるさくなるかもってことを、話してきたよ。了解してくれた。これで、みんなと大騒ぎできそうだね。やったーー!

 

 

 

 月に1回は必ずやってる私の家での宅飲み会。…といっても、先輩方以外はみんな未成年だし、私も20歳になってなかったから、お酒は飲んでいないけど…。とりあえず宅飲み会って呼んでる会は、この日も翌朝まで続いたよ。

 

 こんな感じで、高田くんとはお隣さん以上では決してなかったんだ。知り合い、お友達にはなりたいとは思っていたけどね。

 

 

 

 

 

 次に高田くんと話したのは、大学の教室だったの。

 6月のある日、ある教養科目の授業が終わった時だっけ。先週の授業を全国大会直前の戦車道部の予選で休んじゃって。それで、その分のノートが欲しかったのよね。この授業、知り合いは誰もとってないの。

 

 どうしようかな。そう思っていた時に。見たことがある人を見かけたの。

 教室を出ようとしてる。協力してくれるかも。そう思った。だから、引き止めるために、声を掛けたんだった。

 

「あ、やっぱり高田くんだよね。ちょっといいかな?」

 

 高田くんは周りを見渡してから、応じてくれたよ。

 

 

「……こんにちは」

 

「急で悪いんだけど、先週の授業のノートってある?」

 

「先週の授業、ですか?ありますけど……」

 

「写させて!」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとー!助かる!」

 

 

 

 近場の空き教室に移動して、高田くんはノートを見せてくれたのよね。ノートを私が見て、写している間、彼はノートPCで作業をしていたよ。ふむふむ。きれいとはあまり言えない字、かも。だけど、授業の要点がきちんと整理してあって、読みやすいノートなんだ。

 高田くん、頭よさそう。頼んで良かった!

 

「何か……あったんですか?」

 

「えっ?……ああ、この授業休んだ話?」

  

 首を少し相手に向けて、反応したよ。ちょうどページの区切りだったし、よかった~。話してもいいかも、って思ってたし。

 

「公欠よ公欠。それは通ったけど補修はないのよ」

 

「公欠ですか……そういえば武部さんって何をされてるんですか?」

 

「戦車道」

 

「せんしゃ、どう」

 

「そう。夏の全国大会予選の県大会が始まってるんだけどね」

 

 戦車道のことはあまり知らなそう。

 

「今年も無事全国大会は行けそうなんだけど、顧問が秋以降は落単数もメンバー選考の参考にするって言い出してて、こーゆーのも気が抜けないのよ」

 

「なるほど……」

 

ちょっとの間が空いた。と、彼はこほん、と咳払いして。

 

「武部さん……こう聞くのも変かもしれませんが、何年でしたか?」

 

「あ、言ってなかったっけ?2年よ2年」

 

「凄いですね……2年で選抜されるんですか……ここの戦車道は結構有名だったと思うんですが」

 

「まぁねぇ」

 

 ちょっと誇らしくなっちゃったよ! えっへん!!

って!いけない、いけない!早くノートを返さなくちゃ!

 

 

 

 それから10分くらいで、ノートは写し終わったよ。

 

「いやー、ありがとね。助かった助かった」

 

「いえ、こんなことでよかったら全然……では、自分この後練習があるので……」

 

 あ、行っちゃいそう。せっかく貸してくれたんだから。何かお礼をしたいなあ。

 

「あ、そうそう」

「お礼、何かしたいんだけど、何がいい?」

 

「お礼なんてそんな……」

 

「いいのいいの、細かいこと考えずにバーンと、ね?」

 

 ちょっと間が空いた、かな。

 

 

 

「そしたら、武部さんの出る次の戦車道の試合を教えてくださいますか?」

 

 想像とは違う返事が返ってきたよ。お菓子や食事、ほかの授業のノート写しや試験の情報を予想してたけど。

 

「あ、そんなのでいいの?えーっと次は来週の日曜日の13時から、常陸大宮の方の演習場で試合なんだけど……」

 

「日曜日ですか。ありがとうございます」

 

 

 そんな感じで、この場の会話は終わって、お互いの用事に向かったの。

私は私で、戦車道部の練習、頑張んないとね!勝とう!おーー!

 

 

 

 

 

 

 ずどーーーーーんっ!!!

 

「うわーーーー!」

「きゃぁあああ!」

「くっっ!!」

 

「みんな!大丈夫!?」

 

 

 私たちの戦車が攻撃された!いったいどこから?!敵車輛は辺りにはいなかったはずなのに~!予想していなかったから、私たちはびっくりだよ。

 

 でもみんな、百戦錬磨なだけあって。すぐに状況を立て直すよ!

 

「南東のティーガーからですね!しまった!!!」

「目の前のフラッグ車はおとりか!!」

「こちら2号車!敵のティーガーとフラッグ車に囲まれました!2号車、いったん退避します!」

 

「ザザッ…こちらのフラッグ、1号車と援護の4号車を残して、そちらに向かう。2号車は、ひとまずいったん退避!」

「かしこまりました!」

「私たちは一旦退避します!麻子さん!蛇行しながら、西の住宅街まで全力で走ってください!」

 みぽりんがすかさずペダルを蹴る!

「わかった!」

 

 

 私たち水戸大学、相手の大子町大学に残された戦車は、それぞれ5車輛!フラッグ車を追ってたら、不意を突かれたようで。私たちはひとまず撤退する。

 

 すると、応援の見方がやってきた!そして、2対2の撃ち合いが始まった!

 すぐに杏子が乗る5号車が撃破される!けど、直前に撃った弾が敵のティーガーを撃破!残った3号車が、フラッグ車を追っていくよ!

 

「2号車、応援に駆け付けます!」

 

 

 そして、全て三方を建物に囲まれた空間で!全ての車輛が集合して!残りのそれぞれ4車輛の戦いが激しくなるよ!

 こっちも砲弾を浴びてぼろぼろだけど!フラッグ車1号車を援護しつつ、撃破されないように、正面から撃ち込まれた砲弾を弾いたり、履帯の急旋回で砲弾を避けたり!!

 

 気が付くと、相手はフラッグ車だけ、こっちは私たちあんこうチームとフラッグ車しか残ってない!撃破された車輛がそのままで、狭い空間の中で動きにくいけどっ!撃破車輛を盾にしながら、撃ったりかわしたり!

 

 ずどーーーん!

 

「水戸大学のフラッグ車、戦闘不能!よって大子町大学の勝利!」

 

 

 

 負けた。負けちゃった。相手はフラッグ車だけだったけど。

 

 

 その後は、戦車から出た後は、私は大泣きした。夏の全国大会予選の県大会に負けたってことは、もう全国大会には出られないから…。悔しくて、悲しいから。でも、泣いてなんかいられない。泣きながらも車輛から抜け出して、私以上に動けなくなってたみぽりんを支えて運び出す。

 

 表彰式で、相手チームの表彰の際の拍手にも、無理矢理にでも左腕を伸ばして、全力で応じたんだ。相手への敬意を示すのが、大切だと、思っているから。

 

 

 

 

 

 試合後の次の週の水曜日。気持ちは少しましになった。

うん!気持ちを切り替えて、大学に行こう!

そーいえば、しばらく前、私が朝起きてから、ずっとアパートの近くで猫の鳴き声がする。

 んーと、野良猫かな?様子を見てみよう。

 

 そう思って、一階に降りると。

 子猫が入っている段ボール箱をかがみこんで、猫をかわいがりつつ、電話をする高田くんがいたよ。この子猫が、ずっと鳴いてた鳴き声の主だったら。この時間、8時近くまでずっと気にかける人がいなかったんだ。

 

 私も大学1限の時間が迫ってるから、保護するのをためらうかもしれない。そんなふうに通り過ぎる人が多かったはず、なのに。高田くんは足を止めて、子猫を気にしているんだ。とても優しい人。そんな言葉がしっくりくる。

 

 

 そして、高田くんが保健所に電話をして、猫をアパートの管理人さんに預けるまで。

私は何もできなくて、声をかけるのも憚れて。ただ高田くんを見守ることしかできなかったけど。とても切なくて、だけど温かい気持ちになったの。この気持ちってなんなのかな......?

 




今週もお読みいただきありがとうございます!

今回の第4話を書くにあたって、『ようかい』二、三から、高田青年とさおりんの発言を多数引用しました。
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