貯めている血を無駄にしないために全部持ってきたのはまぁ良かったが、同族と特殊な知覚能力者がいる場所に広げたのは失敗だった。
「えっと、これはハルシオン殿が?」
「すまないMr.クラウス。知覚出来る者が居ると知っていた上で対策を怠った。血の稀釈の段階を上げて纏めよう。それと性でも名でもどちらにせよ呼び捨てでも結構だ。せめて敬称は外してくれ」
そう言って直ぐに血の稀釈の段階を進め、その分だけ同じ空間に重ね置く事でスペースを確保していく。少し意識する必要はあるが最終的に血は私の周囲に纏うだけになった。
「血の稀釈ですか……?」
「あれ程の量をかなり深くまで稀釈している……」
要求を伝えた際にある程度の情報が渡ることは承知の上だったが思っていたよりも伝わっていないのか、それとも同族以外には分かりにくいのか、どちらにせよ行動を共にするならば後で説明は必要だろう。
「ゲホッゲホッゴホッ?!」
「大丈夫か義眼の少年?」
未だに咽って苦しげにしているのには少々罪悪感が湧いてくる。たちが悪い事に知覚してそこに在ると認識しても稀釈されてる事に変わりはないので真綿で首を絞めるかの様にジワジワと苦しむ事になる。
「レオ、大丈夫か?」
「は、はい。なんとか……」
「本当にすまないな。深く謝罪しよう」
「い、いえ、ハルシオンさんは悪くないです。血は部屋の奥の方までは来てませんでしたから、悪いのは逃げようとした僕を押さえつけたそこの先輩なので……」
そう言って彼はその先輩らしき人物を睨みつけている。確かに敵地でもないので制圧も掛けてないし、制御を手放した訳でも無いので部屋の奥の方には血は届いていない。
てっきり空間転移の影響で一気に血が流れ込んだのか、私の操作ミスかと思っていたんだが別の要因もあった様だ。
「ザップ…おまえ…」
「いやいや、客人を前にその場を慌てて逃げるように離れようとするからマナーが悪いと思ってそれを正そうとしたんすよ!!」
「嘘だ!!あんた俺が慌ててんのも、途中から苦しそうにしてるのも見て思いっきり笑ってたろ!!」
ふむ、中々に愉快な所の様だな此処は。世界の均衡がやら秘密結社だなんだと言うからもう少し格式張ったところかと思っていたが想像よりも楽しめそうだ。
「お前たち、この場で騒ぐようなら相応の対処をしなくてはならないが?」
「まぁまぁ、私は気にしないさ。えっと、Mr.スティーブン?これくらい騒がしい方が慣れてるよ」
血界の眷属達や裏の懸賞金目当ての連中の歓迎と言うなの襲撃と比べたらこれぐらいの喧騒はあって無いようなものだ。
「いえ、ライブラの体裁もありますので」
「それと、私はただの客食ではなく客将として来たつもりだ。固く考えずに気軽に接してくれ、なんなら彼らと同じ様な扱いでも構わないよ」
そう言って未だに睨み合いとその裏で地味な攻防を繰り返している二人を指さした。私はそれなりに問題児だと自負しているのでね。
「アレはうちの最下層なので参考にしないで貰えると助かります」
「「ひでぇ?!」」
「酷いのはお前らの普段の勤務態度だ」
何はともあれ、顔合わせの段階で相手を死なせてしまうことがなくて良かった。まだ全員の紹介も済んでいないので挨拶をしてから私の戦い方について語るとしよう。
そんなこんなで出会いから慌ただしくなったが普段から此処に居ることが多い面子、ライブラの主要メンバーとでも言う顔ぶれとその名前は覚えることが出来ただろう。
歓迎会と言うのは中々に楽しかった。ヘルサレムズ・ロットらしいゲテモノの類はなかったが普通に美味しい料理を適度に摘ませて貰った。
血を作るのにもエネルギーは必要だからさっき食べたばかりでもそれなりに入れることは出来る。過酷な場所に出向く機会も多く、食い溜めに近い事も出来るが流石に歓迎会でやるにはそぐわない行為だからやめておいた。
「それでソレイユさん、さっきの血について聞いても良いですか?」
「ふむ、レオ君だったな。構わないとも…とは言ってもあれはけっこう単純だ。チェイン君が居るから人狼の力については知ってるかい?」
「ええっと少しですが、はい」
体臭・体重・体温・触感など果ては因果律さえも……自身の存在に関するあらゆる情報を希釈する、いわば自分の存在を書き換えてしまう我が事ながらとてつもない出鱈目な異能だ。
こんなとんでもない力を持っているが故についた通称が不可視の人狼……正直言って普通の人間に警戒されるのも仕方のない種族と言うわけだ。
代償というかリスクこそあるがそれを踏まえても有り余る程に優秀な力だ。我々人狼を捉えられるのはレオ君を含めた特殊な知覚能力の持ち主だけだ。
そして私は人狼であり、『牙狩り』でもある。そう、血界の眷属を屠る事を生業としている。そして彼等と戦うのに何が必要かは分かるね?そう……
「「血だ」です」
クラウス氏、スティーブン氏、KK氏、ザップ君、ツェッド君、彼らも各々違う系統の力を宿した血を扱い血界の眷属へと迫っている。
細胞レベルまで浸食してダメージを与える血液を相手に送り込む事で再生を阻害するのが血界の眷属との戦いの基本だが、逆に私はそれしか出来ない。
「え、どういうことですか?」
私の血液には特殊性が無いのだよ。分かりやすく言えば私自身にそういった才能がなかった。なんとか血に攻撃性を与え、操り、固める事しか出来ない。
「それだけでも僕からすると凄く感じますけどね」
その程度であれば幾らでも出来る者は居る。レオ君の神々の義眼の方が凄いんだがね。まぁ、その話は置いておくとしよう。
先も言ったが私には才能が無い。それ故に私は人狼としての能力と掛け合わせることでその差を埋める事を考えた。
そして体系化したのが人狼専用…とは言ったが『牙狩り』として動く人狼など私だけだからな。実際には私専用の対血界の眷属技術、【人狼型血染術】を生み出した。
「【人狼型血染術】……」
他の戦い方もそうだが力を込めるにはエネルギーを消耗するのはもちろん。血を消費して戦う形であるために貧血や失血死と隣合わせとなる。
長時間の戦闘となるとどうしても不利に陥るが故に血界の眷属との戦いは短期決戦、もしくは複数での交代で行われる。
まぁ一部にはそれが当てはまらない理外の存在とも思える方々も居るが、そちらに関しては例外として置いてもらえると助かる。
話が逸れたが血の扱いと言うのは非常に重要な訳だが。私は人狼の力を用いて血を操り、体外に保管して持ち歩いているんだ。
「血を持ち歩いている……」
まぁ、中々にぶっ飛んだ発想なのは理解しているが。これは理にかなっていると私は考えている。
存在を稀釈することで相手はもちろん周りにも気付かれる事はなく、大量の血液のストックがある状態で戦える。それも知覚能力が無い相手に対してはほぼ一方的にだ。
「あ!!」
気付いたかい?血界の眷属の中には強力な長老級も存在する。だが長老級と言ってもけっこうピンからキリまである。その中には知覚能力の高い個体も居るが殆どの場合は感づかれる事はあっても見られる事は少ない。
それに先程体感したと思うが周囲一帯の全てが血に埋め尽くされている状態では身動きすら難しくなる。不可視の相手と攻撃、継戦能力に質量攻撃。
「それは強力ですね…」
「君は中々に良い子だね。初めて聞く人はたいてい凶悪だねと返すよ」
「ははは……敵だったら怖いですがソレイユさんは味方なので」
「能力を信用されるのはまだ良いがそこまで信頼してはいけないよ。仮に私の様な認識外の敵が現れた際に気付けるのは君一人だ。君だけはどんな相手も疑い続けるのをおすすめするよ」
そう言うと何処か納得がいかない、いや想像がつかないと言ったほうが正しいのか難しい表情でうぅんと唸りだしてしまった。
此処に居るメンバーへの信頼が高い故か、それとも意外と周りの者達が過保護なのか、まぁ本人の生来の在り方というのも強そうだ。
周囲の者達の実力が高すぎるのも要因の一つかもしれないな。実際に私が奇襲を仕掛けたとする。深く深くまで稀釈を行えば同族、チェインは誤魔化せるだろう。
次に攻撃に転ろうと動作を行えば動体視力の関係上確実にレオ君は反応を示す、そしてその反応に周囲が気付くだろう。
勘というのも馬鹿には出来ない。こんな場所でこんな組織にいるのだ。少なくない修羅場は超えてきている。
違和感だろうとなんだろうと疑問を抱き、レオ君の反応と合わせればどんなに良いタイミングで仕掛けても直撃は避けるだろう。
そうなれば後は手数でも押されるだろうし、クラウス氏は攻撃のあり方故に希釈も意味がない可能性が高い。ガン逃げかませば話は別だが、次がなくなる時点で嫌がらせにしかならない。
「ふむ、こうなるのもわけないのか?」
「なんですか?」
信頼を寄せるにしてもここまでのほほんと生きていけるとは……惚けた顔をしているが意外と肝が据わっているのかもしれないな。
「いや、何でもないよ。これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします!!」
レオ君との話を終えて程々に楽しんでいると視線に気付き、そちらへと向かう。
「おや、歓迎会は楽しんで貰えてるかい?」
「あぁ、貴方が気遣ってくれたおかげかな?Mr.スティーブン」
「僕は何もしてないさ、歓迎会を決めたのはクラウスだし、用意はギルベルトさんが殆どだよ」
そう言って笑って誤魔化している。中々に上手いものだ。組織の運営に深く関わっているが故かそれとも彼の気質故かは知らないが素直に称賛できる。
「色々と話したそうなのに我慢しているじゃないか?」
「そんなことないんだけどなぁ、まいったな」
「なるほど、流石は氷の使い手……血の匂いと同じで秘密を隠すのもお手の物ですか」
彼からはとてつもなく血の匂いがする。実際の血の香りではない。血の使用者故のものでもない。血で血を洗う獣のソレだ。
裏をよく知っている、全てを疑い、為すべきことの為であれば何でもしてみせる獰猛な雰囲気を氷に包み込んで隠している。
血や闇の全てを包み込んだ氷、中のソレを周囲に悟らせないその徹底具合には美しささえ感じられ、ルビーの様に輝いて見える。
「へぇ……面白い事を言うね」
騒がしい会場の中で互いに笑みを浮べて談笑する……そんな風に周りからは見えている事だろう。思案することもなく合わせられるのが証拠みたいなもんだろう。
「フリーでやってると薄汚い闘争はもちろん、裏切りなんかも日常だからね。血なまぐさい雰囲気で分かるさ……」
手柄目当てなんてのは可愛いもんだ。気に入らないからとか、仮にも女である私なんかだと身体目当てとか、実は血界の眷属信者とでも言う様な者だったとか、理由を語ればきりがない。
「なるほど、日本の諺で言う所の蛇の道は蛇ってやつかな?それでわざわざ僕の前に来たご要件は?」
「ん、訊きたい事は早めに訊いてくれるとこっちとしては面倒じゃないってだけだよ」
世話になる相手の裏を暴いてやろうなんて何の得にもならない事をする気は欠片もない。明かせる所は明かして余計な干渉は無しにしようというお誘いだ。
「レオに隠し事してる君がソレを言うんだ?」
「ふむ、この騒ぎの中で聴こえた……訳ないから読唇術か。でも嘘はついてないっての信用して欲しいかな?」
それに裏切ろうとか言う気持ちは全くない。驚かしてやりたいというサプライズ精神と万が一の時の保険でしかないんだけどねぇ。
「まぁ、適当な仕事を任せられる人狼が居るとでも思ってくれれば構わないよ」
「『人狼局』に目をつけられるのは勘弁したい所だが…折り合いをつけてやっていこうか」
差し出された手は握られ契約はなった。口約束ではあるがコレを裏切れば互いに問題になる。良い関係が長く続くことを祈ってそのままドリンクをあおってまた別の人物に会いに行くとしようか。
「やぁ、チェイン君」
「ソレイユさん……何を話していたんですか?」
「ん、なんてことない仕事の話だよ」
ずっと視線は感じていた。監視の目かとも思ったがそういう訳では無いと気付けば、答えは直ぐに分かった。まだ疑いが消え去ってない同族の耳元へ顔を近付ける。
「人の『鍵』に手は出さないよ」
「なっ?!」
「あれだけ丈夫なら無くなる心配も無いだろうね」
人の恋路に手を出して犬に噛まれるのはゴメンだ。あぁ、犬じゃなくて狼だったがまぁ大差はない。慌てて顔を少し赤くしたが直ぐに冷静に振る舞おうと取り繕う姿を見れば良くても子狼にしかみえない。
「…詮索はルール違反ですよ」
「ふむ、野晒しと変わんないと思うが…って分かったからそんな睨まないでくれ。チェイン君にも私の符牒を教えてあげようじゃないか」
「それは……」
そう言うと真面目なのか聞いて良いのか悩んでいる様子をみせる。『鍵』は悪用されれば大変だから同族にさえも教えないのが普通だ。
稀釈し過ぎで帰れなくなった人狼は世界から居なくなる。いや、居なかった事になる。それ故に何としてでも世界に帰りたいとその者に思わせる何かを用意しておく必要がある。
「あぁ、教えるのは1つだけだからね」
「1つって『鍵』の分散?!それは意志も分散されるから非推奨では!!」
「どれか1つだろうと失う訳にいかない…そんな強い想いがあるならば平気だよ」
『鍵』を分ければ絶対性が揺らぐと言うのは分からなくもないが、そのどれもが真に絶対であるのなら問題は無いのだ。
「私の『鍵』の1つは娘だよ」
「お子さんが居るんですか?!」
ふむ、子持ちにみえないって事なのか、子持ちなのにこんな所にまで来ている事を驚かれているのか、どちらにせよ予想外だった様だ。
「もう結構大きい子でね。『牙狩り』としての才も私よりあるが、まだまだ修行中でね。ヘルサレムズ・ロットに来る途中で知り合いに預けて来たんだ」
「知り合いにと言うと旦那さんは」
「あぁ、居ないよ。暗い顔される前に言うけど死んでるけどそもそも何処の誰だかも分からないしね」
複数人とヤってる所に空気を読まない血界の眷属共が襲撃を仕掛けてきて、それが思ってたよりも大規模で三日三晩戦ってる間に着床したから当時はどうするか悩んだものだ。
「あぁ……クソ猿の同類でしたか」
数分の会話で随分と評価が落ち込んだものだな。まだ余裕はありそうだが何か次に信用を失えばゴミを見るような目で見られそうだ。
「クソ猿って言うと、さっき君と言い争いしてたザップ君かな?ふむ、彼も遊んでる人なのかな」
ふむ、それならば会話もそれなりに弾ませる事が出来るだろうし、このヘルサレムズ・ロットでのいい場所の情報などを訊きたい所だ。そんな事を気取られない様に頭の中で考えていると表情を一転させ、真面目な雰囲気でチェイン君が口を開いた。
「最後に1つ良いですか?」
「構わないよ」
即座に私は頷いてみせる。何を訊きたいのかは知らないが数少ない同族が相手だ。相応にサービスしてもバチは当たるまい。
「なんでそんなに潜れるんですか?」
「ふむ、
「それは所謂才能とかそういう…?」
「そうじゃなくて環境的な話だね」
人狼が消えるとその人狼による影響も世界から消える。そういった痕跡とかも世界との繋がりには違いない。
人狼の意志も重要だが少なからずその繋がりも人狼を世界に留める役割を担っている。そして、昔の私はそれが極端に少ない環境下で生きてきた。
『人狼局』や『牙狩り』の存在も知らない頃なんかは知り合いすら居なかった。世界との繋がりの薄い私は潜る事への抵抗が少なかった。
「その理論が本当なら貴女は戻りにくい筈では?!」
そこは『鍵』と自分をしっかり持つことだね。戻ることに対する対処はそれしかない。話を戻すが私は深くまで潜るのが普通だった。それ故にその感覚に慣れたからこそ今の技術がある。
「慣れですか……」
「何度も消えかける様なもんだから消えやすくなるし、戻りにくいのも確かだからね。決してオススメはしないよ。君の『鍵』の詳細までは知らないがおそらく何度も何度も使えば効きにくくなるタイプだろうし」
下手に真似をすれば最後には彼を殺さないと戻ってこれなくなるかもしれない。そして喪失感から自ら消えるなんてのは馬鹿らしい最期だろう。
どんな事でも慣れというのはある。それが良いか悪いかはまた別の話だよ。それだけ伝えると納得いかない表情の
「ねぇねぇ、いま話が少し聞こえちゃったんだけど。貴女は娘さんがいるの?」
次はどうしようかと会場を俯瞰して見ていると横合いからそれなりの勢いで声が掛かった。
「えぇ、私を反面教師にしたのかいささか真面目ちゃんですけどね」
「どんな娘なの?写真とかあったら見せて見せて、そうそうコレ私の息子達の写真ね」
「そんなの見せて大丈夫なんですか?」
何がどう呪いやらなんやらの材料になるか分からない。その人を写したものなんかも全然使われる可能性はあるだろう。
本名に出身地、年齢までも隠している割には秘密主義ではないのか。そういった連中と比べると接しやすい印象だ。
「良いのよ。それで写真はないの?!」
「娘も牙狩りですからね。そういった記録はあまり残していないんですが……かなり前の年ので良ければ」
「わぁ~ってこれ戦闘中? 周り血だらけだし、この娘も血まみれじゃん!!というかこのとき何歳よ?!」
差し出したのは娘が初めて血界の眷属と戦った時のものだ。周囲の監視カメラからデータを抜き取っていた際に綺麗に映っていたから記念に切り取って保存した思い出の品だ。確かあの事件の時だったから8歳だったかな。
電子機器には血界の眷属は映らないので今となっては分からないが娘のすぐ前に血界の眷属がおり、刺し違えようと突貫してきたシーンなのだ。
「落ち着いて血を前面に出して防御姿勢で受けて、その勢いのままにカウンターを決めて、トドメは私がさして終わりだった」
「これくらいの時にそれだけ判断が出来るのは才能あるなんてもんじゃないでしょう」
才能があるのは確かだが、当時は無我夢中でやっただけだった。ある意味たが咄嗟にそれが出来たのは地力があってこそかもしれないがね。
「今、この娘は何やってんの?」
「修行中ですよ。まだ長老級を相手にするには足りないので知り合いに預けてきました」
そう言えばその知り合いから頼まれていた事をすっかり忘れていました。まだ30になってないのにこうも忘れっぽいのは問題だな。
Mrs.KKには申し訳ないがここらで失礼させて貰おう。子供談義はまたの機会にと約束を取り付けて探し人の方へと歩きだした。
「挨拶回りで俺たちは最後かぁ!!あぁん?調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「どこのチンピラですか貴方は?!」
方や自由人、方や生真面目、正反対ではあるがバランスは取れている様にも思える。
「ザップ君にツェッド君だね。君たちの事は"
「師匠と面識が?!」
「だいぶ嫌われてはいるがね。それでもそこらのゴミクズよりは認識してもらえてると思うよ」
自身の尺度で物事を進める破茶滅茶な人ではあるが、才能と研鑽が大好きな真面目な方だ。
「種族特性ごり押しで、血闘としては技術もへったくれもない私は気に食わないらしい」
「あぁ、なるほど。あの雑巾ジジイならそうだろうな」
人狼の特性である稀釈と血の操作に関しては優れていると言えるが、それ以外は欠片も才能がない。それでも戦えているからと必要以上に研鑽する事もないのが拍車をかけて嫌われている原因だろう。
「強い血界の眷属を狩りに出向くと稀に出くわすが毎度毎度、嫌味と小言を言われているよ」
「師匠はストイックな方ですから」
「気ぃ狂って自己中なだけだろうが」
弟子からの評価も中々だな。気が狂ってると言うのは彼だけに言えた事ではないと思うがね。『牙狩り』なんてやってる連中は世間から見れば全員が気狂いの類に違いない。
「それで賤厳殿から頼まれごと、というか交換条件が出されていてね」
「交換条件…というと貴女から師匠に何かを?」
「あぁ、無理を言って半ば押し付ける様にだが娘を預けてきた」
「あぁ?!正気かテメェ?!」
自分の師匠へ娘を預けた者に対して最初に出る言葉が正気を疑うものとはな。心配はいらないさ、あれには才能があるし、愚直と言えるほどに真っ直ぐだ。相性は悪くないだろう。
「君たちの妹弟子になるだろうから、仲良くしてやってくれ」
「分かりました……それで話を戻してすみませんが貴女から師匠への頼みは……?」
「あぁ、気を抜いてる様なら君たちを叩き直せとお達しだよ。死んでなきゃ好きにしても良いとも言われたな」
それくらいじゃ弟子たちが死ぬことはないだろうという一種の信頼なのか。はたまたそれで死ぬくらいなら…といった鬼畜さか。
「ほほーう?それを聞いて俺が負けるとでも?」
「師匠と並ぶと言われる貴女の実力には私も興味があります」
負けず嫌いと師匠好きか……どちらも闘志は十分といったところか。とは言ってもこの場で戰うのは流石に迷惑でしょう。
「実際にやり合うのは後日で良いでしょう。この場で暴れれば迷惑ですから」
「そう言って逃げんじゃねぇだろうな?テメェ何処に住んでるか教えろ!!」
「悪いが定住先はみつけていなくてね。今日も声を掛けた相手の家に転がり込むつもりさ」
そう言ってビビアン君にも見せびらかした連絡先と住所のメモをひらひらさせると、両者とも抱く感情は正反対だが意外そうな目で見られた。
「おっ、意外とそういった話が出来るタイプなのか!!」
「チェイン君には君と同類と言われたねぇ」
「うわぁ……」
そこからはザップ君とばかり話し始め、肩を組んで色々と情報交換をさせて貰った。くだらない猥談が6割、いや7割程だとは言っておこう。
「稀釈して心臓を掴めるんだ。体内から刺激するなんて訳ないよ。男女関係なく直接弄られれば一気だよ」
「うわっ、いや考えてみれば出来るのも当然か、にしても想像しただけでもスゴそうだ!!」
「後は体調に問題なく、集中出来る状態なら避妊の心配もいらないのは便利だよ」
「透過させちまえば良いのか!!そう考えると便利な種族だな!!」
一部のメンバー以外にはかなり白い目で見られただろうがいつもの事だ。下手に隠して、自分を殺して生きるなんて窮屈な真似はできないし、したくない。
「師匠…なぜこの人を……」
項垂れる気持ちは理解できるし、私が悪いのも分かっているが、それについては私にも解らないな。まぁ、何はともあれ色々と約束を取り付ける事は出来たと言っておこう。
「仲良く出来ている様で良かったよソレイユ君」
アレを仲良くで済ませてくれるあたり懐が広いというか、純粋というか。まぁ、だからこそ周りの者がついていくんだろう。
「良いところだねここは」
「そう言ってもらえると私としては嬉しい限りだ」
確かな思想を持ってそれを貫き通そうとする姿勢には感嘆させられる。しかも、常識が非常識の塊であるヘルサレムズ・ロットで異界存在を相手にだ。
「ライブラとしては手伝える事も手伝えない事もあるだろう」
「まぁ、均衡を乱しかねないのは理解してますよ」
場合によっては異界に思い切りちょっかいをかける事になるかもしれない。その時は個人として動くつもりだが、彼らに止められる可能性も全然ある。
「だが隣人としてこの街で過ごす上で困った事があれば気軽に声をかけて欲しい」
「ふむ…頭の隅に入れておくよ」
こうも真っ直ぐなお人好しはそうそう見られないだろうな。まぁ、ライブラでの生活もそれなりに楽しめそうだ。