「ただいまより、被告人を火刑に処する。」
無機質な声がラナンの心を切り裂くように冷たく鳴り響いた。
遺族となった皇室の者は蔑むような目を、観衆は歓声と罵倒の声を被告人─ラナンの両親に向ける。
賑やかで騒がしいその光景に、ラナンは疎外感を抱いた。
すぐ隣にある樹木からは、枯れた木葉がゆらゆらと揺れて塵の如く、呆気なく落ちる。
これからのラナンの両親の、残りせいぜい1時間の僅かな人生を表すように。
執行人は有無を言わせずに縄で縛られた両親を処刑場へと歩かせた。
ラナンは、そんな様子を呆然と立ち尽くしながら見ていた。
まだ幼き少年には、そんな状況を受け入れられなかったのだ。
それからしばらくして、だんだんと状況を理解して浅い息を繰り返していた時には、既に着火されていた。
「…お母様…お父様…」
ラナンは呟きにも近い声でそう発するが、当然火炙りの最中にある2人には聞こえていない。
両親の走馬灯を見ているかのように、数々の温かい家族の思い出が少年の脳内を駆け巡った。
眩しい程に輝かしい毎日。
ほんの数週間までは、それがこれからも続くと信じて疑わなかった。
たとえ貧乏な男爵家でも、たっぷりの愛情のお陰で幸せだった日々。
そう、幸せ“だった”。
脳内の温かな思い出達は、バラバラと音をたてて崩れ落ちていく。
そして、ラナンの心のように粉々に砕かれていった。
現実に目を向けるとそこには、十字架に掛けられて苦しそうに呻く両親がいた。
不意に、少年の目にはある1人の人物が映る。
─この国の皇太子、カルア。
自分はラナンの味方だと言い、唯一彼にだけ、ラナンは両親の冤罪を証明するその“証拠”の存在を明かした。
これで自分の両親は助かる筈だと、冤罪だと判決される筈だと、安心しきっていたラナンだった。
しかし、今ラナンの目には─飛び散る火花と共にほくそ笑む
少年はようやく、全てを悟った。
自分は裏切られたんだと。
最初から利用する気で近付いたのだと。
実の愛する両親が目の前で火炙りにされているのにも関わらず、ラナンの目に涙は浮かばなかった。
観衆の自分を蔑む目も気にならなかった。
火がだんだんと収まっていくと、ラナンは精一杯の抵抗も虚しく騎士達に身柄を確保された。
両親と同じように縄で縛られ、向かう先は塔。
両親が殺された今、自分がそこで幽閉されることは知っていた。
そこがどんなに劣悪な環境なのかも。
騎士への抵抗を続けながら、ラナンはカルアを睨み付けた。
カルアは両親の亡骸を見て嘲笑を浮かべている。
そして、ラナンは静かに─復讐を誓ったのであった。
登場人物メモ《前世》
ラナン…貧乏男爵家の一人息子。主人公。
カルア…ラナンを裏切った皇太子。