俺と親友(♂→♀️)が男女のお付き合いを始めるまで   作:海里 燦

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俺の気持ちが芽吹く朝

 海翔が女子になっての初登校から3ヶ月ちょっとが経った、9月。

 楽しかった夏休みも終わって、学校がある日常に慣れてきたとある朝。

 

 海翔の家に向かう途中、ふぁ、と口からあくびが出た。

 昨日あったことが衝撃的過ぎてあまり寝られなかったのが原因だ。

 授業中に寝落ちしないように気をつけなきゃな。そんなことを考えながら海翔の家に着いた時にはもう海翔は家の前でスマホをいじって待っていた。

 

 その時、俺の知らない男が海翔に近付いていき、それに気付いた海翔が楽しそうな笑顔を男に向けた後に腕を組んで、ふたりでどこかに出かける、そんな光景が寝不足でろくに働いていない頭によぎった。

 

「……相当キてるな、これは」

 

 こんな想像をしたのも、昨日の出来事――海翔が告白されている現場に出くわしてしまったせいだ。

 

 本当に偶然だった。忘れ物をした俺が放課後、廊下を歩いていると誰もいないはずの空き教室から話し声が聞こえた。

 普段、人気のないところから話し声が聞こえてきたら気になるのが人間ってもので、別に悪いことをしているわけでもないのに、なるべく物音を立てないように教室に近付いて聞き耳を立てた瞬間、はっきりとこう聞こえた。

 

「桜川 (海翔)さん、好きです」

 

 その言葉を聞いた瞬間、すぐさまその場から離れなくてはという焦燥に駆られた。なんでかその場にいてはいけないと思った。

 焦りながらもなるべく物音を立てずにその場から離れるので精いっぱいで、返事とかそういうのを聞いている余裕がなかった。

 おかげでほぼ物音を立てることはなかったから、多分、海翔も告白したやつも俺がいたことに気付いていないだろう。

 

 そうして昨日はずっと告白にOKをしたのだろうか、いや、今はあんなにかわいい女子だけど元々は男だし付き合うわけない。でもまさか……。と、そんな堂々巡りな考えともやもやした気持ちが離れなくて夜も寝られず寝不足……という訳だ。

 

 海翔が女子になった頃、俺だけは男だった時(親友)のままでいようと決意してたけど、こんな状態じゃもう……いやいや、ダメだ、弱気になるな俺。

 海翔は親友なんだ!よし。

 

「陸? 陸ってば!」

 

 どうやら考え事に集中してぼーっとしていたらしい。いつの間にか海翔が近付いてきていた。

 

「あぁ、おはよう海翔」

「おはよ……じゃなくて! どうしたのさ、そんなところに立ち尽くして。気分でも悪い?」

「心配かけたなら悪いな、少し寝不足なだけだよ」

「寝不足ぅ? またソシャゲのやりすぎとかでしょ。まぁ、体調が悪いとかじゃないなら良かった」

 

 普段の行いから余計な勘繰りをされずにすんだ俺は、深く突っ込まれないうちに、じゃあ行くか、と言うと学校に向けて歩き出した。

 

 ◆

 

 なんとなく気まずい雰囲気を感じているのは俺だけだろうか。

 そう思って隣を歩く海翔の顔をチラッと見ると、どこか居場所が悪そうな表情を浮かべていた。告白されたのをどう伝えようか、そんなことを考えている……ような気がした。

 そんな表情でもかわいいのだから、美少女ってのはずるい。 ……中身は男の親友ではあるはずなのだが。

 

 そのまま海翔の様子を伺っていたら、会話することなく駅が目前というところまで来てしまっていた。

 

「ねぇ陸」

「なぁ海翔」

 

 これ以上、今の空気を引っ張りたくないと意を決して声をかけたら、なんと海翔も同時に俺の事を呼んできた。

 同時に話を切り出した時ってどうするか迷うよな……。と、悩んでいる間に先に海翔の方が続きを口にする。

 

「あー……陸から先どうぞ?」

「いや、海翔の方が早く切り出してたじゃん」

「そうだけどさ」

 

 先に駅の階段を上がり始める海翔。制服のスカートから覗く膝裏が俺の視線と平行になった辺りで、これ以上立ち止まっていると見てはいけない物が見えてしまうと気付き、急いで海翔の横に並んだ。

 それにしても、スカートを穿き始めた頃は膝が見えるか見えないかくらいの長さだったと思うのだけど、いつの間にか膝がはっきり見えるようになっているな……って今はそれどころではなかった。

 

「じゃあ、俺から言わせてもらうけど……昨日、告白されてたよな」

「え、なんで知ってるの……ってまさか」

「聞こうとしたわけじゃないんだけど、偶然近くを通りがかって……すまん!」

「告白してきた人は気付いてなさそうだったけど、人の気配は感じたから誰かに聞かれたなぁ、とは思ってたらまさか陸に聞かれてたとはね」

 

 はぁ~っと大きく溜息をつく海翔。

 

「ちゃんと自分から言おうと思ってたんだけどなぁ。踏ん切りが付かなくて……よし、言おうって覚悟ができて声をかけたら、まさか陸も同じタイミングで言ってくるとは思わなかった」

「俺も言い出すのに時間かかったけど、被るとはな」

「うん、ボクたちお似合いかもね」

「お似合いって……」

 

 またひとりだけ先に行った海翔は階段を上りきってこちらを振り向く。

 

「冗談だよ、じょうだん」

 

 楽しげな笑顔を向けてくる。

 最近、海翔の笑顔を見る度になんだか胸が苦しくなる……気がする。

 

「それで……どうだったんだよ」

「どうって……何が?」

「その……返事とかいろいろあるじゃん」

「え、聞いてなかったの?」

 

 鞄を持っていない方の手で肩まで伸びた髪をくるくるといじりながら言う。ここ最近でよく見るようになった仕草だ。それがなんだか絵になっていて見入ってしまう。

 

「他人の告白を盗み聞きするほど嫌な性格してないから。第三者が聞いてたら悪いと思って、お前が好きですってのを聞いてすぐにその場を離れたんだよ」

 

 嘘ではない。聞き耳立てていてどうかと思うかもしれないけど、他人の告白の場に居合わせるつもりなんてないのだ。

 ……相手が海翔じゃなかったとしてもだ。

 

「でも、ボクにはなんて答えたか聞くんだねぇ?」

 

 どこか嬉しそうだけど、いたずらな笑顔を浮かべる海翔。

 

「そりゃな……告白してきたやつと付き合うなら、彼氏でもない俺が毎朝一緒に登校するわけに行かないだろ」

「ふーん……それだけ?」

 

 意地悪くさらに突っ込んで聞いてくる。

 

「海翔との時間が減ると思ったら嫌だなって……ほら、今も休みの日に遊んだりするから、そういう機会も減らした方がいいだろうし」

「そっかそっか、それだけ陸はボクが他の男子と付き合うのが嫌なんだね」

 

 海翔は何かに満足したかのような、安心したかのように笑顔を向けてきた。

 その笑顔を見て俺の心臓が大きく跳ねた。

 

「ほら、ちゃんと答えたんだからそろそろ答えを教えてくれ」

「……断ったに決まってるじゃん。相手のこと全然知らないし、付き合えるわけないよ」

「そうだよな、知らない人から告白されても困っちゃうよな。それに――」

 

 海翔は元々男だし、男と付き合うのは嫌だろ? そう続けようとして言葉を止めた。

 誰が誰を好きになるかは個人の自由だし、何よりも……俺が感じている胸の高鳴りがこれを言ったらいけないと告げている。

 

「それに? 何?」

 

 急に足を止めた俺の顔を下から覗き込んでくる海翔。狙っているのかいないのかは分からないけど、上目遣いが心臓に悪い。 

 

「いや、これからも今まで通りでいいかと思ったら安心してな」

「そ……うだね、これまで通り。うん、これまで通りだね」

 

 何か引っかかる様子ではあるが、納得はしたらしい海翔。

 もしかして……もしかするのかもしれない。

 

「ねぇ、陸。これからも、これまで以上によろしくね?」

「……っ。あぁ、こっちこそよろしくな」

 

 嬉しそうに、満面の笑みで大きく「うん!」と答える海翔を見て、抑えきれなくなった胸の高鳴りの原因を素直に受け入れることにした。

 今、はっきりと分かった。

 

 ――俺は、海翔の事が異性として好きなんだと。

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