ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~   作:ウルハーツ

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プロローグ(中)

 ルベルト親子のお世話になる事となって数日。レティシアはクラウディア経緯でクーケン島に住む3人の少年少女と知り合いになる。

 

「ライザリン・シュタウト。ライザで良いよ。にしても、本当に同い年? 全然見えないんだけど……」

 

 最近は錬金術と呼ばれる技術に出会い、勉強をしながら日夜忙しなく行動している少女……ライザ。

 

「レント・マルスリンクだ。お前も戦えるん、だよな?」

 

 ライザに巻き込まれながらも強くなろうと師の教えを聞きながら鍛錬を続ける青年……レント。

 

「タオ・モルガルテンだよ。2人とも、ちょっと失礼だよ」

 

 同じくライザに巻き込まれながらも自宅にある古書の解読に勤しむ少年……タオ。

 

 彼ら3人は以前クラウディアが魔物に襲われた際、その悲鳴を聞いて駆け付けた者達である。当然レティシアとも面識はあったが、会話という会話は殆どしていなかった。故にクラウディアへ会いに来た時、一緒に居たレティシアと改めて自己紹介をする事になる。その際、クラウディアが自分と同い年である事を説明。それはライザも同じという事であり、身なりが整った上にクラウディアの存在もあって、ライザは躊躇なくレティシアの傍へ近づいて眺め始めた。

 

 一方、レントも同じ様にレティシアを見つめていた。それは色恋沙汰の関係した視線では無く、言うなれば好奇の目。実際にその戦いを目の当たりにした訳では無いが、クラウディアから自分を守って魔物を退けたと聞いていたのだ。……果たして彼女がどれ程戦いにおいて強いのか、強い戦士を目指す彼は気になっていた。

 

 島から殆ど出た事の無い彼らは島の外での話に興味津々だった。特にライザは島から出て冒険をしたいらしく、以前叱られても尚止める気は無い様子。隊商と共に行動するクラウディアの話は勿論、今まで旅をして来たらしいレティシアの話にも興味を示した彼女は何とかその話を聞き出そうと何度も話し掛け続ける。レントやタオは未だ半信半疑だが、クラウディアを救ったという実績がある故に強ち嘘だと決めつける事はしない。

 

「それでね、色々食べて貰ってるんだけど……元々余り食べられないみたいで」

 

「木の実ばっかりじゃ、流石の私でも栄養が足りないって思うよ。でもそっか。なら美味しくて栄養のある何かを作って食べてもらえれば、レティシアは大きくなれるかもしれないんだね」

 

「まさか、それも錬金術で作る……なんて言い出さないよな?」

 

「そもそも食べ物って作れるのかな? そりゃ、薬とかは出来たみたいだけど」

 

 女三人寄れば姦しいと言うが、レティシアが殆ど喋らない代わりにレントとタオがライザ達の言葉に反応する。4人が話すのはレティシアが旅をして来た間、木の実しか食べて来なかったという事実について。クラウディアと共に生活する様になって他にも食べる事は出来る様になったが、そもそもレティシアは最低限の食事量で済ませていた。故に胃が小さく、人よりも食事量が少なかったのだ。そしてそれを気にしたクラウディアの相談に、ライザは頭を悩ませ始める。

 

「ちょっと試してみるよ。何となーく出来ない事は無い気がするし」

 

「うん。良かったね、レティシア」

 

「?」

 

「これ、分かってないぞ。多分」

 

 ライザの答えに嬉しそうに頷き、膝の上に乗せていたレティシアに声を掛ける。だが当の本人は首を傾げるだけで、殆ど話を聞いていなかったのだろう。レントがそれを察して何とも言えない表情を浮かべる中、一旦集いは解散となる。

 

 

 後日、ライザは錬金術でとある物を完成させる。ドライビスクと呼ぶ食べられる薬に木の実を使って完成させた、薬と食べ物の間の様な物である。

 

 ライザに渡されて少し眺めた後、特に躊躇する事も無く水で飲み込んだレティシア。栄養を取る為の行為であるため、大した変化は起きない。

 

「取り敢えずしっかり食べられる様になるまではこれで補って。だけど最終的にはこれに頼らないのが一番だからね」

 

「そうだね。頑張ってこれから食べて行こうね!」

 

「……」

 

 気合を入れる様なクラウディアの言葉にレティシアは黙って聞くだけだった。……お世話をされる様になってから、本当にお世話ばかりを焼くクラウディア。今は良いかもしれないが、何時か再び旅に出た時。この生活に慣れてしまっては不味いと流石にレティシアは感じ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そっちの木材を持って来てくれ!」

 

「レティシア、大丈夫?」

 

「ん……平気」

 

 以前レティシアが漂流した浜辺の傍にあった家跡。その傍でレティシアはライザ達と共に、家の修復作業を行っていた。

 

 発端は錬金術を自宅で行っていたライザが誰にも邪魔されずに過ごす事の出来る場所が欲しいと思った事。村の中で出来る事は制限されてしまうが、島の対岸の誰も居ない場所でなら全てが自由。そこで家跡を自分達の手で修復して、そこを拠点にしてしまおうと考えたのだ。

 

 修復作業に必要な道具はライザが錬金術で作り上げた。そしてレントが主な力仕事を行い、ライザが指示を出しながらタオとクラウディアも手伝いをする。そんな場所でレティシアだけが見ている訳にはいかなかった。本人から手伝う意思を示した事で、最初はクラウディアと同じ軽い物を運んで貰おうと指示を出したライザ。しかし思った以上に力のあるレティシアは、レントが運ぶ自分の倍以上はある板を軽々と持ち上げて見せた。運び方は非常に危なっかしいが、特に無理はしていない様子。ライザは彼女に屋根の上で作業するレントへ物を運んでもらう様に指示を出し始める。

 

「……出来た。遂に出来たよ!」

 

「あぁ、俺達でやったんだ!」

 

「凄い、凄いよ!」

 

「おめでとう! ライザ!」

 

「うん! クラウディアとレティシアも手伝ってくれて、ありがとね!」

 

「ん」

 

 やがてボロボロだった家跡は綺麗に改装され、人が住める新しい建物に生まれ変わった。まだ家具などを持ち込むのは疲労もあるため後日になるが、自分達が完成させたという達成感と喜びをライザ達は分け合う様に感じていた。

 

 主にこの場所を使うのは錬金術を使うライザ。故にこの場所を【ライザのアトリエ】と名付け、今後は皆の溜まり場として使う事に決定する。そこで少しだけ顔を伏せたクラウディア。今までライザに用があった際は、村にある彼女の自宅へ赴いていた。だが今後はここに集まるとなれば、簡単にはやって来れない。元々この場所は小妖精の森と呼ばれる魔物の徘徊する森にある場所であり、容易く遊びには来られないのだ。

 

「あ、あのねライザ! 私も……私もライザ達と一緒に冒険に行きたい!」

 

「……へっ?」

 

 今の今まで一緒に行動する事はあれど、危険から彼女を守りながらここへ来る程度の事しか出来なかったライザ達。だが今後、彼女達は森以外の場所へも赴くだろう。クラウディアの言葉はそれに着いて行きたいという意味であり、ライザは素っ頓狂な声を上げて驚いてしまう。だがレントもタオも、ライザやクラウディア本人だって分かっている。ルベルトがそれを許す訳が無いと。

 

「……」

 

「流石に無理なんじゃ」

 

「そう、だよね……」

 

「……言えば、いい」

 

「え?」

 

「言わないと……伝わらない、から」

 

「レティシア……」

 

 普段余り喋らない彼女の言葉には謎の説得力があった。まるで過去に同じ様な場面に遭遇して、後悔している様な……そんな風に見えたクラウディア。レティシアに何があったのか僅かに気になりながらも、やがて彼女は頷いて決意する。ルベルトにライザ達の冒険に着いて行きたいと伝えよう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 クラウディアの願いを聞いたルベルトは彼女を守れるかを試す為に、錬金術師ライザリン・シュタウトとその仲間達へ正式に依頼を出す事にした。それを無事に熟して信用するに値する人間となれば、娘を預けようと考えて。

 

 ある時は海の水が入り込む地下の浸水を解決し、ある時は瓦礫の撤去に必要な爆弾を錬金で製造してもらい、ライザはルベルトの出す依頼を彼の求めた以上の結果を出して解決する。それによって徐々にライザはルベルトから信頼される様になる。だがまだ足りないと次に彼が出した依頼は、ある人物達と競争して目的地へ辿り着き、帰って来る事だった。

 

「ライザ達、大丈夫かな……」

 

「……」

 

「一応私以外の護り手が傍で見守っている。ボオス達もライザ達も、命を落とす様な事にはならない筈だ」

 

 島の対岸で出発したライザ達を心配するクラウディアにアガーテが告げる。彼女の口から出たボオスと言う名は村の顔役でもあるモリッツ・ブルネンの1人息子であり、ライザ達とは過去に何かがあったのか犬猿の仲であった。今回のライザ達の競争相手でもある。

 

「?」

 

「どうしたの? レティシア」

 

「……」

 

 何かに気付いた様子でライザ達の進んで行った方角へ視線を向けたレティシアの姿にクラウディアが声を掛けるが、彼女は特に何かを答える事は無かった。だがやがて聞こえた耳を劈く様な轟音にその場に居た者達は騒然とする。その音の発生源はライザ達の向かった方角。明らかな異常事態にアガーテは即座に我に返ると、ライザ達の様子を見る為に飛び出した。……やがて帰って来たのは無傷のライザ達と、ボロボロのボオス達。話を聞けば、竜に襲われたとの事であった。

 

 競争の結果は思わぬ形で終結となるが、結果的にルベルトのライザ達に対する信頼は確たるものとなる。クラウディアを預けるに申し分ない実力はあると判断され、遂にクラウディアは彼女達と共に冒険へ出る事を許可された。

 

 一方、村ではボオスの父親であるモリッツが自身の息子を傷つけた竜を討伐する為に護り手の編成を始める。怒り心頭の様で冷静さを欠いた様子に止めようとする者も現れるが、聞く耳を持つ事は無い。そして後日、護り手のリーダーであるアガーテを含めた護り手達が竜退治へ向かう中、ライザ達はアトリエから近い事もあって様子を伺う事にした。因みに今、彼女達の傍にレティシアの姿は無い。

 

「一応、私達の拠点は見つからずに済みそうね。……でもアガーテ姉さん達、大丈夫かな?」

 

「ボオスの野郎もまだ怪我は治ってねぇってのに無理しやがって。死ぬ気かよ」

 

 ボオス達を助ける為に、一度件の竜と相対したライザ達は心配する。ブルネン家の男として、怪我をしたボオスも討伐には参加。犬猿の仲と言えど知っている相手が故に、彼の状況も気になっていた。……だからこそ、彼女達は決意する。様子を見る為に、竜の居ると言われる古城へ向かおうと。

 

 

 

 

 

 

 旧市街。ある人物の住む家の扉がノックされる。中から入る事を許可する男性の声が聞こえる中、扉を開けて入室したのはレティシアであった。

 

「君は……レティシア、だったか」

 

「ん……アンペル……さん?」

 

「あぁ、アンペル・フォルマーだ」

 

「リラ・ディザイアスだ」

 

 中に居たのは以前クラウディアを捜索する為に出会った2人組。アンペルとリラであった。前者は現在ライザが嵌っている錬金術の師であり、後者はレントの戦いにおける師である。以前に邂逅した事はある為、互いに顔だけは知っている。だがこうして真面に話すのは初めてであり、2人はレティシアがやって来た理由が分からなかった。

 

「レティシア。……お願いがあって、来た。……来ました」

 

「無理に敬語を使う必要は無い。……にしてもお願い、か」

 

「私の記憶が正しければ、私達には殆ど交流が無かった筈だがな」

 

「ライザの師」

 

「なるほど。私にではなく錬金術に、と言う訳か」

 

「それなら尚の事、ライザに頼むべきでは無いのか?」

 

 リラの言葉にレティシアは首を横に振る。アンペルはその様子を見て、「まずは話を聞こう」とレティシアを中へ迎え入れた。

 

 レティシアはアンペルへとある物を作って欲しいと依頼を出す。それはアンペルよりもリラの方が分かる様にも見える代物だが、実際には彼女も余り知識の無い物であった。ライザに頼まなかった理由はまだ錬金術を扱うようになって日の浅い彼女と、彼女の師であり長く錬金術に携わるアンペルならば、後者の方が確実でしっかりした物が出来ると踏んだ上での判断だった。

 

「使用用途は?」

 

「村の外へ出る時、使う」

 

「……出来ても余り良い物が出来る保証は無い。それでも良いなら、引き受けよう。但し素材を集めてもらう必要はあるがな」

 

「分かった」

 

 アンペルの言葉に頷き、彼女は必要な素材を紙に書いて貰ってから家を後にする。思わぬ来訪者に無意識ながらあった緊張の様なものが解け、アンペルは溜息をついた。

 

「良かったのか?」

 

「ライザ達から話は聞いているが、一先ずは大丈夫だろう」

 

「そうか。お前がそう判断したなら、任せよう。……それにしても鞘に収まった剣、か」

 

「中々に珍しい武器らしいな」

 

「あぁ。故に生半可な戦いの技術では到底扱えない。ただ背伸びをしているだけか、扱う実力があるのか……どちらだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライザ達が竜を倒した。その話題で村は持ちきりになった。様子を見に行った彼女達は竜と戦うアガーテ達が危ないところに遭遇して、彼らを助ける為に竜と戦う事になったのだ。無事に討伐する事が出来た事でライザ達はモリッツから感謝され、気分良さげにアトリエへ赴いていた。

 

 その頃、クラウディアから離れて1人で行動していたレティシアは島の対岸へやって来ていた。目的はアンペルに物を作ってもらう為に必要な素材を集める事。何も武器の無いまま、彼女は森とは違う方角……旅人の道と呼ばれる以前ライザ達が競争をした道を歩く。魔物も徘徊するが、戦う手段が無い為に基本は接触しない様に気を付けながら。

 

 旅人の道を超えてやがて辿り着いたのは、ヴァイスベルクと呼ばれる火山であった。そこで周囲を見渡してからそれっぽい岩を見つけるや否や、何処からともなく金槌を取り出す。そして大きく振り被って岩を叩けば、力のある彼女が振り抜いた金槌の当たった場所は破壊された。が、騒音を出してしまった為に魔物にも気付かれてしまう。

 

「……」

 

 ミニゴーレム種と呼ばれる魔物。身体が鉱石で出来ており、武器の無いレティシアは金槌を手に構える。しかし武器用では無いそれで戦うのは殆ど無謀であった。身体を回転させて突進してくるそれを避け、金槌を振るうが……何時かの様に柄の部分を残して金属部分は何処かへ飛んで行ってしまう。

 

「あ」

 

『!』

 

 痛みは感じたのだろう。怒る様子を見せてミニゴーレムが攻撃を仕掛ける。目の前の光景に固まっていたレティシアは反応が遅れてしまい、その突進を受けそうになった。しかしミニゴーレムが接触する寸前、突如飛来した氷の礫がミニゴーレムに襲い掛かった。

 

「はぁ!」

 

 そして現れた女性は腕に取りつけた手甲から伸びた鉤爪で、ミニゴーレムに攻撃を加える。岩をも切り裂く鋭い鉤爪に堪らず倒れたミニゴーレム。もう危険は無いと判断したその人物は、状況を見ていたレティシアへ振り返った。

 

「武器も持たずにこんな場所で1人、死ぬ気なのか!」

 

「……」

 

「旅人と聞いたから最低限の危機管理は出来ると踏んだんだが……村を出るところを目撃してから様子を見に来て正解だったな」

 

「……ありがとう」

 

 レティシアは自分を救ってくれた相手、リラにお礼を告げる。そんな様子を前に、リラはレティシアの中に見える焦りの様なものに気が付いた。今まで旅をして来た事は嘘では無いのだろう。実際にここまで戦いを見事に回避する事は出来ていた。だが、詰めが甘かったのだ。そしてその原因は、何かに対する焦り。リラは溜息をついて、地面に転がる鉱石を拾った。

 

「これがあれば作れる、という話だったな」

 

「ん」

 

 レティシアはそれを拾い始めると、金槌同様に何処からともなく袋を取り出して回収し始める。

 

 先程の光景を見たリラは今すぐにでもアンペルに話をして、作るのを止めてもらうべきかも知れないと考える。だが彼女が本当はどれ程の実力なのか、興味もあった。焦りが無ければきっと今の様な失敗はしない。やがて無理に抑え込むよりも、彼女の焦りを解消する方が良いと判断したリラは拾うのを手伝い始める。

 

 その後、山を下りて村へと帰還したレティシアはその足でアンペルの元へ向かった。集めた鉱石を始めとして、旅人の道で採取した素材なども提供。リラと一度目配せをしながらも、アンペルは約束通りに作る事とした。

 

「出来るのは数日後だ。適当に日が経ったらまた来てくれ」

 

「ん……お願い」

 

 アンペルの言葉を聞いてレティシアはお辞儀をすると、彼らの家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。ライザが港に現れた巨大な魚の魔物を錬金術の力で撃退し、改めて村の人達に錬金術の凄さを見せつけた頃。

 

 色々あって忙しかったアンペル達の元に、再びレティシアが現れる。目的は言うまでもなく、アンペルは彼女へ依頼された通りの物を差し出した。

 

 柄は黒く鍔は銀に光輝き、白い鞘からゆっくりと抜かれた刀身は鍔以上に輝いていた。片刃の刃は僅かながら後ろに反り返っており、刀身は薄いが切れ味は申し分なさそうである。だがそれを扱うにしてはレティシアは小さ過ぎた。彼女の身長とそれの長さは、殆ど同じだったのだ。

 

「カタナ、と言ったか。レティシアは何処でこれを知ったんだ?」

 

「先生が、使ってた」

 

「先生?」

 

「ん……剣を教えてくれた、人」

 

 アンペルの質問にそう答え、「ありがとう」と告げて頭を下げてから家を後にするレティシアの姿にリラは目だけでアンペルに意を伝える。「行って来い」と答えた事で、リラはレティシアを追う様に家を後にした。

 

 レティシアはその足で島の対岸へ向かうと、小妖精の森へ迷わずに足を進める。すると以前の様に現れた妖精の魔物がレティシアの存在に気付いて近づき始めた。

 

「……」

 

『!』

 

 妖精が攻撃を仕掛けようとした瞬間、一瞬だけぶれたレティシアの身体。それはリラも微かに捉えられた程度の変化であり、普通の人間には何もしていない様に見えただろう。だがゆっくりと妖精は後ろに下がり続ける。それもその筈。妖精の背後に落ちていた木が綺麗に切られており、目の前には地面を切り裂いた様な跡が残っていたのだから。果たして妖精にそれをやった者がレティシアだと判断するだけの知能があるかは分からない。だが、本能が勝てないと告げたのだろう。やがて逃げる様に空を飛んで何処かへと行ってしまう。

 

「やっぱり……外した」

 

 1人で静かに呟いたレティシアの言葉を聞いていたリラは同じ戦う者として、彼女が感じる焦りの原因に察しが付いた。

 

 村にやって来てクラウディア達の元でお世話をされる様になってから、彼女は武器を握る機会が殆ど無かったのだ。武器が無いのだから、それも仕方が無い。鍛錬を怠ければ怠ける程に、自身の腕が劣ってしまうのは戦士の常識。戦えず、鍛錬も出来なかった事で自身が弱くなる事実にレティシアは焦りを感じていた。

 

 それから少しの間、レティシアは刀を使った鍛錬を行い始める。常人には見えない速度の抜刀。まるで自分の手の様に刀身を動かして狙った物を斬りつける。時には落ちている大木にも狙いを定めるが、真ん中より少しずれた位置を切ってしまう事でレティシアは自身の衰えを感じていた。

 

「この調子なら、大丈夫そうだな」

 

 ライザからの情報で小妖精の森に危険な魔物が居る事は知らされていたが、その目撃された場所は更に奥へ行った場所。それ以外の魔物も鍛錬の様子を見るに問題無いと判断して、リラはその場を後にした。……後に残ったレティシアは空が暗くなるまで刀が自身の手に再び慣れる為の鍛錬を続け、結果的に帰りが遅くなってクラウディアに怒られる事になるのだった。




常時掲載

【Fantia】にて、オリジナルの小説を投稿しています。
また、一部先行公開や没作の公開もしています。
下記URLから是非どうぞ。
https://fantia.jp/594910de58
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