魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第13話 生徒会室にて

 日は変わって翌日の昼休み。

 

「ここか」

 

 アルバはある扉の前に立っていた。場所は校舎四階の突き当り。他の教室と変わらぬ扉だが、その上には『生徒会室』と刻まれた木彫りのプレートがかけられており、教室には無いインターホンと、無数の視線が感じられる場所。

 

 アルバは今、生徒会室へと来ていた。

 

 

******

 

 

 ことの発端は今日の朝まで遡り、自分の席について資料を読み漁っていたアルバのところに、遅れて登校してきた深雪がやってきたところから始まる。

 

「アルバさんおはようございます」

「おはよう。雫とほのかならまだ来ていない」

 

 今朝はほのかと雫はまだ来ておらず深雪がアルバに話しかける理由はそれぐらいだと思って答えたのだが、どうやらそうではないらしい。

 

「いえ、今日はアルバさんにお話がありまして」

「俺にか?」

 

 アルバの問いかけに深雪は頷き、その要件を話し始めた。それが、昼休みに生徒会室へと来てほしい、という生徒会長七草真由美からの伝言であった。あくまで来て欲しい、というお願いであって強制力があるものでは無いらしかったが。朝登校時に彼女と会った深雪が伝えておくように言われたそうだ。他には深雪と達也が誘われており、昼休みには生徒会室を訪れることになっているとのことだ。

 

「生徒会……というとあれか、学校の運営における政治家のようなものか」

「え? まあええ、おおよそそのようなものだと思いますが……」

 

 生徒会、というものをまだ正確に把握していないアルバのわかりにくい例えに深雪は困惑しながらも肯定する。

 

「呼ばれたなら行く分には問題ないが、俺は昼食は食堂で取るつもりだったので持ってきていない」

「それなら生徒会室にダイニングサーバーがあるそうですよ」

 

 ふむ、と。アルバは考える。これと言って、昼休み今すぐしたいということは無い。むしろ生徒会室に呼ばれるということは、七草真由美を始めとした有力な魔法師達との交流を深められる可能性が高い。ならば、行くのも良いだろう。

 

 そう考えたアルバは返答を待ってくれていた深雪に頷いた。

 

「わかった。では、俺も行かせてもらう」

「わかりました。ではまたお昼休みに」

「ああ。伝えてくれてありがとう」

「いえ、それでは」

 

 深雪が丁寧に頭を下げるのは、昨晩兄と話した内容が頭に残っていて、アルバを少し警戒していたからだ。そして背を向けて自分の席へと戻ろうとする深雪。彼女に周囲で様子を伺っていた他のクラスメイトが話しかけようとしたところで、アルバが再び声をかけた。

 

「司波さん」

「なんでしょう?」

 

 振り返った深雪が不思議そうな表情をする。

 

「ダイニングサーバーというのは、いったい何だ?」

 

 現在ではごく当たり前の存在である機械に関して全く知らない様子のアルバに、深雪は若干呆れながらそれについて説明をしてくれた。

 

 

 

******

 

 

 

 生徒会室の前には、アルバと達也、それに深雪が集まっていた。ここまで来る道すがら深雪に聞いたところに寄ると、生徒会長は朝深雪と一緒にいたエリカたちも勧誘したらしいが彼女らは断ったらしい。もっとも、1年生からすれば遠い存在であり堅苦しいように思える生徒会室に好んで行きたい人間というのは少ないのだろう。

 

 かなり天然で無知なところのあるアルバに入室の伺いをさせて何か失礼があってはいけないと判断した深雪は、自ら率先して生徒会室のドアホンを鳴らす。彼女が入室を請うと明るい歓迎の返事があり、微かな音とともに扉のロックが外れた。

 

 アルバが見守る中、深雪の前に立った達也が指をかけ、深雪の身体を背後に隠すようにして扉を開いた。

 

「いらっしゃい、遠慮しないで入って」

 

 正面から発せられた真由美の言葉に、アルバは何故か深雪を先に入れた達也に続いて最後に生徒会室へと入り、扉を閉める。後ほど聞いたところ、これは『招かれた客』が深雪である以上、彼女をたてる必要がある、という行動様式であったらしい。とはいえアルバにその対応をしなかった時点で何かあるのだろうなとアルバは考えたが。

 

 そこでようやく、生徒会室内には4名の女性がいるのが見て取れた。

 

 最初に部屋へと入っていた深雪は、全員の見ている前で礼儀作法のようなお辞儀をしてみせる。そのあまりの丁寧さ、優雅さに、達也とアルバを除く生徒会役員の面々は驚いた表情を見せた。それに対して生徒会長が歓迎の言葉を述べている中、アルバは小さな声で達也に話しかける。

 

「今のは何かの儀式か?」

 

 あいも変わらず意味不明なアルバの問いに、達也は簡潔に返す。

 

「ただ礼をしただけだぞ」

「……非常に丁寧な礼だったということか」

「確かに普通よりは丁寧だったな」

 

 礼と言う行為は知っているし、八雲に色々な場面を丸くおさめるのに便利だと教えてもらったので自分でも実践できるアルバだったが、自分の知っているそれと深雪のそれが全く違うことに疑問を感じていたのだ。

 

「どうぞ掛けてください。お話は食事をしながらにしましょう」

 

 真由美の言葉に、達也が上座の椅子を引いて深雪を座らせ、その隣に自分も座る。これもまた丁寧な動作とやらなのだろうとアルバは推測し、自分もまた達也の横の席へと座った。

 

「お肉とお魚と精進がありますけど、どれが良いですか?」

 

 小動物のような印象をアルバに抱かせる女子生徒が3人に尋ねる。おそらくダイニングサーバーのメニューの話なのだろうが、精進とは何かと聞きたいアルバであったが、場所を鑑みてその疑問を口にするのはやめた。ここが丁寧な場ということは、いつも何気なく放っている質問もやめたほうが良いのだろう、と。

 

 達也と深雪が精進、アルバが魚料理を選び、3人に質問した女子生徒が壁際の機械を操作してから戻る。

 

 その後料理の完成を待つ間に、真由美が席についたそれぞれの人物を紹介していく。アルバはその全員に見覚えがあった。正確には、入学式で役員として紹介されたのを覚えている。大事そうな話だったので覚えておいたのだ。

 

「入学式でも紹介しましたけど、改めて全員紹介しておくわね。私の隣の彼女が、会計の市原鈴音さん、通称リンちゃんです」

「私をそう呼ぶのは会長だけですので」

 

 一人目は、会計を務めている市原鈴音。アルバほどではないが背が高く手足も長く、キツめの印象のある顔も相まって美少女と言うよりは美女とでも言うべき容姿の女子生徒だ。なるほどリンちゃんか、とアルバは納得したが、どう見てもそんな可愛らしい方向性のあだ名で呼ぶ相手ではない。

 

「その隣は昨日の放課後見たと思いますが、風紀委員長の渡辺摩利です。そしてその隣が書記の中条あずささん、通称あーちゃんです」

 

 こちらは紛れもなくあーちゃんと言うべき小動物のような印象を抱かせる女子生徒だ。

 

「会長……1年生の前でその呼び方はやめてほしいです。私にも立場というものがあります」

 

 もっとも本人は嫌そうであるが。とは言え童顔で何故か眼が潤んでいる上に、低身長なためか下から見上げるような目線になっているのは誰がどう見ても『あずささん』ではなく『あーちゃん』だった。

 

「このメンバーに副会長のはんぞーくんを加えた4人が今期の生徒会役員です。摩利は風紀委員なので別ですけどね」

 

 真由美がそう言ったと同時にダイニングサーバーのパネルが開き、出来上がった料理が出てくる。それが深雪とあずさの手によって配られ、摩利だけは自分の弁当を取り出して目の前においた。

 

 摩利の弁当を不思議に思った深雪が尋ねると、自分で作ったのだという返答を受ける。その後も達也が涼しい顔をして、血が繋がっていなければ深雪を恋人にしたい、と言った反応に困る冗談を言っては周囲を凍りつかせたりとありながら食事は続く。

 

 この時代では血が繋がっていると番の関係にはなりえないのだな、と会話から推測したアルバは、それを新しい知識として記憶した。

 

 

 

******

 

 

 

「そろそろ本題に入りましょう」

 

 摩利の弁当から始まった雑談が一段落ついたところで真由美が声を上げる。口調を真面目なものに戻したその言葉に、全員が注意を向けた。

 

「当校の生徒会は自治を重視した風潮により大きな権限を与えられていますが、その中でも生徒会長の権限が強く、他の役員や各委員会の委員長の任命権を持っています」

「風紀委員は例外だがな。風紀委員長は生徒会、部活連、教職員会によってそれぞれ3名ずつ選任される風紀委員会内部での互選で選出される」

「そうね。そういう意味では、摩利は私と同格の権限を持っていることになります。話を戻しますが、この仕組みの都合上生徒会長以外の役員には明確な任期が存在しません。そこで生徒会では例年、新入生総代になった1年生を生徒会役員に任命し、後継者の育成を行っています。といってもその生徒が絶対に生徒会長になるわけじゃないんですけどね」

 

 そこまで説明し終えた真由美は、三者に均等に配っていた視線を深雪へと向ける。

 

「そこで、深雪さん。生徒会に入ってもらえないでしょうか」

 

 これはけして強制的なものではない。だからこそこうしてわざわざ昼食時に呼んで丁寧に説明をし、その上で依頼をしている。

 

「引き受けてもらえますか?」

 

 その質問を受けた深雪は、確認するように達也へと視線を向ける。達也はそれに応えて深雪の背中を押すために小さく頷く。それを受けてうつむき、少しして顔をあげた深雪は、何やら思いつめた表情をしていた。

 

「会長、兄の入試の成績をご存知ですか?」

 

 深雪の予想外の発言に、普段から落ち着いた様子を見せている達也が珍しく驚いた表情を見せる。

 

「もちろん知っていますよ。凄いですよね。先生に答案を見せていただいたときには、正直自信を失くしました。今の私でもあれほどの点は取れるかどうか……」

「成績優秀者や有能な人材が生徒会に必要であるなら、私よりも兄がふさわしいと思います」

 

 深雪の発言に達也が口を挟もうとするが、それは更に思いを訴える深雪の言葉にかき消される。

 

「デスクワークならば、必要なのは実技の成績ではなくむしろ判断力や思考力、知識だと思います。私を生徒会役員に任命してくださるというのはとてもに光栄なことですが、兄も一緒というわけにはいきませんでしょうか。」

 

 深雪がこうして達也を押しているのは、何も達也とともにいたいから、というわけではない。もちろんその思いもあるのかもしれないが、最も強いのは兄を思う、兄はもっと認められてほしい、という気持ちだ。

 

 だが。

 

「それは出来ません」

 

 冷静な声で、しかし申し訳無さそうに会長の隣に座っていた鈴音が答える。

 

「生徒会の役員はすべて第一科の生徒から選出されるようにと規則で定められています。先程生徒会長に任命の権限があると言いましたが、これはそれに課せられる唯一の制限事項として存在します。これを覆すためには全校生徒が参加する生徒総会で制度の改定が決議される必要がありますが、決議に必要な票数が全校生徒の3分の2以上ですので現状では制度改定は困難です」

 

 その言葉は淡々としてたが、彼女自身ものその制度に良い印象を抱いていないというのは深雪にも十分に伝わり、深雪はおとなしく引き下がる。明確に制度として存在する以上、深雪の希望だけでどうにかなることでもないのだ。

 

「申し訳ありませんでした。分を弁えぬ発言、お許しください」

 

 深々と頭を下げる深雪を咎める者は誰もいない。デスクワークが主となる生徒会において、成績優秀者である達也がむしろ適材であるのは誰もが認めているからだ。あくまで規則故に、それを断念せざるを得ないのである。

 

「では、深雪さんには書記として今期の生徒会に加わっていただきたいのですが、よろしいですね?」

「はい。微力ながら精一杯務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」

 

 今度は先程の謝罪と違って控えめに頭を下げた深雪に、真由美は満面の笑みを見せる。

 

「具体的な仕事内容はあーちゃんに聞いてくださいね」

「会長、ですからあーちゃんと呼ぶのはやめてほしいと……」

 

 再度あーちゃんと呼ばれて泣き言を言うあーちゃんことあずさの発言を華麗に流して、今度は摩利が口を開く。

 

「真由美、風紀委員の生徒会選任枠の補充はまだ決まってなかったな」

「今人選中だと前から言ってるでしょ。本当はアルバくんに頼もうかと思ってたのに教職員推薦枠に取られちゃったし」

 

 自分の口を出せる話では無さそうだと完全に空気と化して物思いにふけっていたアルバは自分の名前が呼ばれたことでピクリと反応するが、話は別の方向へと進んでいく。

 

「決まってないなら、彼を選ぶのはどうだ? 生徒会役員の任命制限は副会長、書記、会計だけの話だろう? 風紀委員の生徒会選任枠に二科生を選ぶのは規定違反にはならないはずだ」

「摩利、あなた―――」

 

 摩利の発言に驚きの声をあげた真由美だけでなく、鈴音やあずさ、深雪までもが驚きの表情をする。驚いていないのは、『落ち込んでいる深雪を気遣っているのか』と邪推する達也と、『人の言葉遊びのような決まりは面白いな』と考えるアルバだけである。

 

「それだわ! そうよ風紀委員なら一科生の制限はない! 生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します!」

「ちょ、っと待ってください! 俺の意思はどうなるんですか? 大体まだ風紀委員の具体的な業務内容も聞いてません」

 

 自分を風紀委員に指名するという突拍子もない真由美の発言に、達也は思わず抗議する。具体的に嫌な理由を思いついたわけではなく、ただ何か嫌な予感がしたためだ。ここで抗議しておかないと面倒なことになりそうだ、と。もともと彼は目立ちたくないのである。

 

 がしかし。

 

「まだ司波さんも生徒会の業務について説明を受けていないのではないか?」

「……いや、それはそうだが……」

 

 話を聞いていたアルバの思わぬ口撃に達也の勢いはくじかれる。そしてこういうときは、勢いを失うと不利になる。

 

「達也くん、風紀委員は学校の風紀を維持するのが業務です」

「…………」

「…………」

「説明はそれだけですか?」

「とてもやりがいのある仕事よ?」

 

 あえてなのか天然なのか、達也の求めている細かい業務内容は返ってこない。そもそも風紀を維持することなんて名前を聞けばわかる。

 

 そのまま達也は視線をめぐらしていき、もっとも脆そうなあずさに眼をつけた。

 

「ふ、風紀委員会の主な仕事は、魔法使用に関する校則を違反した人の摘発と、魔法を使用した争乱行為を取り締まることです。加えて、風紀委員長には生徒会長とともに懲罰委員会に出席して違反者に対する罰則の決定に関して意見を述べます。と言っても、それは渡辺先輩の仕事なので……そのために風紀委員長に報告するのが風紀委員の仕事ですね。風紀と言っても服装違反とか遅刻とかは、自治委員会が担当するので風紀委員の業務ではありません」

「つまり、警察と……検察、か? その2つを兼ね備えた役割を持つ、と。いい仕事だな、達也」

「いや、あのな、ちょっと待ってくれアルバ」

 

 人間の社会を構成するためには欠かせない警察検察組織の重要性を考えて『良い』仕事だと言うアルバに対し、達也は情けない声で反論する。

 

「すばらしいですわお兄様!」

「いや、深雪……そんなもう決まったような眼で見ないでくれ……」

 

 2人の同級生、うち一方は妹からの口撃でダメージを受けた達也は、なんとか状況を打開しようと風紀委員長である摩利に視線を向ける。

 

「今の説明ですと、風紀委員は争いが起きた場合にはそれを力ずくで止めなければならない、ということですよね?」

「まあ、そうだな。魔法が使われてない喧嘩であっても我々が止めなければならない。その場合の対応はまた少し違ってはくるが……」

「そして魔法が使用された場合には、それをやめさせる必要がある」

「できれば使われる前に止めたいな」

「あのですね! 俺は実技の成績が悪かったから二科生なんですよ! そんな魔法で相手を捻じ伏せるような力量はありません!」

 

 達也の言葉に、兄の実力を知る深雪は思わず反対の声をあげそうになるが、それを堪えて兄を見上げる。兄の力は公にしてよいものではないし、また兄もそれを望んでいない。それはわかっている。だが、納得し難いのも確かだ。

 

 と。

 

 アルバもまた怪訝そうな表情で達也を見ているのに気づいた。

 

(なぜそんな表情を……? まさか、お兄様が強いことを知っている?)

 

 話の流れ的にそんなことが推測され、深雪は思わずアルバを凝視する。当のアルバはすぐに達也から視線を外し、机の上を向いていた。

 

 アルバが達也を見上げたのは、彼がそれを本心で言っているのかを確かめたかったからだ。

 

 他者の保有するサイオン量を見ることの出来るアルバには、達也が弱いとは思えなかった。少なくともアルバが知った魔法の知識の中でも、その豊富なサイオン量を使用して他者の魔法を制圧出来る方法は存在する。それを知っているのか知らないのか。そんな思いで見上げたのだ。嘘も方便、という言葉があるし、人によって隠したいことも存在するのは知っている。それを確認して、自分が口を出しても良いものか考えたのである。結果、アルバは沈黙を選んだ。

 

「構わないよ。力比べがしたいなら私がいるさ」

 

 摩利の言葉に、達也は絶句する。何の説明にもなっていないのだ。と、そこで摩利が時計を確認する。

 

「おっと、もう昼休みも終わるな。続きは放課後で良いか?」

「わかりました」

「ああそれと、アルバくんも放課後にもう一度来てくれ」

「俺か? ……ですか?」

「ああ。君は教職員推薦枠で風紀委員に選出されている。もちろん断ることも出来るが、今すぐ決められることではないだろう」

「なるほど。わかっ、りました」

 

 アルバの下手くそな敬語に摩利はわずかに笑みをこぼしたが、それ以上は何も突っ込まなかった。

 

 こうして、生徒会室での昼休みはお開きとなった。




結構原作並に説明とか書いてる(つもり)なのでまじで話が進まない……。まあこれぐらいが作者的にはデフォなのですが、『長えな』って方がいたらごめんなさい。

お気に入り1000件越えました。ありがとうございます。
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