ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~   作:ウルハーツ

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第9話

「どりゃ!」

 

「? レントの声?」

 

 昨夜、錬金術に没頭していたライザは寝起きと共に気分転換も兼ねて、フィーと王都の外へ繰り出していた。天気は快晴。心地良い風を感じながらも歩みを続けていたライザは、ふと遠くから聞こえたレントの声に気付いて不思議に思う。普段はカフェなどで見かけるレントだが、彼も外に出ていたのだろう。そう思ってフィーと共に近づいた時、彼の姿が見える様になった位置に立つと同時に強風がライザ達を襲う。

 

「うわぁ! っとと。何!?」

 

「フィー!?」

 

 余りの風に前を見る事が出来ずによろめいてしまったライザと、彼女の身体にしがみ付いて飛ばされない様に必死で耐えたフィーが同時に前を見る。そこに居たのは大剣を構えて走るレントの姿。そして彼の向かう先には、刃を鞘に納めて姿勢を低くしながら待ち構えるレティシアの姿があった。

 

 ライザが声を掛ける間もなく、レントは大きく空へと飛びあがりながらレティシアに容赦無く重い一撃を放つ。しかしそれを最低限の回避のみで躱したレティシアが、下から上へ抜き放つ様に刃を振るう。レントは避けられたと同時にそれを予想したのか、大剣の平たい刀身を盾にして防いだ。が、一撃の強さは殺し切れずに大きく後ろへ下がる事となる。その際、彼が足を地に引きずりながら動いた事で強い風が周辺に吹き荒れる。

 

「ちぃ! まだだ!」

 

「ちょっとレント! レティシアも! 何やってんの!?」

 

「あぁ? って、ライザか」

 

「おはよう」

 

「あ、うん。おはよう。ってそうじゃなくて! 何で2人が戦ってるの!?」

 

 声を聞いてライザの声に気付いたレントとレティシアが普段通りの声音で返事をする。そんな姿に先程までの鬼気迫る様子は無く、ライザは困惑しながら質問した。鍛錬というには余りにも本気過ぎる攻撃の仕掛け方。喧嘩をしている様子は無く、彼女の疑問にレントは大剣を地面に刺して胡坐を掻く様に座りながら答える。

 

「いや、武者修行で結構デカい奴とか戦った事があるんだけどよ。俺って相手の攻撃を避けるより、受け止める方が多いんだよな」

 

「はぁ……?」

 

「で、強撃を受け止める練習がしたいって事で頼んだんだ。レティシアの一撃ってかなり重いからな」

 

「出来る限り……一撃で、仕留める」

 

「えっ! じゃあ本当に鍛錬だったの!?」

 

「あぁ。リラさんに頼むにしても、なんかかなり忙しそうだったからな。レティシアも1人で旅してたっていうし、大丈夫だろうと思ったんだけど……やっぱ強いな」

 

 それは正しく経験の差。年齢は余り離れていなくても、旅をした歴は遥かにレティシアの方が長いのだ。頭を掻きながら告げるレントの様子は少し悔しそうで、そんな彼の元へ近づきながら「そっちも」と返すレティシアの姿を見て、一先ず喧嘩では無かった事にライザは安心した。

 

「で? そっちは何か採取しに来たのか?」

 

「気分転換に外を歩いてただけよ。……ねぇ、2人の戦い。見てて良い?」

 

「別に良いけど、楽しくはないぜ?」

 

「戦士同士の戦いって、ちょっとワクワクしない?」

 

「フィー?」

 

 ライザの言葉に共感出来なかったフィーが首を傾げる中、その気持ちを理解出来たレントは納得しながら了承した。レティシアも特に嫌がる様子は無く、そのまま2人は再び戦いを再開する。時よりライザがヒヤッとする場面もあったが、レントは説明の通りにレティシアの鋭い一撃を受け止め続ける。そしてレティシアもまた、レントの攻撃を最低限の回避で避ける事で、回避能力を高める為の鍛錬をしている様にライザには見えた。

 

「私達の仲間は頼もしいね~。ね? フィー」

 

「フィー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別の日。学園区へ赴いたライザは、タオと話をするレティシアの姿を目撃する。少し珍しい組み合わせにも見え、ライザは2人の元へ話し掛けながら近づいた。

 

「あ、ライザ!」

 

「散歩?」

 

「まぁ、そんなところ。2人は何やってんの?」

 

「レティシアの旅路にあった遺跡について聞いてるんだ。今僕達は王都の周辺にある遺跡に限定して調べているけど、きっと世界には数え切れない程の遺跡がある筈だからね」

 

 遺跡調査が好きな彼からすれば、喉から手が出る程に欲しいまだ見ぬ遺跡の情報。レティシアの旅はクーケン島や王都の周辺以外にも様々な場所へ行っているため、確かに話を聞くにはうってつけの人物でもあった。同じ理由でセリやクリフォードにも話を聞く事があり、ライザは後者の人物とタオが話す姿を何度も目撃している。

 

「興味深い話は多いよ。ライザも聞いてみないかい?」

 

「私は……う~ん。錬金術に関する何かが分かるなら聞きたいけど、余り遺跡自体はね」

 

「そっかぁ。あ、ところで遺跡と言ったら僕達は色々な古式秘具に遺跡で出会ってるよね? 旅の中で遺跡に入った事もあるって言ってたけど、レティシアは拾ったりしたのかな?」

 

「……ん。拾った」

 

 タオの質問に少し思い出す様な仕草をしてから、頷いて肯定するレティシア。その話にはライザも興味があったため、話を聞く事にした。今現在遺跡探索で使用しているコンパスの様な物を始めとして、クーケン島にあるライザのアトリエには、小さな世界を作り出せる物なども存在する。錬金術で作られた、錬金術に役立つ品物。ライザは果たしてどの様な物をレティシアが見掛けたのか、その使い道は何なのか……気になって仕方が無かった。

 

「安かった」

 

「……売っちゃったんだ」

 

「ま、まぁ確かに古式秘具は錬金術を知らないと殆ど意味の無い物が多いからね」

 

「20コール。70コール」

 

「うぅ、安い。せめて売らずに持っててくれたら、私が買っても良いくらいなのに……」

 

 既に無い物を強請っても仕方が無い。故にライザは残念そうに肩を落とすしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば最近、レティシアはパティと一緒に居ないよね?」

 

 ライザのアトリエ。そこで膝にフィーを眠らせたまま、向かい合う様に座るクラウディアと話をしていたライザは思い出した様に話を切り出した。クラウディアが言われた言葉に「確かに」と思い出しながら同意する中、突然アトリエの扉がノックされる。その音でフィーが目を覚まし、ライザが入室を許可すれば……入って来たのは今始めようとした話の中心人物、パティであった。

 

「いらっしゃい、パティ」

 

「お邪魔します、ライザさん。クラウディアさんも一緒でしたか」

 

「こんにちは、パトリツィアさん」

 

「フィー?」

 

「あ。もしかしてフィーちゃん、眠ってましたか?」

 

「大丈夫大丈夫。あんまり明るい内に寝ちゃうと、夜眠れなくなっちゃうからね」

 

 眠そうに眼元を擦るフィーの姿に申し訳なさそうにしたパティへそう告げながら、空いていたソファへ座る様に促したライザ。お茶を用意しようとすれば、それを断って座ったパティが少々真剣な面持ちでライザへ視線を向けた。

 

「ライザさん。直球にお聞きします。お父様の記憶を消す様な道具、作れないでしょうか?」

 

「……はい?」

 

「何を、言ってるの?」

 

 パティの言葉に訳が分からず聞き返してしまうライザと、同じ様に理解出来なかったクラウディア。自分の父親の記憶を消そうとする等、正気の沙汰では無い。一体何が彼女にそんな事をさせたいと思わせてしまったのか。まずは冷静にさせた上で、2人は視線を合わせて頷き合いながら聞き出す事を決める。

 

「何の記憶を消すつもりなの?」

 

「お姉様の記憶です。ここ最近の事でも良いですが、それでは一時しのぎにしかならないと思いますので」

 

「えっと、それはどうして?」

 

「……お父様が最近、私の周辺を見張っている様なのです。恐らくここへやって来た事も、お父様は既にご存知の筈」

 

 徐々に聞き出していくパティの近況。全ての始まりは、パティがフードを被った姿を隠す不審な人物と頻繁に行動を共にしているところを貴族が目撃してしまった事から。貴族という立場を理由にはせずとも、娘が怪しい人物と共に行動しているとなれば親として放っておける訳が無い。その人物の詳細を問い質されるも、パティは答えられず、結果的に様々な手段で見張られる様になってしまったのだ。

 

「今下手にお姉様の元へ行けば、お姉様について知られてしまうかもしれません」

 

「パトリツィアさんは、お父さんにレティシアの事を知られたくないの? どうして?」

 

「お姉様が生きていて王都に居ると知れば、お父様は確実に接触します。そうなってしまえば最悪の場合、お姉様が旅立てない様にしてしまうかもしれません。例えそうはならなくても、お姉様はお父様を避けています。もし知られた事をお姉様が知れば、旅の路銀が足りなくても逃げる様に旅立ってしまう可能性があります」

 

「う~ん。確かに今も顔を隠してるのは、気付かれたくない証拠だよね。ありえるかも」

 

「こうなったら、お父様がお姉様を忘れる。もしくは私が接触する相手が問題無い人であると分かってもらう必要があります。ですが後者はお姉様の正体を明かす事になります。となれば、出来る事は前者しかありません」

 

「……全てを明かして、レティシアの旅立ちを許してもらう事は出来ないの?」

 

「それは…………難しいと思います」

 

 ライザとクラウディアは同時にパティの言葉を聞いて気付いた。それが決して不可能では無いという事を。だがパティ自身がそれを良しとしていない様子で、その理由がレティシアを心配しての事なのか、別の感情があるのか……それは定かではない。

 

「取り敢えず、もう少し考えてみようよ。ね? お父さんの記憶を消すなんて、そんな事はしちゃ駄目だよ」

 

「焦って答えを出そうとしても、良い答えは出ないと思う。私達も協力するから、まずは落ち着いて」

 

「そう、ですね……お姉様と会えないのは辛いですが、今は辛抱する時なのでしょう。……あぁ、お姉様。今何処で、何をしているのでしょうか……」

 

「……」

 

「……」

 

 ソファから立ち上がり、窓の外を眺めながら想いを馳せるパティの姿に2人は何とも言えない表情を浮かべながら、彼女の抱える問題を解決する為に考え始める。

 

 

 

「やっぱり。仲直りさせるのが一番確かで手っ取り早いよね?」

 

「うん。私達で何とかして、その方法を考えよう!」

 

 今この時、当事者であるパティやレティシアに覚られない様にしながら、アーベルハイム家の問題を解決する為の計画が始まろうとしていた。




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