魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

19 / 34
第19話 新入生勧誘期間

「―――ということで、毎年この時期は大変らしいよ?」

「トラブルがたくさん起こる」

「なるほど。それで放課後に来いと連絡が来たのか」

 

 昼食時、アルバは雫とほのかと3人で食事をしていた。今日もまた達也と深雪、アルバは生徒会室で食事をしないかと真由美から声をかけられたのだが、放課後にも呼び出しをかけられているアルバは今日は行かない事を決めたのだ。昼休みに深雪を迎えに来た達也からは意味ありげな視線で見られたが、自分で頑張ってもらいたいものである。

 

「ってことはアルバも風紀委員として見回りをするの?」

「おそらくはそうだろう。どの程度新入生に期待しているかはわからないがな」

「多分、普通に上級生と同じぐらい」

「そうなのか?」

「うん。それぐらいこの時期は大変らしい」

 

 3人が今話しているのは、今日の放課後から始まる新入生勧誘期間についてだ。

 

 色々と普通科の高校などとは違うところのある魔法科高校だが、一方で共通する部分もある。その1つが、生徒によって行われるクラブ活動だ。

 

 魔法科高校におけるクラブ活動には、一般の高校にある通常のスポーツ競技や文化部に加えて、魔法科高校ならではの魔法を用いた競技を行うクラブも存在している。そして特にメジャーな魔法競技では、毎年複数ある魔法科高校の間で対抗戦も行われ、その戦績が学校としての評価に直結したりもする。そのため魔法科高校においてクラブ活動に対する学校の力の入れようはスポーツ名門校のそれを上回ってすらいる場合もあり、魔法科高校間の対抗戦である九校戦で優秀な成績をおさめたクラブにはクラブに与えられる予算だけでなくそこに所属する個々人の評価にまで様々な便宜が与えられる。

 

 こうした事情もあって各クラブは毎年新入生獲得に全力をあげており、学校側もそれを後押ししているため毎年この時期の各クラブの新入部員獲得合戦は熾烈を極めるのだ。

 

「勧誘が激しすぎて授業にも影響がある可能性があるから勧誘期間が一週間になってる」

「……それはむしろ一週間に限定するから大変なことになるんじゃないか?」

 

 各部の新入生獲得にかける熱意は凄まじいものがあり、毎年それで何らかのトラブルが発生する。生徒の意思を無視した強制的な呼び込みならまだかわいい方で、中には勧誘活動を巡って殴り合いや魔法の撃ち合いに発展することすらあるらしい。

 

 そんな大騒ぎな勧誘期間を一定の期間で終わらせてしまうために一週間という期限が設けられているのだが、一方で、むしろ一週間で新入部員を集めなければいけないと勧誘が激化していたりもする。

 

 だが、この期間を設けているのにはちゃんと理由があるのだ。

 

「この時期だけは、デモンストレーションのために一般の生徒にもCADの携行が許可されてる」

「なるほど。だから一週間だけという制限を設けているわけか」

 

 学校側としては、各クラブ、特に魔法競技を行うクラブには九校戦で良い成績を残してもらいたい。そのため勧誘期間にはCADの携行も許可されてデモンストレーションなどを含めたいろいろな活動が認められる。CADを携行する際の審査などもかなりゆるいものとなる。新入生勧誘に際して一応のルールはつくられているものの、多少のルールの無視は黙認されるし、CADの携行が可能となるためそれを使用した魔法の使用違反も頻発する。

 

 そんなカオスな時期を限定するために、一週間という期限が設けられている。つまるところ、どんどん勧誘をして欲しい学校と、どんどん勧誘をやりたい各クラブと、そうした騒動を抑制したい生徒会、風紀委員の間で考えられた妥協点が、現在の新入生勧誘期間の制度になっているというわけだ。

 

「でもCADの携行が許可されているから風紀委員が大変ってことは、魔法を使う人もいる、ってことだよね?」

「クラブ同士で魔法の撃ち合いになったりもするらしい」

 

 淡々と語る雫の説明にほのかは若干顔をこわばらせる。

 

「大丈夫、なの? アルバも達也さんも……いくら首席と言っても1年生だよ。怪我とかしない?」

 

 彼女が心配しているのは自分達のことよりも1年生ながら風紀委員に抜擢されたアルバや達也のことだった。だが。

 

「ほのかも危ない」

「え?」

「入試の成績上位者のリストが出回ってるらしい。深雪とアルバは生徒会と風紀委員だからあまり強引なことは出来ないけど、私とほのかは狙われてる可能性がある」

 

 狙われてる、とは魔法の対象にされるということではなく勧誘のターゲットにされるという意味なのだが、雫の言葉を表面的に捉えてしまったほのかは、今度こそはっきりと顔をこわばらせた。

 

 

 

******

 

 

 

「全員揃ったな。そのままで聞いてくれ」

 

 室内に風紀委員九人全員が揃ったところで、風紀委員長である摩利が立ち上がって話し始める。

 

「今年もまた、あの馬鹿騒ぎの一週間がやってきた」

 

 場所は風紀委員会本部。放課後になった現在既に勧誘期間は始まっているが、風紀委員会全体での意思統一をはかり、また気を引き締めるために風紀委員全員が集められていた。

 

「この中には、昨年調子にのって大騒ぎをした者も、それを鎮めようとして逆に騒ぎを大きくしたものもいるが、今年こそは処分者を出さないですむように気を引き締めて当たってくれ。くれぐれも、風紀委員が率先して騒ぎを起こすようなことが無いように。力を見せようなどと張り切ってくれるなよ」

 

 摩利の言葉に数名が首をすくめる。魔法の使用違反などを取り締まる立場の風紀委員だが、使用違反に際しては魔法をもってそれを止めることも必要となる。その際にやりすぎたり、気が急いたりした結果、騒ぎを大きくしてしまうことがあったのだろう。

 

「今年は幸い卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう。立て」

 

 アルバと、その向かいに座っていた達也が立ち上がる。2人は最下級生であるために、末席で向かい合う形で座っていた。

 

「1-Aのトリオン・アルバと、1-Eの司波達也だ。2人には今日から早速パトロールに加わってもらう。2人はペアでの巡回をしてもらうつもりだ」

 

 摩利の言葉に。正確には達也のクラスを聞いて、1人の男子生徒が声をあげる。

 

「役に立つんですか?」

 

 目的語が隠されたその言葉が達也に向けられたものだというのは明らかだった。達也もアルバもそれを気にもとめないが、それを認識した摩利は、あえて隠された部分を無視して返す。

 

「問題ない。2人とも使えるヤツだ。司波の腕前はこの目で見ているしトリオンの魔法発動の速さはかなりのものだ」

 

 摩利の返答に、質問の声をあげた生徒は納得した様子ではないものの取り敢えず引き下がる。

 

「他に何かあるものはいるか? ……よし。巡回要領については前回までの打ち合わせ通りだ。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。司波、トリオン両名についてはこの後私から説明する。他の者は出動!」

 

 摩利の言葉に、全員が一斉に立ち上がって右手の拳で左胸を叩いた。風紀委員で代々採用されている敬礼だ。普通ならば暑苦しく感じるような光景なのだが、アルバからしてみれば、少しばかり懐かしい風景を思い出す光景だった。

 

 

 

******

 

 

 

「まずはこれを渡しておく」

 

 他の6人が退室した後摩利のところに集まった2人に、摩利が腕章と薄型のビデオレコーダーを渡す。いずれも風紀委員の活動に欠かせないものだ。

 

「レコーダーは胸ポケットに入れろ。ちょうどレンズ部分がそのまま出る大きさになっている。スイッチは右側面のボタンだ。違反行為を見つけたらすぐにスイッチを入れるように」

 

 レコーダーを胸ポケットに入れると、たしかにレンズ部分が飛び出す大きさになっている。わざわざこのために作られたものなのだろうか、とアルバが考える中、摩利の説明は続く。

 

「今後新入生勧誘期間に関わらず巡回をするときは常にそれを携帯しろ。ただし撮影を意識しなくていい。基本的に風紀委員の証言はそのまま証拠に採用されるからな。あくまで念の為だ」

 

 2人が了解の意思を示すと、今度は摩利は2人に携帯端末を出させる。

 

「委員会用の通信コードを送信するぞ。……受信できたな? よし。報告の際はこのコードを使用しろ。こちらからの指示もこれで行うから必ず確認するように」

 

 まだ携帯端末の扱いに心配のあるアルバであったが、確認したところそれほど扱いが難しいものでも無いようだった。おそらくは問題は無いだろう。

 

「最後にCADについてだ。風紀委員はその役割柄CADの学内携行が許可されている。使用についてもいちいち誰かの指示を仰ぐ必要はない。だが不正使用が発覚した場合は委員会除名のうえ、一般生徒よりも厳重な罰が課せられる。甘く考えるなよ」

「1つ質問があります」

「許可する」

 

 摩利の説明に対して最初に口を開いたのはアルバだった。

 

「魔法の違法使用に関しては、発動の前の段階で止める際に魔法を使用しても良いのですか?」

「この前の生徒会長のようなやり方なら問題ない。そもそもCADを使用した段階でサイオンセンサーに記録が残るようになっている。それ以前の段階なら、いきなり実力行使をするのではなく声をかけてからにしてくれ。その際に起動式までの展開を終えておく分には構わない」

「わかりました」

 

 アルバの感覚と扱える魔法をもってすれば、魔法の発動前の段階でそれを止めることは容易い。だが一方で、それが風紀委員による先制攻撃とみなされてはかなわないというのがアルバの考えだったが、どうやらその心配は無いらしい。

 

「自分も質問があります」

「許可する」

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいですか?」

 

 達也の質問に、摩利は意外そうな表情を見せた。

 

「構わないが……あれは旧式だぞ? 君のCADの方が性能は良いと思うが」

 

 デバイスに詳しいあずさによれば、達也のCADはハイスペックな機種であるらしい。更に昨日のCADのメンテナンスの手際を見れば、達也のCADに関するスキルが相当に高いということは容易に見て取れた。そんな達也が、委員会の旧式のCADを使いたいといったのだ。それに好奇心が湧くのは仕方が無いことだろう。

 

 それに対して達也は苦笑交じりに返す。

 

「確かに旧式ですがあれはエキスパート仕様の高級品ですよ」

「……ほんとか?」

 

 思わぬ返答に摩利は目を丸くする。

 

「ええ。調整が面倒なので敬遠されがちですが、設定の自由度が高い上に非接触型の感度が優れているので一部では熱烈な評価を受けているんですよ。処理速度も最新型並みまでクロックアップできますし……。しかるべき場所に持ち込めば結構な値段がつくような代物です」

 

 途中から摩利がポカンとし始めているのに気づいた達也は、苦笑しながら話を短くまとめる。

 

「それを我々はガラクタ扱いしていたのか……。そういうことなら好きに使ってくれ。どうせ今までは埃を被っていたわけだからな」

「では、この2機をお借りします」

 

 そう言って達也は、棚に収納されていたCADから2機を取り出す。昨日メンテナンスを行う際に、こっそり自分の調整データを移していたものだ。達也とてデバイスが好きな1人の学生であり、目の前に珍しいデバイスがあると多少テンションが上がってしまうのである。

 

「2機? 本当に面白いな君は」

 

 通常、1人が同時に扱えるCADは1つまでだ。起動式はサイオンで出来た情報構造体なのだが、CADを2つ同時に使用するとサイオン波が互いに干渉しあってうまく機能しなくなるのだ。だが、達也は、2つ使うと言っている。

 

「アルバも使ってみるか?」

 

 摩利にそう話を振られるが、アルバは首を横に振る。

 

「俺はこれがあれば十分です。そもそも、CADのいらないやり方をするからな」

「ほう? どうやるんだ?」

 

 アルバの話にもまた摩利は興味深そうに眉を上げるが、いつまでも話しているわけにもいかないので話すのはまた後日ということにして、達也とアルバは共に委員会本部を出た。




ちょっと別のことで不安感じながら書いたのでワクワク出来る感じじゃないかもです……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。