ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~   作:ウルハーツ

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第3話まで公開します。


【時系列】ライザのアトリエ2
第1話


 クーケン島から旅立って2年程が経った頃、節約しながら使っていた路銀も底を尽きたレティシアは森の中を彷徨っていた。魔物は徘徊するものの、そこまで危険な存在ではない。青ぷにをバレンツ家からそのまま譲り受けたパーカーワンピ(藍色)のフード部分に入れ、彼女が探すのは……食べられる木の実である。

 

 旅の中で食べられる木の実、食べてはいけない木の実の種類は沢山覚えて来たレティシア。だが例え何年も旅をしていたとしても、全ての種類を知っている訳では無い。中には初めて見る種類の木の実もあり、その際に行うのは小さく齧って様子を見る事。因みに茸も同様である。中には命の危険がある程の毒を持つ物もあり、何度も危険な経験はして来たレティシアの身体には多少毒に対する免疫も生まれていた。

 

「……」

 

 そして今、レティシアは初めて見た木の実を手にジッとそれを眺め続ける。青ぷには眠っているのか動く様子を見せず、レティシアは少しの間を置いてそれを食べてみようと口を開けた。……途端、強い風がレティシアの手元だけを襲う。青ぷにが驚き飛び上がる中、レティシアの持っていた木の実は地面へ転がり落ちた。

 

「それは、食べては危険よ」

 

「?」

 

 続いて掛けられる、か細い女性の声。振り返った先に居たのは1人の女性であり、レティシアは女性と落ちた木の実を交互に眺めてから自分を助けてくれたのだと理解する。嘘の可能性も無くはないが、そもそも初対面。嘘をつく理由が無いのだ。

 

「ありがとう」

 

「えぇ。……迷子の子供、では無いわね」

 

 レティシアのお礼を受け入れた後、女性は小さな身体を見て僅かに眉を潜めながら告げる。迷い込んだ子供が木の実を食べようとは普通思わないだろう。余程にお腹が空いているのか、それに慣れているのか。女性は一切の躊躇が無かった事からレティシアを後者と判断した。背後で自分を眺める青ぷにもその要因の1つである。

 

 それからお互いの自己紹介を経て、自分達が共に旅人であると知ったレティシアと女性は森の中を共に行動する事になった。何年も旅をして来た事を聞いて驚き、今まで変わった植物を見なかったのか聞かれるレティシア。対してレティシアも女性から食べられる木の実の種類などを新たに教えてもらい、2人は情報を交換し合う。やがて森を抜ける事になった時、改めてお互いに向かう先についての話をする。無口な2人の会話はそれなりに気が合ったのか、そのまま共に旅をする事になるのも時間の問題であった。

 

 

 

 

 

 

 クーケン島。

 

 ライザが人知れず、仲間達と共に島を救う為の大冒険を経験してから3年。彼女は1人島に残り、錬金術を使って村の人達の手助けをしながら先生の様な事もして過ごしていた。

 

 そんな彼女に届いた王都で過ごすタオからの手紙。錬金術に関する何かがあるかもしれない遺跡が、王都の周りには存在するらしいという内容。彼は歴史を知りたいが為に、そして錬金術の成長に行き詰まりを感じていたライザはそれを解消する為に。新たな冒険が始まろうとしていた。

 

 クーケン港から出る船に乗って王都のある大陸の港へ到着したライザは、そこで名も知らぬ者と出会いながらも無事に王都、アスラ・アム・バートへ到着する。高い建物と島とは比にならない程の人混みに酔い、目を回す中で再会したのは逞しくなったボオスと……最早別人と言える程に成長したタオの姿だった。

 

 彼らが普段通っているという学園区に存在するカフェへ訪れたライザは、そこでタオが調べた王都に残る伝承についての説明を受ける。遺跡の存在が発覚している場所もあるが、王都の人間は歴史に無関心。故に発見されたまま残っている可能性も告げられ、彼女の好奇心は大いに刺激される事となった。

 

「あ。そう言えば私、住むとこが無いんだけど……これから探さなきゃ駄目かなぁ」

 

「そうなると思って実は目星を付けておいたんだ。ただ……」

 

 何はともあれしばらくの間、王都で滞在する必要があると確信したライザの悩みにタオが笑顔で答える。だが最後に何かを言い淀む姿を見て、ライザは首を傾げた。ボオスも言い難そうに頬を掻いており、やがて呼びに行く為にタオが立ち上がってしまった事で彼は「押し付けやがった」と悪態をつきながらも説明を始めた。

 

「俺は殆ど知らねぇが3年前、クラウディアとアンペルさん達の様に滞在していた奴が居た筈だ」

 

「レティシアの事?」

 

「あぁ。……そいつと今から来る奴には、深い関わりがある」

 

「? どういう事?」

 

「説明すると面倒だ、後でタオに聞け。だがな、これだけは覚えておけ。……今から来る奴の前で、その名前は軽々しく出すな。面倒な事になる」

 

「???」

 

 ボオスの言葉で頭の上に沢山の『?』を浮かび上がらせる事になったライザ。やがてタオが連れて来たのは、1人の少女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ライザが王都へ訪れるより前、王都近郊の港へ到着した船から降りる女性と子供の姿がそこにはあった。子供はフードを目深に被っており、近づかない限りはその顔を伺う事は出来ない状態になっていた。

 

「セリ、お別れ」

 

「そうね……また会いましょう、レティシア」

 

 旅を友に続けた女性と子供……セリとレティシアだが、彼女達が共に行動するのはこの日が最後の予定であった。セリの目的地は王都の周り。故に滞在する場所は自然と王都になるのだが、それを聞いたレティシアがそこへは行けないと向かう事を拒否したのだ。結果、セリを見送って再び何処かへと旅立つつもりだったレティシアは彼女に別れを告げて再び船へ乗り込もうとする。

 

「嬢ちゃん、もう1回乗るなら再度コールを払ってくれよ」

 

「……」

 

 だが掛けられた言葉にレティシアの足は止まった。急に止まった事で異様に膨らんだ胸元が揺れ、見ていた者が訝し気な表情を浮かべる中でレティシアはセリへ振り返る。実は彼女、セリと出会った頃から変わらずお金を殆ど持っていなかった。セリのお蔭で自然に自生する食べられる物も増え、余りお金を使う機会が無くなってしまったのだ。今回ここへ来るまでの費用はセリが持っており、返る為のお金を出せるのは彼女だけ。しかし彼女は微かに微笑んで首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしても、王都へは行かないと言うのね?」

 

「ん……」

 

 王都近郊から森へ入った場所で、レティシアは外したフードに胸元で隠れていた青ぷにを入れた状態でセリと話をしていた。王都周辺から海を伝って離れる方法を失ってしまったレティシアに出来る事は、王都から離れた森で何時もの様に木の実などを集めながら日を跨ぐ事だけ。しかし何時までもここに居られる訳では無い為、お金を稼ぐ必要もあった。

 

「王都へ行けば、依頼も受けられる筈よ」

 

「……」

 

「そうね。ふかふかのベッド、美味しいご飯。数日なら、私が全額立て替えても良いわ」

 

「…………」

 

 旅に安心出来る時は決して多くない。しかし王都の中でなら安全は保障される。食べ物も木の実だけでない美味しいものがセリの言葉通り、宿へ入ればある事だろう。長い旅の中でそれがどれだけ大きなものかを知っているレティシアにとって、その誘惑は余りにも魅力的なものだった。心無しか無表情ながらも悩んでいる様にも見えるレティシアの表情に、セリはまた僅かながらに微笑みを浮かべる。

 

「依頼は代わりに私が受けてあげるわ。それなら、良いんじゃないかしら」

 

「…………分かった」

 

 説得の末、遂に折れたレティシアは再び青ぷにを胸元に入れてフードを目深に被る。セリはどうしてレティシアがそこまで王都へ入りたがらないのか、その理由を知らない。しかしフードを被る事から顔を見られたくないという事だけは分かり、深く尋ねる様な事はしなかった。




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