人類種の増殖に関する確認
倉水さくらは、もともと日本の太平洋警戒及び海洋調査の任についていた一人の軍人であった。
そして今も、似たような任務についているといえなくもない。
現在さくらが勤務地としているのは、太平洋に半ば浮かぶような形で存在する非人造の洞窟のような特殊基地。
いわゆるハイヴという奴である、
「サクラ、質問が」
声を掛けられ振り向くと、そこにおわすは人類種とは明確に異なる異形。
頭ほどの大きさの眼球らしきものを六つ、頭と腕のない人体に埋め込んだようなボディ。おまけに腕ほどの太さの触手を複数生やした、いまだに不意打ちで見ると悲鳴を上げそうになる存在が一体。
「なんでしょう、
しかしさくらは、どこかうんざりした様子で答えた。おそらく今のさくらほど、人は慣れる生き物である、という言葉が身に染みている者はそういないだろう。
何せこの生物……Mr.ONEはどうにも人類・地球に対しての好奇心を抑えきれないらしく、隙あらばさくらに質問を投げかけてくるのだ。
最初はさくらも戸惑いつつも一生懸命真面目に答えていたのだが、こう何日も続くとさすがに慣れ、というかダレてくる。
一応、軍機やらの機密に関わること以外はわかる範囲で答えていいと言われてはいる。はてさて、今回はどんな質問なのやら……
「人類はどのようにして増えるのだろうか?」
ちょっと質問の意味が分からなかった。
「え、っと。それはどういう?」
「人類はBETAによって数的にも大損害を被っている。そのなかに、人類の増殖性能への影響はないか気になった。我らが力になれないかと」
さくらは一瞬、裸体に触手が絡みつく艶本のような情景が浮かび、慌てて頭を振ってかき消した。
さくらとて年頃の娘である。当然学校で学ぶ程度の知識は身に着けているし、年齢相応には耳年増だ。おしべとめしべが…などと説明できなくもないが、この好奇心旺盛な生物のことだ。そんな説明では済むまい。実践してくれとか言い出しかねない。やはりこいつ
「あの……コウノトリ……そう、コウノトリです!」
「は?」
なので、全力ですっとぼけることにした。
「愛し合う男女のもとに、コウノトリが赤ちゃん…子供を運んできてくれる、という説があります。あくまで一説ですが」
「コウノトリ……鳥? 鳥というと、あの飛んでいる鳥?」
「ええ、鳥です。」
しかしやはりというか、Mr.ONEは理解不能というふうに停止した。その様子を見て、さくらは何とかやり過ごせたかと内心安堵の息をもらしつつ作業に戻るのであった。
【悲報定期】人類、意味不明
1:いっち
みんなあつまれあつまれして
2:ななしの重頭脳級
いやです(断固たる意志)
3:ななしの重頭脳級
なんで?(恐怖)
4:ななしの重頭脳級
もう十分だろ……
5:ななしの重頭脳級
この手のスレ立て何回目なんですかね?
6:ななしの重頭脳級
今度は何だよ(諦観)
7:いっち
こないだ人類の増殖方法確認しといてって言われたん思い出して聞いてみたんや
そしたら回答が理解できんでな、知恵貸してくれ
8:ななしの重頭脳級
いやです(2回目)
9:ななしの重頭脳級
ワイら自身の増殖もざっくりと説明はできるけど詳細はわからんし、人類もそうなんちゃうか?
10:ななしの重頭脳級
原理を理解してなくても装置は使えるからね
11:ななしの重頭脳級
さす創
12:いっち
ちょっとサクラちゃんに言われたことをそのまま乗っけるわ
【愛し合う男女のもとに、コウノトリが赤ちゃん…子供を運んできてくれる、という説があります】
13:ななしの重頭脳級
?
14:ななしの重頭脳級
ほーん?
15:ななしの重頭脳級
コウノトリってなんや?人類生産設備の名称か?
16:いっち
いや、空飛んどる鳥って生物おるやろ。アレの一種らしいで
17:ななしの重頭脳級
????????
18:ななしの重頭脳級
???
19:ななしの重頭脳級
えぇ……(困惑)
20:ななしの重頭脳級
生物学的にはだいぶん進んでいたと思っていた人類の生態への理解、まだ山のふもとだった…?
21:ななしの重頭脳級
ちょっとまってマジで意味わかんないんだけど
22:ななしの重頭脳級
鳥が子供運んでくるのはいいとして(全然よくない)
そもそも子供はどうやって作ってるんだよ
23:いっち
そういわれてみればその回答になってないな
ちょっと聞いてみるわ
24:ななしの重頭脳級
ちょっとイッチやめとけって
25:ななしの重頭脳級
見えている地雷に迷わず凸る男、イッチ
26:ななしの重頭脳級
俺もうこれ以上びっくりするの疲れるからやなんだけど……
・
・
・
すっかりフリーズしてしまったMr.ONEを見て、さくらは少し後悔の念を抱いた。
途中で一度復帰して、結局子供自体はどう作るのか、と聞かれた際におもわずキャベツ畑と答えてしまったのがやはり良くなかったのだろうか。
人類文化に知れ渡る俗説の一つであることは間違いないが、誠意ある回答とは言えないかもしれない。ここは本土にお願いして、子供向けの保健体育の教本を取り寄せるとともに、あまり表立って聞くべきことではない、という話を言い含めておくべきだろうか。
などとさくらが悩んでいると、突如フリーズから復帰したMr.ONEが流れるような動作で通信機に手を伸ばした。香月博士直通の、緊急性と気密性の高い特別製の奴だ。
さくらが制止する暇もなく通話開始。こちらの優先度をなにより高く見ている香月博士も、ほぼ待たせることなく応答してしまった。
「どうしたの、
「水臭いですよ、博士。仰ってくれれば協力できたかもしれなかったのに」
「…何の話?」
「いえあのそのあの」
慌てふためくさくら。声を潜め、何とかして通話をやめてもらおうとMr.ONEに向かって謎のジェスチャーを繰り返す。
それに対してMr.ONEはさくらの方をちらりと見やりウィンクを一つ。
彼らに瞼はないらしく、それ故もちろんさくらの幻視である。
「取り急ぎ、コウノトリとキャベツに関する詳細なデータをいただけますか? 人類の復興は、我らの願いでもありますので」
「………フゥン?」
さすが香月博士。今の言葉で状況を理解したらしい。切れ者はやっぱりすごいなーなどとさくらはどうでもいいことを考える。
現実逃避である。
「さくら、そこにいる? いるわよね。私はこれでも忙しいのよ……わかっているわね?」
「へぇん」
変な声が出た。
おかしいな、そばにいるBETAより遠くにいる人類の方が怖いや。一体どこでどうしてこうなってしまったのか。
振り返るも、さくらの満足する答えはなかった。
人類という種でみれば、BETAという不幸中でなかったはずの幸いを得た状態である。しかしそれは、一人の少女の尊みのある犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならない。
後日、Mr.ONEがさくらにむかってSEIZAからの奇麗なDOGEZAをキメている場面を何人かが目撃したが、そのうちの一人であるさくらの監視役も「またか」と特に報告を挙げることはなかった。
人類サイドは真面目な話ばっかりになりそうですが世界が世界なんでしょうがないね。
多分この話が一番馬鹿っぽい話になると思います。
あと浮かぶネタ的にゆーこ先生が主役になりそう。
※捕捉
掲示板で煽りあってる通り嘘もジョークも普通にたしなんでいますが
ここまで開示された人類の情報が頭おかしすぎて
「さすがに嘘やろ……いやでも人類ならあるかもしれんわ……」
となっており、何を言われてもとりあえず信じます。かわいそう。