ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~ 作:ウルハーツ
ライザの遺跡探索に新たな仲間として3人の面子が加わった。島を出て武者修行の旅をしていた幼馴染、レント。オーレン族の何か植物を求める謎多き女性、セリ。嘗て島へ訪れたクラウディアの護衛として契約した旅人、レティシア。最初は少なかった探索仲間も気付けば7人となり、とても賑やかなものとなる。
遺跡を探索する為の準備や、新たな遺跡を見つける為の手掛かりは思わぬ形で手に入るもの。故に次なる遺跡の手掛かりをタオや他の者が探す間、ライザは王都のカフェにある掲示板で依頼を確認をしていた。数々の悩みがそこに集まり、彼女はそれを解決する事で生活費を稼いでいるのだ。彼女の他にも冒険者が依頼を受ける場所であり、レントやレティシアもそこの依頼を普段は熟している。
「あ、セリさん。こんにちは」
「ライザ……貴女も依頼を探しに来たのかしら?」
「はい。って、『貴女も』って事はセリさんも?」
「えぇ。と言っても、私が熟す訳では無いのだけれど」
掲示板を眺めていたライザは傍へ近づいて来たセリの姿に気付いて挨拶をする。そして彼女の言葉を聞いて首を傾げれば、セリは特に隠す理由も無かった事で説明を始めた。彼女は言わば仲介であり、彼女が受諾した依頼を熟すのはレティシアである。時折カフェへ本人が訪れる事はあるが、基本的には顔を隠しているため怪しさ満点。そこで彼女が間に入ってスムーズにやり取りをしているのだ。……実は見た目や何度か熟した実績から、既にレティシアはそこまで怪しまれていないのだが、本人はそれを知らない。
「これが良さそうね」
「魔物退治。それも、ちょっと危なそうな……」
「大丈夫よ。彼女の腕は貴女も知っているでしょう?」
「そう、ですけど……やっぱりちょっと心配というか……」
ライザの言葉にセリはほんの僅かに笑みを浮かべながら、それを受諾する為に手続きをする。そして一言告げてカフェを後にしたセリの姿を見送ったライザは、適当に熟せそうな納品の依頼を見つけて受諾するのだった。
「この辺りですわね」
「……」
セリを経由して受諾した依頼を熟す為に、エルネスタ廃坑へ訪れていたレティシアとパティ。まるで先導する様に歩く妹の姿を前に、顔を晒したレティシアは標的を探す為に動かしていた足を止める。
「ついて来る必要、ない」
「私にも手伝わせてください。ふふ、姉妹揃っての共同作業ですわ」
「……」
「それに、私はお姉様と一緒なら何処だって楽しいですから」
「っ!」
嘗て言われた事のある言葉に少し反応しながらも、帰るつもりは無いと分かったレティシアはそれ以上言う事はしない。……やがて彼女達は依頼の討伐対象であるミニゴーレム種のラスティオニキスと遭遇する。自分達に気付いた魔物側も戦う気満々の様で、パティと顔を見合わせたレティシアは互いに頷いて武器を構えた。
「語らずとも通じ合える私たちの阿吽の呼吸。見せつけてあげますわ!」
「……」
闘志を燃やして武器を敵に向けて構えたパティの姿に、レティシアは僅かに目を細めてジトっとした目を彼女へ向ける。だが言葉は分からずとも挑発と受け取ったのか、魔物はパティに向けて攻撃を繰り出した。しかし素早く回避した彼女は武器で一閃。鉱石で出来たそれを切り裂く事は難しく、幸いにして刃は欠けなかったもののダメージも小さかった。だがそれでもパティは良かった。
「斬る……っ!」
攻撃が当たった事で魔物の身体は微かに体勢を崩し、その瞬間にレティシアは鞘に納めた刃の柄へ手を置いて一気に駆け出す。そして通りすがりに一瞬閃く銀の輝きが、魔物の身体を鉱石であろうと関係なく両断した。刃を出した素振りも見せずに呼吸を一息すれば、横から聞こえて来るのはパティの賛辞。
「流石ですわ、お姉様!」
「パティの、お蔭」
相手に隙が無ければ一撃での討伐は難しく、それを成し得る為にはパティのアシストが必要不可欠であったとレティシアは分かっていた。故にお礼を告げれば、嬉しそうにパティは笑みを浮かべる。
その後、討伐した証となるものを手に王都へ戻る事になった2人。そこでパティは徐に提案する。
「お姉様、昔の様に手を繋いでも良いですか?」
「? ……ん」
「ぁ……ふふ。懐かしいですね」
パティの記憶に蘇る、幼い頃の記憶。それは小さな自分の手を引いて王都を歩く小さな背中。当時のパティにとっては大きな背中であり、大好きな背中でもあった。ある日を境にその背中を見れなくなったパティにとって、再び見れる様になったその変わらない背中は心から安心感と幸福感を感じられるもの。あの頃と違うのは、自分が成長してレティシアが殆ど成長していないという事だけ。今ではどちらの背中が大きいのか……パティはきっと、問われれば迷いなくレティシアだと答えるだろう。
王都へ帰還したレティシアはフードを目深に被って、パティと共に街の中を歩く。手に入れた討伐の証拠は夜にセリへ渡して彼女に達成の報告と報酬を受け取って貰う為、即座にカフェへ向かう事はしない。パティがセリの代わりに報告をしようとした事もあったが、彼女の立場がそれを妨害する。彼女は王都に住む貴族の娘、なのだ。
「お姉様、この後はどうなさいますか?」
「予定は、無い。適当に過ごす」
「なら、夕方までは一緒に居ても良いですよね?」
「……ん」
パティの言葉に頷いて、露店を回りながら適当に時間を潰す事にしたレティシアは昔に戻った様に2人の時間を楽しむ。念の為、レティシアである事が気付かれない様にパティのお姉様呼びは小さくレティシアにだけ聞こえる様に配慮して。……だが彼女は貴族の娘であるという事実を少々甘く見てしまったのかもしれない。
そもそも、パティがアーベルハイム家の娘である事は王都に住む住人達にとって常識である。そんな彼女がフードを目深に被った背は小さいものの不審者の様な人物と共に行動していれば、目立ってしまう。何度か過ごしている間はまだ告げられずに済んだものの、遂に彼女の生活の一部が父親であるヴォルカーの耳へ届いてしまう。……怪しい人物と娘が共に明るい内は毎日の様に行動を共にしている。それを聞いて心配にならない親は居ない。
「パティ、話がある」
「お父様……?」
レティシアと共に楽しい時間を過ごしたパティが夕時を迎えて自宅へ帰った時、普段から威圧感のある父親の更に圧を感じる声音にパティは思わず内心で身構える。
「最近、どうやら怪しげな者と一緒に行動している様だな」
「……」
それが誰の事を指しているのか、パティに分からない筈がない。一体その人物は何処の誰で何者なのか、語る様に向けられた父親の視線を前にパティは必死に言葉を選んだ。レティシアが今でも王都で姿を隠しているのは、自分の素性を隠したいから。そして何より、父親であるヴォルカーに見つかりたくないからである。死んだ筈の娘が生きているとなれば、彼にとって衝撃なのは間違い無い。だがその後どんな行動を取るのか……少なくとも自由な旅へ再び出る事は適わなくなってしまうだろう。
「貴族とし……親として。お前が素性の知れない不審者と行動しているのを許す訳にはいかない」
「分かって、います」
ヴォルカーは最後まで言い掛けた言葉を無理矢理中断させて言い直す。その言葉がレティシアの消えた原因であると思っていたからだ。しかし親として彼の思いは正しく、パティは必死に言葉を探し続ける。
その頃、レティシアは宿で帰還したセリに依頼の報酬を受け取って一安心する。アーベルハイム邸に重苦しい空気が支配する事など、何も知らずに。