ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~   作:ウルハーツ

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第3話

 宿で朝を迎えたレティシアは部屋のテーブルに置かれていた書き置きを手にする。それはセリからのメッセージであり、書き置きが落ちない様に重しとして置かれていたのは緑色の飲み物が入ったコップだった。レティシアは一度コップを退かしてから、書き置きを手にそれを黙読する。

 

『新しい依頼を受けておいたわ。それと何時ものスムージーも置いておくから、飲んでおきなさい』

 

「……」

 

 書かれていた内容を読み終わり、レティシアはコップへ視線を向ける。そしてそれを一気に飲み切れば、その顔が僅かに歪んだ。……今彼女が飲んだのはセリお手製の野菜と果物を使ったスムージー。栄養はタップリであり、彼女は普段毎日の様に飲んでいるものだった。レティシアも何度か飲んだ経験はあり、木の実ばかりの生活を見かねたセリが用意する様になったのだ。つまりレティシアにとっても既に慣れた味、なのである。だが何度も飲んだからといって、美味しくなる訳ではない。レティシアはその味が非常に苦手だった。それでも飲むのは、セリの善意を無駄にしない為だ。

 

 セリの受けた依頼の中で、レティシア用に用意されたものは基本的に魔物の討伐である。王都から出来る限り離れていたい彼女にはピッタリの仕事であり、道中で採取系の依頼も熟せれば一石二鳥。既にレティシアはセリに頼らずとも、自分の宿代を払う事は出来る様になっていた。今はライザへ言った通り、旅立つための路銀稼ぎである。

 

 倒すべき魔物の出没場所は王都から離れた場所にある、ヴィントミューレ渓谷。道中で採取出来る鉱石の欠片も依頼にはあるため、必ず岩を壊せる道具を準備する必要がある。レティシアは適当に身なりを整えた後にフードを目深に被ると、荷物を手に宿から外へ足を向けた。

 

 朝で賑わう露店通りを小さな体で隙間を縫う様にして超えると、王都の外へ。そこから徒歩で長い時間を掛けてようやく到着したヴィントミューレ渓谷で、レティシアは目標となる敵と鉱石を探し回る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛来する何時か対峙した様な大きい竜を前に、レティシアは刀を振るう。その場から一切動く事はせずに、だが通り過ぎた竜は悲鳴を上げながら地面へ身体を引きずった後に息絶える。

 

 一方その頃、同じヴィントミューレ渓谷の離れた場所にはライザ・タオ・パティの3人とフィーが訪れていた。目的は渓谷を奥へ進んだ先にあるかもしれない遺跡であり、タオが知る伝承の手掛かりを頼りにやって来たのだ。竜の悲鳴が渓谷全体へ木魂すれば、それは遠く離れた彼女達の耳にも当然届いた。

 

「フィ!?」

 

「今のは?」

 

「魔物の鳴き声。ううん。悲鳴、かな」

 

「魔物同士で争ってるのかも。巻き込まれない内に進もう」

 

 タオの言葉にライザとパティは頷いて、先程まで塞がっていた通路を進む。

 

 場所は戻り、レティシアは倒した竜の体から証拠となる部分を剥ぎ取ってから鉱石を探す事にした。しかし先程までライザ達が通過した道はその殆どが取りつくされており、目的の鉱石の欠片を見つける事は出来ない。その後も探し回るが結局見つける事は出来ず、レティシアは少々肩を落としながら王都へ帰還した。

 

「あ、やっぱり。レティシアだよね? 久しぶりだね~!」

 

「……ロミィ?」

 

 朝に比べて少しだけ人混みが落ち着いた露店通りで、突然掛けられた声にレティシアは立ち止まった。以前のライザの様に大声で話し掛けるのとは違い、近づいてフードの中を覗き込んでから小声だったのは彼女なりの配慮だろう。最初は王都へ来たがらない理由を知らなかったロミィも、既にレティシアと王都の貴族に起きた話が繋がっている事には気づいていた。行商人に情報は大事な武器の1つだからである。

 

「偶然?」

 

「会ったのは偶然だよ。でも今はロミィさん、ここでお店持っちゃったりしてるから必然だったかもね~」

 

 レティシアの知るロミィという人物は彼方此方を渡り歩く行商人だった。しかし最後に出会ってから今までの間に、彼女にも大きな変化があったのだろう。その1つが王都に自分の店を構えるという商売人としての大出世である。本人は行商人の方が性に合っていると思っている様だが、彼女の商売に関する才はどちらでも通用する様であった。

 

「って事で、これから護衛の依頼は少なくなっちゃうかなぁ。あ、でも新人ちゃんの護衛ってのはありかもね」

 

「?」

 

「あぁ、ごめんごめん。実はレティシアが居ない間、別の伝手で護衛をしてくれた子が居てね。今はここの仕事を手伝ってくれてるのよ。で、王都の外も回ってるんだけど……商品を傷つける訳にはいかないでしょ? 代わりに戦ってくれる人がいると、ちょうど良いかなって」

 

 ロミィの話を聞いてレティシアは護衛の仕事に関して、出来る時は受けても良いと伝える。彼女とは数少ない親しい間柄であり、足元を見る様な事はしないと分かっているからこその判断。ロミィは両手を合わせながら「ありがと~!」と喜びを露わにして、やって来たお客さんの対応の為にお店の方へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 依頼には信用がある。王都でお金を稼ぐ為にも、信用を失うのは大きなリスクが存在した。故に後日、再びヴィントミューレ渓谷へ訪れて鉱石の欠片を探す事にしたレティシアは、相棒である青ぷにの協力もあって無事にそれを回収する事に成功した。

 

「鐘を鳴らして何か起こるのかな?」

 

「さぁ? 分からないからやって見るんでしょ? ね、フィー?」

 

「フィー!」

 

「危ない事にならないと良いんですが……」

 

「!」

 

 そんなレティシアの傍を通過するのは以前遺跡を無事に見つけるも、奥へ進む方法が分からずに帰る事を余儀なくされたライザ達。彼女たちは再び遺跡の奥へ進むために探索をする様であり、レティシアはそんな彼女たちの中に紛れる少女……パティの姿を見て、思わず崖の傍にあった岩に姿を隠した。

 

「?」

 

「どうしたの、パティ?」

 

「……」

 

 だがその行動に僅かながらの気配を感じたパティは足を止めて、レティシアの隠れた岩場をジッと見つめ始める。そして近づき始めた事でライザとタオは視線を合わせた。やがて崖の傍にパティが近寄った事で「危ないよ!」とタオが注意するが、パティはそこから周囲を眺めるばかりだった。

 

「どうしたのさ!」

 

「……お姉様の気配が、した様な気がしたんです」

 

「レティシアの? でも……何処にも居ないよ?」

 

 ライザの言葉通り、レティシアが隠れた岩場にはもう誰もいなかった。周囲にあるのは崖ばかりで、他に隠れられる様な場所はない。タオが「行こう」と告げた事で、パティは後ろ髪を引かれる様に何度も振り返りながら遺跡へ向かって足を進める事にした。

 

「……」

 

 そんな3人の去っていく足音を聞きながら、崖に鋼糸を使ってぶら下がっていたレティシアは安心したようなため息をついた。彼女の服のフードに入っていた青ぷには下の見えない高い崖にぶら下がっている事実が怖いのか、プルプルと震え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下乙女の墓所。そこはライザ達が見つけた遺跡であり、魔物も徘徊する危険な場所であった。ライザとタオはここに自分達の求める何かがあると確信して、奥へ進み続ける。前回は最奥と思われる場所で閉じていた扉があって奥へ行けず、それを開ける方法も分からなかった。今回もそれを開ける方法は分からないままだが、ライザはこの場所にある巨大な鐘に注目していた。

 

 舌の外された巨大な鐘。例え揺らしても今のままでは鳴らないが、そこでなんとライザは舌を錬金術で作り上げた。鐘の下でそれを使って鐘に舌を追加して、鳴り始める轟音は遺跡中に木魂する。巨大な鐘の音に呼応する様に周囲にあった鐘も鳴り始め、その光景にライザ達は圧倒される。……しかし鐘の音が齎したのはその光景だけでは無かった。

 

「よ、鎧が動いた!?」

 

 タオの言葉に各々が構える。地面に転がっていた鎧が突然立ち上がり、剣を手に構え出したのだ。明らかな敵意を感じて驚き、応戦するライザ達。

 

 その一方で、彼女達の後をつける形でここへ訪れていたレティシアも立ち上がった鎧に囲まれていた。ライザ達の冒険に興味があった訳ではない。ただ、彼女達に着いて行く嘗ての家族が気になっただけだった。完全に巻き込まれた形にはなるが、敵として向かって来るならば仕方が無いとレティシアは刀を構える。彼女のフードから飛び降りた青ぷにも、跳ねながら戦闘態勢はバッチリだ。

 

 鎧を無事に倒し切った時、レティシアはライザ達を少し離れた場所から目視で確認する。だが彼女達は無事に倒した事で動かなくなった鎧の姿に安心しており、突然再び立ち上がった鎧への反応が遅れてしまった。そしてその鎧が攻撃を加えたのは……パティだった。

 

「パティ!?」

 

 鎧の攻撃で大きく飛ばされたパティの体。それは通路を越して底の見えない穴の上へ。鎧はまるでやり切ったかの様に地面へ倒れ、ライザとタオはパティが飛ばされた方へ駆け寄った。人間は空を飛べない。考えたくはない、最悪の結果を嫌でも想像しながら。

 

「フィー! フィーフィー!」

 

「フィー!?」

 

 だがそこにあったのはパティの体を彼女よりも小さなフィーが持ち上げている光景だった。必死に羽を震わせて飛び続けるその姿に驚きながらもタオが手を伸ばす中、突然飛来する何かがパティとフィーの体を横から掻っ攫う。

 

「な、なんなの……!?」

 

「フィー!?」

 

 通路の下から一気に上へと振り子の要領で舞い上がった1人と1匹は、そのまま通路の方へと飛ばされる。勢いのある着地に強く尻餅をついたパティと、何とか激突せずに済んだフィーは突然の事に困惑。だが自分達の居る場所よりも高い柱の上に立つフードを被った者の姿を見て、パティは言葉を失った。

 

「パティ! 大丈夫!?」

 

「ぁ……ぁ……ぉねぇ、さ……ま……」

 

「……」

 

「レティシア!?」

 

 自分達を見下ろす小さな体の人物を見て、譫言の様に言葉を紡いだパティ。タオが急いで彼女の無事を確認しようと駆け寄る中、ライザは同じ様にレティシアの姿を確認して声を上げる。すると、疲れた様子ながらも空を飛びながらレティシアの元へ近づき始めたフィー。その姿が目前に迫った時、レティシアはゆっくりと手を挙げた。……そしてその手はフィーの頭に乗せられる。

 

「ありがとう」

 

「フィー?」

 

「ま、待ってくださいお姉様!」

 

「あ……行っちゃった」

 

 静かに、だが確かにライザ達にも聞こえたフィーへ向けられた彼女のお礼の言葉。だがそれを最後にレティシアは鋼糸を飛ばしてそのまま何処かへと去ってしまう。パティはそれを必死で追い始めるが、やがて通路の続かない切り立った場所の向こうへ行ってしまった事で追いかける事は叶わなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レティシアはパティの今が気になっただけであり、姿を見せるつもりはなかった。しかし彼女が危ないと思った瞬間、迷いなく助けに行く事を選択した。……レティシア自身、その選択と行動を後悔はしていない。だが、彼女は想像もしていなかった。まさか自分の妹が、あの一瞬だけで自分の匂い(・・)を追跡出来る様になるなど。

 

「お姉様!」

 

「!」

 

 王都の職人区を歩いていた時、突然目の前に現れたパティから逃げる様に家の壁へ鋼糸を伸ばして跳んだレティシア。だが彼女の逃げる行く先々で、パティは現れる様になっていた。ライザの体に僅かに残っていた匂いではなく、レティシア本人の匂いを嗅いだ事で出来る様になったパティの追跡。そして遂には自分が泊まっている宿の場所すらも、彼女に突き止められてしまう。

 

「逃げないでください! ただ、私と話を!」

 

「……」

 

「ぁ……絶対、絶対に逃がしませんわ」

 

 宿の前で待ち構えていたパティから逃げ出したレティシアに、パティは辛そうな顔を一瞬浮かべる。だが即座に決意した様な表情へと変わり、彼女は建物から飛び出した。

 

 もしもパティが自分の父親でありレティシアの父でもあるヴォルカーにこの事を告げていれば、今頃は逃げ切る事など出来ずに捕まっていた事だろう。しかしそうはならない現実に、レティシアはパティが何をしたいのか考える。自分を連れ戻したいと思っているのなら、真っ先に報告しているだろう。言葉通りに話をしたいだけなのか。……悩んでいたレティシアは目の前で両手を広げて構えるパティの姿に一瞬、反応が遅れてしまう。

 

「お姉様ぁぁ! ガフッ!」

 

「!?」

 

 勢いのあるレティシアの移動を全身で抱き留めたパティはそのまま勢いを殺せずに後ろへ倒れてしまう。家出をした頃に比べて成長したパティと、家出後に碌な物を食べなかった影響なのか全く成長していないレティシア。その見た目はレティシアの方が容姿も身長も幼く、パティの腕に軽々と包まれてしまう。

 

「捕まえましたわ、お姉様♪」

 

 パティの宣言と強い抱擁にレティシアのもがく抵抗も弱まり、彼女は所謂お持ち帰りをされる事になった。……因みに帰る先はレティシアが寝泊まりする宿である。




常時掲載

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