ふむ、ヘルサレムズ・ロットと言うのはなかなかに面白い街の様だ。
「…ほ……ほめん…なさ」
「ひゃ…すけて……」
「ヒッ……アッ…ゴポ」
「アカイアカイアカイヒャハハハハハハ!?!」
足元に転がっている歓迎人たちからのプレゼントを淡々と、それでいて薄っすらとだがホクホクした笑みを浮かべて懐に入れていく。
「ハハッ、最近調子に乗ってたからいい気味だな。とはいえなにをしたらこうなるんだ?」
「ヒュー!ねぇちゃん強いねぇ」
「それにメチャクチャ良い身体してますね!今夜に俺んち来ないすか?」
「バカッ!?お前なんかの相手するかよ。コイツがスミマセン……怒りをかったらどうする気だよ」
これぐらいの騒動なんてここはは日常なんだろう。遠巻きに見て楽しんでいたやつからの熱いファンコールをもらってしまった。馬鹿騒ぎが好きなのも、熱に浮かされるのも同じだな。
「悪いが、今日はこれから仕事でね。また今度誘ってくれ」
「えっ、マジですかッ!?」
私がそう言うと思いがけない返しに驚いていた。一昔前に流行っていた創作神話にいそうな容姿の彼は目のような部分をギョロッとさせていた……深海に棲んで居そうだけど、似たような見た目のチンピラは溺れてたからおそらく肺呼吸なんだろう。
「ん~?私は結構遊んでる側の人間だよ。流石に仕事はサボれないからねぇ。明後日以降だったらおそらく空いてるよ」
こちらから持ちかけた話なのにバックレる様な事は流石に出来ない。任された仕事は稀にサボる事はあるが最低限のマナーは必要だ。
「ガチですね。ガチなんすね。ウッヒョー!!」
「テメェズルいぞ」
「一人だけナンパしやがって」
「ウッセー!!怖がって声かけなかった自業自得だ。あっ、姐さんの名前なんていうんすか?俺はデュシュクラッス」
「デュシュクラッス君で良いのか?」
「いえデュシュクラ、デュシュクラまでッス」
「ギャハハハ、テュシュクラッス君か」
「良いじゃねぇか改名しちまえよ」
「フッフッフ…お前らぶん殴って良いって事ッスね。待てやコラァ!!」
腕の数が思ってたより多かった様だな。人と変わらないものやサイズが違うもの、触手のようなものと幅広いな。頭が潰れても生きてる子もいるなぁ。異形な集まりの中におそらく人間であろう者も居る当たりが本当に交わっているのが分かってなお面白い。
「ふむ、結局名前を言う暇は無かったな。まぁ縁があれば会うことあるだろう。さて、そろそろ時間もちょうど良いだろう。待ち合わせ場所に向かうとするか」
中のことはあまり詳しくないので迎えに来やすい場所を向こうに指定してもらった。場所はカフェで「ダイアンズダイナー」と言う店らしい。少し遊んで懐は暖まったが腹は空いていた事だし、ちょうど良い。
「…と思っていたんだけどねぇ…そこのお兄さんや、この街ではコレは普通の出来事かい?」
「はっ!?チョッ!?なんですか!?放してください!!逃げないとヤバいんですよ」
明らかに異界側の存在によってそこらの建物や車など非生物に関わらず食い荒らされている。生体機械等は食の範囲に含まれるようで一部の人間や異界存在も襲われている。
「いやいや、悪いんだけど私はついさっきこの街に来たばかりでさ、コレは良くあることなのか知りたくてね」
そして食われた場所と重なる空間までその胃袋に納められている。別の空間への穴なのか、それともバランスが崩れたこちら側に近い異界が浮き出たのか、専門家ではないので答えはわからないが刹那的に存在する無でないのは確かだろう。
「堕落王フェムトのお遊びはここじゃ稀によくある事だよ。ヘルサレムズ・ロットで生きてれば珍しくは無いが、ヤバさは最上級の地獄行きのキップだよ!!これで良いだろ、話したんだから放せよ!!」
少しずつ増えているようだけど、一帯へ広がればこの街を留めている術式にも被害は出そうだが、もしかしたら毎日起こっている現象かもしれないので確認はしておくべきだろう。
「ふむ…となると君たち側からするとコレは解決を必要とする事柄の様だ。では居合わせた縁だ私も少し遊びとやらに参加させてもらおうか」
そう言えば先程、フェムトと言う名前は聴こえた気がしたな。画面に映っていたからこちらで有名な芸能人の様な者だと思っていたがどちらかというと悪戯好きなテロリストの類いだろう。
「話しかけた縁もまたある。私の隣に居ると良い、その方がきっと安全であると保証するよ」
「な、何を……」
ふむ、眼の前の事象への興味深さもあってか、闘いへの切り替えで昂ぶったか、笑みが溢れてしまっていたようだ。それにしても言葉を詰まらせるとは……やはり私のこの笑みは危険に見えるのだろう。
「さてさて、少し集中するが近くに居れば反射で守れる。逃げないでくれよ」
「は、はい……」
ふむ、外と比べて情報量が多いな。慣れていると思ったが環境一つでこうなるとは私もまだまだか。だが彼らはここいらにしか存在せず、街中に広がっては居ないようだ。これなら処理も簡単に済みそうだ。
「さて、其処は既に私の口の中だぞ?」
意識を潜らせる。目を開けば血に沈む街。辺りは騒然としているが決して藻搔く事はない。ここはまた別の世界。招くような手間はとらせない。こちらから出向こうではないか。
空中から突如として現れた血製の牙に穿かれた奇獣達は活動を停止させて尽く血に溺れ、地へと落ちていった。それをやったのが私だと解った隣人は腰を抜かしていた。
「あ、アンタは何者なんだ?!」
「ちょっとばかし吹かした人だよ。無事なようで何より、貴方は運が良かった様だ。それでは
仕事とは別にしてもこの街に来たことは正解の様だ。これだから生というのも捨てたものじゃない。此処ならもっと楽しめる事だろう。
「さて、ミートスパゲッティとコーヒーを頼めるかな?」
「あいよー、先にコーヒーどうぞ。ちょっくら待っててねスパゲッティもすぐできるから」
さらに動いた事だし、腹ごしらえをしておくとしよう。先程のがこの地でも大きな騒ぎなのだとすれば迎えも遅くなるかもしれないからねぇ。
「はい、おまちどおさま。ミートスパゲッティ、注文は以上で?」
私は静かに頷いて答えると店員の女性はそのまま次に入ってきたお客の方に向かっていった。さて、それではいただくとしようか。
ふむ、メニューには異界向けの物も見られたから多少はクセでもあるかと思ったが至って普通といった様子だ。そう言うと料理への悪評と捉えられかねないが、味は良いものだ。とてつもなく美味い…とは言えないが美味しい事に違いはなく、店の雰囲気とも相まってどこかホッとするものを感じる。そしてなにより……
「他人から奪った金で味わう食事は美味いな」
「お客さんにとやかく言うことはしないけど面倒事は持ち込まないでねー」
保証は出来そうにないが堅気に迷惑をかける様な事は憚られるので気には留めておこう。ふむ、コーヒーもイケるな。こういう待ち時間もたまには悪くはないものだ。
作中には出てきてませんが登場人物の名前は決めました。設定の方も一部書き足したり、修正してます。
不定期投稿をうたってるのであまりいないとは思いますがいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。