【ヒト息子ソウル】原作・競馬ミリしらなので安価で進むしかないウマ娘生【転生】   作:やはりウマ娘二次創作界隈は魔境

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 遅れましたがやっとこさ最新話です……。

 


君を待ってる。

 

「ミタマさん、こんにちは」

「ぁ……ヤエノさん、こんにちは」

 

 ぼうっと、開け放たれた窓の先を、どこか遠くを眺めていた。

 まるで全てを失った抜け殻のように。

 

 ヤエノムテキは、相部屋の後輩にして己のライバルであると心の底から認めていた少女の弱々しい姿に胸が苦しくなった。

 どう声をかけたものかと悩む彼女。その後ろから、数人の少女が現れる。

 

「ミタマちゃん、お見舞いに来ましたよ〜」

「ミタマさん、こんにちは!」

「こんにちは、ミタマ」

「……皆さんも、こんにちは」

 

 その顔ぶれはいずれもトゥインクルシリーズにおける、今を駆ける綺羅星達。ファンならば卒倒するような面々だ。

 スーパークリーク。おっとりしているが菊花賞、天皇賞・秋を勝った猛者だ。

 サクラチヨノオー。ヤエノムテキ達としのぎを削りダービーウマ娘となった世代の頂点のひとり。

 

 そして、オグリキャップ。

 怪物とすら形容される実力を持った世代最強と目されることもある名ウマ娘。

 

 そこに皐月賞ウマ娘ヤエノムテキを加えた面々を前に、しかし、ミタマガシャドクロは小さく会釈をするだけでやはり大した反応を示さない。

 精根尽き果てたとはまた違う。本当に何もかもを失ったような雰囲気。

 

「ミタマさん、無敗の三冠おめでとうございます」

「……ありがとうございます」

 

 スーパークリークとサクラチヨノオーが病室に飾る用の花を取り替える音だけが響く中、ヤエノムテキは意を決めて口を開く。

 これはこの場にいる全員が兼ねてからミタマガシャドクロに言おうと思っていたことだ。

 自らの実績を賞賛されて、少なくとも悪く思うウマ娘はいないだろう。喜びの感情は抱くはずだ。

 

 だが、ミタマガシャドクロはその賞賛にも細い声で一言礼を述べるだけ。まるでその実績をどうとも思っていないように。

 

 きっと実感が湧いていないのか、それ以上に足へのダメージと今後の選手生命が気になるのか。そのどちらかだろう。そうであってほしい。

 彼女達の間に困惑が生まれ、ほとんど会話は続くことなく時間だけが過ぎていく。

 

「……そろそろ、行きますね。このあとアルダンさんのお見舞いにも行く約束をしているので」

「また来ますからねー。はやく、良くなるように祈ってますから!」

「ミタマさん、お大事に!」

「……はい。わざわざ御足労いただき、ありがとうございました」

 

 後ろ髪を引かれるような思いを三者共に抱きながら病室を後にしようとする。

 その時であった。

 

 今まで黙りを決めて座っていたオグリキャップが、ミタマガシャドクロを見つめて口を開いたのは。

 

「少し、二人で話をできないか」

 

 そう尋ねるオグリキャップに、ミタマはちいさくこくりと頷いた。

 その様子にただならぬものを感じたか。三人はオグリキャップに首肯を返すと病室から退出していく。

 

「……それで、お話とは?」

「あー。そんなに難しい話ではないんだ。上手く伝えられるか分からないんだが」

 

 言い淀むオグリキャップに、ミタマガシャドクロは無表情に少しばかり困惑を滲ませた。

 ほんの少しの静寂が過ぎて、オグリキャップはミタマガシャドクロを見つめてようやく口を開いた。

 

「あの日、君が言ってくれた言葉を覚えているか?」

「……強き者よ、散り候え」

「ああ。それだ」

 

 思い返すのは、まだミタマガシャドクロがジュニアクラスであった頃。ヤエノムテキとメジロアルダン、そしてオグリキャップとミタマガシャドクロの四人で休日を過ごした日のこと。

 去り際、その目に昏くも猛々しく燃え盛る火を宿してミタマガシャドクロが宣言した言葉だ。

 

 それが何だと言うのか。もう既に己の脚は限界だ。オグリキャップ達先輩には悪いが、この宣言を実として果たすことはもう不可能なのだ。

 少しだけ自棄になりながら、ミタマガシャドクロはオグリキャップに返す。

 

「……私は、もうきっと走ることは叶わないでしょう。もう、無理なのです。あのような啖呵を切った手前お恥ずかしいことですが……貴女達と同じ舞台に立つことは不可能となりました」

「そんなことはない」

「……分かるのです。私は走れない。既に導きすらない。何もかも失ってしまった」

 

 それは後悔を孕み、どこか懺悔にも似た響きを伴って。

 そして、それが何によるものなのか。オグリキャップには確かな根拠こそ無かったが、なんとなく、そうなんとなくその理由が分かっていた。

 

「悔いているんだな」

「……そう、なのかもしれませんね」

 

 ぎゅうっと服の袖を握りしめながら、ミタマガシャドクロは肯定する。

 

「……もう走れない、そして走る理由すら無いのです……。……使命と誓いのために必死に走ってきました。だからこそ、今私は私が分からない……」

 

 ミタマガシャドクロから漏れ出る感情を静かに受け止めて、オグリキャップは言葉を紡ぐ。

 

「私は思うんだ。いつも、誰かに導かれてここまで来た。誰かに背を押されてここまで来た」

「……」

「でも、私は結局私のために走ってきたんだ。私を応援してくれる人達に応えたい私のためでもあり、私を超えたい私のためだけに走ってきた」

「っ」

 

 オグリキャップのその言葉に、今日はじめて大きな反応を返したミタマガシャドクロ。

 だが、それも当然だろう。

 

 オグリキャップの直感は、当たっていた。

 

 

 

「君は、君のために走ってきたか? 君を支える誰かのために走ったことはあるか?」

 

 

 

 その言葉こそが、オグリキャップがミタマガシャドクロに突き付ける全てだった。

 

 何も返すことはできない。返せるはずもない。

 ミタマガシャドクロは、いついかなる時も自分のためはおろか、今自分を応援してくれる誰かのためにも走ったことなどなかったから。

 それは、慕うトレーナーのためですらなく。ただ、使命を盲信してきたのだ。

 

 項垂れるミタマガシャドクロから目を逸らさず、オグリキャップは続ける。

 

「あの時の君の言葉。私はすごく、そう惹かれたんだ。救われたって言っても良い」

 

「有マ記念を前にして、少しだけ不安定だった。タマがいなくなるって、私はこのまま宿敵(ライバル)に勝てないままなんじゃないかって。苦しかった」

 

「その時、君の言葉はどうしてか私の心を惹き付けた。多分、私とタマとの間にあった関係が、私と君にもあると思ったから」

 

「私が抱いたタマへの思いが、ミタマガシャドクロ、君の中にもあるのだと知れた。私はまだ走るんだ、諦めるのは無理な事なんだって思ったんだ。それが、たまらなく嬉しかった」

 

 そこで一度言葉を切って。

 思った以上に熱の入ってしまった言葉に気恥ずかしさを覚える。

 でも、まだいちばん伝えたいことを伝えていない。

 

 

 オグリキャップは、俯くミタマガシャドクロの双肩を固く掴んだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()。自分の走る本当の理由を探していい。そして、その理由の中に私がいたらそれは嬉しい。言いたいのはそれだけなんだ」

「オグリキャップ、さん……」

「口下手だからな。伝わっていてくれたら幸いなんだが」

「……」

 

 呆気に取られるように、無表情ながらぽかんとした雰囲気を晒すミタマガシャドクロにオグリキャップは思わずふふっと笑みを零す。

 

 これ以上は自分で気が付いて欲しい。気が付くべきだ。

 

「さてと、そろそろ私も行くとしよう。……ミタマ」

「……?」

 

 椅子から立ち上がったオグリキャップは、扉の前で立ち止まるとミタマガシャドクロの方へとちらりと振り返る。

 

 そして、微笑んでから告げるのであった。

 

 

 

 

 

「────私は、君を待ってる。来てくれ

 

 

 

 

 

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