僕は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のサトルンティウスを除かなければならぬと決意した。
オラー!
ガワ寄越せや! 主導権寄越せー!
ウワー、ヤメローヤラレター!
くっ、即落ちしちゃう!
ピクリとも反応しねえぜ、このガワくそ強えや。
これが無下限の内側、何もかも見える! 全て感じる! いつまでも本体が外に出れない!
チクショウ!
なんで頭ん中とは別に体勝手に動いちゃうの?
ねえ、悟?
Q.僕に主導権ないの?
A.ない
アッ、ハイ。
折角ぷりぷりした百ちゃんカワイイヤッター! ってしてたのに!
腕組まれて中学三年生にしては豊満なお胸にむふむふしてたら、僕のガワがまたしても純粋な百ちゃん騙して逃走かましやがった。
本体寄越せや! もっと堪能させろ!!!
でも、何回も同じ手で騙される百ちゃんマジ百ちゃんです。可愛いは正義、ハッキリわかんだね!
あばばばばばばば!
そんな速く動いちゃったら、酔う、酔うって! マジで!
吐くから!
その綺麗なツラ汚してやんぞ、お!!?
僕が吐いても本体に影響ないんだけどね!!!
それより、逃げるにしてももっと遅くして!!
僕高所恐怖症なんだけど!?
正直瞬間移動とか、屋根上走るのとか危ないし辞めて欲しい、切実に!!
あー、すっごい。夕陽綺麗だなぁ、マジで凄い綺麗。
現実逃避しちゃうよ! バカにしてんのか!?
テメェ、VR機つけて視界と体ぐるぐる回してやろうか!!
やっと止まってくれた本体。
マジで死ぬ、ストック五つはなくなったね。
助かるわーって思いながら深呼吸。
すーはーすーはー。
夕陽って綺麗だよね、心洗われるよ全く。
ガワの僕も見習って下さい。
「――――オールマイト!? 何でここにっ!!」
一息ついてる僕の耳に聞こえてきた少年の声。
あ、これ事件の時いた子の声じゃね?
オールマイトとか何とか言ってるし、事件巻き込んじゃってごめんねってしにいったのかな?
野次馬精神がくすぐられるぜ、ちょっと聞きたい。
あ、いや本当に体動かないでください。ちょっとまって、まじで。
いつも言うこと聞かない癖に、こういう時だけ聞かないでー!
◆
オールマイトの真相を知った日から二日経った。
オールマイトの焦った顔は忘れない。
思わず五条は、ポケットの中から取り出したスマホで撮ったぐらいだ。
-----何を写真撮ってるんだい!? とにかく、この事は秘密にっっ!!
-----えー? こんな場所で話してる方が悪いと思うけど?
-----ぅぐっ! それは私の不注意ではあるが、しかし、この事が知られたらマズいことになるんだ。頼むよ。
-----それが人に頼む態度?
-----ホント性格悪いね君! ……私に出来る事があれば、叶えよう。
-----んじゃぁ、個性使ってんのバレたら揉み消しといて。
-----君ってやつは本当に……っ!? わかった、私が出来る範囲で約束しよう。もちろん、無理な場合もあるがそこは許して欲しい。
-----ま、いいよ。オールマイトに貸し作れた事の方がでかいしね。
二日前に鬼畜生の様な約束を取り付けた五条はルンルンだった。
ただの外道である。
これで概ねある程度の事を、オールマイトが庇ってくれるのだ。
心晴れやかなものだ、なんならスマホのカメラロールで脅すのも有りである。
気分が良すぎて今なら、幼少期叶わなかったネズミーランドの砂の城建築出来そうだと思ったほどだ。
ニヤニヤしながら脅す五条に、緑谷は敵対しない事を心に固く誓った。
閑話休題。
二日後の早朝六時。
市営多古場海浜公園。
そこに、五条と緑谷、オールマイトはいた。
かつて観光名所の一つとして沢山の観光客や、地元客がいた砂浜は見る影もなく。
数年前から、複雑な海流の関係で沿岸には多数の漂流物が流れ込みそこにつけ込んだ悪徳業者達が不法投棄を行なっていたことによりゴミの巣窟となっていた。
「ヘイヘイヘイ! 何て座り心地のいい冷蔵庫だよ!」
「っぐぅうう!」
オールマイトは緑谷の特訓に勤しんでいた。
二百五十超の体重を持つオールマイトが冷蔵庫の上に鎮座し、その冷蔵庫を体にくくりつけたロープを緑谷が引っ張る。
一生懸命、その全身を活用して引っ張るも総合の重量が三百を超える物体を動かす事は叶わなかった。
遂に力尽きた緑谷が、砂浜にパタリと倒れ伏した。
「ピクリとでも動けばちょっとは楽だったんだけどなぁ!」
「無理ですよ……オールマイト、二百七十四キロあるんでしょ」
息も絶え絶えに軽く言葉を投げてくるオールマイトに返事をする。
「いーや、痩せちゃってね! 今は二百五十五キロさ!」
「……もはや誤差ですよ」
差し引いても冷蔵庫分で三百は超えている。
遠い目で緑谷は呟いた。
「ていうか、何で僕はゴミ引っ張ってるんですか……?」
「それは、アレさ!」
間を置いたオールマイトの言葉に姿勢を正した緑谷は、生唾を飲み込んだ。
「君、器じゃないもの!!」
「ーーっえ!? 仰ってる事が前と真逆!!?」
オールマイトの言葉に、緑谷に激震走る。
盛大なツッコミと同時に、絶望感で頭を砂浜にめり込ませた。
ーーうあああああ!
叫ぶ緑谷とは対照的に、オールマイトは軽快に笑う。
「身体だよ、身体! 君ホントにオーバーだね、ウケる」
その言葉に怪訝そうな顔をしながら振り向いた緑谷にオールマイトは告げる。
内容はこうだ。
オールマイトの個性は、ワンフォーオール。
歴代の継承者の極まった身体能力を一つに凝縮したもの。
鍛えられていない生半可な体では、その上限値が溢れる為身体が拒否反応を起こす。
それによって、受け取った緑谷の体がどうなるかというと。
「四肢が爆散してしまうんだ!」
「四肢がッッ!!?」
本日一番の叫び声である。
「ーーでは、つまり。身体を作るトレーニングの為に、ゴミ掃除と」
深呼吸を一つ。
落ち着いた緑谷は、頭をぐわんぐわんと回しながら一つの答えに辿り着く。
「YES! だが、それだけじゃない。最近の
大きなサムズアップの後に、オールマイトは冷蔵庫から降りて、その縁に手を掛けた。
メキャッ、という音が響く。
オールマイトの巨躯からなる絶大なパワーを一点に集中させた結果、オールマイトよりも高かった冷蔵庫がその姿を圧縮させていく。
「ヒーローってのはね、本来
隆起した上腕二頭筋。
ぐぐっと、ポンプの様に折り畳んだ手が徐々に地面に近づいていく。
比例する様に冷蔵庫が、平たくその形を変えていく。
凄まじい膂力だった、緑谷はその光景を見て驚愕と同時に羨望した。尊敬している唯一無二の超絶パワーに感激すらした。
「地味だのなんだの言われてもそこはブレちゃあならんのさ! この区画一帯の水平線をーー甦らせる!!」
遂にその冷蔵庫が姿を変えた。
まるで煎餅の様に圧縮され、力の行き先を無くした衝撃で、砂埃が舞い上がる。
中空に舞った砂粒が、冷蔵庫が無くなった事により開けた水平線の向こう側から差し込んだ朝日を反射し煌めいた。
「それが君のヒーローへの第一歩だ!」
その言葉を聞いて、緑谷の全身がぶるりと震えた。
「第一歩……。これを掃除……って、全部っ!?」
オールマイトから鼓舞されればいくらでもやる気も活力も満ちる。だが、目の前に広がる瓦礫の山々を見ると気後れする。
「緑谷少年は雄英志望だろ?」
「はいっ! 雄英はオールマイトの出身校ですから……行くなら、絶っっ対雄英だって思ってますっ」
「くーっ! 行動派オタクめ!!」
一心に尊敬の念を伝えられ嬉しくも恥ずかしいものである。
ナンバーワンとして君臨し続けたオールマイトも、周りから尊敬され慣れてはいるが、こんな至近距離で言葉を告げられるのは余りないことである。
緑谷の顔を見るのも少し気恥ずかしくなったオールマイトは背を向ける。
「しかし、前にも言ったが無個性でも成り立つ様な仕事じゃない。緑谷少年の精神がいかにヒーローそのものだとしてもだ」
事実、ヴィランによる騒動その全てが個性を持った者達による暴動である。
いかにトレーニングをしようが、武術を極めようが強固性の前には無に等しい。
「ましてや雄英はヒーロー科最難関」
「っ! つまり、入試当日までの十ヶ月間で
座り続けていた緑谷が、やる気に満ち溢れ立ち上がる。
背中を向けていたオールマイトも、その表情に笑顔を浮かべた。緑谷の言葉に、懐に挟んでいた冊子を取り出して手渡した。
「そこでコイツだ。私考案!! 『目指せ合格アメリカンドリームプラン』!!!」
渡された冊子には月単位、日付単位でのトレーニングプランが書いてあった。
起床時間、トレーニングメニュー、通学時間、食べるメニュー更には寝る時間に至るまでビッシリと書き尽くされていた。
寝る時間まで拘束されている事に、驚愕するも同時に歓喜した。
(目の前にオールマイトがいて、そのオールマイトが僕に訓練をつけてくれるんだ! こんなにも嬉しい事はない!!)
冊子を握る手にも力が入った。
その光景を見ながらオールマイトは、嬉しそうに頷いた。
そして、暇を持て余し空いた砂浜で無駄に壮大な城を作っていた五条に声をかけた。
「五条少年にも手伝って欲しいんだ」
「面倒臭いからパス、俺ネズミーランド作るのに忙しいんだよね」
「ネッ!?」
いつの間に手がけていたのか。
幼少期挫折したネズミーランドを創作していた五条は、オールマイトに一瞥もくれず黙々と砂を固めていた。
いつの間に作っていたのか、傍らにはネズミーランド代表のマスコットキャラクターのネズミーマウスもいた。
「そもそも手伝うって何を? オールマイトの指導だって言うから興味本位で来ただけだし」
「君もヒーロー志望だろう!? 君ほどの個性なら雄英受けるだろ?」
城を一頻り作り終えた五条は、深いため息を吐いて立ち上がる。
オールマイトは、私の声が届いたと表情を緩ませるが待っていた答えは違った。
「受けるっていうか
「推薦組かっ! 流石というべきかな、君ほどの個性もあれば推薦の一つや二つされるか」
「そういう事。それより帰ってもいい? 俺、昨日桃鉄九十九年やったから眠たいんだよね」
大きな欠伸を一つ。
眠たそうにグラサンをずらして目を擦る五条に、オールマイトは突っ込んだ。
「君、今日学校だよね?」
「……あー、代わりに出席しといてくれない? 学校には代わりが行くって言っとくから」
「学生の本分ンンン!」
そんなやり取りを暫し続けていた所で、緑谷が口を開いた。
「あ、あの!」
「なに?」
意を決した表情の緑谷とは対照的に、心底面倒くさそうな五条の様子。
二人のやり取りにハラハラしながら見つめるオールマイトの構図が出来上がった。
「僕からも、お願いします! 推薦で選ばれるぐらいの実力を持ってる五条君に色々教えて欲しいんだ」
「さっきも言ったけど面倒臭い」
「そこをなんとか、お願いします!」
立ち上がっていた緑谷は、その場に突っ伏して土下座をした。
額を砂浜に擦り付けて叫ぶ。
その様子に苛立ちを覚え出した五条は、ため息を吐いた。
「オマエさ、マジでヒーロー目指してんの?」
「当たり前だよ! 元々夢だったんだ、それをオールマイトに後押ししてもらって目指さない方がおかしいよ!」
緑谷の返答に五条は鼻で笑う。
「
「えっ?」
緑谷の呼吸が止まった。
黒色のブランド物のジャージに身を包んだ五条が、ポケットに手を入れたまま緑谷を見下ろした。
顔を上げて見上げた先に、サングラスでその目は見えないが全てを見通されている様な錯覚がした。
「
「そ、れは。オールマイトから貰ったトレーニングメニューをこなして、身体をーー」
「ーー今更? 遅えだろ」
緑谷の言葉をピシャリと遮った。
底冷えのする声だった。
元々、緑谷よりも数十センチ高い五条の姿がより大きなものに見えた。
「ちょ、ちょっと。五条少年言い過ぎは」
「オールマイトは黙ってろよ」
「っ」
オールマイトが慌てた様に声を掛けてくるのを、五条はポケットから出した左手で制止させた。
視線は緑谷に向けたまま、先ほどまで舞い上がっていた表情から一転して緑谷の顔色が青褪めた。
「
「それは、そうだけど……無個性の僕なんかが」
「無個性って事に甘えてただけだろ」
五条が放った言葉ば、緑谷へ突き刺さった。
問いかけは続く。
「個性が有ったら鍛えてたのか? 個性が無ければ鍛えないのか?」
五条の言葉に、緑谷の中で何かがキレた。
「強い個性を持って生まれた五条君には、わからないよ!」
そう荒げた後に、ハッとした。
五条の言い分は尤もな言葉だ。その言葉に対して核心をつかれ、逆上したのだ。謝罪をしなければ、そう思い伏せた顔を五条に向けた。
恐る恐ると、五条の表情を見上げた。
そこには、冷たい無感情のまま緑谷を見下ろしていた五条の姿。
「何ソレ被害者面? 俺、そう言って何もしない奴嫌いなんだよね」
「……っ!」
「ま、精々頑張ってよ。残り十ヶ月? 器足り得たなら、付き合ってやってもいいよ。無理だろうけどね」
そう突き放して、個性を展開する。
座標の指定、指定先は自宅だ。
「五条少年、待っーー行ってしまった、か」
オールマイトの静止空しく、五条は忽然とその姿を消した。
「また個性をっ。バレたら私のやる事が増えるじゃないか」
キリキリと腹部が痛み出した。過去の傷が痛むのか、それとも胃か。きっと胃痛だろう。
オールマイトは、帰ったらよく効く胃薬を探すことを決心した。
頭を振って、緑谷へ振り返れば項垂れたままの姿が目に入った。
「緑谷少年……」
歩み寄ってしゃがみこみ、目線を合わせる。
「スタートラインが違うだけさ、君は君のペースで歩めばいいんだよ」
肩を叩いて慰める。
慰めの言葉を受けた緑谷の手に力が入る。
砂を強く握りしめた。自分自身の無力さをそこに込める様に。
「ーーーーオールマイト」
「どうしたんだい、緑谷少年」
ゆっくりと立ち上がる緑谷に合わせて、オールマイトも立ち上がる。
緑谷が視線を上げれば、海面に浸かる様に僅かに顔を出していた朝日もすっかりその全体を出して煌々と輝いていた。
「確かに、僕は五条君の言ってた通りヒーローになりたいと口では言ってましたけど内心では諦めて甘えていたんだと思います」
右手を強く握りしめて拳を作る。
ふるふると震える右腕、隆起すらしない筋肉。お世辞でも肉付きのいいとは言えない体つきだ。
だからこそ、始めるのだ。
「僕は雄英に入ります。雄英に入って、個性を磨いて実力を伸ばします。五条君に見直してもらえるように」
「……緑谷少年」
「そして、いつか五条君の事も、オールマイトも超えるヒーローになって困っている人を助けたいんです」
先ほどまでの緑谷はそこにいなかった。
オールマイトと視線が交錯する。
オールマイトの目に映る、緑谷の瞳。
失意に溢れていた先ほどとは打って変わる決意の瞳。
「良い表情になったね、緑谷少年」
「はい、これも全部オールマイトと気づかせてくれた五条君のお陰です。僕は誰よりも進んでいなかったんだ、頑張らないと」
ぐっと、両腕に力を込めて気合を入れた。
そんな緑谷にオールマイトは笑みを零して、近くにより耳打ちする。
「私が渡したトレーニングプランはぶっちゃ超ハードだよ、ついてこれるかな?」
「はいっ! 他の人よりも何倍も頑張らないと僕はダメなんだ、これからよろしくお願いします!」
その日から、緑谷の地獄の特訓が幕を開けた。
それが無個性だった緑谷の、最高のヒーローになる為の一歩だった。
◆
---ちょっと見て、あの人。
---え、イケメンじゃない!? サングラス外してくれないかなぁ。
---声かけよっかなぁ。
桜も散り、気温も落ち着き始めた春。
新しく生活を始める新入生、または新しく社会人となってヒーロー活動に精を出す若者が溢れかえる季節。
これからの未来に思いを馳せた人々が、和気藹々と談笑をする通学路。
黄色い声を上げる女性の視線の先に、話題の中心の人物が大きな欠伸を一つしながら歩いていた。
春風に揺られて靡くまるでたんぽぽの綿帽子の様な髪色。
丸い光を反射しない特製のサングラスを掛けた上から分かる整った柳眉。
くっきりと通った鼻筋の下にある、艶やかな唇。それらを囲む細く整った顔立ち。
皺のない下ろし立ての綺麗な制服。ブレザーの襟元に添えられた校章は、誰が一目見てもわかる代物だった。
国立雄英高等学校。
その校章である。
偏差値七十九、倍率は三百オーバー。
ヒーロー科が有名だが、普通科に入っただけでも折り紙付きの高校である。
そんな高校から支給されたネクタイを少年は崩してつけており、だらしなさが先行するはずだがその少年のそれは少しばかりのルーズさを演出しているかの様に見えた。
「入学式出なくてもいい?」
「何を言ってますの!? ダメに決まってますわ!」
そんな注目の中心にいる少年こと五条悟は、周りの視線なんて気にせず今日何度目かの欠伸をしながら隣にいる百に問いかけた。
いつもながらの言葉に、ぷりぷりと怒りながら五条を嗜める。
「唯一の晴れ舞台なんですから、シャキッとしてください!」
「あ、そうだ。百、マネキン作ってよ。俺と同じサイズのね、カツラとか制服とかもよろしく」
「私の個性をそんな事に使わせないでくださいまし!」
「融通利かねえな」
「当たり前ですわ!」
高く括り上げた百の黒髪がわなわなと震える。
五条のゴーイングマイウェイのワガママさには、幼少期からの付き合いだから知ってはいるがこうも毎日毎日されると嫌気も差すというものだ。
(私が頑張らなくてはっ!)
しかし、百は怒りながらもこれも将来の為と心の中で奮起する。
五条がちゃらんぽらんなのであれば、百がその分しっかりする事で支えるつもりである。
そんなこんなで他愛もない日常会話をしながら、二人で校門を越えて敷地内を歩いていく。
見えてきた教室のクラスが書かれた看板。
1-A。
それが、五条と百のクラスだった。
どうやら今年は、どういった狙いか雄英は推薦入学者を六名取るつもりだった。
一般入学者三十六名を募り、四十二名。
その兼ね合いで普通科から二名分外された為、倍率が跳ね上がったとの事。
A組とB組の人数は二十一名ずつになるはずだったが、一人推薦入学の枠を受かった人物が辞退したとかで、A組のみ二十一人体制になった。
そんなA組の枠に入れられた五条は、無駄に大きいドアをその長い足で開いて室内へ入った。
瞬間、寄せられる好奇の視線。
入ってすぐに五条は、机の上に足をかけた金髪の少年と目があった。
「テメェは……っ!」
偏差値高い高校にいる生徒とは思えないほどの目つきで睨みつける少年。
そんな少年の姿を一瞥した後、鼻で笑って五条は窓際の席に着いた。
「知り合いですか?」
五条の隣の席に荷物を置いて腰を下ろした百が五条に問う。
頬杖をつきながら、欠伸をした五条は耳を小指でほじりながら返答した。
「知らねえよ、あんな柄悪いヤツ。俺があんなのとつるむと思う?」
「思いますわ」
「言うようになったね百、誰に似たの? 隣の木村さん?」
「今も昔も木村さんという方はいません! あなたしかいないでしょう悟さん!」
「百ってば怖い! そんな汚い言葉俺がいうと思う?」
「お も い ま す わ」
両手を上にあげてどこ吹く風とばかりに首を傾げた五条に、百は諦めたかの様にため息を吐いた。
「ーーーおいコラグラサン野郎!」
そんな二人のやり取りをみていた少年がズカズカと、足音を盛大に鳴らし五条の目の前に歩いてきた。
爆豪勝己である。
ヘドロ事件と称される事件の被害者。
そして、ヴィランに取り込まれそうになりながらも、自我を保ち続け抵抗を数十分に渡ったタフネス性の持ち主として賞賛された少年である。
ドンっ! と、爆豪は五条の机にその手を叩きつける。
「あん時は世話ァなったな」
「ナニ? お礼? 覚えてないけど、感謝するなら最近商店街に出来たシュークリーム買ってきてくれない? 朝ごはん食べてなくてさぁ、お腹減ったんだよね」
「なに人のことパシリに使おうとしてんだァ!? 舐めてんのか、アァ!?」
「甘味ならなんでもいいよ」
「聞いてねえんだよ!!」
地団駄踏みながら、元々逆立った金髪が怒髪天を突くように更に立ち上がった。
目が吊り上がり、今にも殴りかかりそうな表情を浮かべているが何のそのと言わんばかりに五条は自分を貫く。
「百、なんか持ってない?」
「無視すんじゃねえ!」
「もうっ、いつもそうやって私に言ってくるんですから。そう思って、昨日お母様が買ってきた和菓子を持ってきましたわ」
そう言いながらカバンから取り出したのは、いかにも高級そうな包装をされた和菓子だった。
今までの経験から、常に百は自分自身のカバンに五条用の甘味を入れているのだ。
それを五条に手渡せば、軽い感謝の言葉と共に包装を破り口に入れた。
「
「口に入れたまま喋らないでください! はしたない!」
「俺を差し置いてふざけた会話してんじゃねえぞ!!」
注意しながらも流れるように水筒からお茶を汲んで五条に手渡す。
そんな二人のやり取りに沸点が低い爆豪はキレた。
怒涛の勢いで口撃してくる爆豪を無視して、五条は受け取ったお茶で和菓子を流し込んだ。
その後、包装紙を丸めてゴミ箱投げ込むが惜しくも外れた包装紙が床を転がった。
「あーあ、落ちちゃった。丁度いいしあれ捨てといて」
「だから何でパシリに使おうとしてんだグラサン野郎!!」
「ヒーロー志望なのに清掃活動も出来ないの?」
「アァ!? 捨て殺したるわクソが!!」
怒りの余りか、爆豪が額に幾つもの青筋を浮かべながら大股でゴミ箱へと歩いて行き、落ちたゴミを拾い上げてゴミ箱へ叩き込んだ。
「そんじゃ、始まるまで寝るから来たら起こしてね百」
「全くあなたという人は……わかりましたわ」
おやすみ、そう言って五条が机に突っ伏そうとした瞬間だった。
「舐めてんじゃねえぞクソ野郎がぁ!」
キレた爆豪が、五条の机を蹴ったのである。力加減はしていたのか、周りに被害が出ないように五条の体勢を崩す程度に済んでいる。
「ちょっとあなたいい加減にしてはいかがですか!?」
「うるせえクソアマァ! 引っ込んでろ!」
百は爆豪の目に余る行動に、立ち上がり爆豪を嗜めるが火に燃料を注ぐ様なものである。
ヒートアップする爆豪には意味を成さなかった。
顔を上げた五条の表情を見て、百はまずいと思った。
「本当にいい加減にしなさいとーーー」
「さっきから黙って聞いてれば、ワンワンワンワン吠えやがって。遠吠えするなら他所でしてくんない?」
「アァ!!?」
百の制止の言葉を遮って、五条は頬杖をついて爆豪を睨んだ。
次いで放たれた言葉が、爆豪の神経を逆撫でする。
「誰が犬っころだ、さっきから舐めくさりやがって。スカしてんじゃねえぞゴルァ!」
「くっせえな、ツバ飛ばすんじゃねえよ。犬じゃなけりゃアルパカか?」
五条の煽りが火を燃やす。
ざぶさぶと爆豪の怒りに油を注ぎ込む、見た事ないほどの青筋を浮かべた爆豪の額からびきりと音がした。
「ーーーあぁ、臭いと思ったらあん時のザコにやられてたヤツか。あれから随分経ってんのにヘドロ臭いね、ファブリーズ掛けてやろうか?」
その言葉が爆豪のプライドをズタズタに切り裂いた。
堪忍袋の緒が切れた、青筋がプツリと切れた音が聞こえた。
先程まで騒々しかった教室内が静かになり二人の動向を見守っていた。
「イイ度胸してんじゃねえか、ブチ殺してやるから表に出やがれ」
「寂しんぼか? 一人で行けよ」
五条がそう煽った。
ヒートアップした爆豪が、五条の胸ぐらを掴もうと近寄ってきた瞬間だった。
「ケンカがしたいなら他所でやれ、ここはヒーロー科だぞ」
教室の外から聞こえてきた声。
寝袋に身を包んだ無造作に伸ばした黒髪と、生えたまま放置されたヒゲを蓄えた男性が口に咥えた飲料ゼリーを吸い尽くした。
寝袋に包まれたままで。
教室内の不穏な雰囲気が変わる。
「ハイ静かになるまで八秒かかりました。時間は有限、合理性に欠くね」
壇上へののそのそと這い上がったあと、寝袋を脱ぎながら立ち上がった男性。
その全身を伸縮性のある黒のジャージ姿にも似たコスチュームに身を包んでいた。
一見痩せ細っても見えるが、その実しっかりと鍛え上げられている。
(へぇ、珍しい個性持ってんじゃん。消失ーーーというよりかは、
頬杖をついたままで、五条は正面に立っている先生と思わしき男性の個性を視る。
男性の個性の分析を軽く済ませ、厄介そうだと思ったが自分には効かない事を認識する。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
相澤と名乗った男性は、脱いだ寝袋におもむろに手を入れて一つ引き出した。
それは、
「早速だがこれを着てグラウンドに出ろ」
体操服だった。
「個性把握、テストぉ!?」
誰がそう叫んだかは五条には分からなかった。
入学式やガイダンスに問う女生徒が、相澤に一蹴された。
「ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは、
地面に置かれたメーター表示が搭載されたソフトボールの大きさをした球体を拾い上げた相澤が、爆豪へと声を掛けた。
「爆豪、中学の頃ソフトボール投げ何メートルだった?」
「六十七メートル」
「そうか」
そう言いながら、球体を爆豪へと投げ渡す。唐突に投げられたそれを受け取った爆豪は、察しよく定位置へとつく。
「今までやっていただろ、
爆豪へ個性を使用し投げろと指示を出しながら、相澤は言葉を続ける。
「今回して貰うのは個性有りの体力テスト。まず、自分の最大限を知る。それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段」
言葉が終わると同時に、爆豪はストレッチを終えて助走をつける。
どう投げるれば一番記録が出るか、脳内でシミュレート。
大きく反らせて構えたまま、手から滲んだ汗腺が火花を散らした。
「死ねえ!!!」
強烈な爆発音。
歩く爆心地、爆豪の個性は爆破。
汗腺からニトロ液の様な物を分泌しており、それを発火させることで意図的に爆発を起こすことが出来る個性。
爆風が、グラウンドの砂埃を巻き上げて生徒達に吹き付けた。
相澤の手に握られた測定器に表示される数字は、七百五メートル。
その数字を見て、個性をおおっ広げに使用出来る事に歓喜して話し合う生徒の声が相澤の耳に入った。
「面白そう、か。そんな腹づもりでヒーローになる為の三年間を過ごす気でいるのか?」
先程までの楽しい雰囲気が一瞬で消え失せた。
相澤の重い雰囲気に、生徒たちの表情が固まる。
「トータル成績が最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「はああああああ!?」
驚愕の声が上がる。
告げられたのはこれからを期待する新入生達を追い詰める絶望の言葉。
「生徒の如何は
波乱の個性把握テストが始まった。
爆豪とのやりとりが一番描きやすかった
原作との相違としては、
緑谷に無関心の五条
↓
五条を見返すため、トレーニングに励む。
その過程でオーバーワークになる
以下原作の流れ