俺と親友(♂→♀️)が男女のお付き合いを始めるまで   作:海里 燦

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俺と彼女のそれからの朝

「あのシーン、すごく熱かったよな」

「うんうん、ボク今回のストーリーのメインキャラ持ってないんだけど、一気に欲しくなっちゃった」

 

 今日も今日とて、俺と海の話題の中心はソシャゲだった。

 

 ベッド告白からもう少しではや2ヶ月。

 クリスマスまであと数日という中、雪や凍結してる道を横目に終業式までの消化期間となっている学校に向かっていた。

 

 ……あれから俺と海がどうなったかと言えば、大きくは変わっていない、と思う。

 今まで通りソシャゲだったり、他愛ない話題で盛り上がったり。

 

「俺は前引いてたけど、育ててなかったから育て始めたわ」

「いいなぁ。今ピックアップされてるけど、冬物の服買ったから回せないんだよねぇ」

「この間着てた服? あれめっちゃ似合ってたな」

「そうだよー。陸に喜んで貰えたなら、わたしも嬉しいよ」

 

 告白した時は一人称を"わたし"にしてた海だったけど、どうやら使い分けているらしい。普段は"ボク"で女の子的な要素が絡んでいると"わたし"という具合だ。親友と恋人が同居しているような距離感は、俺に取っては心地が良かった。

 

「すげー可愛かったもん、また着てくれるのを楽しみにしてる」

「……もぉ」

 

 べた褒めされたことが恥ずかしいのか、歩く速度を少し上げて俺の前に出る海。しっかり防寒対策して着膨れしている上半身に比べて、下半身はスカートと結構肌の透けたタイツだけでやや寒そうに見える。

 

「陸って、脚フェチなの?」

 

 そう声をかけられて海の顔を見ると、じとーっとした視線を向けられていた。

 

「わたしの脚よく見てるよね?」

「……寒くないかと思ってただけだよ」

「寒くない時期も同じように見てたけどなぁ」

 

 さらに視線の湿度を上げて俺のことを見つめてくる海。

 足を止めていた海に追いついた俺は、横に並んだ海に向かって言う。

 

「肌色が見えるとそっちを見ちゃうのが男子高校生だからな。それが好きな人の物ならなおさら」

「ばか。それで逃げるつもりなんでしょ」

 

 それから海は「でもまぁいいか」と続けて。

 

「……わたしも好きだよ」

 

 赤面しながらそういう俺の親友兼彼女はとてつもなくかわいかった。

 ……他人からしたら見せつけてるようなもんだよな、これ。まぁ、別にいいか。近くに誰もいないし。

 

「ひゃっ」

「っと……大丈夫か?」

 

 隣から叫び声から聞こえたので、急いで細身の肩を掴む。凍結した部分で海が滑ったようだ。

 

「うん、大丈夫。ありがと」

「まだ凍ってる場所があるんだから気を付けろよ」

 

 数日前、この時期では珍しく大雪が降った。踏み固められて凍結してしまった道路とか、路肩には黒ずんでしまった雪だった物の塊が居心地悪そうに残っている。

 あの日はまた電車が遅れて満員電車になったりで大変だったな、と思い返していると手袋をしている右手が握られるような感触が。

 

「えへへ」

 

 隣を見ると、同じく手袋をした海の左手が俺の右手を繋ぎ、嬉しそうに微笑んでいた。

 

「海、手を繋ぎたい気持ちは俺もわかるけど、転んだら危ないから止めておこう」

「そう思ってね、昨日見てたんだよ。この先、駅まではもう凍結してるとこないから」

 

 ……隣のお姫様は昨日から手を繋ぐことを考えていたのか。なんというか、そんなに想ってくれていることが嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。

 

「準備のよろしいことで」

「お褒めにあずかり光栄です! だから、繋いでてもいいでしょ?」

 

 ね? と尋ねるように上目遣いで俺を見てくる。何度も見ている仕草なのに、毎回ドキドキしてしまうくらいかわいいんだよな。

 

「まぁ、そういうことであればいいけど」

「やった!」

 

 俺からの許可を貰った海は、何故か緩く握っていた手を一度ほどく。

 

「どうかしたか?」

「あのさ、手、繋ぐなら手袋越しじゃなくて……直接繋ぎたいな」

 

 もじもじとした様子で自分のコートの裾をつまむ海。

 その様子がかわいらしくて、ずっと見ていたい気持ちになるけど、それはさすがに海がかわいそうだ。

 

「どうぞ、お姫様」

 

 手袋を取った右手を差し出すと、海も同じように手袋を取った左手でおずおずと手を握って……いや、恋人繋ぎになるように細くて白い指を絡めてきた。驚いたけど俺もこっちの方が良かったので、そのまましっかりとその小さな手を握る。

 

「……」

「……」

 

 軽く右手に力を入れて海の小さい手をにぎにぎしてみると、海もぎゅっと力を入れ返してくる。喋ってはいないけど、まるで会話をしているようだった。

 素手になった分、冷たい空気が直接手に当たるけど、それ以上に熱く感じる右手。俺の体温と海の体温が混ざって心地よく感じた。

 

「わたし、この繋ぎ方好きだな。深いところで陸と繋がってるって気がする」

 

 お互いがお互いの手をにぎにぎするのに満足した頃、海が口を開いた。

 嬉しそうに表情を綻ばせてによによと笑う海を見て俺も「そうだな」と返事をする。

 

「まさかわたし……ボクと陸がこういう関係になるなんて、あの約束をした時には想像だにもしなかった」

「え? 約束なんかしたっけ?」

「やっぱり忘れてるんだ……ほら、枯れてた陸が彼女を作れるように、ボクと陸のどっちが早くカップルを作るか、ってやつ。結局引き分けみたいなもんだったけどね」

 

 あぁ、言われてみれば確かにそんな約束したわ……ご飯の奢りを賭けてたんだっけ。思い出してきた。

 でも待てよ、でもあの約束って確か……。

 

「いや、引き分けじゃなくて俺の勝ちだな」

「え? 引き分けでしょ。ボクたち同士で付き合い出したんだから同時みたいなものでしょ?」

「あの時の約束はカップルじゃなくて、どっちが先に彼女作るか、って勝負だったはずだ。で、俺は海っていう彼女ができたけど、海にできたのは彼氏だろ?」

 

 内容を思い出した俺が海に説明をすると、はぁ、とため息がひとつ聞こえた。

 

「なんだ、思い出しちゃったかぁ。話題にしなきゃよかった」

「分かっててやったのかよ」

 

 責めるような口調になってしまった俺に対して、海は誤魔化すような表情を浮かべた後。

 

「わかった、わかりました。ボクの負けです。あーあ、引き分けだったらいい話になると思ったのに、まさか細かい内容まで思い出しちゃうとはなぁ」

「勝負のことそのものは忘れてたのにな」

「そうだよ、まったく」

 

 そういう海であったけど、負けたのに特に悔しがったりといった様子は見られない。あの負けず嫌いだった()()がこうまで変わるとは。

 

「えーっと、確かご飯を奢るんだったよね?」

「そうだったと思うけど」

「じゃあさ、その……ちょっと待ってくれない?」

「お金ないんだろ? 別にいつでもいいよ、ご飯じゃなくても最悪ジュースとかでもいいし」

「そうだけど、そうじゃなくて!」

 

 同時に肯定と否定をする海はどこか恥ずかしそうで。

 どういうことだ、と思っていると海が続けて言う。

 

「お金がないのはそうなんだけどぉ……。実はね、今、お母さんから料理を教えて貰っててね? だから、自信がついたら手料理を食べさせてあげるよ。奢るのとはちょっと違うけど」

「なるほど。わかった、楽しみにしておく」

「あまり期待しないでね……?」

 

 好きな人の手料理なんだし、それは無理って話だけど、それは言わないでおこう。

 

「大丈夫、海が作った物なら何でも完食してやるよ」

「……陸はほんともぉ! そういうところ!」

 

 繋いでいない方の手でぽこぽこと脇腹を叩いてくる海。

 

「ほら、もうそろそろ駅だからもう止めろって。手も離すぞ? ……ってぇ! 今本気で殴ったろ!おい!」

「陸のばかぁぁぁぁぁ!」

 

 ――そんな感じで、俺と海の朝は今日も平和に過ぎていく。

 




お読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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