やり直しを求め続けた、数あるうちの可能性の一つ
剪定事象となり果てた世界で、かつてのマスターが牙を剥く。
◇PIXIVでも同時投稿しております。
◇プロローグ
廃墟のように荒廃した天文台、星見のカルデアと呼ばれた場所
数多の英霊と縁を結び戦ったマスターと、それを支えた局員達はもういない
世界を救おうとした人間と英霊達が存在していたという痕跡だけが残っていた。
一度は人理を守り、汎人類史を救ってもなお
突如訪れた地球白紙化の波を抑えきれず
主要だったメンバーを失い、一人、また一人と縁を結んだ英霊達が脱落していった。
その中心だったマスターの心が歪み、折れ曲がり、致命的な選択をした
世界はもう滅びを待つだけとなり、結末の決まったある意味、完結した物語。
『これ以上続いても意味が無い世界』として剪定対象となった世界線
これは、数ある並行世界の中の『世界を救えなかったマスター』の物語である。
◇◇ 我、聖杯に願う
カルデアは敗北した、完膚なきまでに叩き潰され再起不能に追い込まれた。
数多の縁を結んだ英霊達を失ってなお、人類最後のマスターを守る為だけに
残っていた数少ない英霊が、仮初の命を投げ打って絶望的な撤退戦を行った。
そうして追い込まれたマスター達の最後の行き場は、破壊され廃墟のように荒廃した
凍り付いた地球環境モデル・カルデアスだけが残された、フィニス・カルデアだった。
「最後になる場所が、ある意味ここでよかったかも」
中央管制室の中心、ひび割れ凍り付いたカルデアスの前で藤丸がひとりごちた
この場所には、思い出が残っている、楽しかった事も悲しかった事も含めて。
今はもういない、マシュやDr.ロマン、それ以外にも縁を結んだサーヴァント達
チームを支えてくれていた職員たちとの記憶もたくさんあった。
「世界を救おう…だなんて、大それた事は考えてなかったけれど…
それでも、側にいる人すら守れなかったのは…悔しいなぁ」
残された戦力や資材、全てを見積もっても、白紙化の波を
打倒するには叶わず、ただ世界の滅びを待つだけの存在となった。
今の藤丸に残されたのは、3騎のサーヴァント
そして一つだけ保管されていた聖杯のみ
この聖杯のバックアップを受けてすら
残った戦力では白紙化の波を止める事はできない。
藤丸は、守られたのに申し訳ないな、と思いながら
残ってくれていたサーヴァントに座に戻ってもらおうと考え
魔力を温存する為に、霊体化させていた3騎を呼び出す。
「エミヤオルタ…オベロン…巌窟王…霊体化を解いてくれるかい?
僕と一緒に終わりを迎えるなんて、君達には申し訳なくなってしまうから
英霊の座に戻ってもらおうと思うんだ」
そう言葉に出し、魔力のパスを通すと3人の姿が藤丸の目に映る。
呆れたような仕草をして藤丸に背を向けた、エミヤオルタ
何とも言えないような、でも少しだけ怒ったような表情をした、オベロン
ただ、ただ、まっすぐに藤丸を射抜くような眼をした、巌窟王
3騎のサーヴァントは何も言葉にしないまま、藤丸の前に立つ。
「3人にはとても助けられた、命を救ってもらっておいて
ありきたりな言葉しか言えなくて、ごめん…
最後は一人になりたいんだ、今まで本当にありがとう」
そんな言葉と同時に、藤丸はサーヴァントとのパスを解除する。
サーヴァント自身に残されていた魔力は残り少なかったうえ
藤丸から供給されていた、現界する為の魔力を失って
少しづつ、光の粒子へと姿を変えていく3騎のサーヴァントは
言葉を出さないまま藤丸の姿を見つめ続け、英霊の座へ還っていく
それを藤丸は申し訳ない表情で見送った。
残っていた、サーヴァントを英霊の座に送り返し
本当に一人となった藤丸は、自分の部屋だった場所で
手に持った聖杯を眺めながら、終わりの時を待つ。
「聖杯が全ての願いを叶える願望機と言うのなら…
時間を巻き戻して、みんなが生きていた、あの時間に戻りたいな…」
すべてを巻き戻そうとするなんて、少し前までの藤丸なら
絶対に考えないような願望が、心の奥からどろりと顔を出した。
そんな事は許されない、今まで歩んできた全てをなかった事にするなんて
それでも、今の状況、この世界にもう救いがないというのなら
少しぐらい願ってもいいじゃないか、だなんて思ってしまったのだ。
「我、聖杯に願う、時間を巻き戻し、また最初から歩き出す為に
次は間違えない、全員揃って生き残るために力を貸せ!聖杯!」
手に持っていた聖杯から、少しづつ光が漏れ出す
直視できないほどまでに輝いた聖杯は宙に浮き、魔力を吹き出す
あまりの眩しさに目を閉じた藤丸の体を、光と魔力が包み込んでいく。
光が収まった後、すでに藤丸の姿はなくなっており
残された部屋に、願いを叶えた聖杯が輝きを失って地面に落ちた。
◇◇◇ 巻き戻した時間、見つからない正解
「――塩基配列、ヒトゲノムと確認――霊器属性、善性・中立と確認」
聞き覚えのあるアナウンスに、時間を巻き戻せたのだと、藤丸は確信した。
「次こそは間違えない、僕が望むのは全員が生きて帰る事
ただ、それだけだ…今度はみんなを守って見せる」
藤丸はそう呟いて、忘れないように、折れないように
心に刻んて、最初の一歩をまた歩き出す。
時間を巻き戻した事を、誰にも悟られないように、本心を隠したまま
カルデアの皆に、二度目の『初めまして』を告げた。
それからは、一度目の世界ではできなかった事を覚えた
魔術師の基礎、強化魔術も使えるようになって
縁を結んだ英霊達からも近接戦闘の技術や、魔術の仕組みを学び
礼装なしでの戦闘でも、サーヴァントの攻撃をいなせるようになった。
前回は縁を結べなかった英霊とも、今回は縁を結び、戦力は増えていた。
1度目の時間軸で、守れなかった人達を救う為に
7つの特異点を超え、人理を修復した。
前回は止められなかった、地球白紙化を止める為に
6つの異聞帯を壊し、そこに生きる者達を否定した。
しかし、成長したと思っていた自分の力
更に縁を結び、数を増やした英霊達の力を持ってしても
1度目より少し進んだ程度で、仲間達を失った。
どこで選択肢を間違ったのか、どうすれば守る事ができたのか
藤丸にはわからなかった、だから、もう一度聖杯に願う事にした。
3度目の時間軸では
前回、学んだ技術を磨き、新しい魔術を覚え
サーヴァント以外の敵性エネミーを、単独で撃破できるようになった。
英霊達とも、更に仲を深めて礼装なしで魔力譲渡が可能になった。
途中で手に入れた、聖杯のかけらを、誰にも気づかれないように
自身の体に取り込んで魔力量を増やす事もした。
それでも、駄目だった、少しづつ先に進んではいるものの
仲間たちを失うタイミングを、少し遅くするのがせいぜいだった。
そうして、4度目、5度目、6度目と、何度も時間を巻き戻し
始まりと終わりをループする度に、少しづつ聖杯を取り込んで
変異していく体を横目に、正解を見付ける為に歩き続けた。
時間軸を繰り返し周回する事で、普通ではなくなっていく霊器
普通の人間であることから、少しづつ外れて
大切な人達を目の前で失いながら何度も、何度も、世界をやり直す。
ループした回数が数十回を超えた頃から、とある地点で先に進めなくなった
何度繰り返しても、同じ場所で藤丸以外の仲間がいなくなる
マシュも、英霊達も、守りたかった何もかもを失って、藤丸だけが取り残される。
それでも止まれない、諦める事はできない、正解を見つけるまで
心は擦り切れ歪み、ひび割れた状態で藤丸はループを続けていた。
世界をやり直し続け、ループしてきた数を数えなくなって幾ばくかの時間が経った頃
何度も聞いていたはずの、最初のアナウンスが変化した。
「――塩基配列、ヒトゲノムと確認――霊器属性、中庸・混沌と確認」
普通の時間軸では起こりえなかった、霊器属性の変化
自身の願望の為だけに世界を繰り返し、聖杯を多用した結果
人の身でありながら、英霊に近づいたナニカ
それでも、皆が生きているだろう『正解』の為に藤丸は止まらなかった。
繰り返す、繰り返す、世界を繰り返す
ループする度に一人、また一人と
縁を結んだはずの英霊達が、藤丸の澱み切った霊器と心を見限り
契約を解消して、カルデアを去っていく。
永劫の時間をループする中で、未だ力を貸してくれるサーヴァントは
1度目の時間軸で、最後まで残ってくれていた3騎のみになり
最初とは比べ物にならないほど、減った戦力でありながら
今までと同じ場所、同じタイミングで、ループを繰り返す。
そうしてある時、藤丸は気付いた
今までに取り込んできた聖杯が、完全に体と霊器に同調した事によって。
この世界に先はないのだと、自分が何度も繰り返し、人である事から外れながら。
そこまでして、守りたかった者達が生きている『正解』の道などないのだと
藤丸自身が壊してきた異聞帯と同じように、汎人類史から外れた世界
剪定事象として、この世界が選ばれ、いずれは切り捨てられる事を知ったのだ。
「認めない…認められるか!そんな事!
俺が繰り返してきたこの世界が…もう結末が決まった物語だと…
そんな事認めない!俺がいる限り、この世界を存続させてみせる…
まだ正解を見つけられていないんだ、終わりになんてさせてやるものか!」
そう心に決めた藤丸は、自身が生き、何度も繰り返してきた
剪定事象として切り捨てられるだろう、この世界の
大切な者達との思い出が詰まった、カルデアを残す為だけに
人理も、汎人類史も、人である事さえも諦めて
今まで体に取り込み、自身と一体になった聖杯の魔力を使って
他の平行世界までもを侵食する、極小異聞帯を作り出す。
数多の英霊達が藤丸の事を見限って、なお
終わりの見えないループにずっと付き合ってきた、3騎のサーヴァント達が
世界を作り替えるような大幅な魔力の揺らぎを察知して、藤丸の側に現れる。
最後まで付き合ってくれていた、3人の顔を見た藤丸は苦笑する
「あの時の再現みたいだね、3人とも…
この先の世界は、人理も、汎人類史も関係ない、ただ俺の我儘だ
人理を守る為の英霊に力を借りるわけにはいかない
だから…ありがとう、今まで俺に力を貸してくれて」
全てを諦め、人ならざる者へと変貌を遂げた藤丸と
英霊とのパスは、強制的に接続が解除され
サーヴァントへと、供給されていた魔力は解けていく。
「傭兵でありながら、結局アンタの望みを叶える事はできなかったか…
だが、共に過ごした長い時間は悪くなかったよ、マスター」
「俺と君は契約上の関係だった、そうだったはずなのに
あまりにも君の物語が面白かったから、ここまで来てしまったよ
君も結局、行き着く所まで行ってしまうんだね…
本当に愚かで、救われない…さよならだ、マスター」
「藤丸…わが共犯者よ!おまえがそう決めたのなら進め!
繋がりが途絶えようとも、俺は恩讐の彼方からおまえを笑っているぞ!」
人理を捨て、汎人類史を救えず、人ですらなくなったのに
最後まで、自身の事をマスターと呼んでくれたサーヴァント達に
藤丸は、最高の感謝と最後の別れを伝える。
「本当に…本当に…ありがとう、もう会うことはないけれど
きっと忘れない、さよなら!みんな!」
その言葉の後、最後まで藤丸と共にあったサーヴァント達は
光の粒子に姿を変え、英霊の座へと還る。
「人でなくなっても、この世界を守りたい気持ちは本物だ
俺は、俺にできる事を――最後まで貫き通す」
剪定事象となったとある世界で、人ならざる魔術師が産声を上げる。
◇◇◇◇ 単独永劫回帰 フィニス・カルデア
とある平行世界
7つの異聞帯を超えノウム・カルデアへと戻ってきた、藤丸達の元へ
シオン・エルトナム・ソカリスから、新たな異聞帯の出現が知らされた。
今までよりは小さい範囲なものの、出現した場所が場所であった。
カルデア一行には、忘れられない思い出が詰まった
南極、天文台カルデア跡地にて、8個目の異聞帯が発見されたのである。
空想樹自体も存在せず何故、そんな場所に?とは思われたが
異聞帯が見つかった以上、その異聞帯を切除しなければ
汎人類史を取り戻せない。
その為に、ノウム・カルデアから藤丸一行を乗せた
シャドウ・ボーダーが出撃した。
南極にたどり着き、少しづつ旧カルデアへと近づいていく。
異聞帯でありながら、嵐の壁は発見できないままだったが
施設を確認できた頃、入り口だけを覆う形で嵐の壁が発生していた。
シャドウ・ボーダーの虚数潜航により、嵐の壁を突破すると格納庫へと到着した。
ボーダーから降りて、周囲を見渡した藤丸達は自分たちが脱出した時のまま
放棄されていた施設を見て、感慨深くなっていたが、その刹那
「藤丸君、反応はカルデアスが設置されていた中央管制室からだ
ただ、その反応の魔力量は普通のサーヴァントの比じゃない
それこそ、ゲーティアと同じかそれ以上だ、気を付けてくれ!」
ダ・ヴィンチちゃんから届いた通信によって、気合を入れなおす。
「行きましょう、先輩!」
「行こう…マシュ!」
異聞帯となっているとはいえ、藤丸達が過ごしていた場所である
反応がある中央管制室へは、時間をかけず到着した。
そこで藤丸達は、人の姿を取りながら、人とは思えない
おぞましいほどの魔力を持った、ナニカと遭遇した。
「また…ここを奪いに来たのか、カルデア!」
そう言った人ならざる者が、腕を上げたその刹那
藤丸を背にしたマシュが盾を掲げて、立ちふさがる。
そこまでの魔力量ではないものの、藤丸に直撃すれば
ただではすまないほどの威力の魔術が飛ばされていた。
「ご無事ですか!マスター!」
「俺は無事だよ!マシュ!」
一瞬振り返って藤丸の無事を確認したマシュは、胸を撫で下ろすと
藤丸を狙ったナニカを睨み付けるように見つめた。
そうして気付く、何かを忘れているような、どこか懐かしいような
一瞬、感じた寂寥を頭を振る事で、振り払う。
「人の姿を取っていますが、話し合いは不可能なようです!
マスター!指示を!」
「召喚を行う!マシュ、援護を頼む!
――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ
汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ――!」
マシュが、盾を掲げて警戒しながら
藤丸が発した召喚式によって、英霊達がこの場に現れ始める
光の粒子が一人一人を形どり、7騎のサーヴァントが顕現する。
最後に召喚された巌窟王が、目の前に浮かぶナニカを見つめて
そして地面が、爆ぜた。
「ふはははは!人ならざる者に落ちてすら!
おまえが進んだ道を、この巌窟王が笑いに来たぞ!」
一瞬でナニカとの距離を詰めた巌窟王が
藤丸の指示を受けないまま、戦闘を開始する。
全力を持って攻め始めた、巌窟王に
人ならざる者は、顕現させた光の円環を以って相対する。
「巌窟王…巌窟王…?オレはもう何も覚えていない…」
ぶつかり合う二人の、あまりの熱に
巌窟王の行動に唖然としていた、藤丸達が再び動き出した。
人ならざる者はたった一人でありながら、
藤丸を含めれば、9人の戦士を相手取り、互角の戦いを行っている。
近接、魔術、その悉くをいなし、破壊し戦いつづける
ナニカにしびれを切らした、藤丸が令呪を以って命じた。
「巌窟王に令呪をもって命じる!宝具を開放してくれ!」
「よかろう!我が征くは恩讐の彼方!『
巌窟王がその身に宿した、怨念、復讐の業火
触れる者を死へと至らせる毒の炎を纏って、人ならざる者へと突貫する
それを防ぐように、人ならざる者が詠唱を開始した。
「第二宝具、展開…光よ、全てを防ぐ盾となれ『
人ならざる者の前面に、城壁を形どった光が姿を現す
その宝具の姿は、まるでマシュの宝具にどこか似ているようで
違和感を感じ取った藤丸は、思わず目を丸くしてしまった。
「あの宝具はまるで、私の宝具のような…!」
マシュがそう、言葉にした瞬間、巌窟王と人ならざる者の宝具がぶつかり合う。
――その刹那、光が爆ぜた――
思わず耳を塞いでしまうような轟音とあまりの光量に、藤丸とマシュは
目を開けていられなくなり、爆心地となった二人の姿を見失う。
光と音が収まり、何も音がしなくなった頃、目を開いた藤丸達の目の前に
ぶつかりあっていたはずの、人ならざる者と巌窟王以外の
藤丸が召喚していた、サーヴァント達が倒れ伏していた。
守る為と思われていた人ならざる者の宝具は、盾などではなく
受けた攻撃を全て受け流し跳ね返すものだったようで、その余波によって
ほぼ無傷だった、サーヴァント達は致命的なダメージを負ってしまったのだ。
ぶつかりあった巌窟王以外のサーヴァントがその状態でありながら
直撃を受けたはずの巌窟王はダメージを感じさせないままで、人ならざる者と相対していた。
「ふはははは!最初は人だったおまえが、ここまでになるとはな!
わが共犯者!共に重ねた時間は無駄にはならなかったようだな!」
人ならざる者の過去を知っているような、巌窟王の口ぶりに
藤丸が思わず口を出す、なんで、どうして、と
巌窟王はひとしきり笑った後、藤丸の問いに答えた。
「アレはおまえ自身だ、違う世界でのな
数多の時間を飛んですら『世界を救えなかった』藤丸立夏なのだ」
その言葉に、藤丸はもちろん、マシュも愕然とした。
髪も、顔も、体も、藤丸とは似ても似つかない。
気付かないはずだ、人ですらなくなり
永劫の時間を一人で回帰した、人ならざる者は
歪み、変異し、自身の名前を失ってなお
ただ、この小さな場所を守るために、戦い続けたのだ
剪定事象を切除する為に
いろんな並行世界からカルデアがこの異聞帯に攻め込んできた
それを破壊し、消し飛ばし、倒してきた相手から魔力を奪い続け
溜め込んだ魔力を聖杯のバックアップを受け、この小さな世界に
一人で注ぎ込んだ、そうしてこの世界を存続させていたのだ。
異聞帯でありながら、空想樹が見つからなかったのも
人ならざる者自体が、この世界に根を下ろす楔
空想樹の代わりとなっていたようなもので
それが、藤丸達の中で違和感となっていたのだろう。
巌窟王の言葉で、藤丸達の違和感は納得へと変わる。
「「だったら、止めないと…!」」
藤丸とマシュの言葉が、同時に口から飛び出した
それを聞いた巌窟王は、もう一度笑うと
かつてのマスターを見つめ、態勢を整える。
「おまえが一人になった後、何度繰り返したかは
俺には知る由もない、だがおまえと過ごした時間は
俺の記憶にも残っている!」
そう巌窟王が、吠えた。
人ならざる者、かつてマスターだった者『藤丸立夏』だったナニカは
この場に残る敵を消し去る為に、自身に残された最後の宝具を開放する。
「第一宝具、開放…これで最後…オレに残された全てを捧げる…
正解の道だけを追い求めた…こんな人間がいたって事を残す為に…
『
その詠唱と共に、人ならざる者の周りを回っていた円環が
一瞬だけ、光り輝くと体に吸い込まれていった。
巌窟王が、もう一度宝具を展開して、突撃していく
そしてマシュも、藤丸を守る為に宝具を展開した。
――そして世界を極光が塗りつぶす
◇◇◇◇◇ 極光に至る
ふと、藤丸が目を覚ます、何も見えない、何も聞こえない
体の力も入らないまま、水の中で浮かんでいるだけの感覚に包まれていた。
何時間経っただろうか、暗がりに沈み込んで落ちていく
そんな時、ここではないどこかから声が聞こえたような気がした。
「――ぱい…ぱい!先輩!」
どこからか、マシュの声が聞こえてくる、藤丸は
その声を頼りに、体を動かそうとするがたどり着く事はできない。
何かにつかまれているような感覚だけが残っていた
不思議と怖さは感じない、逆に温かさを感じるような程に。
「君に負けて、やっと思い出した、俺が何をしたかったのか
何を守りたかったのか、何の為に世界をやり直したのか
誰も救えなかったけれど、後悔はしない、していない
数多の平行世界を、壊してでも
俺は、俺が生きた世界を残したかったんだ」
藤丸の前に、自分と似た姿の青年が立っている。
それはきっと、自身と戦っていた、『彼』なんだろう
姿は変わっていても、そうなんだと藤丸は思った。
「君の世界は救われているんだね
ドクターロマンにはどの世界でも、もう会えないだろうけど
マシュや、それ以外のみんなは生きている、それが見えたんだ
ありがとう、俺の代わりにみんなを救ってくれて」
そんな言葉と共に『彼』の姿が光に変わって消えていく。
全てが消え去る直前に、藤丸の体に柔らかな光が吸い込まれた気がした。
藤丸の意識が覚醒する。
目を開けると、カルデアの治療室で寝かされていたのだろう
ベットの側でマシュが、藤丸の手を握ったまま立っていた。
「おはよう…マシュ」
「よかった…目を覚ましたんですね、先輩」
藤丸は目を細めると、マシュを見つめて
繋いだままだった手に力をいれた。
「あの戦いは…?異聞帯はどうなった…?」
「あの時、私達に放たれた宝具が、私の宝具に触れた瞬間
何かに包まれたような…祝福を受けたような…不思議な感覚になって
あの極光が収まった後には、誰も…何も残っていませんでした
きっと、魔力を使い果たした結果なんだろうと思います…
そうしたら施設が崩れ始めたので、気絶した先輩を連れて
ここへと帰ってきたんですよ。」
その言葉に藤丸は、先ほどまで見ていた光景を思い出した。
もう一人の自分、ありえたかもしれない可能性の一つ
彼の世界は未来がないものとして剪定事象として切り取られた
それでも、彼の思いだけは間違っているとは思えなかった。
――◆◆――
Lostbelt No.8 単独永劫回帰フィニス・カルデア
副題:極光に至りし者
異聞深度:EX
分岐基点時代:A.D.2018
場所:南極、天文台カルデア跡地
人間である事をやめ、世界を繰り返し続けて
正解の道を追い求めたーーたった一人の最終決戦