ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~ 作:ウルハーツ
ライザが王都の職人区へ足を運んだ時、そこでクリフォードと話をするレティシアの姿を目撃する。珍しい組み合わせと思いながら挨拶も兼ねて話し掛ければ、2人はライザに気付いて挨拶を返した。フィーも元気よく挨拶をすれば、レティシアとクリフォードの周りを一周する。
「そう言えば、2人は知り合いだったんだよね?」
「あぁ。と言っても、1度遭遇しただけだけどな」
「ん。偶然」
「ちょっと興味があるかも」
クリフォードがレティシアを見た際の反応から知り合いである事は知っていたライザだが、どの様な経緯で知り合ったのかは知らなかった。そこで質問すれば、クリフォードは思い出す様に顎へ手を添えて語り始める。……それはトレジャーハンターとして旅する中で、お宝を求めてとあるダンジョンへ潜った頃のお話。
「洞窟で会った。それだけ」
「ガクッ。いや、まぁそうなんだけどな。他にも色々あったろ? 例えばその冒険具の使い方とかよ」
「ん。便利」
語ろうとするクリフォードを余所に簡潔過ぎる説明をしたレティシア。それに思わず肩を落としながらもクリフォードが説明するのは、冒険具についてだった。
レティシアが身軽に移動する上で使用している鋼糸は冒険具の一種であり、初めてライザ達と出会った数年前は所持していなかった道具である。それはとあるお宝の眠る場所でレティシアが見つけた道具であり、そこで彼女はお宝を求めて訪れたクリフォードと出会ったのだ。先にお宝を見つけられてしまったのなら、奪う様な無粋な真似は決してしない彼だが、今一扱い方が分かっていなかったレティシアを見兼ねて使い方を伝授する事にした経緯がそこにはあった。
「ありがとう」
「言ったろ? せっかく暗い洞窟の中から見つけ出されて、陽の目を見れる様になったんだ。使い熟された方が、そいつも喜ぶさ」
正しく男前と言える彼の台詞にレティシアは頷いて、身体の一部の様にそれを一瞬振るって見せる。旅人とトレジャーハンター。職種は違えど似た様な危険へ挑み続ける2人だからこそ分かる何かがあるのだろう。昔から冒険に憧れを抱いているライザは少し2人が羨ましく思う。
「売らなくて、良かった」
「売る気だったのかよ!?」
「お金、無かった」
「……」
初めて出会った頃も真面な食事をしていなかったレティシア。それを思い出したライザは、つい先程抱いた羨ましいと思う感情をそれ以上に持つ事は無かった。
王都でルベルト商会の行商を仕切る程に立場を大きくしたクラウディアは、冒険に出ている時間以外も大忙しだった。しかし彼女も時に休憩を挟まなければ倒れてしまう。何とか取引を一段落させたクラウディアは、自分が普段休んでいる家へ戻る前に王都の中を歩き回る。……その様子は何かを探している様にも見えた。
「あ、ライザ!」
「クラウディア! もしかして、休憩中?」
「ううん。今日の取引はもう終わったの。ねぇライザ、レティシアが何処に居るか知らないかな?」
「う~ん、この前はクリフォードさんと職人区に居たけど……今は何処か分からないや。パティなら分かると思うけど」
「そっか。もう少し探してみるね!」
「何か急用? 一緒に探そっか?」
「本当!? 助かるよ! ありがとう、ライザ!」
ライザの協力を借りてレティシアを探し回るクラウディア。王都はとても広いが、レティシアの格好は非常に目立つ。故に探すのはそこまで大変ではなく、ものの数分でライザはレティシアを発見した。クラウディアが探している事を伝えれば、特に何の用事も無かった事でレティシアはライザと共に彼女の元へ。クラウディアはライザに連れられて現れたレティシアに気が付くと、その名を呼びながら駆け寄り始めた。
「用事?」
「うん。あのね、今日はこの後時間が開いてるの。でも流石に休まないと明日も大変そうで……もし良かったら、一緒に寝てくれないかなって思って」
「い、一緒に寝るって……」
「あはは、変な事を言ってるのは分かってるんだけどね。クーケン島で一緒に過ごしていた時、レティシアと一緒に寝ると凄く良く眠れて疲れも無くなったの。だから、ね?」
クラウディアのレティシアを探していた動機を知って少々引き気味だったライザだが、真剣に告げる様子を見て嘘では無い事を悟る。果たしてレティシアに安眠や疲れを取れる何かがあるのか、それは本人も分からない事だろう。しかしクラウディア自身がそれを感じているのなら、それ以上何も言う事は無かった。自身もフィーを抱いて眠る時は安眠しているため、尚更である。
「泊まっても良いし、夜は宿へ戻っても良いから……どうかな?」
「分かった」
普段から忙しいクラウディアの願いを聞いて、レティシアは特に悩みもせずに受け入れる。その後、協力してくれたライザへお礼を告げたクラウディアはレティシアと共に自分の過ごす寝床へ向かう。そしてその日、ベッドでクラウディアの抱き枕とされたレティシア。クラウディアが起きた時でも抱きしめられたままだった彼女は、そのままクラウディアと共に翌日の朝まで過ごす事となった。その結果、翌日のクラウディアはコンディションが最高となり、難しい商談も完璧に纏められたのは余談である。
ある植物を探してライザの冒険や1人で王都の外へ出向く事が多いセリは、その日根を詰めては不味いと休息を取る事にした。彼女は嘗て、目的の為なら自身の身体など顧みずに行動する事が多かった。しかしそれを自分と同じ様に自身を顧みずに行動するレティシアを見た事で改める。人の振り見て我が振り直せ、反面教師。言い方は色々あれど、自分がどれ程危ない橋を渡り続けていたのかを知る切っ掛けとなったのだ。
「という事で、貴女も今日は休みなさい」
「……」
同じ宿の同じ部屋。そこで告げるセリへレティシアがジトっとした目を向ける。自身の行動を制限される事は嬉しい事とは言えない。だが彼女の考えを伝えられ、依頼や冒険へ毎日の様に出ていたレティシアは言われた通りにする。クリフォードと話していた際も、クラウディアに捕まった際もその前に依頼を熟していたのだ。
「最近はパティも余り来なくなったから、問題は無い筈よ」
「ん」
ある日を境にパッタリと自分の元へ来なくなってしまったパティ。冒険の際には一緒になっており、本人から『家の事で少々問題が発生したので対処しています』と告げられたレティシアは家出をした身としてそれ以上首を突っ込む事はしなかった。故に誰かが外へ連れ出しに来なければ、レティシアが宿を出る理由は無い。依頼を受けるセリがそれをしないとなれば、1日宿の中で籠るのも選択肢として有りだった。
「コールは貯まったかしら」
「少し。でも、まだ厳しい」
依頼を熟して
「念の為聞いておくけれど、どの程度貯まったら王都を出るつもりなのかしら?」
「……」
「……」
「……」
「…………決めてないのね」
セリの質問に全く答えないレティシア。その様子を見て察したセリは、休むついでに今後について明確に考える事を提案する。果たしていくら貯まったら王都を出るのか。何処へ向かうのか。その辺をはっきりしないまま、今の生活を続けるのは余り良いとは思えなかったのだ。今は一緒のパティとも、再び離れ離れになる時が来る。その心構えも必要である。
「私は今までもこれからも、あの世界を浄化する植物を探し続けるわ。宛の無い旅にはなるけれど、それは貴女も同じでしょう?」
「ん。宛は無い」
「なら、何処まで一緒に行くのかも考えるべきね。ここで別れるのか、これからも一緒に旅をするのか」
王都へ来る前までは一緒に旅をしていた2人だが、お互いに別々の方角へ旅立つタイミングに今は絶好と言えた。決して互いに離れ離れになりたい訳では無い。旅は道連れという言葉がある様に、一緒の方が心強くはあるだろう。……だがセリは最近のレティシアを見て少々気になっていた。妹と和解して一緒に居る事が多くなった彼女が、本当にまた旅立つのか? と。
レティシアは王都を出てから向かいたい先を適当に上げ始める。無表情で淡々としたその様子に旅立つ事の抵抗は微塵も見えない。果たして