高田くんから段ボール箱いっぱいの野菜をもらってから、今日で1週間。最近の私は、張り切ってキッチンに立っているよ。こんな風に気合を入れてキッチンに立つのは。これで4回目かも。高田くんもらった野菜はそろそろ底をつきそう。だけど、料理を渡すのはこのまま続けていきたいなあ。なんてったって、彼との接点はここだけだしね。んで、彼の胃袋をがっちり掴むんだ!
もちろん、過去の苦い記憶はあるけど…。あれから男の人に手料理をご馳走しないようにしてたし…。それに、仮に高田くんとのことが、私のことをよく思ってない人に知られてもさ…。…お隣さんに残り物をおすそ分けしてるっていう形にしか見えないはずだし。うん、大丈夫!だから安心してやってみよう!好きな人に料理を振る舞える!自分をアピールするには絶好の機会でしょ!
そんな風に考えて。たくさんの野菜をもらった次の日には。さっそくそれを使って高田くんへの料理を作ったよ。すぐに行動に移せる女の子はモテる!らしいし!
まずはね、王道で得意料理の肉じゃが!人参とじゃがいもと玉ねぎが、もらった野菜の中に入ってたし!あるものでやりくりできる女子は、モテること間違いなしでしょ!?あと、簡単そうに見えて、意外と焦がさないようにしたり、甘さ加減が難しいんだよね。私も上手く作れるようになるまで3回は作ったかも。
それにそれに!男の人って肉じゃが好きらしいし!男の人にモテるためには肉じゃが。これは鉄板!でしょ~?あとは、フリフリのエプロンに眼鏡でしょ。料理するときはやっぱ、こうでなきゃ気合入らないし。それに眼鏡は、できる女子のギャップ萌えだし!料理を渡すときもこの格好でなきゃ!
そのあとも、ピーマンの肉詰めとジャーマンポテトを作って渡したよ。高田くんからもらった野菜と、男の人ウケする料理。そのふたつの条件を組み合わせた料理だよ。
「悪いですよ」と渡そうとする度に断られたけど…。「たくさん作っちゃって余りそうだから!」って理由を付けて渡してきた。そしたらいつも、次の日の夕方には。タッパーをピカピカにして返してくれるんだ。それだけでも嬉しいんだけど。欲を言えば、「美味しかったです」以外の感想も欲しいんだけどね。
そして今日の料理はトンカツだよ。これも私の得意料理。明日は高田くんのバレーボール部の試合らしいからね。先日、ジャーマンポテトのタッパーを返してくれたときに。お互いの部活の話になって。んで、高田くんがバレーボール部に所属してるってことを知ったから。
「勝負にカツ!」って言ったらカツレツでしょー!しかも豚肉にはビタミンB1が含まれてて、疲労回復や効率的なエネルギー変換が期待できるんだって~!最近知ったけど、戦車道の試合前に作ってみんなに振る舞っていたのは正解だったのかも!
よし!油の温度が170度になった!菜箸で、パン粉の欠片を落とすと、うん!しゅわしゅわと泡がいい感じに出てる。
「よーし!今日もカラッと仕上げちゃうよ!」
私は気合を入れ直して、トンカツの揚げにかかった。
できあがったのはトンカツ以外に、タルタルソースとキャベツの千切りとピーマンのマリネ!うん!我ながらいい感じにたくさん作れたよ。早速冷めないうちに、お隣さんに持っていこう!
エプロンと眼鏡姿で、タッパー数個とココット皿を入れた紙袋を持って外に出て、インターホンを鳴らす。確認の応答の後、彼が出て来たよ。
「お疲れ様!今平気?」
「はい、大丈夫ですよ」
「今日もたくさん作りすぎちゃって…。食べてもらえるかな?」
「…ありがとうございます。この匂いは…揚げ物ですか?」
「そそ!トンカツを作ったんだ!高田くんは明日、バレーボールの試合だったよね?「勝負にカツ」ってことで、ゲン担ぎとして食べてほしいな」
「あれ?明日がバレー部の試合だと言っていましたっけ?」
「ああ、前にバレーボール部に入ってるって言ってたでしょ?学内でバレーボール部の試合が明日だって知ったんだ」
「……。今日もありがとうございます。せっかくなのでいただきますね」
「?ありがとー。じゃあねー」
パタン。スタスタスタスタ。がちゃり。パタン。
ドアを閉めて、深呼吸をする。やったーー!今日も受け取ってもらえたよ。ちょっと考え込んでいる場面があったけど。何でもないよね、多分。
よーし、私もカツ食べよっと!お皿に盛りつけてっと。
高田くんの活躍を願って! いただきまーす!
う~~ん、美味し~!今日もサクサク具合が最高かも~!
20時を過ぎた。3日前の夕方にトンカツを渡したけど…。昨日から高田くんがタッパーを返しに来ない。いつもと違うなあ。どーしたんだろう?具合でも悪いのかな?でも、自分から訪ねるのはおかしいよね…。ほんとにどーしたんだろう。心配。
さっきからずっと考えてる。でもそろそろお風呂に入らなきゃ。
ピンポーン。
「はーい?」
「隣の高田です。今少々お時間よろしいでしょうか?」
「!はーい!今開けるねー」
ドアを開ける。
「夜分遅くにすみません。タッパーを返しに来ました」
「ありがとう」
「もっと早く返そうと思ったのですが…なかなか都合が合わず、お返しするのが遅くなってしまい、すみません」
「いえいえ!ありがとう!そうだ。試合があったよね?見に行けなかったけど、どうだった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…あ。話したくなかった?聞いちゃってごめんね」
「いえ…。実は自分、まだ試合に出れていないんです」
「…!」
「その日はずっとベンチとマネージャー用員だったんですよね…。結局試合には出れなくて…。武部さんからせっかく美味しいトンカツを頂いたのに…申し訳ないです」
「…ごめんなさい!そんなことも知らなくて!高田くん、背が高いし活躍しそうなのに…。出れなかったんだね。悔しいよね…」
「自分より上手い人も、背が高い人もたくさんいますよ」
そう言って高田くんは、悲しそうな笑顔を浮かべる。
そうだった。人にはそれぞれいろんな事情があるんだった…。試合だから、選手として参加できるって、安易に決めつけちゃってたな、私。なんとか励ましたいけど、部の内情を知らない私が安易なこと、言ってもいいんだろうか。いや、彼にそんな顔してほしくないよ。元気になってほしいよ。
だから。
「…ううん!これからだよ!まだ終わったわけじゃないよ!だって今後も部活、続けるんでしょ?」
「…?」
「まだまだ挽回できると思うよ!私も去年の今頃、1年生の9月頃は、レギュラーとして試合に参加できてなかったし!高田くん、毎週部活頑張ってるよね。たまに学内で練習風景見かけるんだ。あと、毎日朝晩ランニングしてるでしょ?絶対報われるよ!応援してるから!」
「…!ありがとうございます。武部さんと話して元気が出ました。諦めずに頑張ってみようと思います!」
その日の会話は前向きに終わったよ。
それからも週に1回料理をご馳走し続けた。一度、料理を振る舞うのをやめたときもあったっけ?
駆け引き—いったん手料理を作るのをやめてみるとか—も。そろそろした方がいいのかな?「最近持ってきてくれないけど、どうしたんだろう?」って、気にしてくれたり?さらにはさらには…私の味が恋しくなっちゃったり~~?!う~~ん、モテテクニック、使うなら今でしょ!
とか考えて…///。はあ、そうしたら、本気で心配されちゃった。「やはり負担だったんですか…?ご無理はしないでください」って…。モテテクニックを使った私が申し訳なくなったよ…。心配かけちゃってごめんなさい…。
とにかく。トンカツの件も。焦らしの件からも。モテテクニックとか男ウケとかを考えると空回りしちゃったり、迷惑かけちゃったから。
モテテクニックを抜きにして、目の前の彼だけをみるようにしようと決めたんだ。車長はモテテクニックじゃなくて、目の前の彼。段々気づいてきたよ。モテテクニックとかに囚われず、高田くんに適した、私にしかできないやり方でやってみよう!今後は好きな食べ物とかを聞いてみようかな。
こんな感じで。私の手料理とタッパーが行き来して。たまに話したり、見かけたり。それだけで。知らないことが多かった。私の気持ちは小火、ボヤみたいな小さなものから、松火、たいまつみたいに大きくなる日もあった。けど、ただのお隣さん以上の進展はなかったんだ。
そう。あの日までは。
今週も読んでいただき、ありがとうございます!
720mlで約3,000円の純米大吟醸を買って、昨日口を切りました。奮発しすぎた気はしますが…、最近のQOLが上がっているので、お値段以上の価値はあったようです。流石に高いので、1・2年に1回限定の贅沢と決めました。
そんなわけで、今宵の晩酌も噛みしめます。
⚠お酒は20歳になってから、適量を守ってお楽しみください⚠