魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

11 / 34
第11話 校門前にて

「やめなさい! 自衛目的以外での魔法を利用した対人攻撃は禁止されています!」

 

 警告の声とともに現れたのは、第一高校の生徒会長である七草真由美と、風紀委員長である渡辺摩利であった。学内での大物とも呼べる2人の登場に、その場がざわめく。

 

 この学校の実力者として真っ先に名があげられるのが、生徒会、風紀委員、そして部活連という3つの組織の長たちであり、彼女らは《三巨頭》と呼ばれている。3人のうち、この日本の魔法師のトップに立つ十師族の家系のものが2人と、それに匹敵する実力者が1人。

 

 第一高校に入学したものであれば、否が応でもその名を知ることになる。入学する段階で知らない者のほうが少ないだろう。

 

 そんな2人の登場に。そして自分たちがたった今していた事を思い出して、一部の生徒が青くなる。今まさに自分たちは、校則をおかして風紀委員によって処罰される立場にあるのではないかと。例え魔法を使おうとしないものであっても、揉め事を起こしていることに変わりはない。

 

 その登場に身を緊張させる1年生達だったが、アルバは楽観的な考え方をしていた。

 

(誰も魔法を使っていないが……となると注意を受ける程度になるのだろうか。校則に殴り合いに関する規定があったか?)

 

 明後日の方向へと思考を巡らせるアルバをよそに、その場を一通り視界におさめた渡辺摩利が口を開く。

 

「この騒動の事情を聞きたい。お前達、1年生だな。ついてきなさい」

 

 その冷たい声に。そして、摩利の隣に立つ真由美から立ち昇る、通常の魔法師と比べて遥かに大規模の活性化した想子(サイオン)の光に、1年生達は圧倒され、誰も声を発することが出来ない。

 

 アルバによって静止された森崎、エリカも共におとなしくなっているのを見て、アルバは掴んでいた2つのCADを離す。

 

 ついて来い、と。その言葉とは裏腹に摩利の持つCADは既に起動式の展開を終えており、争いの当事者たちに抵抗を許さない。だが同時に、それによって摩利たちに従う行動すらも萎縮させられ、少しの間場が止まった。

 

 そんな中を、特に場の空気に萎縮することも無いアルバは指示に従って動き出そうとする。だが、その一歩目を踏み出そうとしたところで、アルバより先に達也が動き、それに深雪が続いた。争いの当事者、という意味で言えば彼らも当事者なのかもしれないが、同時に争いに参加していない。言ってみれば、2人を巡って他の生徒たちが勝手に争った、と取ることもできる。だが2人は、率先して歩み出た。

 

 突然歩み出た達也に、周囲の視線が突き刺さる。むしろその行動は摩利の指示に従う当然のものであったのだが、この硬直した場においてはそれが異常な行動に見えた。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎたようです」

「悪ふざけ?」

 

 その唐突な言葉に、摩利が眉をひそめる。

 

「有名な森崎一門のクイックドロウを見せてもらおうと思ったのですが、あまりに真に迫っていたので思わず手が出てしまいました」

 

 最初にCADを抜いた森崎が、目を丸くする。達也はその行動を、森崎の攻撃ではなく、あくまでデモンストレーションであると主張したのだ。

 

 周囲、特にCADを構えていた森崎とエリカ、それに2人の間に立つアルバ。そして真由美に魔法の発動を阻止された女子生徒に目をやった摩利は、冷笑を浮かべて達也に問いかける。

 

「では、そっちの女子生徒が攻撃性の魔法を発動しようとしたのはどうしてだ?」

「デモンストレーションのはずが反撃を受けたものですから、条件反射で手が動いてしまったのでしょう」

 

 あくまで真面目に回答してみせる達也だが、それが嘘であるというのはその場の全員にとって明白だった。

 

「それで、君の友人は攻撃を受けようとしたわけだが?」

「攻撃と言っても彼女が発動しようとしたのは目くらましの閃光魔法でしたから。それも失明や視覚障害を引き起こす程の強度はありませんでした」

 

 達也の言葉に、摩利の表情が冷笑から興味深い者を見る表情へと変わる。

 

「ほう? つまり君は、展開された起動式を読み取ることができる、ということかな?」

 

 通常魔法師は、発動されようとしている魔法がどのような効果を持つのか直感的に理解することが可能である。それは魔法式そのものを読み解いて理解するのではなく、魔法によって改変されようとしているエイドスによって発生する反作用を観測することによって理解することができるものだ。

 

 一方で、起動式、あるいは魔法式そのものを起動から発動までの刹那の間に読み解くことは出来ない。時間をかけ相当の手間をかければそれぞれの情報の意味が解明されている以上可能かもしれないが、有り体に言えば、起動式の生成から魔法式の構築、そして魔法の発動までの時間は、膨大なデータ量を誇る起動式を読み解くには短すぎるのだ。

 

 魔法師が魔法を発動する際にもこの起動式は無意識の演算領域で半自動的に処理されるのであって、魔法師自身がその中身を読んでいるわけではない。

 

 それを読み解くなんてことは、普通だったら絶対に有り得ないことだ。

 

「自分は実技よりも分析が得意分野ですから」

 

(なるほど。通常は起動式は読めるものではないのだな)

 

 だがそれも、人ではないアルバにとっては意識すれば可能な行為であった。今もまたアルバは起動式を読み切り、その上で想子(サイオン)の極小の矢を放つことで女子生徒の魔法式を崩壊させようとしたのである。

 

「誤魔化すのはもっと得意、か?」

 

 値踏みするような摩利の視線に動じない達也の前に、深雪が進み出る。

 

「兄の申す通り些細な行き違いが起きてしまっただけです。このような騒動を起こしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる深雪に毒気を抜かれた様子の摩利は、真由美に視線を向ける。

 

「もういいでしょう。達也君、本当に見学だったのよね?」

 

 真由美の質問に達也が肯定を返すと、真由美は表情に笑みを浮かべた後、その場の1年生に対して話し始めた。

 

「生徒同士で教え合い高め合う活動はむしろ奨励されていることですが、魔法の行使には様々な規則が設けられています。このことについては、一学期の内に授業で扱われます。魔法を使用した自習は、細かい規則を知るまでは控えた方が良いでしょう」

 

 真面目な表情で生徒会長として後輩を指導する真由美に続いて、摩利も口を開く。

 

「会長がこうおっしゃっているので今回は不問とします。今後二度とこのようなことが無いように」

 

 その言葉に、その場にいるいがみ合っていた者同士が一斉に頭を下げる。

 

 立ち去る前に摩利は達也に対して名前を尋ね、その後1人だけ頭を上げたままのアルバに名を尋ねてきた。

 

「そちらの君は? そこの髪を後ろで縛っている君だ」

「む? 俺、ですか?」

 

 辛うじて咄嗟に敬語を使ったアルバに、摩利は首肯を返す。

 

「1-Aのトリオン・アルバです」

「そうか。2人とも覚えておこう」

 

 後からその場に来た摩利だが、アルバの立ち位置と掴んでいるものから、彼がその場の争いを制圧していたのに気づいていた。

 

 

 

******

 

 

 

「借りだとは思わないぞ」

 

 2人が立ち去った後、最初にCADを抜いた森崎が達也へと話しかける。

 

「貸しているなんて思ってないから安心しろ。結局は深雪の誠意が場をおさめたからな」

「お兄様は説得するのは苦手ですもの」

「そうだな」

 

 話しかけた森崎を無視して目の前で兄妹で和やかに話し始める司波兄妹だが、いくらか冷静さを取り戻していた森崎はそれには突っかからなかった。

 

 そしてその視線を、隣に立ち尽くしたままのアルバへと向ける。

 

「一応、礼を言っておく。冷静さを失っていた。止めてくれて感謝する」

 

 いかにウィードが自分たちより下とはいえ。いかに目の前のウィードたちがむかつくとはいえ。制度など様々な部分で、越えてはならない一線というのは存在する。それを越えようとした森崎を、アルバが実力で引き止めた。それを恨むのではなく感謝するぐらいの理性が森崎にはあった。アルバが2人の首席のうち1人であるというのも大きな要因だろう。

 

「気にするな。お前の思い、誇り、感情。それはすべてお前のものだ。それらを貫き通すもよし。あるいは何かのために捨てるもよし。だが、常に先を考える事を忘れるな」

「わかっている。少なくとも、今の状況では魔法を使うべきではなかった」

「そうか」

 

 短く返したアルバに、森崎は手を差し出す。

 

「森崎駿だ。森崎の本家に名を連ねる者だ」

「トリオン・アルバだ。フルネームではなくアルバで呼んでくれるとありがたい」

「正直どちらで呼べば良いか迷っていた。わかった、アルバ」

 

 アルバと握手を交わした森崎は、その笑顔を消して達也達の方を一睨みした後、背中を向けて去っていった。

 

 




森崎君はアルバの実力を見て多少冷静さ、それに上には上がいる事を認識した感じです。といっても口に出さなかっただけでウィードを見下しているのは変わりませんが。

Pixivでいろんなカップリングの魔法科二次創作呼んでますが、みんな可愛いですね。特に香澄と泉美が……


私が魔法科高校の劣等生が凄いと思うのは、すべてのキャラクターがリアルに想像できることです。そして何かをさす時に、『エリカみたいな感じの』という表現を使って知っていれば理解ができること。一次創作などしていますが、このキャラづくりの巧みさ(無駄に情報をつけるでもなく、さり気なくストーリー中に混ぜた程度の内容でキャラを立たせる)は是非見習っていきたいですね。





ここから先は少々不快かもしれません。



さて、ストーリー内でのアルバの言葉。

『お前の思い、誇り、感情。それはすべてお前のものだ。それらを貫き通すもよし。あるいは何かのために捨てるもよし。』

これは作者自身の考えでもあります。この場面では森崎君が、魔法を法に反してまで使うべきではないとアルバに注意された、と認識していますが、それは間違っています。

アルバは、『考えて選べよ』と言っているだけなのです。そして誇りや感情が法を上回ったときには、躊躇うこと無く使えば良い、と。法を守れと言っているわけではないのです。




おそらく法治国家に生きる人間として作者やアルバは、異端であり、失格なのでしょう。以前『僕のヒーローアカデミア』での二次創作をしているときには、『それはヴィランの思考だろ』と言われたこともあります。

ですが、やはり作者はこう考えてしまう部分が多いです。法を守っているのは、その方が都合が良いから。同時に倫理に従うのもまた、その方が都合が良いから。

この場合の『都合が良い』は、社会的立ち位置であったりその後の人生の快適さであったり自分の精神の健康であったりと色々あります。

ある意味、自分本位であれ、ということです。


今のアルバは、この考えを持っています。今後このアルバが、どう変わっていくのか、楽しみにしていてください。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。