ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~   作:ウルハーツ

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第2話

 王都アスラ・アム・バート。そこで滞在する事になってしまったレティシアが、セリの協力を仰ぎながら依頼を熟して早数日。顔を隠している事もあって、自身の正体が露見する事は殆ど無かった。……元々、彼女は既に死んだものとされている。例え正体を知っている者が居たとしても、他人の空似と思ってスルーしてしまうのだろう。

 

 その日、依頼を熟して王都へ戻って来たレティシアはフードで顔を隠しながら中央区の露天通りを歩いていた。現在そこには後日に最初の遺跡調査を控えたライザがお店で錬金の素材になりそうなものを見て回っており、見慣れない素材の数々に頭を悩ませている。そして彼女は考えながら歩き続け……レティシアと正面衝突してしまった。

 

「あいたっ!」

 

「!」

 

 ライザは思わず声を上げ、レティシアは自分よりも大きなライザの身体にぶつかった事で尻餅をついてしまう。ボーっとしてしまっていたと即座に謝罪をして倒れた目の前の子供に手を伸ばそうとしたライザは、色違いながらも何処かで見た事のある服装と出で立ちにまさかと思う。そして伸ばした手を握って立ち上がった少女の顔が微かに見えた時、それは確信に変わった。

 

「れ、レティシア!?」

 

「!?」

 

 大きな声で彼女の名前を呼んだライザに、顔を上げてフードから僅かにその表情を見せたレティシア。だが2人が仲良く話をしている場合では無くなってしまう。

 

 王都に住む貴族に起きた悲劇はそこそこ有名な話である。それがもう何年も前の話であったとしても、覚えている者は多いだろう。故にライザが言った『レティシア』という言葉にざわめき始める周囲。言われた本人は急いでライザの手を取ると、走り出して露天通りから外れた路地裏へと入り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……ビックリしたぁ……」

 

「……」

 

 突然走り出した事に驚き、息切れしながらも呟いたライザへ向けるレティシアの視線は何処か冷たかった。そこでライザはレティシアと王都の関係を思い出して、謝罪する。……タオから既に聞かされていたのだ。嘗てレティシアがここで住んでいた貴族であり、既に死んだ事になっているという話を。

 

「でも、また会えて嬉しいよ!」

 

「……ん」

 

 笑顔で再会を喜ぶライザの姿に、毒気を抜かれた様にレティシアが先程まで向けていた冷たい視線は無くなった。出来れば何処かのお店でゆっくりお話がしたいと提案するライザだが、レティシアはそれを断る様に首を横に振った。そこで先程の状況と容姿を隠している事を思い出したライザは、なら自分の家でならばと提案。レティシアは少し悩んだ末に頷いて了承するのだった。

 

 

 ライザの家は中央区にある建物の1室だった。その部屋の大家は貴族、アーベルハイム家。……つまり、レティシアの実家である。

 

「それじゃあ、あれからずっと旅をしてたんだ」

 

「ん」

 

「でも路銀が無くなっちゃった、と。旅ってやっぱり大変なんだね……」

 

 レティシアから王都へ居る理由を聞いたライザは納得した様に頷いた。そして今度は自分の番と今までクーケン島であった事も語り明かした。気付けば空は薄暗くなっており、ライザはまだ暫く王都へ滞在しているのかをレティシアに質問する。出来れば早くに王都を出たいと考えてはいるものの、旅の路銀が安心出来るまでは貯める必要があると判断してレティシアはまだ居る事を告げた。

 

「そっか。それじゃあ、またこうしてお茶も出来るね!」

 

 笑顔で言ったライザの言葉にレティシアも頷いて、その後は宿へ戻る為に別れる事となった。

 

 1人部屋に残ったライザは思わぬ再会に喜ぶと共に、彼女と大いに関係のある人物の存在も思い出した。この場所を紹介してくれたタオが家庭教師をしている女の子、パトリツィア・アーベルハイム。本人の話から間違い無く、レティシアと姉妹関係のある存在だ。

 

「話すべきなのかな? でも、レティシアは知られたくないみたいだし……う~ん」

 

 家族がバラバラなのを良いとは思えない。だがレティシアの気持ちも汲んであげたい。ライザは頭を悩ませ、こんな時はと錬金術で考えを紛らわせる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事ですか、ライザさん!」

 

「パティ! ちょっと落ち着いて!」

 

「落ち着いてなんていられません! どうして、どうしてライザさんからお姉様の匂い(・・・・・・)がするんですか!?」

 

「……はい?」

 

 遺跡へ向かう前、タオと合流する際にパティとも一緒になったライザ。しかしパティが傍へ近寄って来た瞬間、彼女は血相を変えてライザへ詰め寄り始めた。余りに突然な事態に慌てながらもタオが宥めようとする中、ライザは続けられたパティの言葉に訳が分からなくなってしまう。果たして匂いとは何なのか……常人には理解出来ない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 最初の遺跡調査へ着いて行ったパティは、そのままライザ達と共に行動する事を決める。表向きは家庭教師のタオと共に行く実戦経験目的の課外実習。しかし彼女の目的は姉であるレティシアの匂いを付けたライザの傍に居れば、姉と出会えるかもしれないというものであった。

 

「よくヴォルカーさんの許しが出たね?」

 

「お父様は普段厳しいですが、無理に押し付ける様な事はしません。お姉様が居なくなってから、私の意見を尊重してくれる様になったんです。……自分のせいでお姉様が居なくなったと後悔したからだと思います」

 

「フィーフィー♪」

 

 ライザの家、レティシアが座って居た場所に率先して座ったパティはライザの言葉に答える。そんな彼女の傍にはライザ達も分からない謎の生物、フィーが飛び回っていた。

 

 ふと、どうしてレティシアが家出をしたのか気になったライザだが、流石にそれをパティへ聞く訳にはいかない。彼女と話をした後、解散する際にライザはタオへ聞いてみる事にした。王都で長い間過ごしながら様々な歴史を調べていたタオなら、彼女の家に起こった悲劇の話も詳しく知っていると考えて。

 

「ある日、突然居なくなってしまったんだって。彼女の父親でもあるヴォルカーさんは捜索隊を編成してまで探したけど、結局は見つからずじまい。……一時は躾が厳し過ぎたんじゃないかって街中で噂にもなったらしいよ」

 

「格式高いって感じはしたかな。パティを見てると余計にそう見えてくるよね」

 

「うん。でもレティシアはそれが嫌になって飛び出した。……もしかしたら、彼女はライザと似てるのかもしれないね」

 

 島から出るなと言われれば言われる程に、冒険をしたくなって遂には島の対岸へ渡ったライザ。貴族だからと様々な事を強いられて耐えられなくなり、家から飛び出したレティシア。根本は違えど、強制された事に反抗したという意味では同じなのかも知れない。そして思った事を実際に行った行動力はどちらも高かったのだろう。

 

「それはそうと、レティシアは今王都に居るんだよね?」

 

「多分ね。まだ滞在するって言ってたよ。何処で宿を借りてるのかまでは聞かなかったけど」

 

「それが分かっただけでも大きいよ。出来ればパティに会わせてあげたいんだけど……ちょっと危険な感じもするんだよね」

 

「レティシアの事になると、パティは人が変わるもんね」

 

 タオも2人の事は気になっている様で、ライザは同意を示しながらもパティの姉が関わった際に見せる様子を思い浮かべた。

 

『私と違って、お姉様はお父様から剣を教わってはいないんです。でもカタナを振るうお姉様はとても美しくて、思わず見入ってしまうんです』

 

『昔からあんまりお姉様は笑いません。だけど極々稀に見せる笑顔。あれを見るだけで……はぁ……』

 

『お姉様は』『お姉様は』『お姉様は』

 

「……お姉ちゃんが好き。の域は越してる様な……」

 

 ライザの疑問に正確な答えを出せる者は、誰もいなかった。




常時掲載

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