ライザのアトリエ2 ~小さな旅人と姉妹の絆~   作:ウルハーツ

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第5話

 パティとの戦いに敗北したレティシアは彼女に連れられて、王都へ帰還する。その際、逃がさないとばかりにしっかりとパティに握られた自分の手をレティシアは無理に解こうとはしなかった。心配で様子を見に来ていたライザも同行して、落ち着いて話の出来る場所として2人は彼女のアトリエを借りる事になる。

 

「ど、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「ん、ありがとう」

 

「あ、あはは。どうぞごゆっくり…………はぁ、空気が重いよ~!」

 

「フィー……」

 

 ライザのアトリエにあったソファでお互いに向かい合ったまま黙る2人の元へ飲み物を差し出したライザは、彼女達から離れた場所でフィーと共に部屋の中を支配する重たい空気を感じて悲鳴を上げる。当の本人達は重たい空気を出している事にすら気付かず、飲み物に口を付けた。

 

「お姉様」

 

「!」

 

「約10年程、でしょうか……何処へ旅に行ってたんですか?」

 

「……色々な場所。当ての無い旅、だったから」

 

「なるほど。風の向くまま気の向くまま、ですわね。ライザさん達とも旅先で?」

 

「ん」

 

 最初に喋り出したパティへ反応しながらも答えたレティシア。それを皮切りに始まったのは、レティシアの旅に関する質問だった。ライザ達と出会った島での話なども行われる中、離れた場所で会話を聞いていたライザは思い出す。……王都で少し前に再会した親友に、レティシアが王都に居る事を教えていなかった事を。

 

「教えてあげたら、喜ぶかな?」

 

「フィー♪」

 

 新たな種が撒かれようとしている事など知りもせずに、話を続けるパティとレティシア。やがてパティの王都での生活についての話にも変わり、時間は夕方になり始める。当然帰らなければいけない時間となり、パティは自宅であるアーベルハイム邸へ帰る事になるが、そこでライザは見送りをする際にレティシアへ質問した。

 

「レティシアは、これからも宿に泊まるの? パティとも仲直り出来たんだから、ヴォルカーさんとだって……」

 

「……」

 

 レティシアはライザの言葉に無言で首を横に振った。そしてそれ以上何も言わずに去ってしまう後ろ姿を見て、ライザは同じ様に離れて行くレティシアを見つめるパティへ視線を向ける。見られている事に気付いたパティは少し目を閉じた後、お辞儀をしてから離れて行った。

 

「2人の仲が少し戻っただけでも、良かったのかな……?」

 

「フィー!」

 

 どうにもやり切れない思いを残しながらも、一先ず2人が話を出来る様になった事に安堵したライザ。……彼女は後日、再会した親友にレティシアが王都に居る事を知らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 パティはレティシアと定期的に会う約束をしっかりと最初に話が出来た際、取り付けてあった。レティシアの誤解も解けた事で無事に約束をする事は出来たものの、パティは自宅であるアーベルハイム邸へ行く事は疎か、父親であるヴォルカー・アーベルハイムにレティシアの所在を告げる事もしなかった。それが果たしてレティシアへの配慮なのか、他の理由があるのかは本人にしか知り得ない考えである。

 

「それで、タオさんが家庭教師としてやって来た訳です。タオさんの教え方は本当に上手で、私の成績もグンと良くなりました」

 

「そう」

 

 場所は学園区にあるカフェ。そこでパティは紅茶を、レティシアは珈琲を注文してテーブル席で談笑していた。といっても以前と変わらずパティが主に話をして、それにレティシアが相槌を打つのが殆どである。ここには王都生まれの王都育ちである女性店員、ゼフィーヌを始めとして古くからの常連客が数多くいる為、レティシアはしっかりとフードを被っていた。

 

「……不思議です。お姉様が生きているって、ずっと。ずっと信じてました。何時かまた、こうして昔みたいに話がしたいって。でも実際に叶ってみると、話したい事とか色々考えていた筈なのに……上手く話せない」

 

「……」

 

「お姉様は、また王都を出て行かれるんですか?」

 

「ん……でも、すぐじゃない。直さないと、無理だから」

 

 レティシアがそう言って取り出したのは、柄と僅かな刃のみが残った刀。カフェでそれを抜くのはご法度故にしないが、当事者であるパティには何が言いたいのかすぐに理解出来る。武器を失った事で魔物を倒す依頼を受ける事は出来なくなってしまった現在、レティシアは依頼を受けずにいた。刀を作った錬金術師であるアンペルがこの街に居るという話をライザから聞きもしたが、未だに出会えず。……現在はライザに頼む事も視野に入れていた。

 

「もし、それが直ったらすぐにでも?」

 

「まだ、心許無いから……ここに居る」

 

「そうですか。それを聞いて安心しました」

 

 まだレティシアは王都で滞在する。その事実に胸を撫で下ろしたパティは、今後について考え始める。

 

 ライザとタオの遺跡を巡る冒険はこれからも続くだろう。寧ろまだ2カ所を巡っただけで始まったばかりだ。それに着いて行ったパティの主な理由はライザの身体にあったレティシアの匂いに気付いたから。彼女と共に行動すれば、何時かレティシアに再会できるかも知れないと思ったからである。現にその考えは正しく、地下乙女の墓所で念願の再会を果たす事は出来た。そして今では自分だけで、彼女の場所を特定出来るまでに至った。……もう、冒険へ着いて行く理由は無いのだ。

 

「そろそろ、お店を出ましょうか?」

 

「ん」

 

 客の出入りは激しい人気のカフェ故に、他の人達の事も考えて余り長居は出来ない。レティシアはパティの提案に頷いて、共に会計を済ませてからカフェを後にした。そしてパティの話を聞きながら、学園区から中央区まで歩いていた時。突然レティシアを呼ぶ懐かしい声が響く。

 

「レティシア!」

 

「? クラウディア……?」

 

「ライザの言った通り、本当に王都に来てたんだ! 久しぶりだね!」

 

「えっと……?」

 

 それは嘗てレティシアがクーケン島で出会い、数日お世話になったクラウディアであった。3年の月日で成長した彼女は現在、父親とは離れて王都で商会を取り仕切る様になっていたのだ。ライザとも数日前に再会して、レティシアの話を聞いた彼女は現在の特徴を聞いていた事もあって声を掛けられたのである。……小さな子供がフードを被っている姿はそれなりに目立つのだ。

 

「もしかして、貴方がパトリツィアさん?」

 

「はい。パトリツィア・アーベルハイムです。お姉様の反応から察するに、お友達……ですよね?」

 

「クラウディア・バレンツと言います。レティシアとは……少しの間、家族みたいな感じだったのかな?」

 

「…………()?」

 

 その時、パティの口から出た余りにも威圧の籠った声は再会に喜ぶクラウディアの耳には届かない。そして彼女に話し掛けられるレティシアの耳にも届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事で、レティシアの武器をライザに作り直して欲しいの」

 

「いやいや、どう言う訳よ……」

 

「フィー?」

 

 後日、ライザの協力を経て忙しかった商会の大仕事を早く終わらせた事で僅かな自由を手に入れたクラウディアは、レティシアと共にライザのアトリエへ訪れる。そして開口一番に言われた言葉にライザは頭を抱えた。傍では首を傾げて訳が分からないといった様子を見せるフィーも居り、彼女はクラウディアにしっかりとした説明を求める。

 

「ライザと一緒に私も冒険へ行ける様になったでしょ? それでね、レティシアも一緒に連れて行けないかなって思ったの」

 

「確かに旅慣れてるレティシアが一緒だと心強いかも知れないけど、レティシアは良いの? 色々忙しいんじゃ……」

 

「平気。それに、契約したから」

 

「旅の路銀を稼いでるって聞いたから、護衛代として正式な報酬を出せば着いて来てくれるかな? って。……でも、レティシアの武器は今壊れちゃってるでしょ?」

 

「あぁ、それで……なるほどね」

 

 友達と言える仲であっても、それぞれにやるべき事がある。だがそれが分かっていてもクラウディアはレティシアと一緒に居たいと考えたのだろう。クーケン島で見たレティシアを可愛がるクラウディアの姿を思い出しながら、ライザは1人納得する。そして同時にレティシアにもまた、クラウディアからの提案を受けた事に何かしらの理由があると察した。しかし冒険には戦闘が付き物であり、パティとの戦いで武器を壊してしまった今のレティシアは戦う事が出来ない。だからこそ、自分へ頼みに来たのだとライザは理解した。

 

「うん、分かった。でもカタナは作った事も無いし、素材も簡単には手に入らなそう。ちょっと時間が掛かるかも」

 

「何が必要?」

 

「えーっと……こんな感じかな?」

 

「ん。分かった」

 

 ライザから武器を作るのに必要な素材をメモで提示されたレティシアは、それを受け取ってアトリエを後にする。行動の早い彼女にクラウディアがどうしようか迷う中、ライザは先程察したレティシアの目的に確信を抱いて頷いた。

 

「やっぱり、パティの事が心配なんだね……素直になれないと言うか、顔に出ないというか。でもやっぱり、お姉ちゃんなんだ。ちょっと安心したかも。ね、フィー?」

 

「フィー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライザがレティシアに武器を作ると約束してから数日。未だにレティシアは素材を持ってアトリエへ戻って来ず、ライザは王都内で彼女を見掛ける事も殆ど無くなっていた。

 

 水底に沈んだ都の遺跡を探索し終えて、新たな仲間と共に次なる遺跡の情報を手に入れたライザ達は王都の南側へ向かい始める。職人区には南門が存在しており、そこから出るつもりだった彼女達……しかしそこには門番と思われる男性と、姉と再会した事で遺跡の探索から外れたパティが話をする姿があった。

 

「ですから、この先に行きたいんです!」

 

「そうは言われましても……この先には魔物も居ます。パトリツィアお嬢様1人では到底通す訳にはいきません」

 

 何やら言い争いをする2人だが、やがて諦めた様に門から離れたパティがライザ達の姿に気付いて顔を上げる。まずはライザ達が王都の南に遺跡があるかもしれないと行きたい理由を説明して、次にパティが南側へ行きたがっていた理由について質問する。

 

「実はここ数日、お姉様と会えてないんです」

 

「え、パティもなの!?」

 

「はい。それで最後のお姉様の匂いを辿ったら、あの扉の先だと分かったのですが……通してもらえませんでした」

 

「匂いって……なんだ?」

 

「多分、触れちゃいけない事だと思うよ。うん、絶対に」

 

 パティの言葉に前回の遺跡から仲間になった男性トレジャーハンターのクリフォード・ディズウェルが怪訝そうに傍に居たタオへ質問。しかし彼は余り触れない方が良い事を分かっていた為、自身にも言い聞かせる様に答えにならない答えを返した。

 

 兎にも角にもパティが南側へ行きたい理由を知ったライザ達は、共に行く事を提案する。もし行ける様になった際、1人で魔物の居る場所へ行かせるのは心配だったからである。再びパティがライザ達一行に合流したところで、今度はライザが門番へ話し掛ける。……結果、そもそもずっと開かれていなかった扉が錆び付いて開けられないという事実を知る事になった。最初からパティ1人で出る事は不可能だったのだ。

 

「レティシアはどうやって向こう側へ行ったんだろう?」

 

「お姉様は鋼糸を使って身軽に動いてましたから、飛び越えた可能性もあります」

 

「あはは、ありえなくは無いかも。でもこの先にあるのって確か……」

 

「廃坑ですね。昔は色々な鉱石や宝石が取れていたそうですが」

 

「廃坑……?」

 

 ライザの疑問から始まり、パティとタオの会話を聞いたクラウディアは何となくその理由に察しがついてライザへ視線を向ける。ライザもまた、会話を聞いてレティシアが王都の南側へ行った理由に気付いていた。刀を作る為に必要な素材には、当然ながら鉱石などが含まれている。レティシアはそれを取りに行ったのだろう。

 

「取り敢えず、サビはあたしが何とかしてみるよ」

 

 扉を開閉できる様にする為にも、まずは錬金術で錆をどうにか出来る道具を作る事にしたライザ。彼女のアトリエへ一度一行が戻り始める中、今の今まで話だけを聞いていたクリフォードは自身の顎に手を添えて考え込んでいた。

 

「レティシア……その名前、何かどっかで聞いた事ある様な……」

 

 

 

 

 

「そう、やっぱり彼女はこの先に居るのね」

 

 そして僅かに離れた場所で、1人の女性が開かない門を遠くから眺めていた。




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